SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第17話 迷宮

「……見慣れない組み合わせだね?」

「言うな」

 

 登校中、合流したシオンの第一声に疲れた声を出すセンシ。

 そんな彼の後ろでは、ハヤテとホムラがバチバチにやりあっていた。

 

「アンタ、もうちょっと理性を保ったら?」

『善処します』

「……朝から盛りすぎっ。──あ、あ、あんなえっちな格好でっ!」

『おまいう』

「こいつ……!」

 

 ピッキングで部屋に侵入し、全裸でセンシに抱き着き匂いを嗅いでいたハヤテ。

 そんな彼女を朝一番に発見し、大事に至る前に剥ぎ取ったホムラ。

 体を固くさせてしばらく動けなかったセンシ。

 彼らの一日は姦しく騒がしい中始まっていた。

 センシの朝食を摂っている時も二人の口論は止まらず、こうして道中も続いている状態だ。

 

「ホムラちゃんから聞いたよ~。風緑さんと同衾しているんだって?」

「同衾言うな。全部ハヤテが勝手にしている事なんだよ……」

 

『そもそも』『あなたの方が』『変態』

「もしかして喧嘩売ってる?」

『根拠』『あり』『制服』『痴女』

「痴女!?」

 

「でも君の場合、本当に嫌ならはっきりと拒絶するでしょ? それをしないって事は満更でもないって事だろうに」

「……」

 

 ニマニマと笑みを浮かべて揶揄って来るシオンに対し、センシは答える事ができなかった。

 彼は聖人では無く普通の男子高校生だ。ちょっと最強だが。

 そんなセンシがハヤテやホムラと言った魅力的な美少女の誘惑に強く反抗できる訳がない。

 

「で、デタラメ言わないで。何を根拠に」

『家でも』『痴女』

「それは別に良いじゃ無い……っ」

『センシに』『見られる』『興奮』『好き』

「は!?」

 

「優しいね〜」

「……世間では優柔不断と言われると思うんだけどな」

 

 センシからすると、2人が自分に向けている好意は健全な物ではないと思っている。

 どちらも彼に救われて、そのまま依存している……と。

 だから彼自身もどの様にして受け止めれば良いのか分からず、悩み、何処か逃げている所があった。

 

『センシ』『見られた』『時』『興奮』『凄く』『している』

「いや、その、うそ、ひゃ、何で……!?」

 

「んー。ボクも分からないけど、悲しんでいないのなら良いんじゃない?」

「軽いなぁ」

「まだ子どもなんだし焦って答え出す必要無いよ。ボク恋した事ないからよく分かんないけどね〜」

「もはや無責任だな」

 

 あっけらかんと語るシオンに呆れるセンシ。しかし彼に必要なのはそういったいい加減さ、良く言えば柔軟性だろう。

 少しだけ気が楽になった彼は少しだけ笑みをこぼす。

 

「まぁ、ありがとうな」

「……空我くん。ボクも攻略する気〜?」

「今言った礼を返せ」

 

 自分の体を抱き締めてニマニマと笑うシオンに、センシは一生口では勝てないとため息を吐いた。

 男友達とも、ホムラ達とも違う。彼女との独特な交流に彼は戸惑いつつも悪く無いと思っている。セクハラで揶揄われるのは勘弁して欲しいが。

 

『技と』『服』『脱いでる』『変態』

「……な、何が悪いのよ!」

「……!?」

 

「そういえば、あの後犬崎はどうなったんだろうな」

「知らな〜い」

「知らないって……お前達同期だったんだろ?」

 

 形勢の不利を悟ったセンシが話題を変えるも、シオンは興味無さげに飴をコロコロと口の中で転がす。

 昨日ギルドに行った際、周囲の探索者達が犬崎やホムラ達を見て反応を示したのは、それだけ話題に上がるほど目立っているからだ。

 3人とも優秀で同期である為、ある程度ダンジョン探索を共同で行っているとセンシは思っていた。

 彼の配信でよく彼女達が映るし、ホムラが犬崎と長時間共に過ごしてストレスを抱えるし、よく脱ぐし。

 

「そういう意味だと、同期なんてボク達の間だけじゃ無いよ。犬崎くんはホムラちゃんが好きだから自分と同期だってあえて広めているし」

「そうなんだ」

「うん。そしてホムラちゃんとチームを組んでいるボクもそれに巻き添え喰らってる感じ」

 

「アタシはセンシに見られるのが好きだけど!? アイツか必死に見ない様にしても、ついつい見ちゃってる所が可愛いって思ってるけど!?」

『コイツは』『やべぇ』

 

「……ん゛ん゛。じゃあよく配信に映っているのは?」

「外堀埋める為だろうね」

 

 シオン達が二人でダンジョンに潜っている時、犬崎は何処で嗅ぎつけたのか同じ階層に現れては配信を始める。

 新技の披露だとか。ダンジョンの考察だとか。それっぽい配信タイトルを決めて。

 そして毎回ホムラに話し掛ける為、今ではすっかり視聴者からレギュラー扱いされている。犬崎の策略通りに。

 

「本当に賢いよね〜」

「褒めてないだろソレ」

「当たり前じゃん。許可取らずに勝手に配信に映らせるとかあり得なくない?」

 

「学校だとそこに心配の感情が加えられてまた違った味わいがあるって思ったけど何!? 悪い!?」

『ちょっと』『落ち着け』

 

 先日のダンジョンのイレギュラーの対応をしていた時も、犬崎はわざわざ配信の準備をしてやって来た。それによって当然の様に遅刻しており、シオンは内心イライラしていた。

 さらに戦闘中無駄に自分達の近くで戦う為効率が悪い。

 

「でもお前、他のクラスの子に褒められてたじゃん。お礼も言われてたし、満更でも無さそうで」

「見てた人は悪く無いでしょ。ただボクとしては戦っている姿は見られたくないんだよ……あまつさえ配信に載せられるだなんて」

 

 そう言ってシオンはため息を吐いた。

 犬崎の配信で映り込んでいた彼女の姿を思い浮かべて、センシは理由を察する。シオンもまた女の子だ。

 よくセンシにセクハラをし、エロい目で見てくる男子生徒に微笑み掛けるから羞恥心が無いと誤解されやすいが、彼女にも恥ずかしいという気持ちはあるのだろう。

 

「なんか、ごめんな」

「……まぁ。だから昨日は結構スッキリしたけど」

 

 コメントしたりハッキングしたりと裏で色々としていたシオンは、センシにコテンパンにされた犬崎を思い出して溜飲を下げる。

 

「ありがとうね空我くん。昨日はあんなにボクを気持ち良くさせて」

「お前隙あらば誤解を生むような言い方してくるよな」

「え〜何の事〜?」

「誤魔化すなよ。そのせいでオレ、まぁまぁ他のクラスの男子から嫌われてんだよ」

 

 ホムラもそうだがシオンもまた異性から人気があり、何度か告白されている。中には同性も居たとか居ないとか。

 しかし彼女が応える事はなく何人もの失恋者が膝を着き、そして割と近い位置にあるセンシに嫉妬している。

 さらにシオンは唯一異性の中でセンシにだけはセクハラしているのも、まるで特別扱いされて気に入らない様で……。

 

「そうなんだ。ごめんね〜」

「軽いなコイツ。悪いと思ってるならやめろよ」

「う〜ん……面白いからこれからもよろしくね?」

「最悪だろコイツ」

 

 予想通りの答えが返って来て絶望するセンシに、シオンは笑う。

 奇妙な関係の二人であった。

 

「はぁ。でもまぁとりあえず」

 

 シオンとの話を切り上げたセンシは、クルリと振り返り。

 

「冬だと寒くて、シャツ越しに浮いたちく──」

「なぁ!? そろそろ黙ろうか!?」

「センシ。私、負けない……!」

「対抗意識を持つなよ!?」

 

 先程から耳を塞ぎたくなる様な会話を繰り広げるやべぇ女2人を止めた。

 ホムラには色々と話を聞かなければならないと彼は思った。特に自分がチラチラと彼女の肢体に目を奪われてしまった事を。

 そして恐らくこの先暴走するであろうハヤテにも釘を刺さなければならない。おそらく無理だろうな、とセンシは半分諦めているが。

 

「本当見てて飽きないね」

 

 そう言ってシオンはチョコレートを一口齧る。 

 

 

 

 

 学校では犬崎は大人しかった。だいぶイラついたいたが。

 センシの言葉に返す舌を持ち合わせていない為、負け犬の遠吠えすらできないのだろう。

 

 犬崎に勝った周囲の反応は二つに分かれていた。

 一つは賞賛。傍から見れば格上を倒した最弱という図式であり、犬崎の言動に辟易としていた者達からは特に多かった。

 

 もう一つは批判。犬崎な事を盲目的に好いている者達は、あの時の彼らと同じ様にインチキしたのだと決め付けていた。

 しかし感情任せの言葉はセンシには届かず、相手にされなかった。さらにセンシのクラスメイトに阻まれたらから余計にだ。

 

「クラスメイトだから当然だろ」

 

 彼ら彼女らはそう言ってセンシの事を守り、それが彼は嬉しかった。

 同時にホムラとハヤテとのイチャつきシーンを見て嫉妬した男子達は攻撃してきた。全員漏れなく沈められた。

 

 そして放課後。ハヤテはS級案件で呼び出されて泣く泣くセンシから離れ東京に向かった。

 

「センシ。今日も家行って良い?」

「良いけどこれから予定あるぞオレ」

 

 ハヤテの不在をチャンスだと思ったのか、帰り支度をしているセンシに話し掛けるホムラ。その光景を見ても犬崎は何も言わず、歯噛みし、悔しそうにしながら教室を出て行った。

 センシはそれに気付きつつも何も言わない。

 ホムラはその事に気付かず、彼の言葉に首を傾げた。今日の朝冷蔵庫を確認したが、買い物をする必要性は無かったからだ。

 

「何処かに行くの?」

「ダンジョン」

「……」

 

 嫌そうな顔をするホムラにセンシは苦笑する。

 

「心配する必要は無いだろう? オレはC級だ」

「それはそうかもしれないけど……」

 

 やはり彼女にとって、センシがダンジョンに関わる事は地雷の様で、何かと引き留めようとしていた。

 

「そんなに心配なら着いていけば〜?」

「うーん……」

 

 必要か? とセンシが思いつつも、彼自身は悪くない提案だと感じていた。

 これから東京にある黒歴史の回収を目指す以上、階級を上げる為に学ぶ事はたくさんある。その点で言うとB級でも上澄みであるホムラ達は良き手本になる。

 

 ちなみにハヤテは参考にならない。S級は論外なのである。

 

「いや、その提案に乗らせてもらおう。ホムラ達が普段からどんな感じでダンジョンに潜っているのか興味あるしな」

「……そっ。それなら仕方ないわね」

「……え? ボクも?」

 

 何処となく嬉しそうなホムラと違って、シオンは嫌そうだった。

 珍しい彼女の反応に首を傾げるセンシ。

 しかしふと思い出してみれば、今朝彼女は自分が戦う所を他者に見られるのを嫌がっていた。

 

「どうしてもボクも必要?」

「まぁ……ダンジョン探索者としての実力を知りたいから、普段チームを組んでいるなら、できれば二人一緒の所を見てみたい」

「え〜……」

 

 普段人の頼み事を断らす、相談された時も否定せずに肯定して相手を安心させるシオン。そんな彼女が渋る様子に無理強いは良くないかと諦めようとするセンシ。

 しかしそれに待ったを掛けたのはホムラだった。

 

「シオン。アタシが行くのなら、アンタも行かなくちゃいけないでしょ」

「ぐっ……」

 

 彼女の言葉に押し黙るシオン。

 ホムラの言っている事は正しい様で、事情を知っているセンシはそういえばそうだった、と思い出す。

 

「はぁ……分かったよ。ボクも行くよ」

「ありがとうな」

「どういたしまして〜」

 

 やる気の無いシオンを連れて、センシ達はダンジョンに向かった。

 道中何かと理由を付けて逃げようとするシオンをホムラが引き留める姿は、普段と逆だった。

 

「……何か、視線を感じるな」

「昨日の配信見たんじゃないの?」

 

 ギルドのロビーにて、周りの探索者の様子に納得するセンシ。

 昨日は嘲笑の視線を向けていた彼らだったが、今は何処か探る様な、警戒している様な、とても最弱だと笑われていた男に対する物ではない。

 

 反対に、気晴らしにダンジョン探索に来ていた犬崎はギルドに着くと同時に嗤われ、見下さられていた。

 A級の為、表立って彼に喧嘩を売る者は居なかったが、それでも犬崎を苛立たせるのには十分だった。今は異世界ダンジョンで暴れている。後から来たセンシ達はその事を知らない。

 

「――おやぁ? そこに居るのは明星くんと藤山くんかぁい?」

「げっ……」

 

 ギルドに着いた3人は受付にて手続きの後、ダンジョンの入り口に向かう道中ひとりの男性が女性を伴って現れた。

 彼を見たホムラは嫌そうな顔をし、シオンは礼儀正しく頭を下げる。

 

「お疲れ様です。ギルド長」

「ふははは。相変わらず固いねぇ藤山くんは。はいお疲れ様。そして明星くんは出会い頭に「げっ」はないでしょう「げっ」は」

「……そう思うなら、こんな時間に酒呑まないでくださいよギルド長」

 

 センシ達の前に現れたのはこの広島ダンジョンギルドを収める長、桃谷という男だった。

 桃谷は手に持った酒瓶をグビグビと呑みながら、赤ら顔でゲラゲラと笑う。ホムラの呆れ返った視線も辛辣な言葉も気にした様子を見せていない。

 彼の背後には眼鏡をかけてビッシリとビジネススーツを着た秘書がおり、草臥れたシャツに短パンという格好の桃谷とは対象的だった。

 

「ギルド長」

 

 固い口調で秘書が口を開く。

 

「明星ホムラの今の発言は既に録音済です。いつでも訴える事が可能でごさいます」

「しないよぉ? ヒック」

 

 どうやらギルド長に心酔している様で、明らかに言動がおかしかった。

 日常茶飯事なのか、ホムラはゲンナリとしている。

 

「なんだこの人たち……」

「んぃ……君が空我センシくんだね?」

 

 酒気を帯びた息を吐きながらギルド長はセンシを見る。

 突然視線を向けられたセンシは思わず背筋を伸ばす。相手はここのトップだ。自然と無礼な態度は取れないと思っているのだろう。

 そんな彼の態度にギルド長は笑いつつ、楽にして良いと気楽に伝えた。

 

「いやー。昨日犬崎くんとの模擬戦を映像で見たけど、君強いねぇ」

「は、はぁ」

「魔力レベルと祝福(ギフト)を見た時は正直目を疑ったけど……問題は仮想モンスターの討伐記録だねぇ。アレだけは、どうも記録がおかしいんだけど……」

「ああ。それは」

 

 センシは黙っていようかと思ったが、ギルド長なら話を聞いてくれるかもしれないと思い当時の事を語る。

 すると隣で聞いていたホムラはキレ、シオンは「ふーん」と冷たい声を出した。

 反対にギルド長は変わらない様子で話を聞き続けて、なるほどなるほどと頭を揺らしている。本当に話を聞いているのだろうか?

 

「でもごめんねぇ。今更記録は変えられないんだよぉ。既に本部に提出しているし」

「そうですか」

 

 あまり気にしていないセンシに、ギルド長は大人だなと笑いながら秘書に告げた。

 

「その時の職員……いや、試験に関わっている者たちは把握している?」

「はい」

「そう。だったら全員クビにして」

「かしこまりました」

「――は?」

 

 あっさりとした二人のやり取りに、思わずセンシが呆然とする。

 

「ちょ、何を!?」

「んー。何が?」

「いや、そんなクビとか厳しくないですか!?」

 

 センシの反応を見てギルド長は笑い、優しい子なんだなと思う。

 ホムラもまたギルド長の行動に驚きつつも、しかしそこそこの付き合いがあるのか納得もしていた。彼ならこうする、と。

 

「いや、当然でしょう。探索者のおこぼれに預かるギルド職員風情が、最弱とはいえ君に無礼を働いたんだ。そんな無能どもは要らないよ」

「こわ」

「あーあと。秘書ちゃん。僕含めて上層部全員半年減給ね。今回の事態を把握していなかった事と教育不足。反論ある奴はクビ」

「かしこまりました」

「いや、マジでこわい」

 

 ――センシは知らないが、これがこの世界の普通である。

 ダンジョン探索者は例外なく、それ以外の人間より優遇されるべきと考える者が圧倒的に多い。

 

「とはいえ、探索者であっても問題を起こせばそこそこの罰があるから気を付けてね」

「は、はい」

「それじゃあ、僕の用事は済んだからね。これで失礼するよ」

 

 それだけ言ってギルド長は秘書を連れて去っていく。

 

「なんだったんだ」

「多分ケジメを君に見せたんだと思うよ~。いわゆるご機嫌取り」

「オレは気にしていないんだけどな」

 

 シオンの言葉にセンシはため息を吐く。思っていたよりも油断ならない人間が広島ギルドに居ると知り気疲れしている。

 

「出鼻をくじかれたけど、ダンジョンに潜りましょ」

「そうだね」

 

 ホムラの言葉に従い、センシ達はダンジョンに潜った。




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