SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第16話 解放

 人には癖というものがある。そしてそれはストレスを抱えている時に表に出やすい。

 爪を噛む。鼻の頭をかく。頭をかく。貧乏ゆすりをする。奥歯を噛み締める。人によって様々だ。

 

 明星ホムラにもそういった癖があり、彼女の場合はセンシの家で表に出る。それも彼と二人っきりの時限定であり、被害に合うセンシは毎度精神を擦り減らされていた。

 故になるべく彼女のストレスを蓄積させない様に普段から気を付けているのだが――今回はダメだった。

 

「もうダンジョンは怖くないって思っているの?」

「いや、今でも怖いって思っているよ」

 

 ホムラの問いかけに、センシは天井を見上げながら答える。

 

 彼がまだ弱かった頃、まだ今の様な力を持っていなかった頃、ダンジョンで何度も死ぬ思いをした。

 生き残る為に必死だった。英雄ムーブをしていたのも恐怖を誤魔化す為の防衛本能だったのかもしれない。後で思い返せばいつ死んでもおかしくなく、ダンジョンを遊び場の様に感じていた自分に対して浅はかだったと感じる程度には反省している。

 

 故にホムラがダンジョン探索者になった時には、彼女に寄り添って考えを共有した。

 ダンジョンのせいで両親を失ったホムラに。

 

「この世界の人間はダンジョンを恵みだと思っている。だからダンジョン探索者に憧れる」

 

 それはとても危険な考えだとセンシは思っていたが、同時に仕方のない事だとも思っている。

 ダンジョンが現れたあの日から世界は変わった。たくさんの人が死んだ。たくさんの物が失われた。日本はダンジョンで得た資源と外国からの支援なしでは国として成り立たない程にボロボロだ。

 国もダンジョン探索者は素晴らしいものだと、尊いものだと吹聴している。祝福(ギフト)を得た人間には()()ダンジョン探索者になる義務を課す程には必死だ。

 

「でもセンシは魔力レベル1で、祝福(ギフト)も英雄なんでしょ? ……そんなの捨て石じゃん」

 

 故に才能のない者はすぐ死ぬし、周りの人間も国も軽視する。利益にならないから。戦力にならないから。

 そんな世界にセンシは入って欲しくなかったとホムラは常々思っていた。彼が祝福(ギフト)に選ばれない事を幸福だと感じ、彼との日々は心安らぐ――彼女の大切な宝物(日常)だ。

 

「――なんで、ダンジョン探索者になったの」

 

 意味の無い問いかけだと思っているのだろう。ホムラの吐かれた言葉には覇気が無かった。

 祝福(ギフト)を得られるのは完全に運であり、そこに人の意志は関係ない。つまり不幸な事故だと考えているが故の達観だった。

 

「……すまん」

「ふふ。何でセンシが謝るの?」

 

 しかし実際はセンシは自らダンジョン探索者になっている。何も知らないホムラは自分を慰める言葉だと思っているのか、少しだけ笑う。

 

「ねぇ、約束して」

「お、おい……!」

 

 センシの部屋で二人っきり。ベッドに隣り合って座っている状況の仲、ホムラは彼に身を寄せる。ギシッとベッドの軋む音が鳴り、しかし彼女は気にした様子を見せる事無くセンシを押し倒した。

 戸惑う愛しき彼の鼓動を感じながら、ホムラは直接体温を肌で感じながら目を閉じる。

 

「絶対に死なないで……なんて言えない」

「……」

「死ぬのならアタシの前で死んで。その時は――」

 

 彼女のその先の言葉は塞がれる。

 

「……ん、ふぅ。死なないよ」

「っ……でも」

「約束する」

 

 ほぼゼロ距離で視線を交じ合わせながらセンシは()()した。

 

「オレは勝手に死なない。お前も死なせない――約束、忘れんなよ」

「……うん。そうだったね」

 

 向けられる想いから、センシが嘘を吐いていないのを感じ取ったのだろう。

 不安で揺れ動いていた彼女の瞳の揺らぎが落ち着き、ホムラはモゾモゾと彼の体の上で動き、そのまま胸の上に頭を乗せる。

 心地よく、安心して、全てを任せる様に。

 センシもホムラが落ち着いたのを理解したのだろう。深く深くため息を吐き、そして――。

 

「よし! 落ち着いたな! それじゃあさっさと服を着てくれ」

「ヤダ」

「だったらせめてオレの服取らせて」

「ダメ」

「お願い! 色々と限界なんだけど!!」

 

 明星ホムラは過度なストレスを感じると――センシの前で全裸になる。

 いつからそんな癖が着いたのかは分からないが、思春期男子の前で彼女の裸体は刺激が強過ぎ、何度理性が飛びそうになったかとセンシは毎度苦しんでいる。役得とも思っている。

 

「……とっくにアタシは超えているんだけどな」

 

 そう言ってモゾモゾと体を動かすホムラ。センシが変な声を上げ、それを愛おしく感じている。

 ナニがとは言わないが、色々と密着して敏感になっている。変な気分になるのも無理はない。

 

「てか、いつもチラチラ見ているんだし、今更じゃない?」

「見ていないが!?」

 

 ばっちり見ている。学校に通っている時の着崩した制服姿も、センシと二人っきりの時の露出の多いラフな姿も、バレない様に見ている。普通にバレているが。

 

「ずっと視線を感じるんだけど?」

「それは、その、お前が!」

「ふーん。アタシが悪いんだ」

「そうだよ!?」

 

 モゾモゾと体を動かされる度に、センシは変な吐息が零れる。

 ホムラもまた熱い息を吐きながら、瞳をピンク色に染めながら、頬を赤く蒸気させ、彼を揶揄う。

 

「じゃあ目を閉じたら良いじゃん」

「……」

「スケベ」

 

 男子高校生は基本こんなもんである。

 

「お前が! じゃろうがい!」

「……こんなアタシは嫌い?」

「…………」

 

 長い沈黙が、彼の答えだった。

 クスクスと微笑みながらホムラは押し付けている体に力を加える。その柔らかい感触を感じた二人は同じタイミングで声を漏らし、そして視線が合う。

 センシは目を逸らし、ホムラはペロリと唇を舐めた。

 

「こんなアタシのこと嫌いか好きか――もっと確かめる?」

 

 ホムラの熱のこもった言葉に、センシが我慢の限界を迎えようとしたその時。

 

「――ん。その前に私とヤるべき」

「――キャアアアアア!?」

 

 いつの間にか部屋に居たハヤテの言葉によって、怪しい雰囲気が吹き飛んだ。

 悲鳴が上がる中、スマホケースに擬態しているアルスターは念話で零す。

 

【こういう時、悲鳴を上げるのは女性なのではないか?】

 

 ホムラの体の下から抜け出し、上裸を腕で隠すセンシを見ながらそう言った。

 

 

 

 

「何で此処に居るの?」

「こっちのセリフ」

 

 制服を着たホムラと、自分も脱ごうとして止められたハヤテがリビングにて睨み合っている。

 センシは疲れ切ったのか脱力した状態でソファに持たれかかっていた。

 

「アタシはセンシの親がいない時は、だいたい家に居るだけ」

「……それで裸でセンシを押し倒すの? 変態」

 

 センシ以外と会話をするのが面倒という理由でスマホを使っているハヤテが、ホムラ相手には自分の言葉で意思疎通を図っている。それだけ先ほどの光景に思う所があるのだろう。

 好きな人が自分以外の相手と蜜月を過ごしていたとなれば、誰しもが内心穏やかでいられない。

 

「センシの匂いは私のもの。自分の雌の匂いを擦り付けないで」

 

 違う。彼女はただ単に好きな物を守る為に戦っているらしい。どんな理由だ。

 匂い? とハヤテの言動に疑問を持ちながらも今度はホムラが問い詰めた。

 

「それでアンタは何で此処に来たの? 勝手に入ったって事は合鍵を貰っているみたいだけど」

 

 ホムラはセンシの両親から合鍵を貰っている。謂わば公認された存在。

 彼女の料理の腕を上げる為という尤もらしい理由もあるが、センシの両親は()()()期待してホムラの出入りを許している。節度を守って欲しいと思っているが、一線を超えた時は支えようと考えている。

 見せびらかす様にして鍵を見せると、ハヤテはムッとして言った。

 

「舐めないで。ピッキングで開けた」

「ピッキング!?」

 

 突然の犯罪行為の暴露にホムラは動揺の声を上げた。

 

「風魔法の応用。ぶいっ」

「アンタ何してんの!? センシ、何でこんなのの出入りを許してるの! 信じられない!」

「オレも許してねーよ。コイツが勝手に入って来るんだ」

 

 今は黒歴史回収の為黙認しているが、彼の家に不法侵入をする事を許している訳ではない。ただ黙って見逃しているだけだ。

 それを聞いたホムラは物凄い顔でハヤテを見るが、当の本人は気にした様子も見せない。

 

「センシ。匂い嗅がせて」

「それも意味が分からないんだけど!?」

「ん。センシの匂いを直接嗅ぐとお腹の奥がきゅんってなって、体が熱くなって、切ないけど幸せになる」

「おな、きゅ、から、あつ、せつ、しあ――ナニ言ってんのよ! この変態!」

「アナタには言われたくない」

 

 ホムラはエロ関係が苦手であり、普段からシオンからそっち関係で揶揄われては顔を真っ赤にさせられている。

 その光景を教室で見せられている男子たちは心の栄養素だと尊い(てぇてぇ)と感じ、白上ユウマはその間に挟まりたいと零してリンチにあった。

 

 ハヤテが恥ずかしげなく放たれた言葉に顔を赤くさせるホムラを見て、センシは先ほどの自室で起きていた出来事を思い出す。

 ……エロ関係が苦手?

 しかし彼は何も言わなかった。センシは賢い子。

 

「とにかくアタシは認めないから!」

「訳が分からない。アナタに認められる必要性を感じない」

「そもそも! センシの両親の許可無しに出入りしている事自体おかしいのよ!」

「……ん。それは確かにそう」

 

 突然ホムラの言葉に賛同したハヤテは、踵を返して家を出た。

 彼女の行動に二人は揃って首を傾げる。

 

 

 

「ん。合鍵貰って来た」

「……は!? どういう事!?」

 

 1時間後、帰って来たハヤテの言葉にホムラは慌てて服を着ながら叫ぶ。

 茹で蛸の様に顔を真っ赤にさせたセンシは自分を落ち着かせつつ、ホムラと同じ鍵を見せつけて来るハヤテに問うた。

 

「何処で用意したんだソレ」

「ん。センシのママ(義母)に貰った」

「「!?!?」」

 

 瞬間、二人の間で衝撃が走る。

 

「どういう事!?」

「……? 言った通り」

「いや、え、その、ええ!?」

 

 混乱し何がなんだか分からないホムラを他所に、センシはスマホを手に取り母に連絡を取る。

 2コールの後に、電話の向こうから聞き慣れた声が響く。

 

『はいもしもし』

「母さん! ハヤテに鍵を渡したってどういう事!?」

『あら? さっき渡したのにもう知っているの? 余程仲良くしているのね~』

 

 呑気な母と違い、こちらではホムラがハヤテに詰め寄っていた。何なら彼女の合鍵を奪おうとしていた。それに抵抗し、キャットファイトみたいになっている。おかげで二人の服が乱れてあられもない姿を晒していた。

 センシはなるべくそちらを見ない様にして、母を問い詰めた。

 

「なんでハヤテに鍵渡したの!?」

『何でって、あの娘が鍵をちょうだいって言ったから渡したのよ?』

「いや、母さんハヤテと会った事あったのか?」

『さっきが初めてね』

 

 開いた口が塞がらなかった。

 

「不用心すぎない???」

『でもあの娘、最近話題のS級探索者でしょ? そんな凄い娘があなたの事を好きだと言って、これから一緒に添い遂げたいだなんて……もうお母さん嬉しくて嬉しくて!』

「いや、その、えー……」

 

 ちなみに、ホムラが合鍵を貰うのには時間がかかった。

 自分の感情を表に出すのが苦手な彼女は、合鍵が欲しい事をなかなか言えず、欲しい理由もそれっぽい理屈をこねたものばかりでセンシの母を納得させる事ができなかった。

 

『それにね! 将来絶対に元気な子どもを産むって言ってくれて嬉しかったのよ』

 

 人の親に何を言っているんだアイツは。そもそもそれで喜ぶ自分の母に対してどう思えば良い? とセンシは複雑な顔を浮かべる。

 

『ホムラちゃんと同じ事言ってくれて、懐かしかったわ……』

「待って、初耳」

 

 未だに争っているホムラを見て、センシは今後幼馴染をどんな目で見れば良いのか分からなかった。

 

『でもセンシ。避妊はしなさい。お父さんの部屋にゴムがあるから』

「親からそういう話題出されるのきっつ……」

『何言ってるの! 子ども育てるのだって大変なのよ! 節度あるお付き合いをして二人を大切にしなさい!』

「普通こういう時ってしっかりと考えてどちらかを選べって言わないの?」

『相変わらず古い考えねぇ』

 

 人口の減少に伴い、一夫多妻が推奨されている。もっと言えばどんどん子どもを増やせ、とも。

 特にダンジョン探索者に対しては強く求められており、より強い遺伝子を持った子どもは誰もが望んでいる。

 

『お母さん的には5人くらいが良いと思うわ』

「息子に5股させようとすんな!」

『でも子どもは18歳になってからお願いよ?』

 

 ここまでハーレムを勧めて来る母親が居ただろうか。

 これ以上何か言っても意味がないと分かったセンシはため息を吐き、会話を切り上げて電話を切ろうとする。

 

「もういいや。病気やケガには気を付けてね」

『はーい。あ、それとしばらく帰らないつもりだから部屋は好きに使って良いわよ。ハヤテちゃんには私の部屋を使わせてあげて。空き部屋でも良いけど』

「分かった分かった」

『それと兄弟姉妹、異母兄弟も期待しても良いわ』

「……」

 

 センシの脳裏に、哀れな父親の姿が思い浮かばれる。おそらくこのハーレム脳の母親の策略で現地妻を大量に生産させられているのだろう。

 A級探索者である彼女は資金が豊潤にあり、それで父親を半ば飼い殺しにしているとも言える。

 時々家に帰って来た時は「僕は最低だ……」と頭を抱えている姿を見た時は、思わず憐れんでしまった。

 

 でもノリノリで次世代の子たちを作っている動画を見つけた時は、父も結局男だと同情も吹き飛んだが。

 

『それじゃあ、しっかりするのよ?』

「母さんはもう少し倫理観をしっかりしてくれっ!」

 

 それだけを言ってセンシは電話を切り、ハヤテに負けてソファに力なく座り込んでいるホムラに一言。

 

「母さん公認だった」

「マジ……?」

 

 二人揃ってハヤテを見ると、とても嬉しそうに合鍵を掲げていた。

 そしてセンシを見て、ニヤリと笑った。まるで獲物を前にした肉食動物の様に。

 ブルリと貞操の危機に体を震わせるセンシと、抜け駆けの危機に緊張が走るホムラ。

 

「これからよろしく――センシ」

 

 彼女の瞳に強い欲望を見たセンシは、今後は部屋の鍵をしっかりと閉めようと心に決めた。




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