SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
「……なんでだ」
呆然と呟く犬崎に、慌てた様子の取り巻きたちが駆け寄る。
「犬崎!」
「お前なにしてんだよ!」
彼らは急いで犬崎の顔から眼鏡を取ると慌てて操作をするが既に遅かった。
取り巻き達は配信に流れるコメントを見て顔を歪める。
:これで確定
:犬崎不正したな
:模擬戦でダンジョン配信の録画機能使って分析とかマジ?
:C級相手に必死過ぎワロタwwww
本来ならカメラと眼鏡をリンクさせるだけの筈が、何故かその操作時の画面の切り替えがリスナー達にも見えていた。
誰かが近くでハッキングしたのかもしれない。
犬崎は、取り巻きたちから事の顛末を聞き、慌てて取り繕い、情け無く叫ぶ。
「これは、その! みんなの為に分かりやすく見せようと思ってだな!」
:苦しすぎ
:途中から空我くんしか映してなかったじゃん
:でも空我くんの動きはちょっと参考にしたいよな
歯ぎしりの音が配信に乗る。センシを晒し上げようとしたのに、結果的に自分の無様な姿を晒してしまった。
さらには自分の行った不正行為すらバレてしまい、それを誤魔化そうにも……もう無理だ。
信者たちのコメントは少なく、アンチのコメントがどんどん流れていく。
苛立ちが募り、感情のままに叫んでしまいそうになった。
しかし。
「犬崎。借りるぞ」
センシは未だに宙に浮くスマホを手に取り、カメラ機能を内へと変える。
すると配信画面に彼の顔が映り、コメント欄も加速していった。
:お
:空我くんじゃん
:空我くん! ここでビシッと言ってやれ!
:普段の鬱憤晴らしてやれよ
コメントの様子を見ながら、センシは口を開いた。
「今回オレが勝てたのは、犬崎が配信していたからだ」
:お
:どうした?
:解説か?
「犬崎はダンジョン配信をしている。つまり、戦闘スタイルを不特定多数に見せている。今日も新技をみんなに見せていたしな」
:せやね
:よくするよな犬崎
:気に入らないけど発想は良いから参考にする時ある
そのコメントを見て、センシはそうだよなと同調する。
「犬崎は弱くない。ただオレの方が動きを知っていたから勝てた。対策を立てる事が出来たから勝てた」
:なるほど?
:つまり何が言いたいの?
「事前準備が大切って事だよ。誰かと戦う時も、ダンジョン探索をする時も。
それがオレと犬崎の差だ。
もし犬崎の方が準備していたら、才能の差で勝てると思うぞ」
センシの言葉を聞いて、疑問に思ったのはハヤテだった。
【そうなの?】
【先ほどと同じ条件なら空我センシの言う通りだね。そもそも魔力も
アルスターの解説にハヤテは納得を示す。
先ほどの戦いを見てセンシは上手な体の使い方をしていると思ったが、あの時の彼に負けるとは全く思わなかった。
むしろよく
故に、色々と不可解な所があるが……。
「それに、戦いに卑怯も糞もない。犬崎のやった事は褒められた事じゃないし、ルール違反だと思うが、ダンジョン探索で何をしてでも生き残る選択を取るのは間違いじゃないと思う」
:空我くん意外とリアリスト
:でもそれとはまた話が違わない?
:犬崎は勝つための手段を取ったんだから、アンチどもはいい加減黙ろうよ
:空我くんが気にしていないなら俺たちが言っても仕方ないだろ
「オレが言えるのは以上だ。後はお前たちでどうにかしろ」
センシはそう言いスマホを取り巻き達に返し、犬崎に視線を向ける。
取り巻き達がスマホを操作し配信を終了させるなか、彼は何もせずに呆然としていた。
犬崎に対して、センシが掛ける言葉は無かった。故にそのままホムラ達の元へと戻る。
「ん。流石センシ」
「ありがとう」
「ご褒美に匂い嗅いであげる」
「それお前にとってご褒美じゃねぇか」
顔を近づけて来るハヤテを押しのけながら、センシはシオンを見る。
「なんかやった?」
「べっつに~」
チョコレートを食べながらニコニコと微笑む彼女に、これ以上は聞いても仕方が無いかとセンシは諦める。
そして問題は……。
「ホムラ」
「……はぁ」
たっぷりと溜めてのため息に、センシは思わず内心唸る。
彼がダンジョン探索者になったと知った時、ホムラは大いに動揺していた。さらに犬崎との模擬戦が決まった時には大反対をし、センシが2本取られた時には中止の呼びかけをひとり訴えていた。
しかし、センシは
「センシ。アンタ……」
「空我ぁ!!」
犬崎の怒りの叫びが、ホムラの言葉を遮る。
先ほどの茫然自失とした態度から一転、彼は顔を真っ赤にさせてセンシに詰め寄った。
「テメェ、何しやがった!」
「何がだよ」
「お前みたいな雑魚が、A級である俺に勝てる訳ないだろうが普通! 絶対にズルしたに決まってんだよ!」
誰から見ても負け犬の遠吠えだが、犬崎達からすれば理解の範疇を超えた不正をされた、という認識でしかない。
聞くに耐えない幼稚な叫びだが、先ほどの配信を見ていたリスナーの中に何故センシが勝てたのか理解している者は極小数だろう。
「ズル、か。まぁお前の言ってる事は間違ってはいないな」
「ちょっと空我くん?」
しかしセンシは犬崎の言葉を肯定し、シオンは眉を顰める。ここで彼の言葉を認めてしまえば面倒になる。それなのに何故?
案の定犬崎と取り巻きたちはニヤニヤと笑みを浮かべ、優位に立ったかのように捲し立てた。
「ほら見た事か! だったらやる事は一つだよな!」
「謝罪だよ!謝罪!」
「動画撮って晒してやるから覚悟しろよ!」
やっぱりこうなったか、とシオンはため息を吐いた。
負けを認めたくない彼らがどうでるのか理解していた彼女は、いくつかの手段で黙らせる予定だった。しかしセンシによって出来なくなった。
(それに……)
シオンとしては、ホムラの方が気になっていた。
センシが戦う事に対して酷く否定的で、それはエリートである犬崎による加害行為に心を痛めていたのかと思っていた。
しかし結果はシオンの予想半分通りにセンシが勝っていた。ここまで強いとは思っていなかったが。
故に本来ならこの時点でホムラは安心するべきなのだが──。
(やっぱり君はそういう子なんだよね)
シオンはため息を吐き、センシにさっさと大切な幼馴染のメンタルケアをしろと内心愚痴った。
「謝罪して欲しいならするし、別に動画を撮っても良いぞ。でも良いのか?」
「はぁ?何がだ?」
笑っていた犬崎たちは、疑問に顔を歪める。
「それをするって事は認めるって事だぞ」
「だから何を──」
「普段A級である事を誇りに思っているお前が大した事がないって事をだよ」
「──は?」
その言葉に犬崎は掴み掛かり、拳を振り上げる。しかしその拳が下ろされる事はなかった。
「っ! なにすんだおっさん!」
「暴力はいけないよ犬崎くん。……空我くん」
「はい」
「続けて」
雉岡に止められた犬崎に対して、センシは続ける。
「お前はオレが何をしたのか分からない。だから負けたんだよな?」
「ああ、そうだよ!」
「それを動画で配信するのか?」
「してやるよ!そうすればみんな、アレは間違いだったと。お前が卑怯者だと分かるんだよ!」
「いや、多分分からんぞ。むしろお前が馬鹿にされるだけだ」
「はぁ? なんで──」
「A級ってのは、魔力レベル1のC級が小手先のズルをして負けるのか?」
「──ぁ」
「A級はその程度……とは思われないと思う。お前がその程度だと思われるだけだ」
「──」
「普段の配信活動をオレは少し見た事があるが、正直褒められた内容じゃない事をしている。他のダンジョン探索者にドッキリをしかけるとかな。アレで結構アンチがいるし、学校での言動も知ってる人間は知っているぞ」
「……っ」
「そしてそんなお前が、タネも仕掛けも分からないけど相手はズルをしました。なので負けました。俺は悪くない。……擁護してくれるのはお前に対して盲目な視聴者だけだ」
「……」
「もう一度聞く──本当に良いのか?」
センシの言葉に犬崎は。
「ちっ!」
舌打ちをして雉岡の掴んでいた腕を振り払うと、イライラとした足取りでこの場を去って行った。その後を彼の取り巻きが追いかけて行く。
そんな彼を見送ったセンシは、振り返り巻き込んでしまった上に仲裁してくれた雉岡に頭を下げる。
「ありがとうございます。それと申し訳ありませんでした」
「いえいえ。これからよろしくね空我くん」
ニッコリと微笑んだ雉岡は掃除用具を手に取り、彼もまたその場を後にした。その後ろ姿を見送るセンシたち。
「シオン。あの人は?」
「ここの探索者。結構な古株」
「……そうか」
言葉少なく答えるシオンを横に、ちょんちょんと脇腹を突かれるセンシ。視線を見るとそこにはハヤテがいた。
「なんだ?」
「ズルって何したの?」
問い掛けてきた彼女に、センシはハヤテの耳に口を寄せてコッソリと言う。
「普段のオレを知っているなら、勝てる訳ないだろ」
「……確かに」
S級のハヤテの動きを目で追える彼が、A級の犬崎の動きを見切れない訳が無かった。それを知らない者からすれば、センシはそれは
「そういえば何で計測不能だったの? 体の動かし方は慣れてなさそうだったけど、モンスターを倒せない程じゃ無さそうなのに」
その話題に触れられたセンシは物凄く嫌そうな顔をする。
彼のその顔に首を傾げつつも愛おしいな、と思考が飛びそうななか代わりに答えたのはアルスターだった。
【本来の記録は0.1秒だけど、不具合が起きてね】
【不具合?】
【あの試験は指輪の魔力と呼応して計測しているのだけど、彼の無理の動きにバグが起き、倒されたモンスターが姿形はそのままで滞在し続けたのさ】
一見すると立ち尽くしている様に見えるが、中身は既に吹き飛んでいる木偶の坊だった。
既に死んでいるモンスター。周り続ける計測器。どうすれば良いのか分からないセンシ。
一応彼は試験管に倒したことを伝えるも相手にされず「さっさと倒せ」「もしくはやる気無いのなら5分間その場にいろ」と言われ、結果計測不能となった。
【……なにそれ】
【彼も抗議したが試験官は「もう結果は出ているから」と取り付く島もなかったよ】
雑魚の戯言だと切って捨てたのか、ただのマニュアル人間なのか、もしくは融通の効かない人間なのか。
定かでは無いが、センシの実力は正しく測られる事はなかった。
これには流石のセンシも不快に思っているらしく、思い出したく無いらしい。
「とりあえず用は済んだし帰るか」
「ん。分かった」
センシの言葉にハヤテが頷き、彼と共に帰路に着こうとするが。
「待って風緑さん」
『何ですか?』
シオンに肩を掴まれて止められてしまう。
振り返ってハヤテは手に持ったスマホで返事をするが、普通に喋った方が良く無いか?とハヤテは思った。人と話すのが面倒と言っているが……。
「これから手続きとかあるから、ボクと一緒にギルド長の所に行こう」
『明日から頑張る』
「今日頑張ろうよ」
ため息をグッと堪えるシオンを初めて見たかもしれないとセンシは思った。ちょっと面白いとも。
「お願いだからさ~。怒られるのボクなんだよ」
『そう』『ありがとうございます』
「なんでそこでお礼を言うのさ。空我くん、何とかして~」
お手上げと言わんばかりにセンシに泣きつくシオン。彼は仕方ないとため息を吐き、ハヤテを見据える。
視線を感じたハヤテはポッと頬を赤く染めて恥ずかしそうに顔を背ける仕草をした。こいつの情緒はどうなってんだと思いつつ、彼は一言。
「シオンを困らせたら1週間家出入り禁止」
「ん。行こうシオン。ほら早く」
「……分かりやすいな~」
早足でワープ方面に向かうハヤテに、シオンはジト目を向けながら着いて行く。
去り際にセンシに向かってウインクを一つしてから。
助けてくれてありがとう、という意味か。はたまた……。
「ホムラ。オレ達は帰ろう」
「……うん」
センシの言葉にうなずいた彼女は彼の手を繋いだ。
痛いくらいに強く……しかし、握られたセンシはどうしてか、とても弱く感じた。
歩き出す二人。センシは前を向き、ホムラは少しだけ俯く。
「――あんなに」
だからだろうか。ホムラの言葉は小さく、彼には聞こえなかったのかもしれない。
「あんなにダンジョンは怖いって。気を付けてって――アタシに言ったのに。なんで……」
「……」
彼女の呟きにセンシは答えなかった。
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