アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
「干支の動物の順番と割り振られた生徒達の名字が、優待者を探し出す鍵だったんだね」
モールのカフェ『パレット』は今日も人気のようで混雑して、そんな賑わっている店内の一番奥のテーブル席。
夏休み明けの今日、俺とホモと山内、そして馬鹿北という最早お馴染みになったメンバーで昼食のテーブルを囲んでいた。
ちなみに全員金がないのでテーブルに載せられているのはサービスのお冷やだけだ。
山内の阿呆が元Aクラスと阿呆な取引をしたせいで25万ポイントもの借金を作り、何故か俺ら4人で支払うことになったのだ。
まだまだ残暑厳しいというのに俺は店員の冷たい視線でまるで北極にいるかの様な寒気を感じる。すまん、今の俺らに購入出来るのはスマイルだけだ。え? スマイル売り切れですか? そうですか・・・。
話を戻そう。
ここに集まった理由は何も冷たい水を楽しむためではなく、夏休みの最中に行われた船上特別試験の復習のためだ。12の干支のグループに分けて行われていた混合チームによる優待者探しの答え合わせが行われていた。
「兎は干支で4番目。綾小路君、一之瀬さん、伊吹さん、軽井沢さんと続くよね」
「だとすると優待者は軽井沢だったのか」
俺はホモの考察に感心する。
「いや、僕も後でみーちゃんに教えて貰って初めて気付いたから自慢できることじゃないよ」
「だけどよ、その法則って凄えシンプルだよな。誰でもわかるっていうかさ。いや、正直な話、オレもさあんときそうなんじゃないかなって気付いてたんだよ。だけどその案が浮かぶ直前に元Aのあいつが取引持ちかけてきてよ、きっとあいつ、オレがこのままだと正解引き当てるのが分かったんだよ。あーあ、あの時オレあんとき誰が優待者か分かってたからよ。もうちょっとで送信する所だったんだけどなぁ、タイミング悪かったぜ」
山内の調子はいつも通りの平常運転だ。その発言の中でいくつ時系列的が前後したんだ。結局優待者が分かったのは取引持ちかけられる前なのか後なのか。
「そうね、確かに答えを知ってみればシンプルよ。けれど試験中にその答えに辿り着くのは容易じゃない。自分たちのクラスに存在する3人の優待者だけじゃ優待者の法則の確証は得られないわ。勿論、私が参加していれば即座に見破ったけれぐぎぃ」
馬鹿北がドヤ顔で仰け反るが、痛めた首をグキッとやってしまい悶絶している。
だが、確かに馬鹿北の言うことは正しい。自分のクラスだけの優待者だけで干支の順番で優待者が定められていると仮定しても、最初の1回目のグループディスカッションで解答するのはリスキーが過ぎる。
万一答えを外せば相当なダメージを受けるからだ。
もちろん、その賭けに勝てば一発で全てをひっくり返すことも可能であり、そしてそれを行ったのが元Aクラスだ。
「元Aクラスの新しいリーダー、確か黒・・・腹黒? 腹黒馬鹿め?「黒川あかねだよ、綾小路君」ああ、黒川あかねだったな。彼女はそれを見事やり遂げ、そして自身のクラスが優待者のグループでは取引を使って結果4を誘発させようとしたんだよな」
「ふん、あんなものはたまたまのまぐれよ。でなければお兄様が参加していて負けるなんてありえないわ。こんなのもうチートよ、チーターなのよ。きっと真嶋教諭に身体でも売ったのよ」
「さすがそれは言い過ぎだと思うけど」
ホモが困ったような顔で苦笑する。
あと、ホモよ、俺のケツや太ももをさりげなく触ったり、俺の飲んでいるコップを間違えたふりして飲もうとするな。
その都度、鉄拳制裁しているので、ホモの顔面が次第に愉快になっていくが一向に改善する兆候がない。それどころか、何故か殴る度に息を荒げて恍惚とした顔をするから気持ち悪くて堪らない。俺、なんで此奴らと連んでるんだろうな。でも、感情は色々芽生えるから無駄ではないが。“嫌悪”という感情が良く理解できた。
それにしても黒川あかね、か。
博士に借りた漫画を読んでいて額に肉を書こうと思いつき、馬鹿北の見舞いに行ったのだが、その時にお兄様、いやあの格好はお姉様か? ・・・に会って、辰グループで何が起きたのかを聞いた。
あの時の俺は何故たった1回のグループディスカッションで終了したのか分からなかった。クラスチャットで聞いてみたが、山内とホモは何も知らず、他のクラスメイトは誰も返信してくれなかったからな。
そういえばこのクラスチャット、5月中頃から俺たち4人以外誰も発言していないんだが、どうしてなのだろうか。みんなシャイなのかな?
それはともかく、辰グループで起きた出来事はかなり衝撃的だった。
黒川あかねがたった一言『優待者は貴方だ』と発言しただけで、誰が優待者なのかを見抜いたというのだから。
そしてそれはグループディスカッション前に辿り着いた優待者の法則の答え合わせでもあった。
辰グループが終われば、その法則は正しかったということで、他の元Aクラスも予め伝えられていた優待者の名前を送信するように黒川あかねに指示されていたのだろう。
実際、俺のグループも辰グループの終了アナウンスが流れた途端、元Aクラスの生徒が直ぐさまメールを送信していた。
他の奴らは何が起きたのか分からないという顔をしていたな。
かくいう俺もあの時は呆然としてしまった。
俺も一応考察はしていたが、とっかかりすら見つかっていなかった。
もしクラスの優待者3人の情報を知ったとしても、優待者のメールが来るのが試験当日の朝8時、1回目のグループディスカッションまで僅かな時間しかない。
それだけの短時間で優待者の法則を突き止められたかどうか。
また、黒川あかねの脅威の人物鑑定眼。お姉様曰く、4月入学初日にボードゲーム部へと赴いて、初対面の部員相手に今回の特別試験に似た人狼ゲームというもので、誰が人狼なのかをやはり先ほどの話と同様の質問で見事当てたそうだ。
最早超能力者じゃないだろうか。
俺だってそんなことできないし、あそこにも出来るやつは教官含めていなかっただろうな。
もし心理戦に持ち込まれたら俺でも勝てない可能性が高い。
いざとなったら山内ミサイルとホモミサイルで物理的に倒すしかないか。山内なら喜んでカッ飛んで行くだろうが、ホモの方は俺へとホーミングして戻ってきそうだな。やはりホモミサイルは却下だ。
元Aのクラスポイントが低いうちにどれだけ食いつけるかが今後の鍵になりそうだ。
「あなたはどう考えているのかしら、綾小路くん」
馬鹿北に声をかけられ思考の沼から抜け出した。
「ああ、ホモミサイルがダメならお前のおっぱいミサイルはどうだろうか考察していたが、実際のところはどうなんだ? ツンデレ黒髪ロングの優等生キャラは絶壁が鉄板と博士が言っていたのだが」
「貴方達は死にたいのかしら?」
「すまん、冗談だ。それで、優待者の法則の話か? それとも黒川あかねの話か?」
馬鹿北の額に井形の血管が浮かび上がるのが見えて直ぐさま謝る。
やばいやばい、こういうのをMK5ってっていうだよな。マジで切れちゃう5秒前。MEMちょにこの前教えて貰った若者の流行語だ。
「違うわよ。何を言っているのかしら。夏フェスのお兄様の素晴らしい演奏と歌声についての話よ。やはりお兄様は天才だわ。CDを出したら秒でゴールドディスク達成ね」
どこからそんな話になったんだ。
「まぁまぁ堀北さん落ち着いて。何にせよ僕らはまず関係の構築が最優先じゃないかな」
ホモが俺たちの間に割って入る。
「こうして、綾小路君とカフェでお昼が取れて嬉しいよ。だから僕ら、もう一歩踏み込んだ関係になるべきだと思うんだ」
俺は思わないぞホモよ。そしてやはりクラスの話じゃないんかーい。
「そうだ、僕に一つ提案があるんだ」
ホモが余計なことを閃いたとばかりに続ける。
「まずは僕らの仲を深めるために、櫛田さんを仲間に引き入れたいんだ。僕たち4人で補いきれない部分を彼女なら補ってくれると思う。山内君を惹きつけておけるのは限られているからね」
そして、僕たちは二人っきりで愛を紡げるんだよと、やはり気持ち悪い事をいうホモをとりあえず必殺のギャラクティカファントムで吹き飛ばす。
「ああ、君の愛が痛いよ。だけど君に付けられた傷は僕にとって宝物だよ、清隆君」
ホモがどさくさに紛れてとうとう下の名前で呼んで来やがった。出来ればホモからじゃなく櫛田に清隆くんって呼んで欲しかったな。語尾にハートマークを付けて可愛く言ってくれたらきっと俺は消費者金融に駆け込んで彼女に貢いでいただろう。4℃のハートのネックレスとか贈っていただろうな。そして贈った翌日にメルカリで同じネックレスを見つけて枕を涙で濡らしていただろうな。
それはともかく、馬鹿北はお兄様お兄様と自分の世界に入っていて、ホモはフロアに大の字になり幸せそうな顔で気絶中、そして山内は店員さんにしつこくナンパして警備員に裏へと連れて行かれたんだが。
俺はもう帰っていいかな?
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