SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第22話 止水

 水無月シスイ。広島ギルドに所属するB級ダンジョン探索者だ。

 オレ達と同じクラスメイトだが、今は東京のダンジョン遠征に赴いていた為学校を休学していた女の子。

 犬崎と同様にダンジョン探索の時に配信を行っている。チャンネル名はドラゴンチャンネル。

 祝福(ギフト)名は【龍流(ドラゴン)】という名前で、龍の尻尾、龍の角が生えているのが特徴。

 使用武器は青色の棍棒で、自由自在に操るその戦闘シーンはリスナー達にウケが良い。

 

 そして何より、彼女を語る上で最も外せない要素と言えば――。

 

「ふっ。一万と二千年前から会いたかったぞ――我が心の師」

「……初めて会ったと思うが」

「――そうか。貴方は見えないのだな。我らの間に存在するこの縁の糸が」

「そんなものないが」

「……ふっ。気にするな。ただの戯言だ」

 

 ――彼女は厨二病である。それも他者を巻き込んでそのまま暴走するタイプの。

 空我センシとしては毎日教室で顔を合わせていたけど、白の英雄としては会っていない。もしかしたら5年前の災害で助けた可能性があるけど、こんな特徴的な事を言う奴が居たら忘れないと思う。

 

「しかし流石だな。わたしの想像以上の実力だ。あの地獄九頭皇帝大蛇(ナインヘルスネークエンペラー)を一瞬で倒すとは」

「クマタノオロチじゃなかったか? アイツの名前」

「再生する頭をほぼ同時に潰し、弱点である胴体の集合箇所に必殺技の英雄の天翔ける風(アルティメットペガサス)で止めを刺すとは。よく分かっている」

「オレはお前が何を言っているのか分からない」

 

 何でお前は一応初対面である白の英雄に対して、そこまでグイグイと自分の世界を広げる事ができるんだ。

 ある意味ホムラよりも水無月(コイツ)に自分が白の英雄だとバレたくなかった。別にただの厨二病だったら問題無かったのだが……。

 

「貴方とはもっと語り合いたいが……失礼」

 

 目を爛々と輝かせて尻尾を犬の様に振り回していたシスイだったが、彼女は犬崎の方へと向かう。

 すると変身が解けて座り込んでいた彼は嫌そうな表情をしてシスイから顔を背ける。しかし彼女はそれに気にした様子を見せずに犬崎に言った。

 

「久しぶりだな犬崎」

「帰って来ていたのか厨二病クソ女」

「ふっ。相変わらずよく吠える」

「あ゛ぁ゛!?」

「お前と吠え合うのも良いが――まだイレギュラーは終わっていない。早くソイツらと避難しろ。魔力戦闘体が破壊された今、お前は戦力外だ」

「ちっ……!」

 

 正論ゆえに犬崎は何も言えず舌打ちしかできなかった。さらにこの二人は、確か昔……。

 

「白の英雄」

「……なんだ」

 

 振り返り、相変わらず人の目を真っすぐと見るシスイ。今のオレは、全身鎧で目の位置分からないだろうけど。

 

「わたしはこれから校舎内の(ゲート)を閉じる。校門前は我が宿敵(とも)が向かっているから問題なかろう」

 

 チラリと視線を向けたその先には、ホムラが校門前の(ゲート)の中に入る背中が見えた。シオンも一度巨人化を解いて後に続いており、あのレベルなら二人でも問題は無さそうだ。

 彼女もそう思っているのか、笑みを浮かべて二人を見送りこちらに視線を戻す。

 

「そこのSランクモンスターが出て来る(ゲート)は任せても良いだろうか?」

「……オレはダンジョン探索者じゃない」

「それを承知の上で依頼している。望むのなら報酬はわたしの個人資産で払おう。金銭以外を望むのなら、この体もくれてやる」

 

 そう言って胸を張るシスイに、オレは反射で目を逸らした。

 多分シオンみたいなセクハラ的な意味じゃないんだろうけど……。

 いかん。最近ハヤテやホムラのせいで思考がピンク色になっている。煩悩退散煩悩退散。

 

「……必要ない。こっちの(ゲート)はオレが消しておく」

 

 もしかしたら黒歴史があるかもしれないしな。犬崎が倒したBBミノタウロス、途中から異界型に変わって、倒しても肉体が残っていなかったし。

 オレの返答を聞いてシスイは満足したのか、嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「感謝する! それではわたしは先に行く! また会おう!」

 

 そう言って彼女は校舎に続く階段に向かって走って行った。

 犬崎とその取り巻き達も続き、彼らは一瞬こちらを見たが何も言わずにこの場を去って行く。

 

「やっぱりアイツとこの姿に会うのはダメだな」

『そうなのかい?』

 

 (ゲート)に入りながら、オレはひとり言を溢す。それに対してアルスターが疑問の言葉を返す。

 シスイと会いたくなかった理由。それは彼女が厨二病であるから、ではなく……。

 

「白の英雄好きすぎるだろ……」

 

 いつも教室で白の英雄が大好きだと公言しているからだ。

 それを毎日聞かされているオレの気持ちを考慮すれば、まぁ……分かるだろう?

 

『そんなものなのか。人間はやはりおかしな生き物だ』

 

 アルスターのその言葉に、そうだなと思いつつオレはダンジョンに潜って行った。

 

 

 

 

 (ゲート)が全て閉じられ、授業はその後普通に進められた。ダンジョンに慣れた世界ならではである。

 猿渡たちは先に報告にしにギルドに向かい、ホムラたち一年生組はそのまま学校に残る事となった。再び(ゲート)が開く可能性が無いとも言い切れない為。

 

「水無月さん久しぶり!」

「うむ。皆元気そうで何よりだ」

 

 変身を解き、流れる水の様に綺麗なロングストレートの黒髪が揺れる。

 厨二病だがコミュニケーション能力は高いのか、男女関係なく彼女の帰還を皆が喜んでいた。

 

「水無月! 配信見てたぞ! お前相変わらず恥ずかしい事してるな~」

「恥……? 何がだ? わたしにその様な物はない」

「自信たっぷりな所は変わらないなぁ」

「日々精進しているからな。それに、今回の遠征はわたしだけの力ではなく、皆が力を合わせ、協力し、志を共にしていたからこその結果だ」

「カッコいいなぁ。厨二病は恥ずかしいけど」

 

 クラスの男子たちは笑いながら、彼女の弄る様な物言いをする。

 どうやらシスイのチャンネルは男子人気が高いらしく、学校では毎回彼女の配信を見た者たちが感想を述べている。

 しかし女子は違うのか、彼らの相変わらずの物言いにムッとして口出しをする。

 

「ちょっと男子! 水無月さんは女の子なのよ! その言い方は無いんじゃない?」

「構わないさ。友情に男女の壁は関係ない。それに、気兼ねなく接してくれる方がわたしも嬉しい」

「そうそう。俺らとコイツは男友達みたいなものだから!」

「正直水無月を女として見るのはなぁ」

「体つきはエロイけどな」

「ふっ。白上、相変わらずだなお前も。もっとも、わたし自身己の肉体には自信がある」

 

 そう言って胸を張る彼女のEカップが揺れる。その光景に目を奪われる男子たちだが、女子たちの冷たい視線を受けて慌てて目を逸らした。

 

(((でも俺/僕/拙者は正直、水無月のこと女として好きなんだよな……距離感近くてドキドキするし)))

 

 そしてクラスメイト達は皆、同じ想いを胸に抱いていた。

 男なんて生き物は単純である。そんな彼らの習性を水無月以外の女子生徒たちは気が付いていた。

 

「さて」

 

 クラスメイト達に囲まれていた彼女は、その集団から抜け出しホムラの席へと向かう。

 彼女はスマホを操作し、シスイに全く視線を向けない。しかしそんなホムラの態度は折り込み済なのか、フッとクールな笑みを浮かべてシスイは語り掛ける。

 

「久方の再会に、それは冷たいのではないか? 我が宿敵(とも)よ」

「別に教室でわざわざ話さなくて良いでしょ……」

 

 このまま無視すればもっと面倒になると思ったのか、スマホを仕舞ってジト目を向けるホムラ。

 他の者なら彼女の態度に委縮して退散するが、このコミュ強厨二病女は伊達じゃない。名前とは真反対な冷たい反応に気を悪くした様子を見せずに、不敵な笑みを浮かべる。

 

「わたしはライバルとは切磋琢磨していく仲でありたい。しかし同時に、夢を語り合う間柄でもありたいと思っている。そこに時と場所は問題なかろう」

「問題なのはアンタのキャラなのよ……恥ずかしい」

 

 ホムラはオタクである。故にシスイの厨二病キャラは共感性羞恥を刺激されて背中が痒くなってしまう。

 一時期そういうアニメにハマって眼帯をし、腕に包帯を巻いたことがある。それをセンシに見られた事もある。ストレスで気がおかしくなりそうだった。当然脱いだ。センシは厨二病がちょっと怖くなった。

 

「何を言う! これはわたしの心の師、白の英雄を参考にした振る舞いだ」

「……なんでだよ」

 

 その言葉を聞いて思わずセンシは突っ込んだ。何処で拾った情報かは知らないが、シスイの中では白の英雄は厨二病キャラの様に映っているらしい。本人的にはクールキャラを演じているだけなのだが。

 センシは否定したかったが、5年前に一度だけ姿を見せそれ以降は身を隠していた為、世間的には白の英雄の存在は謎に包まれている。故にシスイの勘違いを否定も肯定もできなかった。

 

 だが、今は違う。

 

 屋上にて実際に会ったのだ。これでシスイの中にある歪な白の英雄へのイメージは払拭されるだろうとセンシは期待した。

 

「でも見た感じ、そういうキャラには見えなかったけど」

「そうか? わたし的には、想定通りの人柄に見えたぞ」

 

 ホムラの言葉に返したシスイの感想に、センシは絶望した。卒倒したかった。

 既に彼女の中で白の英雄に対するキャラ付けは確定しているらしい。ホムラは白の英雄に対して同情する。

 

「でも……強かったね」

「ああ。あれこそわたしが目指すべき場所だ」

「規格外すぎると思うけど……」

「そう言うな。ハードルは高ければ高い程燃えるというものだ。共に高め合おうではないか」

「……え? あたしも巻き込まれてる???」

 

 ライバル認定されているホムラの困惑した声に、しかしシスイは止まらない。

 

「もっとも、上ばかりを見ていては足元を掬われる――新たな宿敵(とも)も現れたしな」

「うわ、こっち見た」

 

 自分の席に退避していたセンシが嫌そうな声を上げる。

 

「行って来たら?」

「お前はどうなんだよ」

「今のテンションのシスイちゃんと関わったら火傷しそうだから遠慮しておく~」

 

 そう言って生贄の様にセンシを差し出すシオン。

 こいつ覚えておけよ、と思いながらセンシはホムラとシスイの元へと赴き一言。

 

「久しぶり。元気そうだね。それじゃあ」

「まぁ待て空我。我が宿敵(とも)の伴侶としか見ていなかった事を詫びさせてくれ」

「幼馴染な?」

 

 ホムラは嬉しそうに否定しなかった。

 

「犬崎の配信を見ていたぞ。強いな空我は」

「……ありがとう」

「あの体捌きは見事の一言だった。わたしでも対応が難しいかもしれん。それに、あの動き――」

 

 シスイは、まるで確信を得たかのように、

 

「白の英雄と動きがとてもよく似ていた」

「――」

 

 センシの心を揺らす一言を呟いた。同時に己の浅はかさに気づかされる。

 シスイはとても目が良い。犬崎の配信を途中から見て、センシの動きから彼の狙いやその特異性を理解し、彼らの力量差を測れる程度には。

 ならば、身体能力に差はあれど動きを見ればセンシと白の英雄が同じ戦闘スタイルと気付く事ができるのは、当然の帰結である。

 

 沈黙した彼の態度に、シスイはやはりかと笑みを深める。

 

「空我。貴様――」

 

 そして彼女は彼に対して決定的な言葉を紡いだ。

 

「――5年前に直接、白の英雄に助けられたのだな!」

「……え?」

「初めて配信を見ていた時から気が付いていた。あの動きは白の英雄のものだとな。あれができるのは、あの人の戦う姿を見た者にしかできない。そうであろう?」

「……あ、はい。その通りです」

 

 予想外の展開にセンシは生返事をしてしまう。

 彼の返事にシスイはまるで仲間を見つけたかのように、嬉しそうにうむうむと腕を組んで頷く。

 

「ふっ。そこまでに至るのにどれだけの時間をかけたのか、わたしには分かる。星の祝福を得られずとも、腐らず、ひたむきに、準備をしていた――その姿勢には素直に賞賛する」

「あ、はい」

「魔力レベル1に英雄と祝福(ギフト)は恵まれていなかったが――貴様は初めから【持たざる者】としての戦いをずっとしていたのだな。尊敬に値する」

「あ、はい」

 

 センシは気付いた。コイツ、目は良いけど節穴だ、と。

 しかし都合が良いため壊れたロボットの様に肯定し続ける。とても気分が良さそうなので、このまま行けそうだと判断した。

 

「それに比べて――犬崎! なんだお前は、あの無様な姿は」

「ちっ。うるせーな」

「恥ずかしくないのか? 悔しくないのか? 普段見下している相手に下剋上され、そのまま不貞腐れるのは、お前が普段口にしている【雑魚】そのものだぞ」

「――喧嘩売っているのか? てめぇ」

「そうではない。指摘している」

 

 ガタリと席を立ち、ズンズンとシスイに近づくと彼女の胸倉をつかむ犬崎。

 それを見たクラスメイト達はムッと表情を顰めて彼を止める。

 

「やめなよ犬崎くん!」

「そうだぜ。それに水無月が言っている事は正しいぞ」

「これに懲りたら、これからの言動直した方が良いよ」

「うるせぇ! 今やりあえば、次は俺が勝つ!」

 

 そう言って叫び、犬崎はニヤリと笑みを浮かべてセンシを見る。

 

「どうだ? 今日の放課後ヤるか? 次は妙なズルはさせねぇぞ?」

「――ズル? ズルだと」

 

 犬崎のセンシへと向けた挑発は、何故かシスイに効果があった。

 ガクンと突如腕に負荷がかかった犬崎は膝を付き、さらに息苦しくなる。

 飛びつき三角締め。シスイが犬崎に仕掛けた技だ。

 

「羨ましい!」

「ユウマくん空気読んで」

「クラス一のムチムチの太ももに挟まれるとか羨ましいに決まっているだろうが!! しかも水無月はちゃんとスパッツ履いていないから!」

「ユウマくん空気読んで」

 

 外野が騒がしいが、当人たちはそれどころではない。

 犬崎は窒息させられそうになり顔が真っ赤になり、そしてシスイもまた怒りで顔を赤く染めている。

 

「あれは研鑽された技術だ。それを見抜けない間抜けが、不正行為を働いた愚者が、言うに事を欠いて「ズル」だと? ――恥を知れ!!」

 

 普段、他者と摩擦を生まない様に立ち回っているシスイだが、彼女は割と感情的な部分がある。

 故に不快な事は不快だと言うし、気に入らない事はしない。

 そして何より、何事も報復に仕返すタイプの人間だ。暴力には暴力で、侮辱には侮辱で。

 

「は……はなせ……!」

「訂正しろ。さもなければこのまま意識を落としてやる……!」

 

 しかし犬崎は吐いた言葉を飲み込まない。プライドが高い彼らしい意固地さだ。

 このままだと本当に犬崎の意識が無くなるまで締め続けるだろう。故に止められるのは彼だけだった。

 

「水無月。オレは気にしていない。だからやめてやれ」

「だが……」

「あの配信の後、オレも言いたい事は言っている。だからもう良いんだ」

「――分かった」

 

 拘束を解いたシスイはそのまままクルリとジャンプして着地し、それを見ていた白上は「白!」と叫び黛に沈められていた。

 ケホケホッと咳き込み、呼吸を繰り返す犬崎は涙目でシスイを睨み付ける。しかし全く迫力がなく、逆に睨み返される始末だ。

 

「犬崎。わたしは悲しいぞ。かつてのチームメイトがどんどん落ちぶれていく姿は」

 

 シスイはかつて、犬崎と共に猿渡の元に居た。そこで研鑽を積み見事A級になった経歴を持つが、その後自分が隊長としたチームを組んだ。その時、犬崎とは違いB級からスタートしている。

 故に、自分と犬崎の違いに思う所があり普段から注意をしているが……一向に改善されない所か悪化する犬崎に、シスイは顔を歪めた。

 

「へっ。そういうお前もいつまで経ってもA級に上がれねぇじゃねか。強くてニューゲームに失敗した負け犬が」

「ふむ。肩書きには固執していないが、お前に馬鹿にされるのはシンプルに腹が立つな」

 

 シスイは彼を睨み付け、犬崎も睨み返す。

 

「放課後、修練所で稽古してやる」

「いいぜ。いい加減てめぇにはうんざりしていた所だ。ボコボコにしてやるよ」

 

 そして二人はセンシへと顔を向け、

 

「空我。そういう訳で審判を頼む」

「このバカ女の次はてめぇだ」

「……え? オレも行くの?」

 

 巻き込まれたセンシの戸惑いの声に、クラスメイト達は彼に同情した。

 ここから逃げられる保険? そんなものは存在しない。

 センシは世の無常に心の中で涙を流した。




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