SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
「さて、とりあえず変身するか」
ギルド内にある入り口からダンジョンに入った3人の目の前には広大な洞窟が広がっていた。
開口一番にセンシがそう言うと、シオンが物凄く嫌そうな顔をした。
「空我くんが居るなら、ボクは良くな〜い?」
「そんなに嫌なのか」
「まぁ、良いんじゃ無い? 都市ダンジョンだし」
ホムラの言葉にセンシは納得しつつ頷いた。
このダンジョンでは怪我をする事は
もし何かあってもセンシやアルスターが居るし、と彼は思いつつ変身する。当然姿は変わらない。
「よし。──イデアリンク」
続いてホムラも変身する。
彼女の紅の指輪から炎が吹き出しホムラの身体を包み込む。そして、入れ替わるようにこの世界に現れるのは額に一対の角を生やした紅髪の少女。
その身にはまるでヒーロー物の様なバトルスーツを着込む。ピッチリとした紅と白、黒で装飾されたデザインは彼女の発育した身体のラインをセンシの前に晒す。そんな彼女を見たシオンは一言。
「相変わらずエッチなヒーローみたいだねぇ」
「燃やすよ???」
腕にはガントレットが装着され、彼女はガキンと拳を合わせて音を鳴らして威嚇した。
排気口から吹き出す熱気が、変身前から巻いている赤いマフラーをユラユラと揺れ動かした。
「空我くんが好きそうだよね」
「「……っ」」
彼女の言葉に視線が合い、気まずくなって晒す二人。
センシは特撮やヒーローアニメが好きで、ホムラはそんな彼の好みや趣味を理解している幼馴染兼オタク。
変身後の姿は全て星の意志によって決められているが、ホムラは内心今の自分の姿が嫌いでは無かった。理由はセンシがチラチラと彼女に向ける視線。
「……とりあえず、先に進もう。今日はオレ達以外居ないみたいだし」
「都市ダンジョン潜るのはC級くらいだしねぇ」
今頃は
「ガルルルル……」
ダンジョンから早速モンスターが現れる。
唸り声を上げる犬の頭を持つ人型のモンスター、コボルト。
棍棒を手にセンシを睨み付けて、一息で飛んで襲い掛かってきた。
(1階層だから相当弱いな)
昨日の犬崎との模擬戦で少しだけ変身後の動きに慣れたセンシは、こちらに向かってくるコボルトの動きが物凄く遅く感じた。
とりあえず撃退しようと拳を構えるが、その前にホムラがセンシを庇う様に前に出る。
「ハァッ!」
「キャウン!?」
鋭い拳がコバルトに突き刺さり、一撃で魔力の光となって消える。
それに呼応したのか分からないが、ダンジョンの床や壁、天井から次々とコボルトが生え、センシに殺到する。
そしてそれを全てホムラが前に出て戦い始めた。
「……映像でチラッと見た事あるけど、荒々しい戦い方だな。でも、強い」
炎を纏った拳や蹴りを叩き込んだり、無詠唱で炎の魔法を放ったり、コボルト相手に無双するホムラにコメントするセンシ。
そんな彼女の事を補足する様にシオンが呟いた。
「ホムラちゃんの
【
明星ホムラの持つ
元々ホムラは戦いとは無縁の少女だった。
誰かの様に英雄ではなく、誰かの様に幼少期からダンジョンに違っていた訳でもなく、誰かの様に特殊な訓練を受けている訳でもなく、誰かの様に天才だった訳でもなく。
ただただ
その
拳を震えば相手の弱点を穿ち、初めての魔法も練習する事なく自由自在に操り、魔力レベルも通常の探索者の2倍のスピードで上がっていく。
明星ホムラはダンジョン探索者として恵まれている。それこそ、S級ダンジョン探索者天ツ上ヒカリ以上に。
「はぁ!!」
「ゴルァ!?」
手を掲げると同時に巨大な火球が生まれる。それはまるで太陽の様でダンジョンを紅く照らし、その熱量にコボルトが慄く。
「無詠唱魔法であそこまでの威力を出せるの、ボクはホムラちゃんしか知らないなぁ」
シオンの言葉を聞いて、センシはこっそりとアルスターに念話で聞いた。
【実際の所どうなんだ?】
【そうだね。明星ホムラの万能があってこその芸道だよ】
ギルドでは魔法を【初級】【中級】【上級】【最上級】に分類している。
詠唱時間や威力や効果から定められているが、この時詠唱を破棄して魔法を行使する場合その分魔力を上乗せする必要がある。
先日犬崎の使っていた【シャドウエッジ】は中級魔法だが、その際に込められた魔力は上級魔法使用時と同等の魔力を消費している。
「じゃあ、あれは」
「スカーレット・フレア。上級魔法だね」
シオンの言う通りの威力はあり、ホムラがその火球をコボルトの軍団に投げ込むと全て蒸発し、魔力の光と化して消えた。
モンスターが全滅し、炎と光の中佇む彼女の元へと向かうセンシ。振り返ったホムラに対して彼は──。
「何でホムラが倒したの?」
「え? ……あ」
此処は1階層。序盤も序盤である。
C級がB級に上がる為には30階層のボスモンスターを倒す必要がある。つまり、B級の……それこそ上澄みであるホムラにとっては雑魚モンスターでしかない。
故にホムラが戦う必要性は全くの皆無である。
「ご、ごめん。センシがモンスターに襲われると思ったら、体が勝手に……」
「変身してるから怪我しないし、都市ダンジョンだから殺されないし、何よりオレの強さは昨日の模擬戦で何となく分かっているんじゃないの……?」
「う……」
本当に、ホムラが戦う必要性は皆無だった。
羞恥から顔を真っ赤にさせて身を縮こませる幼馴染の姿に、センシは苦笑した。
センシとしては、ある程度潜った階層で彼女の実力を見せて貰おうと思っていた。今の戦闘は余力があり過ぎていまいち測れないので、この後またそれとなく頼もうかと思案する。
「お、お詫びに
「あーいや。別に良いよ」
都市ダンジョンにて、モンスターを倒すと光の粒子となって消える。その際の光の粒子……魔素を指輪に吸収させると魔力レベルが上がり
強化を重ねていくと
しかしセンシは例外である。
【君の指輪は魔素を吸収できないんだよね。君、強すぎるから】
【イデアリンクさせるので精一杯だったんだっけ?】
魔力が込められすぎると……もっと言うと、星の意志がセンシに干渉し過ぎると指輪が壊れてしまう。
彼の内に秘められている力によって。
アルスターからすれば、現状もかなりギリギリのラインを攻めている状態だ。
「ホムラちゃん。本当に空我くんの事好きすぎ~」
「は!? 別に!? ただの幼馴染ですけど!?」
「それは無理あるね。今朝の話普通に聞こえていたし、正直ちょっと引いたよ」
【B級にはすぐに上がれると思うが、A級にはなぁ……】
センシはこれからの事を考え、悩む。
訓練生扱いされているC級は、即戦力と判断されれば例え魔力レベルが低くても
しかし、彼の目指す先であるA級は話が別だ。
「ちなみに、普段薄着の理由ボク知っていたからね?」
「!?!?」
「普段から言ってるじゃーん。ホムラちゃんはエッチだって」
昇格するには様々な障害があり、彼は自分ひとりでは難しい事を自覚している。
故に、彼は……。
「その癖他の男子に見られるのは嫌だったり、エッチな話題は苦手だったり」
「う、嘘じゃないし!」
「うん。知ってる。だからホムラちゃんは空我くんの事好きすぎなんだって。好きな彼相手ならどんなエッチな事をして貰っても良い。いや、むしろしたいのかな?」
「何言ってんの!?」
「本当に何を言っているんだお前ら……」
センシは恥ずかしい会話をしている二人を止めて、先に進もうと促す。
A級昇格については、今考える必要はない。まずは達成可能な目標をこなすだけだ。
二人は、センシの言葉に従いダンジョン奥深くに進もうとし……。
――ビイイイイイイ!! ビイイイイイイ!!
「「「――!」」」
突如、ホムラとシオンの持つスマホが緊急アラートを鳴らした。
彼女たちの持つスマホはギルドが支給した特注品であり、ダンジョン奥深くでも使用可能だ。
そして何よりこのスマホが警報を鳴らす時、ダンジョン探索者たちには一つの義務が発生する。それは――。
「これって」
「うん。ダンジョンのイレギュラーが発生している」
この
◆
ダンジョンには大きく分けて二つ存在する。
一つは都市ダンジョン。
札幌 、仙台 、東京 、名古屋、大阪、広島、福岡に星の意志が創り出した地下に広がる
2010年に地盤沈下が起き大勢に人々が死亡し、2022年にダンジョン化した経緯を持つ。
ダンジョン内にはモンスターが存在し、探索者を攻撃するが絶対に命までは取らない。
故にギルドはこの性質を利用し、訓練生であるC級には都市ダンジョンの探索のみを命じている。
次に異世界ダンジョン。
こちらは各都市ダンジョン周辺に現れる地上のダンジョンである。
見た目は黒い渦で、中に入ると異世界が広がっており、そこには都市ダンジョンと類似したモンスターが生息している。
そこで倒したモンスターは消えず素材が残り、日本はこの素材を持ち帰り探索者の装備の作成、強化に当てたり、輸出品として活用している。
しかしこちらのモンスターは都市ダンジョンのモンスターと違い、人の命を奪う行動を見せる為、B級以上の探索者しか潜る事を認めていない。
「アレが今回のイレギュラー?」
「そうみたいだね」
センシを避難させて、異世界ダンジョン発生地点にやって来たホムラとシオン。
黒い渦……
「今回はモンスターの氾濫か。良かったね」
「うん。もし
「空我くんの事心配しすぎでしょ」
魔法や
都市ダンジョン内よりも力が湧いてくるのを感じながら、二人も戦闘に参加する事にした。
「イデアリンク」
シオンが紫色の指輪に魔力を込めると、彼女の姿が大きく変化した。文字通りに。
光に包まれた彼女はそのままぐんぐんと身長、いや肉体を巨大化させて15メートル程になった所でその身を世界に曝した。
柔らかそうな肉付きの身体から一転、熱を感じない鉄の肉体。角ばったそのフォルムはまるで巨大ロボットそのもの。
「先に行くよ!」
「オッケー!」
シオンが一歩踏み出すとズシンッと地鳴りが響き、それを聞いた前線の探索者たちが振り返って一言。
「――でっっっか」
「ガン〇ムきた!」
「エ〇ァだろ。紫色だし」
「お前らよくそんな昔のアニメ知っているなぁ」
彼らの声はシオンには聞こえており、事故って踏みつぶしても良いかな? と物騒な事を考えていた。
(本当。ボクの
【
藤山シオンの所有する
彼女の姿が巨大ロボットなのは、魔法適正が地属性だったが為に起きた悲劇である。
しかし少年心を持つ者たちには大人気であり、彼女がギルドに訪れる度に期待のこもった視線を向ける者は多い。何なら戦闘シーンを見たいと思っている。
なおシオンはこの姿を気に入っていない。何故なら可愛くないから。
そして犬崎の取り巻き達がロボ好きで、隙あらば撮影してくるのを割と本気で嫌がっている。
さらに先日他の女子生徒に褒められた時、建前関係なく恥ずかしかった。
「アイアンスタンプ!」
シオンの足裏が魔法によって硬質化され、そのままモンスターを踏み潰した。
仲間を殺されて怒ったモンスター達はそれぞれ魔法を放ったり、彼女の脚に攻撃をするが固い音が響くだけで全く効かない。
それを眺めながらシオンは腕を地面に減り込ませて引き抜くと、その手には巨大な石の剣が握られていた。
「えい」
気の抜けた声と共に振るわれた巨剣は、数十体のモンスターをひき肉にする。
シオンの挙動一つ一つが必殺の威力を誇っており、単純だが強いを体現したその光景を見てセンシは一言。
「やっぱりロボは良いな……!」
センシは特撮ロボも好きだった。
ギルド施設の一番高い所から眺めながら、彼は割と興奮していた。
そして今度シオンの事を褒めちぎろうと思っていた。善意で。それがシオンを悶えさせると知らずに。