SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第19話 誘惑

「うおおおおお! 流石巨剣!」

「ああ! 強いな!」

「馬鹿野郎お前! 強さはどうでも良いんだよ!」

「ああ! やっぱり戦っている所が良いんだよ!」

「巨大モンスター求む!」

 

 前線で一部の探索者たちが喜び発狂するなか、女性探索者たちはスンッと真顔で戦っていた。彼女たちは別にそこまで巨大ロボットが好きという訳ではなさそうだ。

 

「馬鹿ばっかり……」

 

 それを見ながらホムラは呟き、

 

「戦うなら巨大ロボット相手でしょ」

 

 よく分からない拘りを胸に抱きながら、シオンの攻撃から逃れているモンスターを倒していた。

 炎を纏った拳が突き刺さり、肉を焼いた匂いが鼻腔を擽る。

 シオンが暴れる度にズシンズシンと地響きと揺れが起き、モンスターはそれによってたららを踏む為倒しやすかった。

 

「ん?」

 

 しかしそんな中、ホムラは奇妙な視線を感じる。

 そちらに向くと、明らかに色のおかしい地面があった。まるでそこだけ地質が違う様な……。

 彼女の違和感は正しく、ボコボコと音を立てながらモンスターが地面から抜け出して来た。

 

 現れたのは鉄の身体を持つアイアンゴーレム。どうやら地面に埋まる事でシオンの踏み付けに耐えたらしい。

 

「はぁ!」

 

 そのうちの一体に突っ込み、拳を叩き込むホムラ。

 ガゴンッと鈍い音が響くが……。

 

「効いていない。打撃無効化の魔法でも使ってる?」

 

 殴りかかって来たホムラに拳を振り下ろすゴーレム。

 地面を穿ち一撃が放たれるが遅く、ホムラは回避しながら分析する。シオンや自分の物理攻撃が効かない相手は早々居ない。

 

「なんだこいつかてぇぞ!」

「魔法も効かない!」

 

 視線を別の戦闘場所に向けると苦戦している探索者たちが大勢いた。

 普通のアイアンゴーレムではない事を理解したホムラは、すぐに戦法を変える事にした。

 

「まるでシオンみたいな敵。だったら」

 

 シオンとの模擬戦で、彼女と戦う為に編み出した技を使う事にしたホムラ。

 腕に纏っていた炎を消し、再度ゴーレムに肉薄し拳を叩き込む。

 やはり鈍い音が響くだけで効いた様子はなく、ゴーレムは鈍重な動きでホムラに殴りかかった。それを避けながら何度も何度も拳を叩き込み、一度後ろに跳ぶホムラ。

 

「ふっ――はぁ……」

 

 相手と自分の距離を整えたホムラは、足の裏に魔力を集中させる。

 そして走り出し、バシバシと地面と足が触れる度に炎の魔力が高まっていくのを感じながら、ジャンプして一回転し、

 

「おりゃあああああ!!!」

 

 気合の一声と共に、ゴーレムの胸に強烈な蹴りを叩き込む。

 そこは、彼女が何度も殴った個所だった。

 ゴーレムは少しだけ後退り、しかし気にした様子も見せずに攻撃しようとし……。

 

「……!?」

 

 ボシュッと内側から魔力が吹き出し始める。

 一度だけではなく、体のありとあらゆる箇所から鉄の肉体を食い破っていく魔力。

 

「シオン対策の技が役に立った」

 

 ホムラがしたのは、自分の魔力を相手に流し込み、相手の魔力を熱や炎に強制的に変換させて内側から破壊する魔法だ。

 魔法適正や耐性により外側からダメージを与えられない相手を倒す度に生み出したこの魔法は、彼女が直接触れる必要があり、蹴りによる一撃が最も魔力を浸透させやすい。

 

「――!」

 

 ゴーレムは爆発を起こし、鉄の肉体を四散させながらこの世を去った。

 足裏からシュウシュウと白い煙を出しながら、ホムラは次のゴーレムに向かって走り出す。必殺の蹴りを放つには、予めある程度自分の魔力を叩き込む必要がある。彼女はゴーレムの数を確認し、今回のイレギュラーの要は奴らだと断定した。

 

「大丈夫そうだな」

 

 その光景を見ているセンシは安心した声で呟く。

 イレギュラーが発生した時、ホムラに「此処から動かないで」とロビーに置いていかれた彼は、コッソリと戦いの様子を高い場所から見ている。

 他の探索者たちの戦いの様子も見る事ができ、彼は大きな収穫を得る事ができた。これで基準を理解した彼は()()()()()()様に立ち回る事が可能となった。

 

「……強くなったなぁ」

 

 ホムラの戦う姿を見て少しだけ悲しそうな声を出すセンシ。

 

「さて、それじゃあ」

 

 しかし意識を切り替えて。

 

「本命を叩くか」

 

 センシは、空を見上げて――思いっきりジャンプをした。

 彼は既に生身となっている。

 グングンと雲を追い越し、空高く発生している(ゲート)までひと跳び。半径6kmと大きな黒い渦に入ったセンシは、そこに広がる異界を弾丸の様に突き進む。

 

「ここなら遠慮する必要ないな」

 

 通常の異世界ダンジョンと違い、モンスターが居ない。

 地上のモンスターたちは囮で、今も拡大しているこの(ゲート)が異界の神の本命である事は明らかだった。

 都市ダンジョンの様に階層を用意しているようだが、センシは魔力で造られた地面を破壊しながら突き進んでいく。

 そして最下層に辿り着くセンシ。轟音と衝撃が響き渡り、そこに鎮座するボスモンスターが驚いた様子で彼を見た。

 

「お前か」

「NNDOMEHORWDRDTOMTTIR?」

「良い。話すつもりは無い」

 

 理解できない言語を放つ流動する鉄のモンスターに言葉少なく返すと、センシは拳を握り締めて。

 

「MDD.ORNKRDHDGKGKKNIEIYUNITGKDARROUT――」

「えい」

「――BKN」

 

 気の抜けた声で、何か喋っているモンスターを一撃で殴り殺した。

 それにより、彼の居るダンジョンが消滅していく。時間が経てば(ゲート)も閉じるだろう。

 彼は潜る時に空けた穴から帰還する。

 

『相変わらずの規格外だね』

「そうか?」

『概念的防御を無視して殺せる君の拳は、我々でも脅威だよ』

 

 屋上に戻り、センシは二体目のゴーレムを倒しているホムラを見る。本命は彼が倒したので、今回のイレギュラーはこのまま対応が終わるだろう。

 彼は急いでロビーに戻る事にした。彼女たちが帰って来た時、センシの姿が見えないと心配させるし、もしイレギュラー戦に参加していたと勘違いされると罰則される可能性もある。C級はこういう時、待機を厳命されている故に。

 

「イレギュラーなんて久しぶりだよな」

「なー? 広島じゃあ5年前以来起きていないのに」

 

 他のC級たちの会話を聞いて、アルスターが念話で彼に言う。

 

【あまりお節介はするものじゃないよ】

【仕方ないだろ。アイツがちょっかい仕掛けて来るんだから】

 

 実際はイレギュラーは起きていたが、何処かの英雄がギルドが察知する前に潰していた。それによりここ最近は広島周辺は平和だった。

 センシからすると身にかかる火の粉を振り払っているだけだが。

 

「でも先輩が言うには、少し前に幾つかの異世界ダンジョンがいきなり消失したらしいぞ」

「それ知ってる! 噂だと結構な損失らしいよ。結構レアな素材が回収できなかったって」

「……」

【いつか謝ると言っていたけど、いつ謝るんだい?】

【そのうち】

 

 なおその時の騒動でホムラとシオンは臨時で呼び出されていた。

 そのせいでホムラはセンシの家に行けず、ストレスを抱えていたとか。

 

 しばらくしてイレギュラーは収まり、センシは帰って来たホムラ達を出迎えた。

 センシの姿を確認したホムラはホッと安堵し、サムズアップをする。それにセンシも返し、シオンは微笑ましそうに見ていた。

 

「シオン。凄かったなお前。ここまで聞こえたぞ」

「ホムラちゃん。実はこの前空我くん学校で告白されたんだよね」

「――は?」

「おま!?」

 

 その後、彼がどうなったのかはここでは語らない。

 一つ言えることは、デリカシーの無い男は女性の逆鱗に触れるという事だ。

 

 

 

 

「くそ! くそ! くそ!」

 

 スマホから招集命令が出されているにも関わらず、それを無視して暴れ続ける犬崎。

 鋭い爪で出て来るモンスターを殺し、彼に怯えて逃げるモンスターはシャドウエッジで刺し貫き、周囲に居なくなればまた探し出して殺し続ける。

 そんな無為な行動を繰り返し、しかし彼の苛立ちは晴らされる事無くむしろ余計に積層していく。

 

「なんで俺様があいつなんかに! A級だぞ!?」

 

 モンスターが見つからなければ、次に狙うのは壁や岩といった物に対して当たり始める犬崎。

 彼は納得していなかった。自分が間違っているとは思っていなかった。

 それなのに学校では腫れ物扱い。ギルドでは遠巻きに笑われ、さらに。

 

 ――きみ。もう少し考えて行動しなよ。

 

 飲んだくれの適当人間であるギルド長に注意された事だ。今までこんな事は無かった。

 それが彼の自尊心を傷つける。

 

「俺は悪くない! 俺は悪くない! 悪いのは空我だ!!」

 

 幼稚で、支離滅裂で、誰もが聞いてもおかしいと分かる言葉を吐き続ける。

 犬崎自身も分かっているのだろう。だから取り巻きを引き連れず、配信もせず、ただ一人誰も居ない異世界ダンジョンで暴れている。

 

 それが答えだった。

 

 しかし認められないから彼は喚き続ける。

 誰にも理解されないから。誰にも見て貰えないから。誰にも肯定されないから。

 

【うんうん。確かに君は悪くないよね】

 

 ――そんな彼に共感の言葉が送られる。

 

「誰だ!?」

 

 頭の中に響く声に思わず叫ぶ犬崎。

 薄ら寒いものを感じた。彼はこれまで何度もダンジョンに潜って来たが、こんな事は初めてだった。加えて、彼が今潜っているダンジョンはBランクであり、彼が気持ちよく無双できるモンスターしかいない筈の弱いダンジョンの筈。

 

【そんなに怖がらないで。ぼくは君の味方だよ】

「味方だぁ? 姿を見せず、気持ち悪い声を響かせやがって!」

 

 彼の頭に響く声は男にも女にも、子どもにも老人にも、優しくも悍ましくも、とても言語化できるものではなかった。

 知らず知らずの内に犬崎は多量の冷や汗が垂れ、呼吸が乱れていく。

 

【君は憎んでいるんだろう? その男を。

 君は羨んでいるんだろう? その男を。

 ぼくは共感するよ。君の想いを。感情を。考えを】

「うるせぇ! さっさと出てこい! ぶっ殺すぞ!」

【フフフ――やっぱり君は可愛いね】

 

 

 

 

「思った通りだ」

 

 耳元で囁かれたその声に、犬崎は振り返り――しかし、そこには誰も居ない。

 

「何だ。何処だ! 何処にいる!」

 

 恐慌状態に陥った犬崎は闇の魔法を使って目に映るもの全てに攻撃した。

 しかし声が聞こえてから感じる嫌な予感は全く収まらず、それどころかどんどん強くなっていく。

 

「ひどいな。こんなに暴れて。モンスターたちが怖がっているよ」

「姿を見せろ!」

「その必要はないよ。安心して。ほらリラックスリラックス」

「ふざけやがって……!」

 

 相変わらず耳元から聞こえる声に犬崎は心を乱され、思わず耳元をかきむしる。しかし効果はなく声はずっと彼に囁き続けた。

 

「ぼくが力を貸してあげるよ。そうすればあの男を殺せるよ」

「黙れ! どんなモンスターか知らないが、この俺をコケにしやがって! 良いか、俺はな――」

 

「「影狼(シャドーウルフ)の犬崎ケント。超エリートのA級ダンジョン探索者で、いつかS級のチート集団を超える存在だ」」

 

「――な、なんで俺と同じ言葉を!?」

「だから言っているじゃないか。共感しているって」

 

 犬崎はここでようやく理解した。

 やばい。こいつは――関わってはいけない存在だと。

 

「ぼくを拒絶するのかい? 怖いもんね。共感するよその気持ち」

「黙れ! お前はもう喋るな!」

「――でも良いのかい? 君はこれからずっと惨めな思いをするよ」

「……っ」

 

 ダンジョンの出口に向かって進んでいた足が止まる。

 耳を傾けてはダメだと。言葉に関心を持ってはダメだと。その声に意識を向けてはダメだと分かっているのに――抗えない。

 

「君が好きな明星ホムラは手に入らない。空我センシからは舐められっぱなし。気に入らない相手は幸せな未来に向かって歩んでいく。君はそれが気に入らない。そうだろう?」

「……」

「でもね。それを全て壊して……君だけが幸せになれる方法が一つだけあるよ」

 

 応えてはいけない。応えてはいけない。――応えてはいけない……のに。

 

「――どうすれば良い?」

「――ふふふ。やっぱり君は可愛いよ」

 

 犬崎は――応えてしまった。悪魔の誘いに。

 




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