SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
「どうしよう……」
学校にてオレは頭を抱えていた。結局ホムラにオレがダンジョン探索者になった事を告げる事ができなかった。
今日の朝伝え用途思ったが、ダンジョン探索者としての仕事で学校に来るのは遅いらしい。シオンも同じだ。反対に犬崎は登校している。アイツは呼ばれなかったのだろう。
「なぁなぁ聞いたか? 今日転校生が来るらしいぜ」
「そうなの?」
白上の言葉に黛が反応を示す。
「ああ! チラッと聞いたけど凄い可愛いらしい! それも乳がデカいと来た!」
「きみ、いつもそれだよね」
こいつは女が好きだからな。それも巨乳好き。好きすぎてクラス全員のバストサイズを叫んで以来コイツの立ち位置確定した。ちなみに童貞だから外していた。
ちなみにホムラのを言い当てた時はオレの拳骨に沈み、彼女からはGを見るような視線で心を殺されていた。……いや、新しい扉が開いていたか?
「みんな~おはよ~」
「……」
雑談を交わしていると聞き慣れた声が聞こえる。そちらを見るとシオンとホムラが……ってあれ?
「お前ら、今日は遅かったんじゃないのか?」
「その予定だったんだけど、先方の都合で用件は放課後に回されたんだよね」
そう言って珍しく苦笑いするシオン。珍しいなコイツのこの反応は。
……問題は、こっちを凄い目で見ているホムラだ。
彼女は犬崎が居るのを気にせずにずんずんとこちらに近づくと、グイっと顔を寄せて至近距離で睨みつけて来た。相変わらず着崩した服で目のやり場に困る。今はそれ以上に彼女の視線に困っている。
「な、なに?」
「さっきの目、なに?」
――あ。やばい。バレてるかも。
「アタシに何か隠してるでしょ?」
不味いな。少し油断していた。感情で揺らぐのはオレの悪い癖だ。
問い詰めて来るホムラになんて答えようかと悩んでいると、視界の端で犬崎がキレ顔で立ち上がっているのが見えた。お前、いまこっちに来るな!
しかし、救いの手はすぐにやって来た。
「お前らー、席に着けー。知っている奴も居ると思うが、今日は転校生を紹介するぞー」
「マジ!?」
「先生本当ですか!?」
「ああ。そうだよ。ハァ……」
「先生なんか暗くない?」
「またニュースサイトでヒカリ様に彼氏疑惑出たのが堪えているんじゃないのか?」
「うるせぇ! ヒカリ様は永遠に処女なんだよ!」
「うわ、きも、きつ」
「おっさんのユニコーンは見たくねぇな」
ホムラもあの先生に絡まれたくないのか、オレへの問い詰めを辞めて自分の席に戻った。
あぁ……助かった。
いや、助かってないな。めっちゃこっちを凝視しているし。犬崎も睨みつけているし。シオンは面白そうにしている。ふざけんな。
先生が出欠を取っている間も視線を感じたが気付かないフリをする。ほら、転校生来るんだからそっちに興味を持ってくれ。
「さて。今日から君たちの仲間となる子だ。入って来てくれ」
先生の言葉と共に入って来たのは一人の少女だった。
まるでハヤテの様に黒髪をポニーテールにし、ハヤテの様に胸が大きく、ハヤテの様に眠たそうな半開きの目に、ハヤテの様に絶世の美少女だった。へー、世の中には似た人間が居るとは言うけど、ここまで似ているのは初めてだな。
「彼女は風緑ハヤテという」
へー、名前まで一緒なのか。偶然を通り越して奇跡だな。
「そして察していると思うが、先日ギルドが発表した最後のS級ダンジョン探索者であり、本日付で広島ギルドに配属されたらしい」
へー、さらにハヤテと同じS級ダンジョン探索者なのか。あいつも最近S級になったし、もしかしたらアイツと馬が合うのかもしれない。天馬だけに。
【そろそろ現実逃避は諦めたらどうだい?】
――何でアイツ此処に居るの?
【我々が知る訳ないだろう】
アルスターの無慈悲な言葉に打ちのめされる。
本当に何で此処に居るんだよあいつ!? そう思ってハヤテを睨み付けると、こちらに気が付いた彼女はニコッと微笑んだ。
(((今、俺/僕/拙者の方を見て微笑んだ……?)))
くそ、可愛い顔を向けやがってこんちくしょう……!
くそ、ホムラの視線の怖さがレベルアップしている。心当たりしかない……!
くそ、シオンが興味深そうに見ているのを感じる。アイツにバレたら終わりだ。じゃあ終わったな。
「えー、それじゃあ風緑。みんなに挨拶してくれ」
『風緑ハヤテ』『です』『よろしくお願いいたします』
先生に促されたハヤテは、手に持っていたスマホの画面をタップして音声を流した。
その行動にみんな驚く。オレ含めて。何してんのこいつ?
「え? あの、風緑さん……?」
彼女の行動に先生が戸惑う。え、先生も知らないの?
そう思っているとシオンが立ち上がる。その顔は普段の猫の様な飄々としたものではなく、何処か疲れてそうな……余裕を感じられないものだった。
「あー、すみません先生。彼女、五年前の災害の影響で人前で声を出すのが……」
「なるほど……苦労してたんだな風緑」
シオンの言葉に目元をウルッとさせてハヤテを同情した目で見る先生。
……あいつ、何であんな嘘を吐いているんだ? オレの前だと普通に話してたと思うんだが。
『仲良く』『よろしくお願いいたします』
そうスマホで読み上げた後にコテンッと頭を傾けるハヤテ。
美少女だから、彼女の言っている嘘を疑う者は居なかった。女子は可愛そうにと優しい目で見て、男子たちは可愛いとやらしい目でその肢体を見ていた。
(((無口スマホ読み上げナイスバディ美少女とか属性盛り過ぎだよどこ狙いだよ! ……俺/僕/拙者狙いか)))
「それじゃあ、席は……」
先生が言う前に歩き出すハヤテ。彼女はとある席に立つと、スマホを操作する。
『ごめんなさい』『席』『ください』『お願いいたします』
「え? あの……」
『席』『それ』『好き』『思い出』『よろしくお願いいたします』
コテンッと頭を傾けると、元々その席に座っていた男子生徒は戸惑いの表情から一転キリッと引き締まる。
理由は分からない。事情は知らない。しかし彼女の心の苦しみは見えた、って感じの顔だ。
目の前に立つハヤテと視線を合わせる為にか、ガタリと席を立って彼女の胸を見ながら優しい言葉を紡ぐ。
「今日から新しい仲間だからね――そういう事なら仕方ない。良いよ。席変わってあげるよ。
先生! それで良いですか!?」
「お前がそれで良いなら良いけど……」
ガタガタと机の中身を本来ハヤテの為に用意していたであろう後ろの端の席に戻し、最後に彼女に笑顔を向ける。まるで執事が主に席を座らせるかの様に。ハヤテは当然の様に椅子に座る。
『ありがとう』
「いえいえ!」
満面の笑顔でそう言い、白上はオレにずいっと顔を寄せると凄く嬉しそうな顔で囁いた。
「これ脈アリかな!?」
「今度飯奢るよ」
「祝してくれるとか、お前は親友だ……!」
感涙に震えながら端の席に移動する
黒板を見ずにこっちをガン見していた。
「センシ、教科書忘れたから見せて欲しい」
「ちょっと色々と待って欲しい」
オレの言葉はハヤテ含めた教室全員に向けられたものだった。だってみんな凄い勢いでこっち見るんだもん。
どうすんだよこれ。オレ知らんぞ。
◆
ホームルームが終わり1限目。担当は歴史の授業だった為、担任の先生が。
「聞きたい事あるだろうし。親睦を深める為に風緑と話してみたらどうだ?」
「本音は?」
「ヒカリさん彼氏疑惑が辛くて授業できない……」
「ふざけんな」
「お前もう教師辞めろ」
「安心しろ。こういう時の為に前期の授業範囲は終わらせてるから……」
「マジかよ」
「なんか難しいと思ったらそういう事かよ」
という理由で、今は自由時間だ。
転校生来日に起きる質問責めというイベントはどのような学校、どのような時代でも起きるのだろう。彼女の周囲には人だかりができていた。
「空我ぁ……テメェ風緑さんとどういう関係だぁ?」
「空我ぁ……おめぇ明星さんという可愛い幼馴染が居ながらどういう事だぁ?」
「空我ぁ……普段はスマホでしか喋らないのに、『あなただけとは普通に話せる。不思議。ドキ』という展開で嬉しいかぁ? 拙者は羨ましすぎて血涙出てるぞ」
「く、空我……空我ぁ! 俺も言いたい事あるけど、ちょ、通らせろ! 俺が一番の被害者だろ! ふざけんな!」
何故か質問責めを受けていたのはセンシだったが。センシの親友は蚊帳の外である。
状況を知る者からするとセンシは完全に被害者だが、不幸な事にそれを証明してくれる者は居ない。
「ねぇねぇハヤテさん。空我くんとはどういう関係?」
『夫婦』『爛れた関係』
「さっき喋れないって聞いたけど」
『黙秘します』
「S級探索者って本当!?」
『はい』
ハヤテはハヤテで質問されていたが、全てスマホの音声読み上げで乗り切っていた。もしくは受け流しているという。
それを少し離れた所から見ているのはホムラとシオンである。
「S級って総じて破天荒だけど、新人さんもそうなんだね……」
「飛鳥さんくらいじゃない? 真面なの」
「警察兼任しているしね……ハァ」
今日の朝、二人は広島ダンジョンギルドに来訪するハヤテの出迎えをする予定だった。
しかし突如ハヤテが「学校に行く」と言い出し、待機していた二人は急いで登校する事に。さらに転校先は今日の朝決まり、手続きもハヤテが辿り着く前に終わった程である。正確には諸々が終わっていないが……校長がゴリ押した。教頭がキレている。
「本当、S級特権ってクソみたいな制度無くせば良いのに」
吐き捨てる様にホムラが愚痴を溢す。シオンは苦笑いをするだけで否定も肯定もしない。
そもそもダンジョン探索者自体が優遇されているこの社会で、彼女の言葉は世間ではナンセンスと言われる。ホムラもまたダンジョン探索者優遇制度の恩恵に助けられているのだから。
「まぁ、ホムラちゃんが苛立っている理由はそこじゃないよね~」
「……っ」
ニヤニヤと笑みを浮かべてそう言えば、ホムラの機嫌がさらに悪くなりコメカミに青筋が走る。
センシが何かを隠している事は知っているが、そしてそれが女関係である事は分かっていたが――まさかS級探索者関係だったとは、と面白くなさそうに質問責めされている二人を見る。
しかし、だ。
ホムラは黙って待っていると決めたのだ。センシが何をしようと自分を裏切らない事を彼女自身が一番理解している。
それにもし恋仲だとしてもホムラは応援するつもりだ。彼女の中ではセンシの幸せが一番最優先事項である。正直ダンジョン関係とは無縁の人生を過ごして欲しかったが、自分も居るし、ハヤテとも交流があるようで――。
「センシ。疲れたからちょっと失礼」
「ちょ、おま!? みんなの前で何を!?」
「何してんのよ!!!」
いきなりセンシに抱き着こうとしているハヤテを見て、彼女の中でグルグルと回っていた建前が全て吹き飛んだ。
彼女の怒気にクラスメイトたちは一斉に離れる。まるでモーゼの滝のようだ。
センシの首に腕を回し彼の首筋に顔を寄せようとしていたハヤテを引きはがすと、ホムラは喰って掛かる。
『何でしょうか』
「なんでしょうか、はこっちのセリフよ! 今何しようとしたの!?」
『日常』
「日常!?!?!?!?」
ホムラが振り返って物凄い顔でセンシを見る。彼は首を横に振った。全力で。決して日常ではないと。先日週一になったばかりだ。言えないね。困ったね。
「センシ、どういう事?」
「空我、俺たちも知りたいなぁ」
「あぁ。特に胸を押し付けられた時の感触を詳しくなぁ」
「推定Hカップはどうだった!?」
「アンタたちは黙ってて」
「「「はい」」」
つい、いつもの調子でセンシに絡もうとしたクラスメイト達はホムラの一言で黙る。此処は幼馴染に任せるべきだと判断した。巻き込まれたくないとも言う。
「その、ごめん」
「ごめん、じゃないよね?」
「……ありがとう?」
「なんで?」
何て言ったら良いのか分からないセンシは大分混乱しているようだった。
まるで火に油を注ぐ様な言動に、ホムラの怒りのボルテージが上がっていく。全てを曝け出せば楽になるが……。
【事情を知る人間を増やせば付け入る隙にされるだろうね】
【心情的にも話せない部分もあるけど……ホムラにはなぁ】
異界の神の企み、ハヤテやアルスターから聞いたギルドの方針を聞いた彼は、ホムラには黒歴史の事を話せない事を知った。
もし彼が白の英雄とバレれば彼女だけはなく、周りにも被害が及ぶ。正直ハヤテに協力を仰いだのは失敗だと思ったくらいである。
『夫婦』
「アンタは黙っていて!」
『いいえ』
センシが答えあぐねていると、ハヤテがスマホを手に割り込んできた。
いつもの様に無気力な目をしているが、好きな人に噛み付くホムラをジトッと見つめていた。
「アタシはセンシに聞いているんだけど」
『いいえ』
「それと、アンタでしょ? 最近コイツの家に上がり込んでるの」
『はい』
「もう高校生なんだから不純異性交遊はダメでしょっ」
『おまいう』
「おまいう!?!?」
言い合う(?)ホムラとハヤテを見てセンシは思った。この二人死ぬほど相性が悪い、と。
【そういえば何でハヤテはスマホ使ってんだ?】
【どうやら君以外と話すのが面倒ならしいよ。昨日のうちに適当な単語の登録を依頼して来てね。アプリを使えば簡単に日常会話と君への愛を布教できる様にはしたよ】
【なるほどありがとう。お前が余計な事をしてくれたのはよく理解した】
さて、どうしたものかと彼が悩んでいると、ガシッと肩を強く掴まれる。
何だとセンシが振り返ると、物凄く面倒くさそうな顔をした先生が立っていた。
「空我。ちょっと指導室で詳しく話を聞いて良いか?」
「……え?」
「いや、正直前々からお前と明星の関係は不安視していたんだが、今の風緑の話でちょっと、な? ほら、あの二人は将来有望な探索者でもあるし……これも先生の仕事なんだ」
センシは物凄く面倒くさそうな顔をした。
「とりあえず、お前に問題が無い証拠を作りたいから来てくれ」
「オレが言うのも何ですけど、先生がそれで良いんですか?」
「良くないけど良いんだよ」
かなり問題発言をしているのでは? と思ったセンシだったが。
「そもそもポッと出のアンタにセンシが靡くとは思わないんだけど?」
『負けヒロイン』
「今なんて言った?」
センシとしてはその前にあの二人をどうにかしたいと思っている。ホムラはともかく、ハヤテの反応も何処かおかしい。これまで接して来た時間から、あそこまで他人を逆なでする人間には見えなかった。
「その前にあの二人を落ち着かせます」
「あー……放っておくのもアリじゃないか? お前が加わったら余計に拗れそうだが」
「あれ以上拗れるとは思いませんよ。それにこのまま放置ってのも逃げているみたいで気分悪いですし」
「真面目だなぁ」
「先生はもっと真面目になってください」
とりあえずヒートアップしている二人を止めようとセンシが口を開き、
「ホムラ。これで分かっただろ? 空我はお前に相応しくないって」
しかしその前に第三者の介入で手遅れとなったのを肌で感じた。
――何でそこでお前が首を突っ込むんだよ、犬崎。
犬崎以外のクラスメイト達の心は一つになった。