SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
次の日の学校にて。
「へぇ。空我あの時ギルドに居たんだ」
「お前らは何してたんだ?」
「家でスマ〇ラしてた」
「ユウマくん。ゲーム物凄く上手いんだよね。横で見てて面白かった」
「そこは対戦しないのかよ」
白上と黛はB級探索者だが、あまりダンジョンに潜っていないらしい。
学生だというのもあるが、単純に実力がそこまで高くないのが要因である。
異世界ダンジョンにはそれぞれランク分けがされており、S~Cまで存在する。そして探索できるダンジョンはソロだと自分の階級より一つ下、二人以上だと基本的に自分と同じ階級と定められている。
しかし現在、広島にはCランクのダンジョンに繋がる
反対にホムラとシオンはチームを組み、さらにギルド長に認可されている事もあり、通常の探索者よりも難易度の高いダンジョンの探索を命じられたり、イレギュラー発生時の対応、警戒任務など任されている。
「もっと働けば?」
「ソロB級は暇なときは暇なんだよ」
「それに金が欲しい大人たちが結構警戒任務とか受け持つからね。あまり出しゃばると睨まれるんだ」
苦笑交じりの黛の言葉にそんなものかと一応の理解を示すセンシ。
「お前らはチーム組まないのか?」
「男と組みたくねぇ。いつか俺の事を好きになってくれる女の子たちとハーレムチーム組む予定だから」
人はそれを捕らぬ狸の皮算用という。
「僕は今は学生生活を楽しみたい、かな。必要な時は手伝うけど」
「けっ。これだからリア充は」
黛の言葉に、白上は面白くなさそうに吐き捨てる。どうやら黛は彼女と上手くいっているらしく、それが非モテ非リア充の白上からしたら楽しくないらしい。ただの僻みである。
「それにチームを組んだら報酬が分けられるからね」
「昔、その辺で揉めている大人たち見た事あったわ、いやー、醜い争いだった」
「でも仕方ないよ。ダンジョン探索者として生活していくなら死活問題だからね。明星さんや藤山さん、犬崎くんみたいに才能があれば話は別だけど」
そう言った側面もあり、ダンジョン探索者にはある程度の副職が認められていたりする。
「世知辛いんだな、ダンジョン探索者って」
「ずっとC級だともっと悲惨だぞ。異世界ダンジョンに潜れないから無給に等しい」
「その点S級は凄いよ。噂だと億単位で稼ぐのは当たり前だとか」
そういえば、以前ハヤテがそんな事を言っていた気がするとセンシは思い出す。
自分をヒモにして養うと言われた時は思わず突っ込んだが、今にして思うと本気だったのかもしれない。どれだけ好きなんだ自分の事……と思い出して恥ずかしくなるセンシ。
「そういえば風緑さんは?」
「今朝メールがあった。帰るのもう少し後になるって」
ちなみにその際、彼女を拘束している他のS級ダンジョン探索者に対する恨み節が長文で書かれていた。特に天ツ上ヒカリに対しては苦手意識を持っているらしく、次に東京に呼ばれても行きたくないと書かれていた。
なお、天ツ上ヒカリの普段担当している区域は札幌である。
「ふーん。アイツ帰って来ないんだ」
「ホムラ」
声に嬉しさを隠さないまま、ホムラが会話に入って来る。
ハヤテが天ツ上ヒカリが苦手なら、ホムラはハヤテが苦手である。彼女からすれば自分の隠し事がバレてしまった元凶であるからだ。ほぼ自爆だったが。
席に座りスマホを見ているセンシの後ろから画面を覗くようにして、彼の背中に乗っかる。その際に彼女の豊かな胸が押し付けられ変形するが、センシは気にしない様に己を律した。
白上はガン見した。黛はその目に指を突き刺した。
「いてぇええええええ!?」
「ねぇセンシ。今日の放課後買い物に付き合ってくれない?」
「買い物?」
家にはまだ食材はあるが、と思っていると。
「ねぇねえ空我くん。クラスのみんなと話したんだけどさ」
さらに会話に参加したシオンが、とある事をセンシに伝える。
どうやら昨日ダンジョンに向かった彼らは知らない話だったらしく、シオン達も今日クラスメイトから話を聞いたらしい。センシはシオンから聞かされた提案に笑みを浮かべて賛同し協力する事を伝えた。
「いいなそれ。先生はなんて?」
「凄く上機嫌で許可くれたよ。ヒカリさん彼氏疑惑が払拭されて嬉しいみたい」
「都合が良いけどそれで良いのかオレたちの担任」
学生は金銭面に乏しく、こういう時大人である先生の助力は有り難いとセンシは思った。
「足りなかったらアタシが出しても良かったんだけどね」
「将来の為に残しておけ。此処は先生に任せようぜ」
「そうね。どうせあの天ツ上ヒカリグッズにしか使っていないだろうし」
「……」
「……ん? 何?」
ふと自分に視線が集まっている事に気が付いたホムラが、その場に居る者たちに問い掛ける。何か自分はおかしい事を言ったのか、と。
「いや~」
「嫌っている割には……」
「明星さんって、やっぱり優しいよね」
「ホムハヤの波動を感じててぇてぇ」
センシの視線から、彼らが何を言いたいのか理解したホムラは顔を真っ赤にさせる。
「ちが、そういう訳じゃ!」
「ぐはっ」
むかつくイヤらしい視線を向ける白上を潰して弁明するホムラだが、センシ達は分かっていると言わんばかりに穏やかな表情を浮かべている。
他のクラスメイト達も話は聞いていたのか、生温かい視線を彼女に向けていた。その視線を肌で受けてますます羞恥で赤くなり押し黙るホムラ。
「お菓子の買い出しに名乗り出たのは明星さんだよな」
「他のクラスからは割と怖がられているけど、優しいよな」
「オタクに優しいギャルじゃないけど、普通に人には優しいよな」
「そこ! うるさいんだけど!」
吠えるホムラをどうどうと落ち着かせて、センシは彼女の申し出を受ける事にした。
「そういう事ならオレも手伝うよ」
「ありがとう。後は犬崎と水無月にも言っておかないとね」
少しだけ顔を顰めて言うホムラに苦笑し、しかし同時に疑問を抱く。
「水無月、帰って来るのか?」
「センシ見てないの? ドラゴンチャンネル」
「昨日は見ていないな」
ホムラは安堵しつつ、嬉しそうな顔をしながらも、今後訪れる騒がしい日常に辟易としながら言った。
「東京に現れたSランクの異世界ダンジョン。無事攻略したらしいよ。今日か明日には帰って来るって」
「そうか。それは良かったな」
「……別に?」
友達が帰って来るのに素直じゃないホムラに、センシは仕方のない幼馴染だと思っていると……ガラリと教室の扉が荒々しく開かれる。
「あ、犬崎くん。ちょっと相談が――」
「うるせぇ。だまれ」
クラスメイトを押し退け、ズンズンとセンシの元へと歩く犬崎。
普段から他人に対して思慮の無い人間だったが、今日は何時にも増して不遜な態度が目に付く。
さらに目つきは鋭く、隈もできており、表情も覇気がない。しかし不気味な迫力はあった。
「空我」
「……なんだ」
「――てめぇは俺の下だ。それを今に見せてやる。首を洗って待ってろ」
あまりにも過激な発言に、誰もが眉を潜める。
センシも彼の発言をいつものように聞き流すつもりがないのか、口を開こうとし――。
――ビイイイイイイ!! ビイイイイイイ!!
教室に居るセンシ以外のスマホが、聞く者に不安を与える音を……緊急アラートを鳴らした。
同時に窓の外が暗くなった――否。
「いったい、なにが――」
「……これは」
既に窓際に移動していた犬崎が外を見ると、淡々とした声で言った。
「イレギュラーだ。それも最悪の部類だ」
彼の視界には、
登校していた生徒たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、それをモンスターが追っている。
さらに
「藤山! ホムラ! それとそこの雑魚二人!」
振り返った犬崎が、素早く指示を出す。
「てめぇらは下に降りてモンスターを片付けつつ、生徒の避難誘導しろ」
「はぁ? 何言ってんの。何でアタシがアンタの指示に」
「こういう時、階級が上の奴に指揮権が委ねられる。当たり前だろ」
「ぐっ」
正論なのか、珍しく黙らせられるホムラ。
シオンも彼の指示に正当性を感じているのか何も言わない。雑魚二人と言われた白上と黛も言わずもがな。
「そして空我。てめぇはクラスの奴らと避難しろ。C級だからな」
「……ああ」
まるで念を押すように言う彼の言葉に、センシは反論せずに従う。
「俺は屋上に現れたやばそうなモンスターからやる――お前ら、仕事はしっかりしろよ!」
それだけ言うと、彼は変身して窓から屋上に向かった。
そんな彼と入れ替わるように、廊下から猿渡が入って来る。
「みんな、急いで避難してくれ! そして明星さんたちB級は――」
「さっき犬崎から校庭のみんなを助ける様に言われたので、もう行きます」
「――分かった」
シオンの言葉に、猿渡は頷く。シオンは白上、黛と共に校庭へと飛び降りて変身しモンスターと戦闘を始めた。
巨人になったシオンは空を飛ぶモンスターを叩き落とし、地面を走るモンスターを踏み付ける。白上と黛は逃げ惑う生徒を保護し、旧校舎へと誘導を始めた。
「センシ……」
「ホムラ。オレは大丈夫だから、みんなを守ってくれ」
「――分かった」
戦う覚悟を決め、戦士の仮面を被ったホムラはシオンたちの加勢に向かう。
それを見送り、センシは猿渡に視線を向ける。
「先輩」
「話は君のクラスメイトから聞いた。犬崎の指示に従ってくれ。避難先は、旧校舎が良いだろう」
廊下や窓で周りを見てみると、確かに旧校舎にはモンスターが寄り付いていない。
こういう不測の事態が起きた時の為に、旧校舎にはモンスターが入れない様に結界が張られているらしい。
他のクラスの生徒たちも渡り廊下を利用して避難をしている。
「聞いたよ。君も探索者となったって。まだC級の君に頼むのもなんだが、みんなを頼む!」
「分かりました」
「僕たちは校舎内に入ってきているモンスターを片付けて来る! いくぞ!」
猿渡はチームメイトを率いて廊下に出ていく。
センシはそれを見送り、クラスメイトたちと共に校舎へと向かった。その道中、意識を張り巡らせて戦況を確認すると――。
「――不味いな」
「どうしたの空我くん?」
「あ、いや何でもない」
思わず呟いた言葉にクラスメイトが反応するが、それを誤魔化し彼はアルスターと念話を繋げる。
【やばくないか?】
【何がだい?】
【――このままだと死者が出る】
センシが知覚した限り、屋上には犬崎とその取り巻き達二人。校庭にはシオン達四人。そして後者には猿渡とそのチームメンバーの計4人がモンスターの討伐と避難誘導を行っているが、明らかに人手不足だ。
校舎内には明らかに逃げ遅れた生徒たちが居り、モンスターに怯えて所々に隠れて散らばってしまっている。モンスターはすぐにその生徒たちを見つけて害すだろう。
校庭から誰か一人校舎に増援させたいが、学校上空と校門付近に現れた
猿渡もそれが分かっているのか、校舎内に現れた
「犬崎は何しているんだ……」
「戦っているよ」
「なに?」
「見てこれ」
そう言ってクラスメイトが見せて来たスマホには、犬崎のチャンネルの配信風景だった。
変身した犬崎が戦っているが苦戦しているのか余裕が無さそうだ。
:緊急配信って枠取ってなんだと思ったら本当に緊急じゃないか!
:なんでこんな時に配信しているんだバカ!
:↑他の探索者への応援要請、現状把握をスムーズにできるから
:てか犬崎が戦ってるのって
:Sランクに出て来る雑魚モンスターだけど、A級にはキツイ!
:何回か倒しているけど、次々と出て来る!
:しかも強いぞこいつ!
:誰かS級来て!
『くそ、話が、ちが……!』
『犬崎逃げようぜ! こんなの俺達には無理だ!』
『俺たちが死んでしまうよ!』
『黙れ雑魚ども! ……ちくしょうが!!』
その配信を見て犬崎が屋上のモンスターを早急に倒し、校舎内への加勢に赴くのは無理だと判断したセンシ。そもそも現時点で応援に駆け付けても死傷者は必ず出る。
「ごめん。ちょっとオレ行って来る!」
「空我くん!?」
クラスメイト達の制止の声を振り切って、センシは避難する生徒たち、避難誘導を行う先生たちを掻い潜って死角のトイレに入り込む。
「――流石にこの状況だと使うしかないな」
そして彼は覚悟を決めた。皆を守る為に。
「――5年ぶりだな」
彼が【白の英雄】と呼ばれる由縁となった――その力を。