SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第10話 受験

 2040年4月22日の日曜日。

 広島のダンジョンギルドにて、ダンジョン探索者の登録試験が行われていた。

 今回の希望者数は約100人。それだけの人間が新たに祝福(ギフト)を得た事を意味している。

 

「それではこちらに書類と祝福(ギフト)リングの提出をお願いします」

 

 祝福(ギフト)に選ばれた者は総じて突然、指に宝石の付いた指輪を嵌められている。

 宝石の色はその者の適性を表す色を示しており、濃いければ濃い程才能があるとギルドは認識している。

 受付嬢は書類を受け取り記入内容に不備が無いかを確認し、白く淡い色の宝石の指輪に一瞬動きを止めるが……そこはプロ。表情と声に感情を乗せない様にしながら対応を進める。

 

「それでは、あと30分後に試験の説明会が行われますので待合室でお待ちください。――あなたの未来が輝かんことを。空我センシ様」

 

 受付嬢の言葉を背に、センシは待合室に向かった。

 

 

 

 

 説明会によると、試験は三つの種類があるらしい。

 一つは筆記試験。まぁ普通にそう。

 二つ目は魔力測定と祝福(ギフト)の登録。これにより今後はギルド公認のダンジョン探索者になれるらしい。

 そして三つ目はモンスターとの模擬戦。魔法で再現しているから怪我をする心配はないとの事。実戦で何度も戦ったから問題はない。

 

 案内の人に従い、試験を受ける。でもいきなり躓いてしまった。

 何度もダンジョンに潜っているけど、正直詳しい訳ではない。力があるからコッソリと入って、ダンジョンを攻略して、そしてバレる前に逃げていた。

 だからダンジョンの成り立ちや特性はほとんど知らない。……アルスターに聞けば良かったかな?

 そう思いつつも、結局名前だけを書いて提出する事となった。隣の受験者が怪訝な顔をしていたけど気にしない。

 

 次に連れて来られたのは殺風景な部屋だった。

 中央に台座があって窪みがある。見る限り指輪を嵌めるのだろうか。

 

「それではお願いします」

 

 案内の人に言われて祝福(ギフト)リングを嵌める――すると、次の瞬間、台座に備え付けられていた計測器が大きな音を立てた。

 途端に案内の人が慌てて計測器を見て、驚きの表情を浮かべたまま何処かに連絡する。

 しばらくすると加齢臭がしそうなおじさんが急いで部屋に入って来た。

 

「どうした。何があった?」

「それが……」

 

 ヒソヒソとこちらを見ながら話すその様子を見ながら、家に帰った後の事を考える。今日はお肉が食べたい気分だけど、冷蔵庫にあったっけ?

 そんな事を考えていると、今度はおじさんにもう一度指輪を嵌める様に言われる。

 従って指輪を嵌めると、先ほどと同じ反応を示す計測器。ビービーとうるさいな。

 

「――故障ではないのか」

 

 おじさんのこちらを見る目が少し怖い。まるで英雄を見るような視線に背中が痒くなる。私は英雄じゃないのに。

 

「魔力レベル100。こんな事、初めてだ!」

「これまで空いていたS級探索者が埋まるかもしれませんね!」

 

 喜色の声を上げる二人に、少しだけ罪悪感を抱く。真実を知る者からすると、私の存在はあまり好ましく思わない人間も居るだろう。

 

祝福(ギフト)は……」

「聞いたことが無いですね。しかし……」

「ああ。絶対に強いぞこれは!」

 

 その後も興奮したまま褒めて来たが、時間が来たので次の試験に向かう。

 そこには他の試験者も居り、幾つかのステージに上がって再現モンスターと戦闘を行っていた。ステージ横に時間が計測されている様で、それを見ながら試験管が用紙に記入している。

 丁度いまモンスターを倒した受験者が居るようで、そちらを見てみると35秒だった。

 

「あいつ凄いな」

「ああ。初めての1分切りだ」

「先輩が言っていたけど、1分切ったら才能あるんだって」

「去年は確か犬崎の6秒が最速だったんだよな?」

「最速でA級になるし、才能あるやつは違うよなー」

 

 他にも記録が表示されていく。2分8秒。3分1秒。1分15秒。他にも様々だ。

 そうやってボーっと見ていると、自分の名前を呼ばれる。ステージに上がる前にジロジロと見られているのを感じた。

 目の前にモンスターが形成されていく。見た目はデカい蜘蛛だった。こういうモンスターは意外と脚を焦げるまで焼くと美味しいんだよね。

 

「次、始め!」

 

 試験管が言い終わると同時に蜘蛛を真っ二つにする。

 有能だからか、試験管がカチリと無意識にボタンを押してタイマーを止めたのが聞こえた。

 さて、記録は――。

 

「れ、0.8秒……!?」

 

 ざわり、と会場がざわつくのを感じた。

 他の試験管が駆けつけて何人かで話し合った後、私の名前を呼んできた。

 

「申し訳ないが、もう一度計測させてくれないか?」

 

 頷いて肯定すると、再度モンスターが生成される。

 試験管が開始の合図を出すと同時にもう一度蜘蛛を真っ二つにした。

 

「0.6秒」

「縮んでる!?」

 

 まぁ誤差だろう。もう良いだろうか?

 目線で問い掛けると問題ないらしく、ようやくステージから降りる事ができた。

 試験管たちは冷や汗をかいて何か話し合っているけど正直興味は無い。

 

「お前凄いな!」

「何者だ?」

「よく見たらカッコいいかも……」

「ねぇ、連絡先交換しない?」

 

 何人かが詰め寄って来たが、興味が無いので無視して通り過ぎる。

 それに対して何か言われるか思ったけど「クールだ」「これが実力者」「貫禄ある」と様々な反応を返される。

 

 さて、全ての試験を終えて後は結果を待つだけ……。

 

「すみません。少しよろしいでしょうか?」

 

 そう思っていると黒服の男性が話しかけて来た。

 どうやら此処のギルド長に会って欲しいらしい。案内されるままに着いて行くと、辿り着いた先にはおじさんおばさんが複数人いた。全員スーツを着ている。みんな偉そうだ。

 いや、それよりも――。

 

「いきなり呼び出して申し訳ないね」

 

 目の前の黄金は、ダンジョンに疎い私でも知っている。

 金髪のウェーブセミロングに、威風堂々をそのままにしたかのような金色の瞳。抜群のプロポーションは同性すら魅了する。

 そして何より相対する者を圧倒する王の覇気。

 天ツ上ヒカリ。史上最年少にして最古のS級ダンジョン探索者。年齢は16歳と同い年の筈だけど……全くそうは思えない程の存在感を彼女から感じた。

 政府の上官を思わせるおじさんおばさんがただの人形の様に侍らせながら、ヒカリはこちらを鷹の様に鋭い目で見て来る。

 

「ようやく会えた、と無粋な事は言わないよ」

 

 ヒカリの言葉から、言外にこちらの正体を見破っている事を察した。

 

「一部の人間は君の事を否定するだろうけど――私は君を英雄として迎え入れる」

 

 それだけの功績を残しているからね。と言って彼女は黒服に書類を用意させてこちらに渡させてきた。見てみるとコッソリと攻略していたダンジョンの情報がチラホラとあった。

 アルスターにはバレていないか確認したけど『さぁね』と返されて分からなかったが……アイツ黙っていたな。

 

「魔力レベル100。期待の持てる祝福(ギフト)。実力が伴った記録」

 

 こちらを褒めちぎるその言葉に少しだけ承認欲求が満たされる。

 

「そして絶対に受かるからと答案用紙を白紙で出すその胆力」

 

 ごめんなさい。それは普通に分かりませんでした。

 素直にそう言えず黙っておいた。

 しかし、もしバレても問題無さそうではある。

 

「これからよろしく頼むよ――風緑ハヤテ」

『はい』

 

 私は手に持っていたスマホをタップして音声で答える。

 はー、終わった終わった。帰ったらセンシの匂いを嗅ぎまくろう。疲れた。

 

 

 

 

 ギルド長室にて、ヒカリは来客用のソファに座りタブレットを弄っていた。

 そんな彼女に不安そうな表情を向けるのは東京のギルド長の男性である。

 

「よろしかったのですか? 彼女をS級に認定して」

「何か問題が?」

「も、問題だらけですよ! 彼女は違法にダンジョンの攻略を行っている、謂わば犯罪者なのですよ!?」

 

 ダンジョンで得たアイテムや素材は国を介して売買される。そこには当然税が課せられており、一部の探索者たちは不満を抱いている。

 中にはギルドを介さずに個人間で取引を行ったり、市場に流してはいけない危険なアイテムを売る者も居る。故に祝福(ギフト)を得た者は無断でダンジョンに潜る事を禁じ、発覚した場合は厳罰に処されるのが通例だ。

 

「彼女は特別だ」

「しかしですね……特例を許しては他の探索者に示しがつきません」

「そんなの、彼女の行いに目を瞑れば良いだけだろう」

 

 ヒカリは、一つの紙を渡した。

 そこには風緑ハヤテのカバーストーリーが描かれている。

 突如S級として目覚めた彼女は、試験にて類まれなる実力を見せつけた。まさに天才。

 初の探索では単独でイレギュラー化したA級ダンジョンを攻略し、災害を防いだ。

 

「何ですかこれは。こんなの――」

「書いている事は嘘だが、彼女には実際にそれだけの力がある」

「……彼女を脅すのですか?」

 

 つまり、黙っていてやるからこちらに従え、と。

 

「ああいうタイプは靡かない。でもその分こちらに興味を示さない。一応通達してしておけば良いだろう」

「そんな無茶苦茶な……」

「偽装工作は札幌ギルド(こちら)でしておく。お前たちは黙って(オレ)に従えば良い」

「……分かりました」

 

 ハヤテが何故いまさらギルドに入ったのか。それを知る者は誰も居ない。

 だがヒカリはそれでも構わないと思っていた。手を出して嚙まれるくらいなら、こちらの武器で首輪を付けるだけだ。

 それにもしギルドにとって害となるのなら、彼女自ら処理する腹積もりだった。

 

「問題は他の探索者のレベルだ。彼女以外にめぼしい者が居ない」

「そうそう良い人材は居ませんよ」

 

 ヒカリの手には本日試験を受けた者たちの情報が記録されたタブレットがあった。

 全国七つのギルドの情報が随時更新されているが、彼女の食指に触れる者は居ない。

 

「……ん?」

「どうかなさいましたか?」

 

 ふとヒカリは一人の受験者の情報に目が留まる。

 名前は空我センシ。試験会場は広島ギルド。

 彼女の中では雉岡が居る地域という認識でしか無いが……。

 

「これは……」

 

 ギルド長もヒカリが見た受験者の情報を見て目を見開く。

 その動揺は風緑ハヤテの存在を知った時と同じくらいであった。

 

「いや、何と言うか。東京も大変ですが、広島も大変そうですな」

「……ああ。そうだな」

 

 ヒカリは、興味を失ったかのように画面を消し立ち上がり部屋を後にした。

 何も言わずに立ち去った彼女に不思議そうにしながらも彼は仕事を続けた。

 もう既に先ほどの空我センシの事は頭の中から消えていた。

 

 

 

 

「やっぱりS級か」

「ん。当然」

 

 東京のギルドで探索者登録を終えたハヤテが『S』と書かれた紙を自信満々に見せて来た。

 結果によってはB級からスタートする事があるらしいが、ハヤテはそれすら飛び越えている。

 でも多分これってギルド側も気付いているよな。ハヤテが違法にダンジョン潜っている事に。

 

『それを無視してでも彼女を取り込みたかったんだろうね』

「でもなぁ……」

 

 ギルド側は、一度こいつの人格は把握しておいた方が良いと思うんだけどな……。

 

『ちなみにギルドは今いろいろとてんやわんやだよ。相変わらずあの娘に振り回されているようだ』

 

 多分余罪がたくさん出て来て卒倒しているんだろうな。そしてそれを他の探索者や民間人にバレない様に偽装工作して、さらに印象操作に尽力している、と。

 ……多分裏の人間に口止め料とか渡しているんだろうなぁ。怖いな天ツ上ヒカリさん。アルスターから聞いた話でしか知らないけど。

 

「ちなみに入った理由聞かれた?」

「特には」

「そっか……」

 

 もし『サブスクのプランを強化する為』とか言われたらどういう顔をするんだろうか。

 そしてこれから週に一回匂いを嗅がられるオレはどうなるんだろうか。色々と大丈夫か? 理性とか。

 

「でもこれで黒歴史は見つけやすくなる」

 

 まぁバレない様にコソコソダンジョンに潜るよりも良いかもしれないけど……。

 

「お前は良かったのか?」

「ん。問題ない。それにセンシと会ってからもう辞めてたから、そういうの」

 

 それなら問題無いんだけど……。

 

「それよりもセンシはどうだったの?」

「……」

 

 自分の表情が曇るのを自覚する。

 思い出しても気分が良くない体験をした。あそこのギルドの教育はどうなっているんだろうか。

 とりあえず試験結果が書かれた紙をハヤテに渡す。

 

「筆記試験。満点」

「こいつのせいで詳しいからな」

 

 オレのスマホでソシャゲをしているアルスターを小突く。最近か、もしくは昔からかは分からないがインターネットにハマっているコイツは、Ytubeで配信や動画を見たり、ネット小説を読んだりしている。今はガチャを回しているみたいだ。

 

『知識面については、君の自業自得な所もあるけどね』

「うるせ」

 

 それにしても滅茶苦茶ハマってるな……課金はしていないみたいだが。

 

「次。魔力レベル――1」

「うん」

「……1?」

「そうだよ。何か問題あるのか?」

 

 若干声が荒げてしまうのを実感する。

 いや、だってさ。オレも男な訳でさ? 少し期待してたんだよ。異常な数値を出して周りに「なんだと?」「いったい何が起きているんだ!?」となる展開を。

 

「私はなった」

「そうですかっ」

 

 実際は最低値の「1」。試験管には可哀そうな物を見る目で見られていた。その後祝福(ギフト)を見て笑ってきたのは凄く腹が立った。

 

「でもどうして? センシ、私より強いのに。……計測器の故障?」

『いいや。計測は正しいよ』

 

 ガチャを回しながらアルスターが答える。

 

『あの装置は、我々が渡した祝福(ギフト)に込められた魔力を測定している。君の場合は最下層に辿り着き祝福(ギフト)が完成されたからね。故にレベル100と計測された』

「だったらセンシは?」

『単純に彼に渡せる祝福(ギフト)がそれが限界だっただけさ』

 

 スマホを操作し、ゲーム画面を見せて来るアルスター。

 そこにはコストの高いキャラばかりが編成されており武器が装備されていない。このままではバトルができない為調整が必要だ。

 

『空我センシはこれと同じさ。元々強いがコストがアホみたいに大きい。ギルドが認めるダンジョン探索者になる為には祝福(ギフト)リング、つまり武器が必要だ』

 

 そう言ってポチポチと操作しキャラに武器を装備させるが、その全てが低コストの武器。それでもクエストはクリアできそうだが、高難易度となると難しそうではある。

 

『だから我々は反対したんだ。彼がダンジョン探索者になっても仕方がないって』

「ん。でもセンシは強いから……」

 

 そこでハヤテの言葉は止まる。恐らく模擬戦の結果を見たのだろう。

 オレも何故そうなったのか理解できない。

 

「計測不能……つまり5分経ったって事?」

「まぁ、記録上はそうなるな」

 

 何度も抗議したけどレベル1のオレの言葉を試験管は聞く耳持たなかった。

 その時の事を伝えるとハヤテは不満そうな顔をし立ち上がる。

 

「ん。今から文句言って来る。センシは本当は凄いって」

「やめてくれ。凄く惨めだから。それ、オレの心が折れる奴だから!」

 

 怒ってくれるのは素直に嬉しいけど、男としてそれは情けなさすぎる。

 不服だけど此処は出された結果を受け入れるしかない。

 

『しかし英雄がC級スタートとは。複雑な気分だ』

「仕方ないだろう。ギルドが決めた事なんだから」

『ちょっとカエル化しそうだ』

「お前インターネットするの辞めたら?」

 

 魔力レベル「1」。登録した祝福(ギフト)も笑われる。模擬戦は計測不能。

 結果だけを見れば妥当な評価だ。複雑だなぁ。

 

「ん。大丈夫センシ。S級の稼ぎはかなり良いらしいから、私が生活を支える」

「なに人の事をヒモみたいな事言ってんだこらぁ」

 

 ともあれ、こうしてオレはダンジョン探索者になる事ができた。

 

 

 

 あ、やべ。ホムラになんて言い訳しよう。

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