SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
世界で初めてダンジョンが現れたのは札幌 、仙台 、東京 、名古屋、大阪、広島、福岡の7ヶ所である。現在はそのダンジョンの上にギルドが設立され、各ダンジョンを管理している。
そのうちの一つ、広島ダンジョンにやってきたセンシ。彼は最も危険度の高い気配を見つけると誰にもバレない様に中に侵入し、最深部に向かって突き進んでいた。
「此処にあるのか?」
『さぁ、どうだろうね。完全にアイツに所有権を奪われているから我々でも反応は追えない。でも中身を弄る事はできないから安心して欲しい』
「全く安心できないんだが」
道中襲い掛かって来るモンスターを避けながら星の意志の呑気な発言に対して突っ込みを入れる。
異界の神はセンシに対して全力で嫌がらせを行う。
意味深な場所で豪華な装飾された宝箱に入れているに違いない。さらに危険度の高い場所なら、探索者たちは「これは何か凄い物なのかもしれない」と思ってしまうだろう。と彼が内心危惧する。
『実際そうだよ』
「クソが!」
彼の最悪を想定した予想が肯定されて、思わず感情が表に出てしまう。すると、それまでセンシを襲おうとしていたモンスターたちは途端に逃げていった。それを見て内心謝るセンシ。
中に入って1分後、彼は最深部に辿り着いた。すると空間の奥に鎮座する巨大なゴーレムが動き出し、その身の丈以上の石剣を持ち襲い掛かる。
「はい邪魔!」
それを一発の拳で剣ごと粉々にした。
『A級ダンジョンを僅か2分で攻略。またギルドは大騒ぎだろうね』
「いつか謝るよ。それよりも!」
星の意志の言う通り、ダンジョンの反応を観測していたギルドでは突然の事態に慌てふためいていた。
センシはガラガラと崩れていく岩の残骸に突っ込み、ドロップされるアイテムを一つ一つ確認する。
凄く固そうな鉱石。綺麗な鉱石。魔力を込めると無限にエネルギーが生成される鉱石。加工すればどんな形にも変形する鉱石。どれも売れば1億単位の値が付く超レアなアイテムだ。しかしセンシは全く興味を示さない。
「無いじゃん!」
『無いねぇ』
目当ての物がないと判断すると、彼は外に飛び出し次の反応に向かう。
ちなみに、ドロップしたアイテムは放置されたまま一定時間経過すると回収できなくなってしまう。後日、ボスモンスターが倒されレアドロップアイテムが消失している事を知ったギルドは発狂したとかしていないとか。
その後もセンシは様々なボスモンスターを撃破していった。
太陽と同じ温度の肉体を持つ魔獣。雷と同じ速さで動く精霊。全てを溶かす液体でできたスライムの王。無限に分裂する影でできた不定形のモンスター。ありとあらゆる攻撃を弾く概念を持つ黒龍。
その全てをセンシは拳一つで粉砕していった。そして超レアなドロップアイテムを放置し、黒歴史を発見できず、ダンジョンの奥深くで阿鼻叫喚する。
広島にある危険度の高いダンジョンを全て人知れず攻略した彼は、意気消沈した様子で帰路に着いていた。ダンジョンギルドでは突如起きた天変地異の原因究明によって地獄絵図となっているが、今の彼にそれを気にする余裕は無かった。
幼馴染から【ダンジョンで異変があったから、待機の為に近くの友達の家に泊まる】とメールがあるも気付けない程であった。
「何で無いんだ?」
『多分小出しで出すつもりか、単純に広島以外のダンジョンに設置しているのかもしれないね。確実に言える事は、君の焦燥感を煽る事に全力を注いでいるね』
「いつか絶対に素手でぶん殴ってやる」
異界の神に対してぶちキレながらも、探索は明日からだと判断するセンシ。
家の前に辿り着くと彼は未だに肩の上に乗っている星の意志に対して、素っ気なく帰れと言う。
『冷たいじゃないか。君の言う黒歴史拡散の事を教えたのは我々だよ?』
「そもそもお前が作らなければよかった話じゃねーか、ふざけんな」
諸悪の根源である星の意志に対して不満を零すも、どうやら彼から離れる気は無い様だ。
厄介な存在に見つかってしまったな、とセンシがため息を吐きながら家の中に入る。
心労によりクタクタなってしまった彼は、今日はもうさっさと寝てしまいたかった。食後に程々の運動をしたからか、良い感じに眠気が襲い掛かっていた。
「ん。おかえり」
「ただいま……」
「もう寝るの?」
「うん……」
帰宅した彼を出迎えたハヤテにそう返事をし、自分の部屋に戻るセンシ。そんな彼の後ろを彼女は着いて行き、ベッドの前で上着を脱ごうとしていた彼を手伝う。
「ありがとう……」
「ご飯、美味しかった。ウサギ肉久しぶりだった」
「そう……」
ハヤテの言葉に何処か心あらずといった風に返すセンシ。彼の頭の中では黒歴史の事でいっぱいだった。これから他の6ヶ所のダンジョンに探しに行かないと思うと気苦労が絶えない。
さらにセンシは学生である為、どうしても探索に回せる時間が限られてくる。
センシが脱いだ服を受け取り顔をうずめながら思いっきり匂いを嗅ぎ、しかし不満そうな顔を浮かべるハヤテ。
「あまり汗かいてない」
「そこまで動いていないから」
「残念」
彼にとって攻略困難と言われるボスモンスターも食後の運動程度の労力にしかなりえなかった。
パジャマに着替えたセンシはベッドに潜り込み、それにハヤテが続く。そしてセンシの胸元に顔を近づけて思いっきり深呼吸を繰り返し始めた。
それに対してくすぐったいなぁと思いながら、しかし彼に体に変形して当たるHカップの乳の柔らかさに何処か安心感を覚えた。だからか、センシはハヤテに対して苦言を零す事無く目を閉じた。
「おやすみ」
「ん、おやすみ」
しばらくしてセンシの意識が闇の中に落ちていき――。
「――いや、誰だよ!?!?」
【え、知り合いじゃないの?】
一気に意識が覚醒したセンシの発言に、星の意志は至極当然の突っ込みを入れた。
◆
「久しぶり。すんすん」
「いや、誰だよ。君に対しては本当に初めましての筈なんだけど?」
リビングにて机越しに相対する二人。
長い黒髪をポニーテールにし、感情が乏しい表情に眠たそうな半開きの目。時間帯的に眠たい訳ではなく、普段からそういう表情なのだろう。
センシはここ最近の交流関係を思い出し、やはり目の前の少女に見覚えが無い事を確信した。
彼の知り合いの中に、勝手に家に入って作り置きの夕飯を食べ、帰宅したセンシを出迎え、脱いだ服を堂々と嗅ぎ、Hカップの胸を押し付けながら添い寝をする美少女は居なかった。
これが童貞の悲しき妄想ではなく、れっきとした現実なのがセンシの恐怖を煽った。モンスターより怖いかもしれない。
「本当に誰?」
「
「……ごめん、本当に思い出せない」
「……ショック。すーはー」
表情は変わらないが、何処となく雰囲気から落ち込んでいる事が窺えるハヤテ。
それに慌てるセンシ。彼は最強で英雄で白の英雄で黒歴史持ちだが、童貞である。関わったらヤバそうとはいえ美少女が自分の目の前で、さらに己の過失で暗い表情を浮かべさせているのかもしれない。そうなるとオドオドとしてしまうのも無理はない。
【おい! お前はコイツの事知らないのか!?】
【知ってるよ】
【知ってんの!?】
ダメもとで星の意志に助けを求めると、意外な反応が返って来た。
【彼女は5年前にダンジョン最下層到達者となった人間だよ】
【となるとS級ダンジョン探索者か】
ダンジョンギルドが保有する人類最強と呼ばれる最高戦力。
5年前のダンジョン災害で7人のうち6人死んだが、今は6人まで増えている。
そうなると目の前の彼女はとてつもない有名人なのか? とセンシは思い、その事を知らなかった自分は世間知らずだったかと情報収集能力の乏しさを反省する。
【いや。彼女はダンジョンギルドに登録されていない野良だね】
【犯罪者じゃねーか!?】
【君もやっている事は同じだよ】
【ぐっ……】
この世界では、ギルドに許可なくダンジョンに潜る事は違法である。
しかしそうなるとますます風緑ハヤテの事が分からなくなるセンシ。彼の交友関係の中に犯罪者は居ない。ダンジョン探索者関係は幼馴染とその友人くらいで、それ以上は居ない。
彼はこの5年間の活動を思い浮かべようとして……無理だった。
一番可能性のある5年前の災害時ではたくさんの人を助けた為、その中に彼女が居たのかもしれないが……話しかけられる前に立ち去っているから覚えていない。
「5年前。あの時の出来事のおかげで、私はここまで変わる事ができた。すーすー」
どうやら、彼の想定通り5年前の災害にて助けた大勢の中の一人だったらしい。それならば覚えていないのは仕方ないとは言え、向こうは何も悪くない。
そう考えたセンシは素直に謝ろうとし、
「あの日抱き締められて、あなたの匂いを叩き込められて、私は高みに至った――ありがとう。くんかくんか」
「ちょっと待って」
どうやら、彼の想定外の事態が起きている様でセンシの脳みその処理能力が間に合っていないらしい。ここまで強烈な言動をするのに覚えていないのはどうしてなんだ? と彼が混乱する中――。
「――いや、もしかして……あの時の!?」
センシが思い出せたのは書籍化された黒歴史を見たからであった。
星の意志が書いた1シーン。少女を敵の攻撃から助ける為に抱き締めて避けるシーン。物語でよくあるシーンだが、実際にセンシも行っていた。英雄っぽいという理由で。
今となっては思い出したら悶える程に恥ずかしいが、そのおかげで彼女の事を思い出す事ができた。
「ずっと探していた。お礼を言いたかった――ありがとう。あむあむ」
「……大したことはしていないよ」
むしろ彼はあの日の事を逆に感謝したいくらいだった。
大惨事が起きた後にのこのこやって来ても、救えなかったものは救えなかった。だからあの時「今更やって来て英雄気取りか」と言ってくれた少女に対して感謝の言葉と謝罪の言葉を送りたかった。
「あなたの匂いに出会えて、私は生まれ変わった。じゅるり」
「あ、そっちなのね」
どうやらハヤテは助けてくれた事よりも、センシの匂いと出会えた事に感謝している様である。
「さて。これでようやく謎が解けたな」
全てを理解したセンシはホッとした表情でスマホを取り出す。そして1、1、0とダイヤルを押し――。
「警察は辞めて欲しい」
「ごめん、無理」
センシからすれば、風緑ハヤテはかなりやべー女である。
勝手に家に入っているし、幼馴染の為に残しておいた夕飯を勝手に食べているし、センシが帰って来ても当たり前の様に居つこうとするし、さっきからセンシの服を着てずっと匂い嗅いでいるし、何なら舐めているし。
何より無断でダンジョンに潜るという割と重めの犯罪も起こしている。
「どうか。許して欲しい。ほら、私美少女だし」
「事実だけどそれを自分で言う?」
「このおっぱいも好きにして良いよ?」
そう言ってふにょんとHカップの胸を自分の手で持ち上げるハヤテ。センシのシャツでしか包まれていない為、その形は一目でよく分かる。
「さっきから見てるよね」
「…………」
「好きにして良いよ。むしろして欲しい」
「………………いや、良いです」
【死ぬほど悩んだね】
【うるさいよ】
なるべく見ない様にしていたがセンシは男であり童貞である。どうしても視線が吸い寄せられてしまった。
しかし気恥ずかしさからか、それとも罪悪感からかスマホから手を離す。
「もう良いから帰って欲しい」
「ん。分かった」
素直に頷きハヤテはその場を後にし……。
「待て。オレの服を持っていこうとするな」
「今日はこれで勘弁してあげるよ?」
「何が? いや答えなくて良い。とりあえず返して」
「……ん。残念」
そう言って彼女は服を脱ぎだし……。
「いや! オレの前で脱ぐなよ! というか君の服は!?」
「君の部屋にある」
「だったらそこで着替えて!」
そう言ってセンシはハヤテを自室に押し込み扉を閉めた。
しばらくすると扉越しにゴソゴソと着替える音が聞こえる。センシはドキドキした。
ガチャリ、と扉が開く前に耳を離した彼は、出て来たハヤテに一応釘を差す。
「こっそりオレの私物を持っていくなよ」
「ん。今日はやめとく」
「今日だけじゃなくて今後一切辞めて欲しい」
「ん。残念……」
そもそも今後も来る予定なのか、とセンシは少しだけ疲れた様子で肩を落とした。
玄関を出て一跳びで真夜中の闇の中に消えていく彼女の身のこなしを見て、あれがS級かとハヤテの実力を把握する。
鍵を閉めて自室に戻ったセンシはベッドに横に成ろうとし、ハヤテの残り香にドギマギする。ベッドの上に置かれた先ほどまでハヤテが着ていた服を見ると、さらに心臓が高鳴った。
『何で服の隣にティッシュ箱が置かれているんだい?』
「……」
ハヤテの余計なお世話という名の配慮に、心を乱されているセンシは星の意志に問いかけに答える事が出来ない。
とりあえず洗濯しようと服を持ち上げ……。
「パ!?」
その下に置かれていた白い布に意識が飛びそうになった。
『パンツだね。しかし何故彼女は自分の下着を置いて行ったんだろう』
「…………」
センシは心を無心にし、ハヤテのパンツを掴むとそのまま脱衣所の洗濯機の中に服と共に叩き込み、洗濯と乾燥を押して自室に飛び込んだ。
『空我センシ。酷く興奮しているね。それでは寝れないよ』
「オレが一番分かっているよ!」
――次の日の朝。
「おはよう」
「おらぁ!!」
当たり前の様に家の前に居たハヤテに、洗濯を終えて乾燥も終わった彼女のパンツを投げ付けた。一睡もできなかったからかセンシの対応はどこか荒々しかった。
受け止めたハヤテは、すんすんと匂いを嗅いで表情を変えずに怪訝な感情を見せる。
「使ってないの?」
「うるさいよ」
「……ん。これはこれで良い」
洗剤とかすかなセンシの匂いに己を納得させたハヤテは、そのまま受け取ったパンツを履いた。目の前でミニスカートの中に消えていく白の布切れが、先ほどまで自分の手の中にあった事実に頭がどうにかなりそうだった。
童貞でなくても刺激的過ぎる光景である。寝不足も相まって気絶しそうだとセンシは思った。今日が土曜日で良かったと心の底から思う。
「オレ、これから寝るから帰ってくれ」
「ん。分かった。でもその前に一つだけ教えて欲しい」
「……なに?」
美少女相手とはいえ、ぶっとんでいるからか何処かおざなりに聞き返すセンシだったが、ハヤテは気にした様子もなくマイペースに尋ねる。
「――あなたの名前を教えて欲しい」
「知らないのかよ!?」
【いやだって彼女聞いていないし、君も答えていないよ?」
星の意志の言葉は二人に届かなかった。
その後、センシは彼女に己の名前を伝え、昼までぐっすりと眠った。
起きた後、ハヤテに本名を教えたのは不味かったのではないか? と危惧するも当たり前の様にリビングで星の意志と一緒にテレビを見ている光景を見て考えるのを辞めた。
もうどうにでもなーれ。