アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
ついにその日がやってきた。長い1日になるであろう体育祭の幕開け。ジャージを身に纏った生徒達の行進はやる気に満ちている上級生と、どこか気の抜けた一年生に分かれていた。
「今日はみんなで仲良く体育祭を頑張ろう」
ホモが満面の笑顔で周りに声をかけている。『みんな仲良く』はホモが好きな言葉らしい。果たしてそのみんなは男性のみなのかそうでないのか疑問である。以前博士に借りたラノベの主人公なら「俺はその“みんな”ってのに入ってない」とか捻くれた事を返すのだろうか。
俺は出来ればホモの“みんな枠”に入るのはちょっと勘弁だが、今日のところは“仲良く”やっていれば良いので楽で良いな。
特に来賓とかがいるわけではないので、怪我などの諸注意と選手宣誓などを軽く行い開幕式は終わり、競技が開始される。
先ずは100メートル走。
俺は山内と一緒に一番最初に走ることになった。
もし山内が馬鹿なことをしそうになったら止める役割だ。
「綾小路、そんなに凝視するなよ。俺だって流石に分かってるぜ」
山内は殊勝な態度だが、何故か信用出来ないのは今までのこいつの行いのせいだろうか。
スタート合図役の先生がスターターピストルを空に構えるのを見て、俺は隣に並んでいる龍園クラスの生徒を見る。どうやらいつの間にか各クラスをリーダーの名前で呼ぶようになったらしい。だが、俺のクラスは何故か馬鹿北がリーダーとなっている。馬鹿北は当然のことよと言っていたが、どうも祭り上げられているようにしか思えないな。
龍園クラスの生徒もこっちを見て、俺に相づちを打つ。龍園クラスはしっかり龍園から言い聞かされているようで、どうやら予定通りに作戦を実行できそうだ。
スタートの合図が響くと同時に、俺たちは左右に手を差し出し、隣の相手としっかり手を結ぶ。
そして、100メートル先のゴールへと転ばない程度の軽い速度で一緒に早歩きで向かう。
その様子に、上級生達からどよめきが起きる。
だが、俺たちは動揺もせずに、ゴールへ向かい、その直前で一度止まり、「3、2、1、ゴール!」と黒川クラスの生徒の掛け声に合わせて同時にゴール線を越えた。
「・・・・・・・・・同着だ。全員1着」
審判役の体育教師は苦虫を噛みつぶしたような顔で宣告した。
待機スペースへ戻りつつ、スタート地点の方を見ると、次の生徒達が同じように手を繋いでゴールへ向かっているのが見えた。
「これがあいつが唾棄していた競わないゆとり教育って奴か」
『みんな仲良くお手々を繋いでゴール』する光景を見ながら、俺は9月初日のホームルームを思い返していた。
「今回は全クラス合同で作戦を行うことになった」
教室の教卓に星野と櫛田が立っている。
茶柱先生は先ほど理事長室に呼び出されて不在だ。
まだ新しい理事長は決まっていないらしいが、誰に何故呼び出されたんだろうな。
視界の端で博士が机の下に隠したタブレットPCで何やら操作していたが、深入りすると危険な気がするので見なかったことにしよう。
「今回の体育祭はクラスポイントの旨みが全くない。最高の結果を出して漸く50クラスポイントを貰えるだけ。最悪の場合、全クラスマイナスになるクソイベントだ」
確かに、仮に学年別で1位を取っても赤組が負けるとマイナス50クラスポイントか。一番酷いクラスは200ポイントも引かれるな。
「この体育祭の目的は学校側のポイント回収なのはどう見ても明らかだ。夏にあれだけ苦労・・・は俺たちのクラスはしていないが、生徒にさせておきながら、それを取り上げようとする学校のあり方に疑問を感じる。そこで、俺たちはせめてもの意趣返しをしようじゃないか」
そこで星野は端末から録音データを再生させた。
『100メートル走などの順位はどのように判定しますか?』
『それについてだが、例年では最新の順位測定用カメラを購入していたが、今年は予算削減の関係で体育の先生が審判をすることになった。そのせいで体育の先生から何度も愚痴を言われたよ』
この声、元Aクラスの真嶋先生か?
「これは先ほどCクラスでの質問の録音データだ。真嶋先生によると、今回は順位測定カメラを使わず、体育の先生の目視による順位判定がされることになっている。そして、今回の体育祭は公平性を重視するそうだ。つまり、目視によって判断が付かない場合、公平に同着とされることになる」
そこで、櫛田が説明を引き継ぐ。
「そこでね、Cクラスの黒川さんと相談したんだけど、全クラスで全部同着にしてプライベートポイントを貰おうって話になったの。そうすれば、全員1競技ごとに5000ポイント貰えるんだよ。全員参加種目だけでも9種目あるから、1日で45000ポイントも稼げるの。凄いよね」
「そんなこと反対だわ! そんな卑怯な八百長など出来るわけないでしょ! ここは1位を取りにいくべきよ! お兄様がいる赤組が絶対勝つのだから、1位を取れば50クラスポイント手に入るのよ! それに他のクラスがマイナスになるから、私たちがAクラスになるチャンスよ!」
馬鹿北が勢いよく立ち上がり、口角泡を飛ばすように抗議しだした。
後、他のクラスが幾らマイナスになろうが、赤組が勝つ場合はAクラスのマイナスは最大100までで、クラスポイントは603。俺たちDクラスは298だから、50足されても348で、Aクラスになるチャンスはどう考えたってないぞ。
「えっとね、堀北さん。今回1位を取っても50クラスポイント増えるだけなら、一人当たり5000プライベートポイントしか入ってこないの。でもこの作戦ならクラスポイント450相当のプライベートポイントが入ってくるんだよ。それにこれなら捕獲ラストのクラスポイントの差も50しか変わらないし、どっちが得か分かるよね」
「ハッ! 目先のプライベートポイントに釣られて勝利するチャンスを逃すなんて愚の骨頂ね。5000ポイントしか増えない? 馬鹿言わないで。50クラスポイント増えたら、卒業まで幾らプライベートポイントが貰えるか分かってるでしょう。年間60000ポイントも入ってくるのよ。こっちの方が得じゃない」
馬鹿北の発言で、山内の馬鹿も賛同したようにお得だお得だと囃し立てる。逆に他の生徒の目は非常に冷ややかだ。それもそうだろう。入ってくるか分からない年間60000ポイントより、確実に直ぐ手に入る45000ポイントの方がお得に決まっている。
更に、この作戦だと恐らく推薦参加競技に出た生徒は最優秀生徒報酬で10万プライベートポイントが貰え、それ以外のクラスメイトは全員が同着1位で学年別最優秀生徒に選ばれ1万プライベートポイントと5000プライベートポイントも貰えるだろう。
そして、そんな美味しい話を俺たちだけが蹴れば・・・
「もし私たちが蹴っちゃえば、たぶんCクラスはこの作戦が出来なかったのがDクラスの反対のせいだと他クラスに説明するかな。そうなったら他クラスから恨みを買っちゃうことになるけど、それでも反対かな?」
そのとおり、一気に3対1の構図が出来上がるだろう。
「ふん、そんな八百長に乗ろうなんて甘い考えのクラスなんて幾らいても私の敵じゃないわ。もしこの作戦を決行しようとしても無駄よ。そろそろ私の怪我も治るから、体育祭で全部ひっくり返してや「おっとー足が滑ったーーーーー!」ケペーーー!」
俺の足が盛大に滑り、馬鹿北の右足を見事に蹴り抜く。
見事に新たな関節を獲得した馬鹿北が床でのたうち回るのを尻目に、「話し合いの途中にすまん、足が滑ってしまった。こちらには構わず説明を続けてくれ」と謝罪をする。
「うん。確かにワックスとかかけたのかな、ちょっと床がツルツルするよね。ね、みんな、綾小路くんは滑っただけだよね」
櫛田が満面の笑みでみんなから言質を取ってくれた。
後で茶柱先生が帰ってきたらちゃんと証言してくれるそうだ。うん、いじめのない素晴らしいクラスだな。
その後、茶柱先生が戻ってくるまで細かな調整などを話し合いを行った。
そして、体育祭。
競技は順調に進み、1年生は全てで同着1位を出し続けた。
途中で上級生の藤巻先輩が怒鳴り込んできたが、星野達各クラスのリーダーがこれの何が悪いのかと追い返していた。
借り物競走は大分時間がかかっていた。全員が借り物を集めるまで待たないといけないのだ。これで体育祭の終了時間が大分遅れることになった。
「よし、この位置だ、そーっとおけよ、そーっと」
各クラスの1人ずつが、縄の判定位置が丁度真ん中になる場所へとゆっくりと下ろしている。
微妙な誤差でイチャモンをつけられたくないので、わざわざ測定器を導入して縄の位置を調整しているようだ。
審判の体育教師は最早諦めきった顔でそれを見ていた。
競技の中ではこれが一番大変だっただろう。
俺はクラスのスペースで見ているだけだったが。
そういえば、博士の奴、お昼に居なかったから探したら、人気のない校舎裏で女子二人と仲良く手作りらしいお弁当を食べていた。
銀髪で小柄な笑顔の素敵な女の子と、ツンデレそうな美人の女子と3人でだ。
これは裏切りだな。本来なら山内に連絡して直ぐさま制裁すべきとこだが、漏れ聞こえてきた話から銀髪の少女が引き籠もりで今日漸く部屋から出てこれたそうなので、流石に邪魔しちゃ悪いと判断して気付かれないようにそっとその場を去った。
だが、俺の心は炎と書いてジェラシーだ。
俺はホモと山内のむさ苦しい野郎3人で学校が用意した仕出し弁当を食べたというのに、博士は可愛い女の子と3人で手作り弁当とは。
あのクソ親父がよく聞いていた歌手の歌が俺の心の中にリフレインする。
そうか、心の奥からからこみ上げてくるこの感情が“嫉妬”なんだな。
また新しい感情を学習できた。
ジェラシーストーム、ジェラシーストーム。心の貧しい男だな、俺は。
嫉妬に狂ってる間に、どうやら3学年合同リレーも終わったようだ。
どうやら2年Dクラスは人数不足で参加が出来なかったようで、1年生は同率8位を取っていた。
閉会式、夏前にあった巨大電光掲示板は予算削減で売却され、生徒達の前には急遽用意されたホワイトボードが用意される。
「それでは、これより本年度体育祭における勝敗の結果を伝える」
そのアナウンスと共に、ホワイトボードに結果の紙が貼られる。
どうせAクラスの所属している赤組の勝利だろう。
一部の生徒を除き、誰もがその結果に疑問を持っていなかった。
だが、貼り付けられた結果を見て、誰もが戸惑いの声を上げる。
「これらのポイントを集計して、結果、白組の勝利とする」
結果はB、Cクラスの白組の勝利だった。
2、3年生の両クラスが腕を突き上げながら歓喜の声をあげている。
いったい、どういうことだ?
「どういうことだ!」
同じように思ったらしい2年の男子生徒が怒りの声を上げながらホワイトボードへと駆け寄った。
確か、生徒会の南雲副会長だったか。夏フェスでやらかしたあの。
「南雲、お前、まだ気付いていなかったのか?」
お兄様が出てきて南雲副会長に声をかける。
「気付くって、一体・・・2年は俺の指示したとおりちゃんと動いていた。俺のAクラスは全部1位を取っていたんだぞ」
その言葉に、お兄様はその言葉を聞いて失望したような顔をする。
「やはり気付いていなかったか。確かにお前の指示通りにAクラスは全て1位を取っていただろう。だが、指示しただけで終わらせず、キチンと他クラスの動きを観察していれば気付けたはずだ」
そして、お兄様は各クラスのポイントの詳細を指し示す。
「BとCはAクラスに1位を渡していたが、全てDクラスには負けずに勝っていた」
「だからそれが? いくらBとCが稼いだって、Aが1位を取っていれば合計点で上回るはずだ」
「それはクラスの人数が同数ならの話だ。お前は不用意に退学者を出しすぎた。2年Dクラスの今の人数は何人だ?」
「・・・・・・・・・そういうことか、今のDクラスは10人、しかも5人は夏の試験での怪我で不参加だ」
「そうだ、それに2年と3年のBとCクラスは退学者の分も他の生徒が代役で参加していた。Aクラスと人数は同じだ。そのおかげで3年の団体戦はどれも白組に取られてしまった」
「代役? そんな事が出来たのか」
「俺も途中で気付いて教師に質問して初めて知った。恐らく裏にこの絵図を描いた知恵者がいるようだな」
「Bクラス・・・桐山が裏切ったのか? いや奴がこんな大それた事を考えつくわけが、はっ! まさか鬼龍院の奴が動き出したのか!?」
どうやら上級生の間で暗躍していた奴がいたらしい。
その煽りを受けてしまい、俺たち赤組が敗北してしまったみたいだ。
だが、それでも1年にとってはたいしたダメージではないな。
「続いて、クラス別総合得点を発表する」
その声と共に、別のホワイトボードに更なる紙が貼られた。
1位 同着 Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラス
計算通り、1年は全クラスが1位になり、それぞれ50クラスポイントが付与されることになった。
そして最優秀生徒は推薦参加競技に出た1年生各クラス6人、合計24人が選ばれた。
最後のリレーが8位でもその他を団体戦も含めて全て勝ってたらそりゃ当然だろうな。
これによって、各クラス60万プライベートポイント、1年全体で240万プライベートポイントが得られた。
そして、推薦参加競技はリレーに出る生徒の6人以外は急な腹痛で棄権した為、その6人以外の生徒が全員同率になり、1学年の学年別最優秀生徒は同率1位で133人が獲得することになった。
これによって、1学年は133万プライベートポイント。
更に全員参加競技が全員1位を取ってくるので、1競技当たり1クラス20万毎、いやCクラスは3人居ないから18万5000ポイントか、それで1競技当たり1学年全体で78万5000ポイント。
9競技で706万5000ポイントを獲得していることになる。
合計すると、1学年全体で1079万5000ポイントの支出だ。
教師陣の顔が軒並み青褪めているのがここからでもよく分かる。
真嶋先生など、発表途中で倒れて運ばれていったからな。
これ、誰かの首が飛ぶんじゃないか。
審判を務めていた体育教師なんて「だから順位測定カメラを導入しろって言ったんだ! 俺は反対したんだからな!」などと生徒の前にも関わらず叫んでいる。
早くも責任の押し付け合いが始まっているようだな。
教師達はこの後大変だろうしが、俺たちDクラスは272万もの収入があり、この後星野達の提案でカラオケで打ち上げだ。
何時も4人でしかカラオケ行ったことがないので、クラス全員とのカラオケは楽しみだな。
ん、どうした星野? 全員は入りきれないから二部屋に分ける? 大部屋と普通の部屋? まってくれ、俺は大部屋がいい! 頼む、ホモと山内の3人にしないでくれ!
なんとか部屋の隅でも良いので一緒にしてくれと土下座して頼み込み、大部屋でのカラオケに参加することが出来た。
ホモも山内と仲良く二人っきりで楽しめたようで楽しい1日だった。
ちなみに博士は打ち上げに不参加だったが、トイレに行ったとき、別の部屋でお昼の時の女子達と3人で仲良くカラオケをしているのがドアの小窓から見えた。
ジェラシーストーム・・・。
どんどん感情を獲得して成長する主人公、綾小路君のお話でした。
今回のサブタイトルはドストエフスキーの言葉からです。
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