SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
日本全国七ヶ所の地下に広がるダンジョン。かつて地盤沈下によって空いた大穴はある日突然塞がり、当時の探索者たちが調査の後、大穴があった地上中央地点に施設を建てた。
それがダンジョンギルドである。
地下に続く唯一の入り口を管理し、ギルド施設周囲の半分は居住区や訓練地帯が占められている。以前センシやハヤテが受けた登録試験は訓練地帯で行われていた。
シオンやホムラといったダンジョン探索者は、このギルド近くのマンションに住んでおり、いつ呼び出しが来ても即座に動ける様にしている。
放課後になり、犬崎とその取り巻き二人の先導のもと広島ギルドにやって来たセンシ、ホムラ、シオン、ハヤテ。
中は何処か近未来的な内装をされており、外から見た役場みたいな見た目からは考えられない井程に広かった。
探索案内所。訓練案内所。昇格申請所。他にも様々な受付が設けられており、犬崎たちは真っ直ぐに訓練案内所の受付へと向かう。
「おい、あれって」
「黒爪の犬崎に、紅鬼姫の明星。巨剣の藤山もいる」
「あ! あれって昨日通達にあった新しいS級探索者の風緑ハヤテじゃないのか?」
「凄いメンバーだな……」
「一人だけ知らない奴居るな。場違いだろ」
ラウンジで犬崎たちを見かけた探索者たちが口々に語る。
学生が多いのか全員年若く、犬崎には嫉妬の孕んだ羨望を、女子たちには好奇心と下心を乗せた視線を向けていた。
それを受けた犬崎は気分を良くし、着いて来ているセンシに言った。
「なぁ? やっぱりあり得ないよな! この俺よりレベル1で
周りに聞こえる様に大きな声でわざと言ったのだろう。犬崎の言葉を聞き、周りの囁き声が失笑に変わる。
「え? レベル1とかマジか」
「しかも
「何でダンジョン探索者になってるんだ?」
「何言ってんだ。義務だろ」
「えー。あんな雑魚がオレ達と同じ特権受けるの? ほぼ一般人と変わらないのに?」
「それは納得できねぇな」
ホムラが舌打ちを一つし、周りを睨み付けると周囲の人間たちは一斉に目を逸らした。
玉無し共が、と彼女が内心愚痴を吐く。
「訓練ステージ一つ」
「かしこまりました。ではこちらの第一ステージの鍵をお使いください」
受付嬢から鍵を貰い、訓練室と書かれた看板の近くの円形状に淡く光っているパネルの上に立つ犬崎たち。すると魔力が込められパネル上に居た者たちは転移し、風景が屋内から屋外へと変わり、目の前には建物があった。
移動した先はギルドから2km離れた場所にある訓練施設。その中に入ると中は白の壁と床に覆われた殺風景な場所で、幾つかの正方形状の半透明なエネルギーで囲われたステージがあるだけだった。
「誰か居るぜ犬崎」
「あん?」
取り巻きの言葉に眉を潜めると、確かに先客が居た。
そこには用務員が居り、箒と塵取りで掃除をしていた。それもどうやらこれから使う予定の第一ステージだったようで犬崎は舌打ちする。彼はその用務員に近づくと荒々しく声をかけた。
「おいおっさん! これから此処使うからどいてくれよ!」
「ん? おお、すまんな」
振り返ったその用務員を見てシオンが慌てて謝罪をした。
「雉岡さん!? ご、ごめんなさい」
「おや、藤山ちゃんじゃないか」
「雉岡? ああ……」
シオンの言葉を聞いて、犬崎は目の前の用務員の名前に聞き覚えがあり、しかしすぐに自分にとって取るに足らない存在だと気付く。
万年B級の中年ダンジョン探索者。どうせ特権狙いで適当に過ごしているおっさんだ、と。
「丁度いいや。おいおっさん。どうせ暇だろうから審判してくれよ」
取り巻きに務めさせても、他の誰かがしても中立性は保てない為審判はなしで良いと考えていた犬崎。しかし丁度良く何も知らない部外者を見つけた為、使ってやる事にした。
彼の物言いに取り巻き以外は眉を潜める。特にシオンは珍しく慌てた様子だ。
「ははは。よく分からんが引き受けよう」
「巻き込んで申し訳ございません」
笑って快諾した雉岡にセンシが頭を下げると、彼は大丈夫だと言う。
「おい! さっさと来いよ!」
そんなセンシをイライラした様子の犬崎が急かし、彼はもう一度雉岡に頭を下げてステージに上がる。雉岡はステージ横の端末を操作し、表示された二つの指輪の情報を入力する。
この施設では、ダンジョンにて手に入れた素材と魔法を用いて実戦形式の戦闘訓練ができる場所だ。
本来
しかしこの部屋では、性格にはステージ上ではそれが起きない。ダメージを受けても、魔法を過度に使っても、何が起きても変身が解除されない様な仕組みになっている。
この仕組みを利用し、C級探索者たちは己の力量を把握したり、他の探索者ち模擬戦をして技を磨いたりしている。死んでも死なないが故に。
「設定は1on1の……そうだな。5本先取だとすぐに終わって可哀そうだから、10本先取にしてやるか」
優しいだろ? と笑っているが犬崎の魂胆は別にある。
できるだけ多くセンシをボコボコにして溜飲を下げる為だ。ハヤテの言葉など全く信じていない彼は、気に入らない雑魚を痛めつける為にこの戦いをセッティングした。
加えて……。
「それと今回の模擬戦、配信で撮ってやるよ――調子に乗ったらどうなるか、身をもって知ってもらう」
その為に撮影係である取り巻きも呼んだのだから。
「な!? そんな事する必要ないでしょ!」
ホムラが抗議するが犬崎は聞く耳持たない。
「まぁ、恥をさらしたくないって土下座するなら許してやっても良いぞ」
「……んー」
センシは悩む。正直不特定多数の人間が見る動画配信サイトに自分の名前と顔が映るのは勘弁して欲しい。ならば此処は土下座して辞めてもらうのが一番楽だが……。
彼はホムラとハヤテを見た。彼女たちを不安にさせたくない。嫌な気持ちにさせたくない。
ならば――。
「別に構わない」
「センシ!」
「ホムラ、大丈夫だよ。別に恥ずかしい事をする訳じゃないし」
「――くはっ。これから十分恥を晒すと思うがな?」
土下座をして来ても理屈をこねて結局動画配信をするつもりだった犬崎は笑みを浮かべて、取り巻きに撮影を開始する様に指示を出す。
すると取り巻きの持っていたスマホが自立して浮き出し、犬崎をカメラで捉える。
そして半透明の機械的な眼鏡を取り付けると、彼の視界にコメント欄が現れる。どうやらこれで視聴者の反応をリアルタイムで確認する様だ。
「みなさんどうもこんわんわー! カゲロウチャンネルの犬崎です!」
:犬崎来た!
:こんわんわー!
:犬崎様きちゃ!!
彼のチャンネルはそこそこ人気なのか、配信してすぐにコメントが複数流れていく。
中には彼に対する否定的なコメントもあるが、他の彼への好意的なコメントで見られる前に消える。
「今日はダンジョン配信ではなくて、新技披露をしたいと思って急遽枠を取らせて貰いました!」
:新技!? やったぜ!
:この前のドッキリ面白かったぞー!
:B級チームが悲鳴上げて逃げるの面白かった!
:異世界ダンジョンのボスモンスター攻略もっと見たい
:またドラゴン倒してくれよー
視聴者の反応に気を良くしながら犬崎はスマホのカメラを、センシに向ける。
「さて! 今回の的役……もとい! ゲストは先日探索者になったクラスメイトの空我センシくんです!」
「……どうも」
:どうもー!
:おお! 新しい探索者か!
:ダンジョン探索者になって早々犬崎とバトれるのかなりアドじゃん
:え? つまり犬崎の弟子って事?
「空我くん固過ぎ(笑)。えっと、空我君は何も知らない初心者なので、早いうちから俺たちのA級の力を知っていれば、今後の活動の方針を定められるかなー? というクラスメイトの
:さっき的役って言っていたの聞こえてたぞ
:犬崎やさしいー
:まぁ記念にはなるよな
:忙しいだろうに、犬崎ってば構ってあげるの大人だな
「さて! 対戦をする前に空我くん! 君の登録試験の結果をみんなに教えてあげてよ!」
「……」
性格悪いな、と誰もが思った。それは取り巻きも同じなのだろうがこちらは犬崎側で面白そうに笑っている。
そしてもし言わなくても犬崎が暴露するだろう。動画配信が始まった時点で既に決まった流れである。故にセンシは余計な言葉を付け加えられる前に素直に言う事にした。
「魔力レベルは1。
センシの言葉に、コメント欄の反応は顕著だった。
:ま?
:いや草
:レベル1! くそ雑魚
:最弱じゃねーかwwwwwwww
:もしかして縛りプレイされていらっしゃる?
犬崎はカメラが映らない所で大いに顔を歪ませた。ああ、愉しいと。
「みんな! あまり言ってやるなよ。初めて聞いた時は俺もわら……同情したけどさ!」
:本音隠せてなくて草
:犬崎性格わるー
:いや、あえてここで現実を見せてあげるのは優しさだろ
:まぁな。ダンジョン探索者制度が無かったら普通に逃げて良いレベルの酷さだもんな
:とりあえず犬崎の手ほどきを受けて、模擬戦モンスターを5分以内に倒せる様にならないとな。将来的に他のダンジョン探索者に迷惑かかるし、特権を受けるなら最低限の戦力になるべき
:長文目が滑る
自分の求めていた反応、展開に犬崎は内心大喝采しながら本題に入る事にした。
「今回は1on1で10本先取! なるべく俺の新技の説明をしたいのと、もしかしたら1本くらいは空我くんが取れるかもしれないからさ」
:草
:普通に公開処刑になりそうで泣きそう
:でもまぁ空我くんは何か得るものがあるかもしれないしな
:新技の的役で何を得られるんですか?
:最弱というか底辺だから、実戦の空気を少しだけ知れれば模擬戦モンスターくらいは倒せるんじゃないのか?
「さて、それじゃあそろそろ始めるけど――空我くん。何か言う事はある?」
此処で泣き言を言っても良いが、同時に配信で不特定多数の人間に恥を晒す事になる。しなくてもこれからボコボコにされるが。
犬崎の配信者としての外面に若干鳥肌を立てながらセンシは――。
「なるべく恥を晒さない様に努力するよ」
そんな事を言い、犬崎は今更遅いと嗤い続ける。
スマホが天井高く浮かび上がり、二人の姿を映せる位置に陣取る。
「それじゃあ始めるか――イデアリンク」
犬崎が指輪に触れ魔力を込めると、戦いにおける理想の姿へと変身する。
全身に黒い魔力が纏わりつき、肉体は一回り大きくなり、何よりも風貌が変わった。
黒い毛皮に覆われた狼の獣人。それが彼のダンジョン探索者としての姿。それが彼の
「ほら、お前もさっさと変身しろよ」
「……はぁ。イデアリンク」
センシも同じように指輪に触れて言葉を紡ぐが……光った後はいつまで経っても姿が変化しない。
眉を潜めて怪訝な顔をする犬崎。彼が急かす前にセンシが答えた。
「既に変身しているからな」
「……は?」
「これがオレの理想の姿って奴だよ」
その言葉に犬崎は。
「――ぷっ」
口を押えて噴き出した。大笑いしなかったのは配信をしているからだ。彼にもイメージというものがある。
しかしそんな彼に代わるようにカゲロウチャンネルのコメント欄は爆笑の嵐だった。
:wwwwwwwwwww
:まwwwじwwwwかwwwwよwwww
:史 上 最 弱 決 定
:これがオレの理想の姿だ(キリ
:むしろカッコいい
:これで模擬戦のタイム良かったらカッコいいけど、現実は非情である
何とか堪えた犬崎は、気を取り直して構えを取る。
動画配信を始めてそこそこ時間が経っている。ここに来る前にクラスメイト、他の学校の人間にも配信をすると言っている。ぼちぼち視聴している者も増えている頃合いだ。
――さぁ、処刑の始まりだ。
「それじゃあ雉岡さん! お願いします!」
「はいはい。それじゃあ模擬戦開始」
ステージに魔力が注ぎ込まれ、二人の指輪が登録され、模擬戦が開始された。
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