アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
「綾小路ですが、やはりまだ息子のことに拘っているようですね。理事長代理にと月城を強く推しています」
「あいつは阿呆だからな。今もまだホワイトルームなどと言う失敗作に固執している。あやつの息子があそこまで成長したのも息子の才能故であろうに」
「それと、差し出がましいのですが、カミキの件、そろそろ切られては」
「あいつはまだ役に立つからな。真にクリーンな政治を実現するには悪臭を放つゴミは排除せねばならん。全部綺麗になった後で全ての責を背負う生け贄が必要なのだ」
日本を担う男は憂いを秘めた目で窓の外を眺める。
窓からは見えるのは人々の営みが広がる街。
「だか、救える命は救わねばならん。公安を誘導して、無関係な犠牲者はなるべく少なくするようにせよ」
それを聞いた秘書は静かに礼をして部屋を出て行った。
冬休みも間近に迫ったとある日の放課後、高円寺が校舎を出たところを待ち構えていた龍園とその手勢が囲むように遮る。
「おっと、ここから先は一方通行だぜ。ちょっとばかり顔貸せよ」
「なんだい君たちは。あいにくだが私の顔は君たちみたいなお子様が見るカートゥーンのキャラみたいに取り外しはできないのだがね」
「だれがお子様だこの野郎。俺の事を知らねぇとは言わせねぇぞ」
龍園は高円寺にガンを飛ばす。
「Cクラスのヤンチャ君だろう」
「大分前からBクラスだ、この変人が」
「ふむそうなのか。すまないね。私はクラス競争などというものに欠片も興味がないのでね。だが変人とは心外だね」
「どう見ても変人だろうが。付いてこないなら、ここでやりあってもいいんだぜ」
その言葉に、高円寺は少し周りを見回して答えた。
「ふむ、手短にすむのならばどこでも良いのだが、ここで騒いではレディ達に迷惑がかかるね。すぐそこの公園にでも行こうではないか」
確かにここは校舎の前であり、高円寺を取り囲む龍園達を恐れた女子生徒達が校舎からでれずに困っていた。
高円寺は承諾した龍園達を先導するように公園へと向かった。
また、一部始終を見ていた野次馬達も距離を置いて彼らの後を付いていく。
「さて、君たちの用件は何かね、金八先生君。贈る言葉でも歌ってくれるのかね」
「誰が金八先生だ」
「ふむ、うちのクラスではみんな君のことを金八先生と呼んでいたのだが違うのかね? ちょうどBクラスなのだからピッタリではないか。1年B組金八先生。私も幼少の頃は見ていたよ。良いドラマではないか」
1年B組金八先生の下りに反応したのか、龍園の手勢が吹き出し、龍園にぶん殴られる。
「おやおや、可哀想に。最近の金八先生はDVもするのかね。なかなかに社会派ドラマだね」
「言ってろ変人が。俺が聞きたいのはテメェが鈴音のテストを入れ替えを画策したのかだ」
龍園は山内の賠償金を取りにいった際、堀北がテストが入れ替えられていた事を知らなかったため、テスト入れ替えは別の知恵者が行ったことだと判断した。そして、リーダーである堀北に背いて勝手に行った事から、この自由人の高円寺に目を付けたのだ。
「ふむ、鈴音とは神輿ガールのことかい?」
「神輿? どういう・・・そうか、つまり本当のリーダーは他に居るということか。確かにあの馬鹿は煽れば喜んで神輿になってくれるよな。それに気付かず威勢の良い神輿に気を取られて踊らされた俺の方が馬鹿だったと言う訳か」
「ふむ。納得してくれたのなら結構だね。では私はもう行かせて貰おう」
「確かに神輿だとバラすようならお前は無関係なんだろうさ。それに免じて今日のところは見逃してやる」
それに対して、アデューと手を軽く振りながら高円寺は去って行く。
一触即発の雰囲気から一転、何事も起きずに終わったのに周りでみていた野次馬達は拍子抜けと言った感じだった。
だが、その野次馬に隠れて見ていた星野アクアは、今後デコイは機能しないことを知るのだった。
また、『1年B組DV金八先生』という龍園の不名誉な渾名が1年全体に周知されるのもこの事件が切っ掛けとなった。
成田空港に黒服黒コート黒サングラスと言った怪しさ全開の風貌の男が、同じように黒服を身に纏った男達を引き連れて降りたった。
「大兄、今回も公安の方とは話が付いています。そのままゲートから出ても大丈夫とのことです」
「おう、ご苦労だったな」
三合会の張維新は先だって現地入りして迎えに来ていた男、腹心である彪を労い、用意された車へと部下と共に乗り込んだ。
「国際展示場前のサンシャインホテルの部屋は押さえれています。各種装備もホテルの部屋へと全て運び込んであります」
「こいつはお気に入りの一張羅だが夏は暑いの目立つのと良いところがなかったからな。しっかり溶け込める装備は揃ってるんだろうな」
「はい。ジーパンにチェックのシャツ、バンダナにジャケットと、去年の参加者の統計から最も多いであろうコーディネートを準備済みです。もちろんバックパックとビームサーベルも準備済みです」
張は用意された装備品の一覧が記載された資料を読み込んでいく。
「カメラも最新のバズーカレンズ付きのカメラを多数用意しています」
「抜かりはねぇな」
「ですが、大兄。何も貴方がわざわざ来なくても、こんな仕事は下のものに任せてしまえばいいのでは?」
「馬鹿野郎。これを誰からの仕事だと思ってるんだ。大恩あるプロフェッサーからの仕事だぞ」
「随分と彼に拘りますね」
「ああ、今のロアナプラが政府からの干渉を受けずにいられるのはプロフェッサーのお父上のおかげだ。そしてお父上亡き後もプロフェッサーが後をついでどこにも行き場のねぇ俺らがいられる場所を確保してくれている」
張は父親を殺され、壊滅する組織から父親の手下に連れられて命からがらロアナプラへと逃げ出してきた幼い頃の彼を思い出す。
その後も亡き父の後を継ぎ、父親が築いた拠点であるロアナプラをそこに住む人々ごと護り抜いてきた彼を知っていた。
普通ならば折れるか若しくはグレて外道へと落ちても可笑しくはないが、彼は父親から受け継いだ気高い信念を忘れず、自身の才覚であった情報技術を武器に戦ってきた。
少しヤンチャしすぎて米国の首輪を付けられてしまったが若気の至りと言えなくもない。
張も彼がどうしようもない奴なら見捨てていたであろうが、彼は悪事に手を染めてはいるが、筋の通らないことには手を貸さず、自身の信念に基づいて弱者に理不尽を押しつけず、強者に屈しず立ち向かう、そんな面白い奴に育ったからこそ手を組んでいるのだ。
「バラライカの奴もそんなあいつが気に入ってるからこそ、俺たち同様あんな仕事を率先して引き受けてるんだよ」
張は自分たち同様、冬コミへと参加すべく部下達を率いて日本入りを果たしているであろう彼女達の事を言及した。
この前黄金夜会の集まりで話した際、瞬時の状況判断や効率的な部隊運用、部隊間の連携についての良い訓練になると言っていた。
彼女らも今回は本腰を入れて準備をしていることだろう。
「やっぱり、負けてられねぇわな。おい、人気のコスプレイヤーの情報、当日までに全部頭に入れておけよ。『1000年に一度の美少女』級の写真を撮ってプロフェッサーの度肝を抜いてやるぞ」
こうして、戦士達の聖戦がまた始まる。
屋上に水をぶちまける音が響く。
「おい、もっとバケツに水を汲んでこい。とりあえず2杯だ。ひとつ下の階のトイレなら、この時間利用するヤツはまずいない。男子トイレに清掃用のバケツが2つある。そいつも使え」
指示された男はすぐトイレに向かい、2度ほど往復して計4杯の水を汲んで来た。
「嫌だ! 放してくれ!」
水を浴びさせられて震えながらも懸命に逃げようとするが、背後から羽交い締めにされて逃げられず、容赦なく水が被せられた。
今はもうじき日が落ちて暗くなる夕暮れ時。
季節もすっかり冬になり、気温は一桁である。
そんな中、冷たい水を被せられた為、顔は青ざめ、唇は紫色に変わろうとしている。
バケツで水をかけた男は、感情を感じられないような冷たい目で、床に座り込み寒さに震える様を見下ろしている。
「どうしてこうなったか、分かっているだろう?」
「あ・・・ああぁ・・・」
あまりの寒さに口もきけないのを見て、男は顔面を蹴り飛ばし、残った2杯のバケツを更に浴びせる。
「あまり俺を甘く見るなよ」
「ご・・・ごめん・・・」
「謝って欲しいわけじゃない。言ったはずだ、これは折檻だとな。何度も忠告したよな」
男は言葉を句切り、顔を近づけて、殺気を載せながら告げた。
「もう、借金はするなと」
男、綾小路清隆は静かにキレていた。
返済の目処が更に遠のいた借金。
購入予定だったキッチン用品が手に入らなくなった怒りを確かに感じていた。
「綾小路君、私が羽交い締めにしているところにかけないでくれないかしら、寒いわ」
びしょ濡れになった山内を、まだ羽交い締めにしたままの堀北鈴音は抗議の声を上げる。
「馬鹿北もタフになったな」
「今は寒さより怒りの方が強いわ。これで100万よ。一体どうしてくれようかしら」
「ボクはお金なんかよりみんなと一緒に居れる方が大事だからどうでもいいけどね」
「「ホモは黙ってろ」」
綾小路と堀北の声がシンクロし、平田は分が悪いと判断し、肩をすくめながらバケツに水を汲みに行った。
「それで、どう落とし前を付けるつもりなんだ、山内」
「落とし前も何も、彼にはどうしようもできないでしょうけどね」
やるせないと、嘆息を付く堀北。
だが山内は、ちょっと聞いてくれよ、と声を上げる。
「実は借金一気に返せそうなんだよ! 2年の南雲って先輩がビットコイ・・・」
後に、その時の光景を見ていた堀北鈴音は語る。
「馬乗りだったわ。そう、子供の喧嘩みたいに」
また率先して騙されにいこうとする山内にブチ切れた綾小路は、馬乗りになり、何度も何度も山内の顔面を殴打した。
「山内君も多少の抵抗はしてたみたいですけど、まぁあとは酷いものだったわ。何度となく拳を顔面に叩きつけられる度に彼の頭が地面にバウンドして・・・鬼気迫るっていうのはああいうのを言うのね」
堀北鈴音がブルリと身体を震わせる。
「単純にスゴいって・・・喧嘩が強いってスゴいことだと思ってしまったわ。私は女子だけど、そこはホラ・・・人間の本能っていうか・・・何発ぶっ叩いたのか、いや、もう大方勝負は決したってところだったわ」
本来ならそのまま決着になりそうな流れだったが、堀北鈴音はそうではない、と言葉を続けた。
「妙なことをしたのよ、山内君。鼻を摘まんだの、左手でこうして・・・」
堀北鈴音は自身の鼻を左手で摘まんで見せた。
「時間にしたらほんの1,2秒。綾小路君のパンチが中断したわ・・・・・・・・・その瞬間だったわね」
山内が尻の後ろに隠していた右拳を綾小路の鼻先に突き出し、手を開いたのだ。
「何が起こったかはすぐ分かったわ。小学生の頃に何度かみたこの世で一番穢らわしい光景だから。男子なら知っているでしょう。よくいたずらで使われるあれよ」
その手から放たれる異様な臭気。それが綾小路の鼻先で炸裂した。
「包丁を持っていようが拳銃を持っていようが、あの匂いを浴びた人間の取る行動って一つしかないわ・・・鼻を押さえて仰け反る。握りっ屁なんてものをされたら、老若男女こうするのが本能なのよ」
堀北鈴音は思い出したのか顔を顰める。
「しかしそこが綾小路君なんでしょうね。意味が分からず立っているんです。怯んだ様子はぜんぜんなかったわ。ただ馬鹿にされたことは分かったんでしょうね」
あとはまぁお察しの通り、フルボッコにされて、病院送りよ。事が終わった後、彼を運んでいった茶柱先生の「これは事故です。いじめはありません」の言葉が虚しく響いていたのが印象に残っているわ。
そう語る堀北鈴音の顔はとても清々しい笑顔だった。
次回は31日に投稿予定です。
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