SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する 作:カンさん
――東京ギルド。
会議室に7人の男女が集まっていた。
ぐるりと円卓に座る彼ら彼女らの中には天ツ上ヒカリも居り、ただ座っているだけで存在感を示していた。
「会議が始まる前に、改めて紹介しよう」
ヒカリは今回の会議に参加している一人の少女――ハヤテを立たせて、その場に居る者たちに彼女を見せる。
「新たなS級ダンジョン探索者の風緑ハヤテさんだ。みんな、仲良くしてあげてくれ」
『よろしくお願いいたします』
スマホで音声を鳴らし、やる気なく頭を下げるハヤテ。彼女は早く帰ってセンシの匂いを嗅ぎたかった。
紹介された残りの5人の男女もよろしくと軽く挨拶を交わす。
「さて。今回の会議進行は飛鳥さんに頼もうか」
「かしこまりました」
ヒカリに指名されたのはスーツを着た青年だ。
優しい顔つきに丁寧な言葉遣いは、相対する者に穏やかな印象を与える。
飛鳥は、端末を操作し円卓からホログラフィを映し出す。そこに出されたデータは、今回の遠征で得られた成果だった。
「今回試験運用を兼ねたA級のみの遠征ですが、採取されたモンスターの素材、レアアイテムの価値から……およそ10億の利益を得たと思われます」
「ふむ。それは……少ないのう」
老婆口調の幼い少女の声が、飛鳥の報告に眉を潜める。
「ええ。以前S級ダンジョン探索者が参加した際にはこの十倍の利益を出した事を顧みると、やはりA級だけでは力不足です」
「ククク……でも彼らは彼らなりに頑張っているみたいですがねぇ」
狂気を孕んだ声が言葉を溢すが、会議に参加した者たちは皮肉だと感じる。
S級ダンジョン探索者が参加した時と比べると、どうしても損益に差が出てしまう。
頑張っているから仕方ない。その言葉で済ますにはあまりにも結果が伴っていない。
今回の犠牲者が20人と多ければ尚更に。
「嘆かわしいですねぇ。せっかく育ってきた彼ら彼女らが亡くなったのは。それで、遺体の回収はできたのですか?」
「……来馬さん。分かり切った事を聞かないでください」
飛鳥はため息を吐き、
「ほぼ全員ダンジョンに喰われています。帰還された犠牲者は3人分のみ」
「そうですか。それは――残念ですねぇ」
言葉だけならば、亡くなった者に対して惜しんでいる様に思えるが。
「勿体ないですねぇ。では、契約通り持ち帰った遺体は私の所に回して頂いても?」
「……来馬さん。貴方という人はっ!」
飛鳥が怒った表情を浮かべる。まるで人を物の様に扱うその言動に我慢ならない、といった風に。
今回の犠牲者に対する遺族への対応がまだ終わっていない状態で、亡骸をどうするのか。それは、来馬と呼ばれる者の言動から容易にイメージが可能である。
しかし来馬は何故自分に怒りの感情を向けられているのか理解していないのか、キョトンとした表情を浮かべて肩を竦める。その動作すら、見る者を煽るというのに。
「良い。遺族には
「しかし天ツ上さん……!」
「元より、来馬の言う通りそういう契約を結んでいるから文句は言えん。
だが来馬。お前の行いには責任を持て。無為に終わるのなら、即刻その首が飛ぶと知れ」
「ククク……相変わらず手厳しい。怖すぎて泣いてしまいそうですよ」
そう言って目元を拭う動作をする来馬。その様子に誰かが舌打ちをする。どうやらこの男は他の者から嫌われているらしい。
「しかし今回は仕方のない事だ。風緑、キョウメイと
その事を説明すれば、多少遺族も納得してくれるかもしれないと彼女は言った。
犠牲者の把握、処遇の確認が終わり次の議題へと移る。
「ここ最近のイレギュラーについてですが、何れもダンジョン災害に発展する物を見受けれません」
「そうだね! 全部ショボいもんね! 発生件数も少ないし、一番多いのは名古屋の7件で危険度も低いよ!」
ばったんばったんっと椅子を揺らしながら幼い男子の声が肯定する。
「しかしそれは今日までの話」
そう言って端末を操作し、円卓から出されている映像を切り替える飛鳥。
そこには今回広島で起きたイレギュラーの報告書が写真付きで映し出されていた。突如学校で起きたイレギュラーな
「これは異常ですねぇ! 本来
「興奮しないでください来馬さん不謹慎ですよ」
「おや、失敬」
「まったく……しかし、確かに異常です。これまで広島ではイレギュラーが起きず他の地域と比べて平和だった分余計に」
写真には破壊されている校舎。暴れるモンスター。廊下に発生している
さらに報告書に添付されているのはそれだけではなく……。
「そして今回注目すべきなのは――彼です」
彼らの視線の先に居るのは――白の英雄だった。
カゲロウチャンネルが捉えた彼の戦闘シーンと、犬崎に話しかける時の映像と写真がしっかりと映し出される。
彼の姿を見た途端会議室の雰囲気が一瞬で変わった。
憤怒。好奇心。疑念。畏怖。情景。発情。嫉妬――様々な想いが英雄に向けられる。
『最強』
「……ふんっ」
ハヤテがスマホの音声で一言発音させると、それに寡黙な印象を与える男が反応を示す。
氷のように冷たく、しかし白の英雄に向ける感情はマグマの様にぐつぐつに煮え滾っていた。それを感じたハヤテはひっそりとその男を要注意人物と心の中でメモをする。
「わー、凄い! 全く動きが見えないや!」
「ふむ確かにのぅ。ちと相手にするには骨が折れそうじゃ」
幼い男女の声が白の英雄の戦闘能力の高さに舌を巻く。
BBミノタウロスを瞬殺し、さらにクマタノオロチの攻撃を全て捌きひと蹴りする姿はまさに最強。まさに英雄。まさに異端。
故にその力に焦がれる者は多い。
「……」
ジッとその映像を見るヒカリの眼は――黄金に輝いていた。
「その後、水無月シスイB級探索者が接触し助力を願い……」
「ちっ」
「……彼はそれを受け入れ
途中寡黙な男の大きな舌打ちが入るも、飛鳥は報告を済ませてその場に居る者たちを見渡す。
どうやら全員白の英雄の力を認めているらしい。
「やはり確定しましたね」
飛鳥は次のデータを映像に映し出される。
そこには此処5年の……正確に言えば、あの史上最悪のダンジョン災害から
しかしそこに飛鳥が一つ操作すると――他のグラフをごぼう抜きし、広島のイレギュラー発生件数が他の地域の10倍以上に膨れ上がった。
「白の英雄は広島に居る」
ハヤテの鼓動が早くなった。
「ふむ。やはりか」
「予兆はずっと確認していたけど実害無かったからねぇ」
「ククク……これでプラフの可能性は無くなりましたねぇ」
「ああ――奴は現在学生である可能性が高い」
ハヤテの頬に冷や汗が垂れる。
「しかし5年前に現れた時の目撃情報から、肉体の成長が見られませんねぇ」
「何かしらの異能じゃろうて。
「ククク。加えてかなり甘い考えの持ち主だ。己の姿を晒すリスクを飲み込み人助けを優先し、利益無くダンジョン攻略をするなど。私にとって都合の良い存在だ。ククク……」
――バレている。
ハヤテはセンシの所在が広島にある事が、これまで黙認されていた事実に震えていた。自分の行いもヒカリには看過されている事には気付いていたが……思っていたよりも彼女たちは優秀だった。
これは、帰ったら絶対にセンシに伝えなくてはならない。
「……」
「しかし何故今になってここまで大胆に行動に移したのか」
「うむ。実に分かりやすいのう」
白の英雄の行動によって、次の話に進みやすくなる。
飛鳥が次に出したのは――彼の黒歴史。
「どうやら、かの英雄もコレを狙っているらしい」
「そうなると、ヒカリ殿の憶測も確定しそうじゃのう」
「ふっ。それは実際に本人に聞いてみないと分からないがな」
不敵な笑みを浮かべるヒカリは、現在も尚解析されている黒歴史に視線を移し。
「アレを回収し、全てを解き明かしたその時――我々は勝利する」
もしセンシが聞けば強く否定するだろう。そんな事ありません勘弁してください、と。
「やはりあの英雄譚には、彼の弱点が?」
「ククク。それだけなら良いのですが、英雄の力の秘密、根源、出所があると価値がさらに上がりそうですねぇ」
「ぼく楽しみだなー! あの本に書かれている事が分かれば異界の神をぶっ殺せるんだよね!」
「まだ分からぬが可能性は高いじゃろうな」
ダンジョンギルドは、センシの黒歴史を……英雄譚を貴重な情報源として捉えているらしい。
これから先も現れるダンジョンやその先に居る敵を倒す為の手段――ワイルドカードとして。
それを知ったセンシは卒倒して、伝え方を誤ったアルスターに八つ当たりをしたのは記憶に新しい。
ハヤテは手遅れだな、と達観していた。変に否定をすれば自分と白の英雄の関与がバレてしまう故に。
「――そうなると、さっさと回収した方が良い」
寡黙な男が口を開く。
「己の弱所を放置するとは思えん。これまで広島で暴れていたのも、
「その可能性は高いですね……そうなると、彼よりも先に回収する必要がありますが」
そこで懸念となるのは、白の英雄との争奪戦だ。
飛鳥は測り兼ねている。今回の映像だけで白の英雄――センシに勝てるかどうか。
「皆さんはどう思いますか?」
「ふん。決まっている」
寡黙な男は――その瞳に、白の英雄に対する強い敵意を抱きながら吐き捨てた。
「奴はオレが殺す」
「……いや、殺したらダメなんですって」
「まぁ、この映像を見る限り6人掛かりで勝てるじゃろうて」
幼い女子の声が、じっくりと映像内の白の英雄の動きを分析して答える。
こちらが投入できる戦力、
「何よりさ! ヒカリちゃんが居るから余裕だよ!」
それに同調する様に幼い男子の声が叫ぶ。
「ヒカリちゃんは単純計算でS級8人分! その強さがあれば大丈夫!」
「ふん。随分な評価だな」
ヒカリはその言葉に不敵な笑みを浮かべ、
「――過小評価は気に喰わんな」
「……そう、だね。ごめんね」
場をとてつもないプレッシャーが包み込む。
それにより、その場に居る者たち全員が冷や汗を垂らし呼吸を忘れてしまいそうになる。ハヤテも例外ではない。
それだけの力量差が、彼女たちの間で存在している証明だった。
(この前、アルスターはただではすまないって言っていたけど……)
今ならその言葉を彼女は理解していた。
センシがもし東京ギルドにて保管している黒歴史を回収しに向かい、S級ダンジョン探索者と……天ツ上ヒカリと戦えば、確かにただではすまないと彼女も感じた。
そこに自分がセンシの加勢しても変わらない。むしろ邪魔になる。
ハヤテは鎧を纏ったセンシの力、恐らく戦闘時の本気を見ていないが……それでもヒカリの実力は未知数に感じた。
「さて。そこで
場を制した彼女は、この場に居る者たち――S級ダンジョン探索者たちに言った。
「明日、英雄譚を獲りに行く」
その言葉に場は騒然となった。
「という事は、やはり」
「ああ。今回の遠征先にあの英雄譚が存在するのは確実だ」
チラリとヒカリは視線を移し、しかしすぐに戻す。
「時間が経てば白の英雄も察知する。その前に
「ククク。私は皆さんと違って戦闘は苦手なのですがねぇ」
「当然お前も来い来馬。何なら、貴様の
「無理ですねぇ。
不味い事になった、とハヤテは内心焦る。
彼女もまた、今回の出迎えで黒歴史がダンジョン奥にある事を把握していた。故に帰ったら彼に伝え、後日赴く予定だった。
しかしダンジョンギルドの行動が早い。そんな悠長な考えでは先を越されてしまう事が確定した。
さらに最悪なのは……。
「という訳で風緑さん……いや、ハヤテ。君にも手伝って貰おう。これから志を共にする仲間として」
「……分かった」
「……ふふ。ようやく肉声で応えてくれたね。
正直心情的には逆である。難敵。天敵。やばい強敵だと感じている。
「今日はしっかりと休むと良い。もしくは準備の為に広島に戻る事も許可しよう」
「……分かった」
ポンッと頭を置いてそう語り掛けるヒカリの目を、ハヤテは見る事ができなかった。
しかしヒカリはそれに対して機嫌を損なえた様子を見せず、満足そうに頷いた。
「さて。次に議題に映りましょう。現在存在が示唆されている異界の使徒ですが、おそらく探索者内に裏切り者が――」
その後も会議は続いたが、ハヤテはあまり頭に中に入らなかった。まるで魔法にかかった様にボーっとして。
感想、お気に入り、評価お願いします!