SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第21話 白亜

 時は少し遡り。

 

「お前ら、配信すんぞ!」

「な、なに言ってんだよ犬崎!」

「そうだよ! こんな時にそんな事をしたら……!」

 

 イレギュラーが発生し一般生徒が右往左往するなか、犬崎は別クラスの取り巻き達を引っ張って屋上に向かっていた。その道中、彼が出した指示に取り巻き達は動揺してしまう。

 彼の言い分は最もだ。先日の一件で炎上とは行かないまでも、リスナーは以前の様に犬崎を盲目的に見る人間が減っている。これ以上迂闊な行動をすれば、自分達の首を苦しめてしまう。

 

「何言ってんだ逆だよ! 今見返してやらねぇと意味がねぇ!」

 

 だから、黙って従え。そう言われた取り巻き達は不安そうにしながらも配信準備を行う。

 その様子を見て犬崎は笑う。

 そうだ。これで良い。今日で自分は数多の探索者を超える存在になった事を、世界に示せる。

 

「――頼んだぞ、相棒」

【分かっているさ、犬崎】

 

 彼の頭の中に居る誰かと会話しながら犬崎が屋上に出ると、そこには()()()()(ゲート)が開かれ、異世界ダンジョンと繋がっていた。

 同時にスマホが自立して浮き、その様子が映し出されて配信が始まる。

 

:急に始まった

:謝罪会見か?

:犬崎がそんなことするタマか?

:ん? これ学校の屋上?

:え!? (ゲート)が開いているんだど!

 

「みなさん。今緊急で配信していますが、俺の学校でイレギュラーが発生しています! これを見ている探索者は応援と通報をお願いします!」

 

:やばいじゃん

:配信している場合か?

:今すぐ行く

:そんな事よりおれの推しのホムラたんとシオンたんは大丈夫なの!?

:犬崎どうにかしろ!

 

「俺も全力で戦うので、普段の様な余裕はありません――来ます!」

 

 (ゲート)からモンスターが放出される。

 出て来たのは牛の頭に筋肉質な人間の体を持つモンスター【ミノタウロス】。さらに黒血(ブラックブラッド)種と呼ばれる通常種よりも強力な個体だった。肌が赤黒いのが特徴だ。

 

:やばい

:逃げた方が良い

:Sランクモンスターじゃん!

 

「――逃げる訳ねぇじゃん。俺が逃げたら、誰がコイツを倒すんだよ」

 

 彼の発言にリスナー達はそれぞれの反応を示す。

 感心。歓喜。見返した。偽善。演技。様々だったが、概ね好意的な反応を示していた。

 

「――行くぜ!」

 

 そして犬崎はBBミノタウロスと戦闘を開始する。彼の黒く染まった爪とモンスターの棍棒が激突し、空間に衝撃が走る。

 お互い弾かれ、しかしすぐに犬崎は影の中に入り、次の瞬間にはBBミノタウロスの背後に回っていた。そしてそのまま爪で背中を斬りつけ、BBミノタウロスが悲鳴を上げる。

 

:Sランクモンスターを手玉に取ってる!

:すげぇ!

:やっぱり犬崎しか勝たん!

 

「――はは」

 

 犬崎は笑っていた。相手の動きが手に取るように分かる。

 

 この力があれば、空我に勝てる。

 

 それを実戦で理解した犬崎は気分が高揚し、BBミノタウロスの攻撃を全て回避し、自分の攻撃だけを当てていく。

 

「Sランクモンスターも大したことないな!」

 

 ダメージを与え続けていると、徐々に相手の弱点を感じ取れた犬崎は――貫手にてBBミノタウロスの心臓を穿つ。

 血飛沫が上がり、屋上を赤く染める。配信画面ではセーフティ機能が働きモザイク処理がされている。

 

:Sランクモンスターを単独撃破!?

:犬崎A級でもかなり上澄みなのでは?

:こんなに強かったか?

:空我くんに負けて何かあったのかな?

 

 コメントを見ると反応も上々で犬崎は気分を良くする。

 しかしイレギュラーはまだ終わっていない。

 屋上の(ゲート)からさらにBBミノタウロスが放出される。それを見た犬崎は笑みを浮かべて吠えた。

 

「来い! 何匹でもひき肉にしてやるよ!」

 

 

◆ 

 

 

 彼の腹部に宝石が現れた。そのままエネルギーが放出、可視化されてベルト状にぐるりと回って拘束する。

 そこから基点にセンシの全身をエネルギーが纏わりつき――白き鎧が彼を包み込んだ。

 

 白亜の全身甲冑。かつてこの世界に起きた大災害をたった一人で収めた――【白の英雄】。

 センシが誰かを守る為に戦う姿だ。

 

「久しぶりに使うからな。加減が難しい。制限時間は――」

 

 瞬間、センシは旧校舎のトイレから、

 

「――3分だ」

 

 新校舎の料理教室に移動し、今まさにモンスターに殺されそうになっていた生徒をその胸に抱いていた。

 センシは気絶している生徒を抱えて旧校舎の避難場所に移動し床に寝かせる。次は二階の教室に移動し、隠れていた生徒を旧校舎に。その次は音楽室。その次は職員室。その次は1階廊下。その次は――。

 

「なんだ!? 何が起きている!?」

「次々と生徒が運ばれているぞ! 誰かの魔法か!?」

 

 

 

「先輩! これは……」

「ああ。僕の祝福(ギフト)で辛うじて捉えているが、誰かが助力してくれている――我々はモンスターの駆除を優先する! 続け!」

「「「はい!」」」

 

 

 

「あと一人!」

 

 変身して1分経った所で、逃げ遅れた生徒たちを全て旧校舎に移動させる事ができた。これで少なくとも一般人から死傷者が出る最悪の事態は防がれた。

 

【その鎧は反則だね。あれだけの速度で移動してもソニックブームを起こさないだなんて】

 

 アルスターは、センシがただ単に素早く移動して片っ端から生徒を救出しているのを見ていた。狭い場所で、人が認識できない速度で移動すれば本来なら被害は甚大だ。それを抑えているのが彼の身を包んでいる鎧の力である。

 

「次は駆除だな」

「ぐぎゃ!?」

 

 そう言ってセンシは校舎の1階から順番に散らばっているモンスターを蹴り、殴り、吹き飛ばしていく。

 絶命したモンスターは魔力の粒子となって消えていき、それを目の当たりにした猿渡たちは立ち尽くしていた。

 

「何が起きているんだ……?」

 

 目に見えない何かが動いているのは分かる。モンスターがどんどん倒されているのは分かる。しかしそれ以外は何も分からない。

 猿渡は祝福(ギフト)にて辛うじて動く影を捉えるも、白いナニカが動いている事しか分からない。

 

「こうなったら、我々は(ゲート)攻略に向かう!」

「危険では……?」

「もし敵対するナニカなら、我々は既に死んでいる! 今は、最善の行動を信じるしかない」

 

 (ゲート)に飛び込んでくれた猿渡を見てセンシはホッとした。

 もし自分が(ゲート)に入れば、異界の神の事だ。さっさと(ゲート)の入り口を閉じて自分を隔離する事を見抜いていた。とことん嫌がらせをしてくる存在だと知っている為、そう推測する。

 

「次は――」

 

 センシは、校庭のモンスターがほぼ殲滅されているのを確認してから屋上に向かう。

 そこには、数体のBBミノタウロスの死体が転がっていた。そして中央には変身が解けて倒れている犬崎と、腰を抜かして怯えている取り巻き二人。そして自立してその風景を取り続けているスマホだけだった。

 

:やばい。犬崎死ぬ

:いえええええええい! ようやくこの世から居なくなるぜ!

:不謹慎だろ

:通報した

:てかおそらくこの先グロ注意だから、さっさと運営は配信止めろ

:見たくない奴は配信閉じた方が良いぞ

:誰か、助けてくれ!

 

「ち、くしょう……なんで、こんな事に……!」

「ブモオオオオオオオ!!」

 

 BBミノタウロスは、その手に持った棍棒を上げて雄たけびを上げた。

 それも、犬崎が初めに戦った個体よりも一回り大きい。

 

 最初は、確かにBBミノタウロスを倒していた犬崎だったが、その形勢も徐々にモンスター側に傾いてしまった。

 戦いが長引けば長引くほど犬崎の動きは悪くなり、最後にはこれまでよりも強力な個体に完敗してしまった。

 

 雄叫びを上げるBBミノタウロス。その身には切り傷があるが、既に塞がりつつある。犬崎の検討も空しく、彼の魔法はただミノタウロスを苛つかせるだけだった。

 BBミノタウロスは、目の前の獲物に手を伸ばし、先ずはその腸から喰らおうと口を開き、

 

「――ブモ?」

 

 白い閃光が走ったかと思うと、BBミノタウロスの腕は宙を舞っていた。

 ドサリと屋上のアスファルトに落ち、それを見ていたカゲロウチャンネルのリスナー達は驚きのコメントを残す。

 

:え?

:え?

:何が起きた?

:分からん

 

 誰もが戸惑う中――BBミノタウロスは突如この世から消える。

 白の英雄の放った踵落としが脳天から真っ二つに引き裂き、地面に足が当たった際の衝撃がそのまま肉体を魔力に変えて吹き飛ばした。

 

「な、なにが――」

「――おい、聞きたい事がある」

「……え?」

 

 衝撃で目を空けた犬崎は、それ以上の衝撃でさらに目を見開く事になった。

 

:え

:え

:これって

 

「――白の英雄……?」

 

:本物!?

:うそ、都市伝説じゃなかったの!?

:なんで広島に!?

 

 コメントが加速するなか、センシは犬崎を見て確信に変わった。

 何故彼がそうなっているのかは分からない。自分が関与して良いのか分からない。

 

 しかし学校のみんなを巻き込んだ。

 だったら許すわけにはいかない。

 

 故に彼は、配信前にも関わらず、犬崎を終わらせる言葉を紡いでしまおうとして――。

 

【上だよ。英雄】

「――っ!」

 

 彼は上空へと飛び、その拳を振り上げた。

 瞬間、辺り一面が光り輝き、学校に居る者たちはその眩しさに目を閉じて顔を顰める。

 

「いったい何が……?」

「……あ! アレを見ろ!」

 

 一人の生徒が気付き、空に向かって指をさす。全員がそちらを見上げると――絶句した。

 空を覆い尽くす様に現れた巨大な黒い渦。(ゲート)

 そしてそこからゆっくりと顔を出すのは巨大な蛇の顔――それが九体。

 まるで東洋の龍の様に太く長いソレはズルズルと飛び出し、その身の先を(ゲート)で隠しながら学校を……センシを睨み付けた。

 

:なんだこれ!?

:Sランクボスモンスター。クマタノオロチ!

:確か昔、ヒカリ様が討伐したけど……

:凄く強くて二度と戦いたくないって言ってたぞ!

:そんなのが何でこっちに来てんだ!?

 

「な、何が起きてんだよ……!」

 

 呆然と空を見上げて呟く犬崎の隣に降り立つセンシ。何とかモンスターの魔法を相殺できたが……。

 しかし犬崎はあまりの恐怖に彼の存在に気づかず、ただただ空に現れた巨大なモンスターを見上げていた。このままだとあのモンスターに殺されるというのに。

 

 だがしかし、センシはそんな事させない。

 

「残り1分――すぐに片付けてやる」

 

 センシの戦意を感じ取ったのか、クマタノオロチは口からそれぞれ様々の属性の魔法を放つ。

 回避すれば校舎に、そこに居る人たちに被害が及ぶ。故にセンシは一つ一つを破壊し、モンスターの首の一つを殴った。

 グパァンッ! と大きな音が響き、クマタノオロチが苦悶の声を上げる。

 

「何が起きているの!?」

「分からない。でも、誰かがアレと戦っている」

 

 地上のモンスターを全滅させたホムラが、シオンの肩に乗って問い掛ける。

 しかしシオンも状況を把握しておらず、困惑の表情を浮かべて殴られてその身を揺らしているクマタノオロチを見ていた。

 ここが戦場だという事を忘れて。

 

「――キシャアア!!」

 

 その隙を異界の神の尖兵は見逃さない。

 頭の一つが速度特化の雷の魔法をホムラ達に向けて放ち、さらに他の頭ら様々な方向に向かってでたらめに魔法を放った。被害を拡大させる為に。

 

 センシの事はよく理解している。こうすれば彼は絶対に守りに入る。そうすればこちらの攻撃が通る、と。

 

「――」

 

 それが彼の逆鱗に触れると知らずに。

 

 パパパッ、と空気を叩く軽い音が響くと同時に8つの魔法は消し飛び、そしてシオン達に向かっていた雷の魔法は――彼の拳が受け止めていた。

 バリバリとその身に雷を受け止めるも、まったく堪えた様子を見せない。それどころか、ゆっくりと振り返って仮面越しに幼馴染の無事を案じる余裕すらあった。

 

「――しろい……せん、し……?」

 

 視線が合い、ホムラが呆然と呟き、

 

「――」

 

 無事を確認したセンシは空中の塵を足場に跳んで跳んで――飛んで。

 

「お前、ホムラを狙ったな?」

「――キュッ」

 

 彼の蹴りがクマタノオロチの頭の一つを胴体から吹き飛ばした。

 感覚が繋がっているのだろう。他の頭が痛みに一瞬身を強張らせるが――その時間も直ぐに終わる。

 2つ。3つ。4つっと次々と白の閃光がクマタノオロチの頭を吹き飛ばしていき、全ての頭が捥ぎ取られていく。衝撃で胴体は浮き上がり、(ゲート)の縁に絡まる様に逸らされる。

 すると中央に胴体の集合地点が見え、センシは空中でキャッチした8つの頭を山積みに抱えて。

 

「全部返してやるよ、このクソ蛇」

 

 胴体に向けて思いっきり投げ込み――(ゲート)の奥へと押し込み、そしてその先で爆発四散した。

 

「まだだ」

 

 そしてセンシはトドメと言わんばかりに拳を握り締め、ギシリと空間が歪み、腕部分の鎧が砕け――解き放たれたパンチは、空に発生した(ゲート)を破壊した。

 

:すげえええええええ!

:クマタノオロチをあっという間に!

:アンチ白の英雄ども見ているか? これが英雄だよ!

:ヒカリ様とどっちが強いんだろう

:当然ヒカリ様だろ

:いや、白の英雄だな

 

 その光景をカゲロウチャンネル越しに見ていたリスナー達は賞賛し、

 

「――すげぇ」

 

 犬崎は、まるで子どもの様な顔で白の英雄の姿をその目に焼き付けた。

 

 

 

 

 屋上に着地する前に何とか腕部分を修復して貰う。

 制服が見られたら不味いからな。白の英雄がこの学校に通っているとバレたら、オレの正体も芋づる式にバレる可能性がある。

 屋上に辿り着くと、犬崎がこちらを見てボーっとしていた。どうしたんだろう。朝からやばかったが、今は何と言うか別の意味でやばそうだ。

 

「おい、お前――」

 

 話しかけようとしたその時、まだ存在している屋上の(ゲート)からBBミノタウロスが出て来た。それもさっきオレが倒した奴よりも大きい個体が4体。

 何でまだ出て来るんだ?

 そう思いつつも駆け出し、一体の頭を蹴り砕いて消滅させ、その次は手刀を薙ぎ払って真っ二つにして戦闘不能に、そして三体目にパンチで吹き飛ばす。多分空の彼方で爆発四散する。

 

「ブモ!」

 

 残りの一体は、そもそもオレを狙うつもりが無かったのか、仲間を囮に犬崎の取り巻き達に向かって走り出していた。

 

「「ひ、ひぃいいいいい!」」

 

 取り巻き達は襲い掛かるモンスターに悲鳴を上げて動けない。

 しかし問題ない。襲われる前に届く。

 オレが足を踏みしめると同時に――何かが凄い速さでこちらに向かって飛んでくるのを感じた。

 

「――っ!」

 

 なんだ、とそちらに意識を向けた時には、既に()()はこの屋上に到着しており、流れる様に水色の軌跡を描きながら――痛恨の一撃をBBミノタウロスに叩き付ける。

 

流水脚(りゅうすいきゃく)!!」

「ブモ!」

 

 バランスを崩して倒れ込むBBミノタウロスの前に既に移動したソイツは、手に持った青色の棍棒を突き出し、さらに上に振り、右に、左に、下に、と連撃を叩き込む。

 

激龍連牙(げきりゅうれんが)!!」

「ブモモモ!!」

 

 そしてトドメに、踏みしめた足から水の魔力が沸き上がり、術者の身を螺旋を描きながら昇っていき、手に持った棍棒の先に集う。

 練り込められた魔力が今か今かと解放されるのを待っているなか、

 

「太古より伝わりし、我が秘伝の技を来れてやる――滅せよ!」

 

 ()()は力強い笑みを浮かべてBBミノタウロスに必殺の一撃を叩き込む。

 

蒼牙龍爪撃(そうがりゅうそうげき)!!」

 

 叩き込まれた水の魔法は、BBミノタウロスの体内の水分を爆発させて――そのまま塵に変えた。

 赤い雨を全身に浴びるも、すぐに水の魔法で洗い流し、深い青色のボブカットから水滴を落としながらソイツは叫ぶ。

 

「天が泣き、大地が叫び、人が涙するこの混沌の世」

 

 身に纏ったチャイナドレスは彼女のイメージカラーである青を基本としており、さらには鱗に覆われた龍の尾が存在感を示していた。

 

「我が絶技により、汝の悲しみを薙ぎ払おう――」

 

 どういう訳か、彼女の蒼い瞳はこちらを真っすぐと見据えていた。

 

「我が名は水無月シスイ! ダンジョンギルド随一の水の戦士なり! ――ようやく会えたな白の英雄!」

 

 そして彼女は、オレのクラスメイトは物凄く嬉しそうに白の英雄(オレ)に話しかけて来た。

 

 ……一番会ってはいけない奴に会っちゃったぁああああああ!?!?




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