SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第24話 龍流

「ボクたちは報告があるから」

「ごめんねセンシ」

 

 そう言ってホムラとシオンはギルド長室に向かった。逃げたとも言う。

 シスイと犬崎に連行される形で、センシは再び訓練施設に赴いた。そこでは先客が居り、C級探索者たちが祝福(ギフト)を使って訓練をしている。

 彼らは施設に入って来た犬崎とシスイを見て反応を示す。

 

「あれって犬崎じゃん」

「それに蒼の狂気シスイじゃない?」

「あ、最弱詐欺の空我も居る」

 

 コソコソと噂話をする彼らに、シスイはふんすと鼻息荒く喜ぶ。

 どうやら彼女にとってこういうシチュエーションは大好きらしい。そんなシスイに呆れた目を向けるセンシ。

 

 ステージに上がりそれぞれ変身して向かい合う二人。センシは端末を操作し、試合設定を行う。

 

「3先で良いのか?」

「わたしは構わない」

「ふん」

「それじゃあ――始め」

 

 二人から了承を得たセンシは端末の設定を確定させ、試合開始のボタンを押す。

 すると二人は同時に駆け出し、影で覆われた爪と棍棒が激突する。

 一撃、二撃、三撃と繰り返すのを傍から見ていると、試合の観戦に来たのか他のC級探索者たちが自分達の訓練を辞めて周りに集まって来る。

 

「なぁ、空我。あの二人ってどっちが強いんだ? 二人の配信は見た事あるけど、お互いに戦った所見た事ないんだ」

「昔同じチームだった事は知っているけど……」

「ランクだと犬崎が上だし、犬崎なんじゃないのか?」

「でもこの前のドラゴンチャンネルで、水無月はSランクモンスターを倒してたぞ、他のA級と比べても遜色ない動きだったと思う」

 

 口々に憶測や予想を語る彼らに随分と馴れ馴れしいなと思いつつも、センシは答える。

 

「オレも二人が戦っている所を初めて見るから分からん」

「そうか……」

「空我って強いじゃん。それなら実力は一目見て分かったりしないのか?」

「そんな便利な目、持ってないよ」

 

 ――ただ。

 

「まぁ勘だけど、水無月が勝つよ」

 

 センシのその言葉の後に、周囲からざわめきが立つ。

 視線をステージに向けると、シスイが犬崎の猛攻を全て捌いているところだった。

 獣の本能任せの暴力に、彼女はまるで流水の如く全て受け流し、次々とカウンターを叩き込んでいる。

 

「シスイってやっぱり強いな」

「ああ。祝福(ギフト)が強いのかな?」

「いや、確かアイツの祝福(ギフト)は大した事なかった筈だ」

 

 水無月シスイの祝福(ギフト)――【龍流(ドラゴン)】には大した力は備わっていない。

 犬崎やシオンの様に変身後の姿に大きな補正は無く、ただ尻尾と角が生えるだけ。

 ホムラの様に魔法や戦闘技術に補正が掛かる訳ではなく、ただ魔法適正が水属性なだけ。

 かといってシスイに才能があったのかといえばそんな事は無く、むしろその逆だった。

 登録試験では魔力レベルは【3】とかなり低く、仮想モンスターとの戦闘も記録は4分30秒と時間が掛かっていた。

 

 そんな彼女がA級まで上り詰めたのは――。

 

【彼女は凄いよ。誰よりもがむしゃらにダンジョンに潜り続けて99階層まで踏破したからね】

【……そうだったのか】

【もし枠が空いていれば彼女がS級になっていただろうね】

 

 努力。研鑽。修練。積み重ね――。

 彼女は戦闘技術を一から学び、考え、自分の物にした。

 彼女は己の祝福(ギフト)と向き合い、龍流(ドラゴン)の特性を全て把握し、綿密に力を行使できる段階まで昇華させた。

 彼女は魔法の仕組みを勉強し、己の得意不得意を分析し、探索者の中で随一の魔法使いとなった。

 

「はぁっ!」

「ぐっ……!」

 

 渾身の一撃で犬崎を吹き飛ばしたシスイは魔力を練り上げ、詠唱を唱える。

 

「我が手に宿れ、アクアディーネの民」

 

 彼女の呼びかけに応えて、周囲に水が沸き起こる。

 

「荒れ狂う激流の一撃。絡みつく混沌の千手。集いて纏いて敵を穿て」

 

 シスイの左右に水球が形成され、解放される瞬間を待ち侘びる。

 

「アクアリウム・スプラッシュ!」

 

 魔法名が明かされると共に、左からは水の散弾が放たれ、右からは水の大砲が放たれる。

 犬崎は苦い顔で回避を選ぶが、すぐに散弾に補足されて足を止めてしまう。

 堪らず影で出来たシールドを張るが水の大砲の一撃で粉砕され、そのまま水の散弾で身を削られてしまい敗北する。

 

「相変わらず恥ずかしいよな魔法の詠唱」

「ノリノリなのは厨二病のシスイくらいだよな」

 

 シスイの勝利で終わった今の試合を見て、C級たちが半笑いで感想を述べる。

 彼らの言い分はある意味正しく、探索者の中には魔法を使う際に詠唱を躊躇する者が多い。よって無詠唱を使う者が多く、如何に魔力の効率を循環に回すか。それを課題に力を入れて鍛錬するのが通例だ。

 

 しかしシスイは違った。

 魔法を効率良く使うには、詠唱こそが大事だと気付いている。

 

【オレ、あまり詳しくないけど何であんなに厨二チックなんだ? 詠唱って】

【詠唱を作ったのはかつてのS級探索者だから、彼のセンスによるもの……というのもあるけど、実際は異界の神の干渉から逃れる為だね】

 

 魔法を使う際、祝福(ギフト)越しに別世界の力を借り受けて、この世界に現象として発現させている。

 しかしその際に簡潔に分かりやすく、その別世界に助力を懇願すると、異界の神の干渉によって無効化、もしくは利用される可能性が高い。

 故にかつてのS級探索者は詠唱に法則性を見つけ、別世界から効率よく力を借り受けつつ、異界の神の干渉を最小限にする方法を編み出した。

 

 その結果が現在の厨二病チックな詠唱だ。

 

【そうなんだ。ハヤテが叫んでいるのを聞いて、そういう年頃なのかと思っていたけど……】

【それ、名誉毀損で訴えられても仕方ないよ?】

【もしバレたら体臭全部回収される勢いで嗅がれそうだな】

 

 この事は胸の内に仕舞っておこう、とセンシは固く誓った。

 

 ちなみにホムラは祝福(ギフト)の効果でこの制限を無しに強力な魔法を放てる。彼女のイメージと知識が洗練されればの話だが。

 

『2試合目、開始』

「シャドウエッジ!」

 

 犬崎は今度は魔法戦から仕掛けた。シスイの影から黒く染まった刃が突き出されるが、彼女はひらりと躱す。それを見た犬崎は次々とシャドウエッジを放つが……当たらない。

 その動きを見て犬崎は舌打ちをする。元チームメイト故に、シスイの特殊な眼の事を知っている。だから避けられる絡繰りを理解できるが、納得できない。

 

「相変わらず鬱陶しい【眼】だなぁ!」

「相変わらず単純な流れだな」

 

 売り言葉に買い言葉。余裕の動きで避けれるシスイに、C級たちは感心しつつも疑問に思う。

 

「すごいよな」

「でもなんだあんなに完璧に避けられるんだ?」

「空我も上手く避けていたよな。ただ、空我と違って、シスイはなんというか……」

「いつ攻撃が来るか、初めから分かっているみたいな動きだよな」

 

 まるで予知をしているかのような動きで犬崎の攻撃を悉く回避するシスイ。まるで激流に身を任せているかのような優雅な動き。

 その秘密を知っている犬崎は舌打ちをして表情を歪める。

 

(本当に厄介な眼だ……!)

 

 シスイの目は、本来人が見えない物を見る事ができる。

 それはありとあらゆる力の流れとでもいうべきか、彼女の視界には様々な色の、様々な太さの、様々な形の矢印のような形をした物が常に流れ動いている。

 犬崎の魔法を避ける事ができるのも、彼と自分の影の間を魔力が流れ、そして渦を描いて刃の形となって飛びだしてくる予兆が見えるからだ。

 

 さらに彼女は――。

 

「昔と変わっていないな! 少しは鍛錬をしたらどうだ!」

「うるせぇ!」

 

 犬崎の放つ拳の流れを視て、彼女は紙一重で避ける。

 カウンターに振るった棍棒は、彼の肉体で巡る流れを視て絶対に当たる位置に向けられ。

 当たった後の流れ、当たらなかった後の流れを視て、シスイは戦いの流れを操作する。

 全ての流れを捉える彼女の視点は、まるで第三者が見ているかの様に神がかっていた。

 

「かはっ!」

 

 胸を打ち犬崎をステージに貼られた結界の壁に叩き付けるシスイ。

 自分と相手の距離を測り、最も良い地点に立つと棍棒の端を握る。

 

水面(みなも)――」

 

 そしてまるで居合切りの様に棍棒を振るう。すると。

 

「――斬り」

 

 一瞬で棍棒が伸び、棍棒の先がそのまま犬崎の胴体を抉る。

 それを見たアルスターが感心した様に念話で呟いた。

 

【武器に循環している魔力の流れを弄って、瞬間的に形状変化させているみたいだね。その分伸長した部分は脆くなるが、棒先に魔力を固定化させている分威力を上げている】

【器用だな】

 

 実際、彼女のこの技【水面斬り】を真似できる人間は少ないだろう。

 加えて当てる距離を誤れば威力は発揮できず己の武器を破壊されてしまうリスクがある。

 

 ともあれ、これでシスイが2勝している。

 

「クソが……!」

 

 追い詰められている犬崎が悪態を吐く。彼が思っている以上にシスイは強くなっていた。

 彼とチームメイトだった時よりも、遠征部隊に密行する前よりも。

 現時点では、犬崎()()の力では勝てない事が判明した。

 

 プライドが傷つけられた。この力を使うのは気に喰わない。センシを完膚なきまでにボコボコにする為に取っておきたかった。

 

『試合開始』

 

 しかし――もうどうでもいい。

 

 

【ぼくは共感するよ。君の苛立ち。君の怒り。君の憎しみを】

【黙れ! さっさと力を貸せ……!】

【――了解】

 

 犬崎の纏う魔力が変わる。相対しているシスイはそれに敏感に察知する。

 とても強い違和感を抱くが、既に試合は開始された。

 まるで凪の様に佇む犬崎に、彼女は今度は自ら前に出て棍棒による一撃を繰り出し――。

 

「――え」

 

 視界がひっくり返る。シスイはすぐに自分の首が斬り落とされたのを理解した。

 ドサリと頭が落ち、身体が膝を付いて地面に倒れる。そんな彼女の体を犬崎が踏み付けて、怖し、消して、嗤う。

 

「どうした? 何が起きたのか分かっていない顔だな?」

「……ふむ」

 

 シスイの肉体が再構築され初期位置に戻される。

 己の首を触り、先ほどの妙な感覚を探るが……正直理解し切れていない。

 

「水無月。続けるか?」

「うむ。当然だ」

 

 センシの言葉に返しながら、再度構えるシスイ。

 彼女の言葉を聞いたセンシは端末を操作し、試合を開始させる。

 

「さっきのなんだったんだ?」

「いや、俺も気が付いたら終わってて……」

「でも、あれって……」

 

 ザワザワとC級たちが騒めく中、センシだけはしっかりと見えていた。

 犬崎は避ける際に、シスイの意識の死角を把握して回避し、そのまま死角から蹴りによる一撃で彼女の首を切断していた。

 

 以前、センシが犬崎を倒した時と同じように。

 

「あれは犬崎の動きじゃないな」

 

 シスイもまた、センシと同じ結論に至っていた。彼女の眼で見た流れと実際に起きた現象と掛け離れた流れになった故に。

 しかし絡繰りが分からない。犬崎が祝福(ギフト)を鍛えた先に起きた境地なのかもしれないが、彼女視点そうとは思えなかった。

 

 まるで、別の何かが彼を動かしているかのような薄気味悪い物を感じる。

 

「流水脚!!」

 

 脚に水を纏い、そのまま蹴り技を放つシスイ。

 しかし容易く避けられてしまい、その後を追う様にして彼女は流水脚を発動し続ける。棒や尾を使って踊るように連撃を仕掛けるが当たらない。

 

(見えている? いや……)

 

 犬崎ではない回避の仕方にシスイは眉を潜めた。

 彼の動きは、まるで自分(シスイ)に避けられているみたいに――不気味だった。

 

「この程度か?」

 

 ニヤリと笑った犬崎の脚に影が纏わりつき――。

 

「――流影脚」

 

 そのまま彼女の技を自己流にアレンジし、さらに彼女以上に熟練された蹴り技を放った。

 まるで研鑽した10年後の彼女が放ったかのような鮮やかさ。

 黒い軌跡は彼女の脚を切断し、そのままシスイの身体を真っ二つにする。

 試合が終了し、再び初期位置に戻されるシスイ。

 

「これで同点――終わりだ厨二クソ女」

「……」

 

 センシは、シスイの揺らがない戦意を感じ取り端末を操作する。

 

『試合開始』

 

 最終試合が開始され、犬崎はニヤリと笑みを浮かべて魔力を練り上げ――C級たちはどよめく。

 

「あれって!」

「水無月のさっきの技!?」

 

 犬崎の左右に黒い球体が形成される。まるでシスイのアクアリウム・スプラッシュの様に。

 しかも無詠唱にも関わらず彼の魔力消費量は、詠唱時と同等で、さらに球体のサイズはシスイの物よりも大きかった。

 ニヤリと笑みを浮かべて彼は魔法を解き放つ。

 

「ダークネス・スプラッシュ」

 

 放たれる散弾と大玉の魔力弾。それを彼女は棍棒をグルグルと回す事で散弾を弾き、大玉は水を纏わせた尾で逸らした。

 犬崎は舌打ちする。流石に自分の技なだけに完璧な対処を理解していた。

 しかし全ては避け切れなかった様で、シスイの右腕が千切れている。

 

「はっ! これで仕舞いだ!」

 

 そう言って犬崎は手に影で作った刀を握り、そのまま居合切りの態勢に入る。

 シスイの水面斬りだ。

 回避行動を取っていたシスイと犬崎の位置関係は、先ほどの彼女の使った水面斬りが最も効力の発揮する距離となっている。

 当たれば犬崎の勝ち。

 何が起きているのか理解していないC級たちも、何となく戦場から感じる雰囲気でそれを察していた。

 

 しかし、センシだけは違った。

 

「「此処だ」」

 

 センシとシスイの言葉が重なる。同時に犬崎の水面斬りが解き放たれ斬撃が彼女を襲った。

 ザンッと音が鳴り、シスイの頭が宙を舞う。それを見た犬崎は勝利を確信し――胸を棍棒の一撃が既に貫いていた事に気付くのが遅れた。

 

「なっ……!?」

「水面波紋突き――先日の遠征で会得した技だ」

 

 犬崎は確かにシスイの技を模擬した。それこそオリジナルである彼女と遜色ないレベルで。

 しかし彼女は常に研鑽している。

 一年前より、ひと月前より、一週間前より、昨日よりも――確実に強くなっている。

 それを理解せずにシスイの技で戦った犬崎は――勝てなかった。

 

『判定の結果、勝者――水無月シスイ』

 

 身体が修復され初期位置に戻ったシスイは不敵な笑みを浮かべて犬崎に言った。

 

「我が絶技は常に進化する――影真似程度に負ける程、柔ではない」

 

 独特なポーズを決めて。

 その姿に観戦していたC級たちは沸き上がり、センシは苦笑しつつも彼女の勝利を讃えた。

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