アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」   作:ムテキング

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坂柳有栖の状態を監視するための初投稿です。


困難な情勢になってはじめて誰が敵か、誰が味方顔をしていたか、そして誰が本当の味方だったかわかるものだ

1年学生寮の一室。

遮光カーテンを閉め切り暗い室内。

室内には照明は消されていて10畳程度のワンルームには大きすぎる77型のソミー製有機elテレビが放つ光だけが部屋の中を照らしている。

 

 

「めんま、みーつけた」

 

 

テレビに映されたアニメのキャラと一緒に呟く少女。

その名を坂柳有栖という。

 

 

「ふう、あの花は何度繰り返し見ても名作ですね」

 

 

ブルーレイプレイヤーから再生が終わったディスクを取り出して、感慨深げに呟く。

 

 

「CLANNADやヴァイオレット・エヴァーガーデンも泣けますが、やはりあの花も素晴らしいです。この頃の岡○麿里は天才ですね。さて次は何を見ましょうか」

 

 

坂柳は見終わったディスクを塔のように積み重なったディスクケースの上に置くと、次のアニメを吟味し出す。

 

ちなみに現在は平日のお昼過ぎである。

夏休みも3週間も前に終わっているが、彼女は学校に行きもせず、ただひたすら部屋に籠もり、現実から逃避するかのように外村秀雄が差し入れるアニメにのめり込んでいた。

 

 

「ふふふ、次は旧銀英伝の全話マラソンでもしましょうか。新しい方はやたらとキャラがキラキラしていてあまり好きではないのですよね」

 

 

坂柳は次に見るアニメを探していると、ふと壁に掛けられた『プリキュア』のカレンダーが目に入る。

まだプリキュアは未履修だが大事なお友達である外村がプレゼントしてくれたので愛用している。

そのカレンダーの10月の初めに赤丸でチェックマークが書かれていて『体育祭がんばろう!』とメモがされているのに気付く。

 

 

「この文字、秀雄君ですね。どうせ私は出られないのに」

 

 

もう来週ですか、と寂しそうに呟く。

 

(こんな身体ですし、体育祭には元々参加出来ないのに、それなのに行っても今更何しに来たのかと思われるでしょう。

私の謀略でクラスポイントを全て無くしてしまい、更に退学者まで出してしまった。

もし私があの船に乗っていたのなら、その直後の試験でまだ挽回することが出来たかもしれません。

ですが、黒川さんが指揮を執り他のクラスを打倒してポイントを半分近く取り戻した為、既にクラスは黒川さんを中心に纏まってしまった。

そのうえ、お父様から資金を融通して貰っていたこと等がテレビで暴露されてしまい、お父様は投獄されてしまった。

その後も、TVの反響から世間からの圧力に屈し、高育はSシステムを秘匿する条件で夏休みの間だけ記者の受け入れを認め、お父様の娘である私は記者に張り付かれて部屋から出ることも出来なくなり、これによってクラスとの繋がりは完全に途絶えてしまいました。

黒川さんは定期的にメールで近況を事務的に伝えてくれますが、最早今更あそこに私の居場所などありません)

 

その時、玄関からガチャリと鍵が解除され、ドアが開く音が聞こえてきて、坂柳は直ぐさま身を翻してたどたどしい足取りだが彼女の出せる精一杯の速さで玄関に向かいます。

 

 

「真澄さんっ!」

 

「・・・坂柳。毎度毎度抱きついてこなくて良いから」

 

 

授業を終えた神室真澄がスーパーで購入してきたらしい食材や日常用品が入った袋を廊下に置きながら、縋り付いてきた坂柳をうっとうしそうに引き剥がした。

外村はいつもノックをしてから解錠して入ってくる。だが神室はノックなどせずに解錠して入ってくるので、坂柳は今回もそう判断して飛び出したのだ。

なのでもしノックが聞こえたのなら、彼女は直ぐさま身だしなみを整えてすました顔でお座りして彼が入ってくるのを待っていたであろう。

そして、「あら、秀雄君。今日も来たのですか? そんなに私に会いたかったなんてお可愛いこと」と内心のドキドキをおくびにも出さずに言うのが何時ものパターンであった。

 

 

「坂柳。なんか臭い。あと髪の毛がガシガシだけど、もしかしてまたお風呂入ってないの?」

 

「・・・・・・・・・最近の若者のトレンドは『お風呂キャンセル』なんですよ。私は常に自分をアップデートしていますので。別にアニメに夢中になって入らなかったわけじゃないんです」

 

「幾ら外村がそういうところ無頓着だからって油断してるとあっという間に他の女に取られるよ。外村のクラスは可愛い子多いんだから」

 

「そ、それは困ります! ほら、真澄さん何してるんですか! 今すぐお風呂入りますよ! 髪洗ってください!」

 

 

急かす坂柳に、神室は面倒くさそうにしながらも、「先ずお風呂掃除からでしょ。坂柳は買ってきたの冷蔵庫入れといて」と袖をまくりあげてお風呂の準備に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「それでですね。秀雄君、何時も勉強を教わりに来るんですけど、本当は頭良いんですよ」

 

 

髪と身体を神室に洗ってもらい、今は二人でお風呂に浸かっている。

 

 

「きっと秀雄君、私が勉強が遅れないようにって気にしてるんですよ。優しすぎて困りますね」

 

「あーそうだねー優しいねー」

 

「お人好しなんですよ、彼は。いつか悪い人に騙されてしまわないか心配になります。やっぱり私がついていないといけませんね」

 

 

坂柳は最初は今日見たアニメの話をしていたが、いつの間にか外村の事になっている。

神室は外村の裏の顔を知っているため、そりゃ優秀だけど、優しくてお人好し? 誰だそれはと内心ツッコミを入れていた。

だが、坂柳にはその事を教えることは出来ないので、適度に相づちを打っているが、毎度毎度の話題なのでどうしてもおざなりになってしまうのだ。

あかねに演技についてみっちり仕込まれているので気付かれるようなヘマはしないが、それでものろけ話を聞かされるのは辟易してしまう。

 

(でも坂柳、ここ最近笑えるようになった)

 

8月の坂柳は本当に酷い状態だった。

派閥が瓦解した挫折とクラスからの排斥、そして父親の逮捕。

寮から一歩でも出ればマスコミが殺到して心ない質問や罵倒を浴びせられた。そして寮内でも周りの生徒から刺すような冷たい視線を向けられ、しまいには部屋からも出ることが出来なくなってしまった。

実家では英才教育こそされていたが、父親に愛され花よ蝶よと甘やかされ、周りからはお嬢様として傅かれてきた坂柳にとって、ここまで排斥される事は今まで経験したことすらなかった。

それ故に、今回の出来事は衝撃的で、如何に天才的な頭脳を持つ坂柳といえど、心が折れてしまっても不思議ではなかった。

坂柳が精神的に追い詰められた頃合いを見計らって部屋へと訪れた神室を見た坂柳の顔は恐怖と絶望に染まっていた。

今まで自分に寄り添ってくれていた神室ですら、自分を罵倒して離れていってしまうのでは、と坂柳は怯えていたのだ。

カーテンを閉め切った部屋の隅で震えていた坂柳は食事すら満足に取れずに居たのだろう、もとより華奢だった身体が更に痩せこけてしまっていた。

神室と外村はそのような坂柳を励まし介抱してきたのだ。

そして最近になって漸く神室たちの前では笑顔を見せるようになったのだ。

それも挫折前までの人を蔑むような笑いではなく、年相応の少女の笑顔であった。

神室はそんな坂柳の変化を本当に嬉しく感じていた。

何故なら、神室が坂柳の世話を焼いていたのはあかねから命じられただけでなはなく、壊れかけた坂柳の姿を見て罪悪感を感じていたからだ。

そして外村の内心は分からないが、神室はもう自分は坂柳を突き放すことは出来ないだろうとも自覚していた。

 

(もし坂柳このまま卒業まで引きこもりのままだったら、あかねと外村に土下座してでも何とか生活できるように支援してもらおう)

 

以前は針のむしろと嫌がっていた神室だが、もう坂柳を見捨てることは出来ない自分に気付いて、これも一種のナイチンゲール症候群なんだろうかと考えてしまった。

 

(だけど、私が坂柳を騙しているのは変えられない事実。今だってあかねに言われたとおり、坂柳を依存させるために優しくしているだけ。だから勘違いしちゃいけない。私たちは“友達”なんかじゃない。私は坂柳を利用しているんだ)

 

今も外村の事を楽しそうに話す坂柳を見ながら、神室は相反する気持ちに心を軋ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、今日も遊びに来た外村と3人で夕食を取り、アニメを見ながら楽しく遊び、日付が変わる頃に二人は帰っていった。

 

坂柳有栖は布団に入り、今日の出来事を反芻する。

 

 

「私は今まで持っていたものを全部無くしてしまったけど、でも、本当に大事なものを手に入れることができたのかもしれないですね。秀雄君も真澄さんも、こんな私と一緒に居てくれる。私が本当に心から信じられる人が出来るなんて。昔の私なら鼻で笑っていたでしょうね。二人がいれば、きっと私はまた羽ばたけるかも・・・でも今はまだ3人だけの生活を楽しみたいですね」

 

 

坂柳は幸せを噛みしめながら微睡みにたゆたうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

■神室からのレポート■

坂柳有栖の精神状態に改善傾向が見られます。

また、指示通り順調に依存度を高めることが出来ていることも確認。

今後も現状維持の方向で接触を継続します。




今回のサブタイトルは小林多喜二さんの言葉をつけさせていただきました。
坂柳有栖の現在の心境を表す言葉です。素敵ですよね。

モチベ維持の為にも感想、評価お待ちしております。

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