SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第28話 最強

 ガラガラ……と、音立ててダンジョンがゆっくりと崩壊するなか、センシは変身が解けた犬崎と黒歴史を抱えてハヤテと共に出口に向かって走っていた。

 

「犬崎が生身じゃ無くて良かった……下手したら殺していた」

 

 顔を青くさせて呟くセンシ。殴った後に気づいたらしく、慌てて瓦礫を掻き分けて探している姿は滑稽だった。

 無事だった犬崎を見つけた時は心底ホッとしていた。このダンジョンに入って一番のピンチだったらかもしれない。

 

「ねぇ、センシ」

「うん?」

「そんなに強いのなら、東京にある黒歴史無理矢理取りに行けると思う」

「どうした突然」

 

 ギルド側は6人S級ダンジョン探索者が入れば、センシを捕える事が可能だと認識している。ハヤテは先ほどの会議でそう聞いた。

 しかし先ほど自分を圧倒した異界の使徒を、歯牙にかけていないセンシを見て、とてもそうは思わないと彼女は感じた。

 

「S級と戦ったら、センシはダダでは済まないと言っていたけど、私はそうは思わない」

「……え? オレそんな事言ったっけ?」

「……え?」

 

 二人揃って首を傾げる中、アルスターがなるほどと理解を示す。

 

『どうやら我々と空我センシ。風緑ハヤテの間に認識のズレがあるようだね』

「え?」

「あーやっぱり?」

『風緑ハヤテ。ただではすまないのは──あちら側だよ』

 

 アルスターの言葉にハヤテは目を見開く。

 

『空我センシにとって、S級ダンジョン探索者たちの実力は中途半端に()()。故にあの鎧を使っても手加減が難しく傷付ける可能性が高い』

 

 故にただではすまない、である。

 さらに弱ければセンシの敵にはならないので、怪我をさせずに無力化させる事ができるが……S級相手だとそうもいかないのだ。

 

「だったら余計に分からない。センシの力があれば取りに行けるのは変わらない」

「え? でも無理矢理奪ったら泥棒だろ? アレには確かにオレの事が書かれているけど所有権は向こうにあるし……」

「……え?」

「犯罪犯したら、この先就職とかに支障出るし……だから穏便にA級になる事にしたんだけど」

 

 ハヤテはセンシの言葉を聞いて。

 

「やっぱりセンシ頭おかしい」

「え? 何でオレ貶されているの?」

 

 センシはこのダンジョンに入って一番なダメージを喰らった。

 

 

 

 

 さて、そろそろ白の英雄になるか。

 出口が見えたオレは再びあの鎧を展開する。すると、鎧から何となく抗議の意思を感じた。

 なに? 時間外労働? 呪いの装備にそんな概念無いだろうが。キリキリ働け。

 そんな思いを込めてやると鎧は仕方なさそうにオレの身を包み込む。勝手なイメージだけどな。

 

「あとはトンズラするだけだな」

「ん。何か聞かれたらシナリオ通りに」

「シナリオ通りって、なんだが妙な感じだけどな」

「……あまり間違っていないと思うけど」

 

 そう言うハヤテの顔は少し暗かった。

 

「ちょっと自信無くした」

「あー……アレだ。オレの事はあまり考えない方が良いと思うぞ」

「違う。……異界の使徒、私よりもずっと強かった。他のS級も多分ずっと強い」

 

 ……そういえば、ハヤテは自分の強さに拘っていたな。オレと模擬戦した時もアルスターに足手纏いだって言われたからだし。

 でもアルスター曰く、彼女の実力は他のS級と比べても見劣りしないって言っていたけど。

 

祝福(ギフト)の調整にまだ体が馴染んでいないんじゃないか?」

「それもあると思うけど……」

「そういうのは地道に行くしか無いと思うけどな」

「ん……」

 

 元気出ないな。なんて言って慰めれば良いんだろう。

 

『方法はあるよ』

「──本当?」

『うむ。尤も、この方法は空我センシの協力が必要だが』

 

 その言葉にハヤテは何処か縋るような目線をこちらに向ける。

 む、むぅ。オレ的には別に協力して良いんだけど嫌な予感がするんだよな。

 でもハヤテには強くなって貰わないとこの世界終わるし……。

 アルスターから聞いた話だと、天ツ上ヒカリだけでは異界の神には勝てない。

 

「内容次第かな」

『方法は一つ。空我センシの遺伝子情報をその身に吸収する事だね』

 

 ……遺伝子情報?

 

『元々魔力は生命力の塊だからね。空我センシの生命力を得れば活性化し、昇格し、進化し、究極の力を得られる筈だよ』

「なるほど」

『現に、明星ホムラはそれに成功している』

 

 ホムラが?

 

『うむ。君と最も身近な存在だったからね。機会は幾らでもあったのだろう。

ただ、完全では無い様だ』

 

 なんとなく、ホムラの祝福は他と比べて強いなとは思っていたけど……オレの影響を受けていたのか。

 しかしホムラがオレの遺伝子情報を取り込んだ……どうやって? 皮膚とか髪とかにあるんだっけ? 遺伝子情報? 一緒に生活していたら取り込めるものなのか?

 

「ん。そういえば異界の使徒には敵わなかったけど、ちょっと調子良かった」

 

 そういえばコイツ普段からオレの匂い嗅いでるし、何ならオレの事舐めてたな……。

 

「それで、オレはどうしたら良いんだ? 髪でも食わせるのか?」

『もっと簡単な方法があるよ』

 

 ──ん? なんか嫌な予感が強くなった気がする。

 

『君と風緑ハヤテが性行為をし、子種をその身に取り込む。それだけで良い』

「……」

「……」

 

 ……。

 

「ちょっと待って」

 

 オレは思わず立ち止まった。急いで走ったからか、このダンジョンが崩壊するにはまだ時間がある。だから話をする時間は十分に残されていた。

 息を深く吸って、そして大きく吐いた。

 そしてオレの肩に乗っていたアルスターを掴み、

 

「遺言は聞かなくて良いか?」

『我々に死という概念は無いよ』

「お前! 何頓珍漢な事を言っているんだ!?」

 

 ほら見ろ!お前のせいで流石のハヤテも恥ずかしがって黙り込んでいるぞ!

 ……いや違う。これは発情している。ヤる気満々だ! だってオレの事物凄いギラギラした目で見てるんだもん! やだ怖い!

 やめろ!期待した目でこっちを見るな! これ見よがしに胸を揺らすな!見ちゃうだろうが!

 

『頓珍漢なものか。祝福(ギフト)の力で変身した後のエネルギー吸収効率の良さは知っているだろう?』

「知っているが……」

 

 試験の時にも出ていたしな。

 遠征の時も少ない食糧を持って行き、変身してから食べる事が義務付けられている。そうすれば肉体の健康状態が良好となり魔力の回復速度も高くなる。

 

『それと同じさ。より正確に言うと風緑ハヤテが変身して君と性行為をし、子種をその身に受ける事が重要だ。

 子どもを授かる事はできないが、その分エネルギーを吸収し祝福にも影響を及ぼす。

 生身で行うと吸収効率の関係で効果が薄れるから、我々としては変身後の行為を推奨する」

「推奨するな!」

「ん。それはヤればヤるほど効果がある?」

『可能性は高いね』

「ん。センシ、よろしく」

「よろしくしないが???」

 

 やっぱり嫌な予感が当たった! コイツ、いつも禄でもない事しか言わないな! そしてハヤテがそれにノリ気になるのが嫌過ぎる!

 

『我々としても興味深い事象なのだが』

「もう黙っていてくれ。ハヤテ、お前は地道に頑張って強くなれ。良いな」

「ん。分かった。……隙を狙うか」

「聞こえてるぞ」

 

 今後寝る時襲われないように注意しないといけない。

 気配を察知して起きる事ができれば良いんだが、悪意が無いとオレ起きれないんだよな。だからハヤテにもこの前布団の中に潜り込まれて、ホムラがキレていたし。

 

「そろそろ出る。S級の人達に見つからないように気をつけろよ」

「ん。分かった」

 

 話を切り上げて、オレたちは再び出口に向かった。

 やれやれ、童貞のオレには刺激の強い話だった……。

 

 

 

「待っていたぞ――白の英雄」

 

 ちょっと待って。温度差で風邪ひく。

 

 

 

 

 ダンジョン(ゲート)から出て来たセンシとハヤテを出迎えたのは――S級ダンジョン探索者である天ツ上ヒカリだった。

 さらに彼女に付き従う様に5人の男女が控えており、それぞれが全員祝福(ギフト)により変身済である。かの者たちもまた、S級ダンジョン探索者だ。

 

(あ、飛鳥さんだ)

 

 センシは鎧越しに顔見知りを見つけるが、気になるのは自分に向けられる視線である。

 あまり好意的ではない。全員が全員センシに敵意を向けている訳ではないが、それでも気分の良いものではない。特に一人、明確にセンシに殺意を向けている男が居る。

 

「先ずは感謝の言葉を送ろう。(オレ)の仲間を助けてくれたようだな」

 

 ヒカリはそう言ってセンシが抱える犬崎と、その隣に立っているハヤテに視線を向けた。

 

「そこのハヤテが何かを嗅ぎ付けて一人で調査をしたところ……イレギュラーが起きたのだろう。

 S級である彼女が疲弊しているところを見るに異界の使徒でも現れたか? そしてそこの男は利用された被害者と言ったところか」

 

 まるで見ていたかの様にヒカリは話し続ける。さらに都合よくハヤテが考えていたシナリオに沿って。

 センシは都合が良いと思い肯定する事にした。案外話を分かってくれそうだ、と。

 

「ああ、そうだ」

「――」

 

 一瞬、ヒカリの動きが止まる。

 

「……ふぅ。やはり、そうか」

「二人とも疲れている。保護してくれ」

「ああ。了解した。飛鳥」

「はい」

 

 ローブを纏った、典型的な魔法使いのような姿をした飛鳥が祝福(ギフト)で魔法陣を描く。

 

「こちらの陣に入れば、救護室に転移できます」

 

 さらに彼は手に持った杖を犬崎に向けるとふわりと浮かび上がった。そのままフヨフヨと魔法陣の中に入ると光に包まれて消える。

 

「助けてくれてありがとう。英雄さま」

 

 ハヤテは、ヒカリたちの前の為センシの名を出さずにお礼を行って自ら魔法陣の中に入り救護室に向かう。アルスターの念話を介して彼女はヒカリの提案通りに行動して貰う事にした。

 消える瞬間、少しだけ心配そうにセンシを見るが……彼の実力を知っている為彼女は何も言わずに姿を消す。

 二人が居なくなると同時に飛鳥は魔法陣を消し――臨戦態勢に入る。

 

「さて、次の話に進ませて貰おう」

 

 ヒカリの視線は、センシの持っている黒歴史に向けられていた。

 

「白の英雄、その英雄譚を渡して貰えないだろうか?」

「断る」

 

 彼の即答に、場は殺気に包まれる。

 

「図に乗るなよ英雄気取り。貴様は違法にダンジョンを潜った犯罪者だ。強制的に身柄の拘束、そしてその戦利品を押収する権利が我々にはある」

 

 全身を深い蒼の重装甲の鎧で身を包んだ男が、殺気交じりの声でセンシを威圧する。

 その激情は、手に持った奇妙な形の槍でいつでも串刺しにして来そうな勢いだ。

 

「キョウメイ。邪魔をするな」

「ちっ」

 

 ヒカリの静止の言葉に、舌打ち交じりに槍を持った手の力を緩める男。

 それを確認したヒカリは、センシの答えに驚いた様子も見せずにその理由を問い掛ける。

 

「何故そこまでして頑なに断る? もし金が必要なら用意しよう」

「必要ない。そもそも君たちは勘違いをしている。これは、異性の神との戦いにおいて何ら役に立たない」

 

 センシにとってはただの黒歴史である。翻訳されていない為、まだその内容を見られていないが……己の恥を不特定多数に見られたくない。

 しかしここでそれを隠して無意味な物だと言っても――納得しないだろう。

 

「ふむ。それを決めるのはワシらじゃ」

「そうそう! そこまでの力をどうやって手に入れたのか興味あるしね!」

「ククク。英雄の力は誰もが追い求めるものですよ」

 

 彼らの反応はセンシの予想通りだった。全部アルスターのせいである。どないせいっちゅうねん。

 

「やはり断るか」

 

 ヒカリはセンシの答えが予め分かっていたのか、笑みを浮かべる。

 彼女自身、この交渉が成立するとは思っていないらしい。

 

 故に彼女は初めから決めていた。

 

「ならば白の英雄――(オレ)の物になれ」

 

 その言葉に動揺したのは――他のS級ダンジョン探索者たちだった。

 

「天ツ上! 何を言っている!」

「白の英雄の力は逸脱している。異界の神とのゲームに勝つ為のワイルドカードとなる筈だ。

 元々本人と接触困難だったから、我々(オレたち)はあの英雄譚を追い求め、さらなる力を欲していた。

 だが、こうして英雄そのものと接触し、会話ができるのなら話は別だ」

「……」

「白の英雄。貴様も知っているのだろう? この星と異界の神とのゲームについて。ならば、(オレ)の提案の意味を理解してくれる筈だ」

 

 ヒカリは、そこで初めて己の心を見せる。

 

「もし必要なら――あの時の謝罪もしよう」

「――君は、やっぱり」

「だがな。遅れて登場する英雄ではダメなのだ。事前に、前もって、準備して、相手に何もさせない――絶対に間に合う英雄が私たちには必要なんだ」

 

 しかしすぐにS級ダンジョン探索者としての顔で、彼女はセンシを見る。

 

「力を貸してくれ――白の英雄」

 

 彼女の懇願に、センシは。

 

「できない」

 

 彼は――本音で応える。

 

「それと、オレは英雄じゃない」

 

 センシの言葉をしっかりと、己の耳で聞いたヒカリは――とても残念そうに息を吐いた。

 

「そうか。交渉決裂か――ああ、残念だ」

 

 そして彼女は、

 

「――全員、コイツを捕らえるぞ」

 

 予めて決めておいたプランを実行する事にした。

 彼女の合図と共にS級ダンジョン探索者たちは動き出す。

 

 まず初めに動いたのは、ずっとセンシを殺したいほどウズウズしていた青い男だった。

 

「エターナル・プリズンエンド!」

 

 彼の円形の盾の表面は、まるで時計のような見た目をしていた。その盾の針がカチリと動くと、一瞬でセンシの周囲が凍りづく。

 彼が放ったのは最上級の氷魔法だ。しかし、魔法の規則上無詠唱での発動は不可能。それが意味するのは――祝福(ギフト)による魔法行使自体への何らかの短縮行為。

 

「大人しくしていてくださいね」

 

 パンパンッと手を叩いてから両手を地面に着ける来馬と呼ばれていた男。

 すると地面に稲妻のように光る魔力が迸り、氷漬けになったセンシの周囲から地面が鋼鉄に変化しながら牢屋の様にドーム状に包み込む。唯一の逃げ道は天井部分の空いた穴だが……。

 

 そこは、彼らが用意した道。そこは、彼らが魔法を叩き込む為の道筋。

 

「星の導きに従い、この世に顕現せよ、ルスカの神」

 

 飛鳥が最上級の光魔法の詠唱に入り、

 

星の導きに従い(星の導きに従い)この世に顕現せよ(この世に顕現せよ)ムーテノラの神(シャブラの神)

 

 幼き姿をした少年は、ぐにゃりと腹部に大きな口と新たに一対の腕を作り出すと、二重で異なる魔法を詠唱を行い、それぞれの手で印を結ぶ。

 

「星の導きに従い、この世に顕現せよ、イフニスの神」

「星の導きに従い、この世に顕現せよ、ウェルフの神」

「星の導きに従い、この世に顕現せよ、トニトルドの神」

 

 さらに九つの尾を持つ幼き少女は、その身を三人に分けて各々別属性の魔法を詠唱する。

 

光束(レーザー)! 究極昇華(ライジングアルティメット)!!」

 

 ヒカリが左手の親指と右手の親指に嵌めている指輪を、ベルトに装飾されている左右の窪みにそれぞれ嵌める。すると、ベルトから男性の声が響き渡り、同時に彼女の身から凄まじい魔力が迸った。

 

 彼女たちの準備は整った。同時に――センシも動き出した。

 

「よっ」

 

 まず、時間ごと凍結させる氷の牢獄をぶち壊し、その余波でダイヤモンドのドームも粉々にする。そのままセンシは空に向かって跳び上がり、

 

「――エクステンド・ジャッジメント!!」

「――ブラックホール!!」

「――トライデント・マテリアル!!」

 

 そこに全てを浄化させる極光が、地と闇により再現された宇宙の穴が、炎と嵐と雷を纏った三叉の槍が襲い掛かる。

 

「よっと」

 

 それをセンシは3発の拳で破壊し、

 

「――では、これで失礼する」

「……ふん」

「ちぃ!」

 

 光の速度で周り込んだヒカリの回し蹴り。一瞬でヒカリの隣に移動した男の終焉の一撃。それらを回避したセンシは、彼女の知覚範囲から抜け出した。

 黄金の光に包まれていたヒカリは、ベルトを操作して祝福(ギフト)の力の放出を止めると地面に降り立つ。槍の男もいつの間にか地上に移動していた。

 数瞬遅れて、地上では氷とダイヤモンドが砕かれる轟音が、上空では三つの最上級魔法が相殺された衝撃が、そして最後にヒカリの放ったキックの余波が東京ギルド周辺で一気に発生する。

 

「逃げられたましたか」

「ああ」

 

 天変地異が起きる中、来馬の問いに答えながらギルド本部に向かって歩みを進めるヒカリ。

 その後ろを他のS級ダンジョン探索者たちも続く。各々センシに逃げられた事を悔しがっていた。

 

「あっちゃー! ヒカリちゃんの言ってた通り過小評価していたかもねーこれは」

「ほっほっほっ。いや無理じゃろうアレは。規格外過ぎるじゃろうて」

 

 最年長組の男女は笑いながらも何処か達観していた。

 

「クソ……! 次は必ず殺してやる……!」

「だから、殺してはダメですよ水無月さん」

 

 青年組はまだ諦めておらず。

 

「やはり素晴らしいですねぇ! 英雄の力とは!」

 

 狂気に満ちた声で喜びの声を上げる男。

 

「――(オレ)は諦めん」

 

 そして黄金の最強は、笑みを絶やさない。

 

「英雄は一人だけで良い」

 

 彼女はもう逃がさない。

 

「英雄になるのは私だ」

 

 彼女は恐れない。修羅に墜ち、全てを破壊する究極になる事を。

 

【何で今更助けに来たの!? もっと早く来てよ! 英雄気取り!? ──ふざけないで!】

 

 彼女はかつての痛みを忘れない。弱く、醜く、力の無かったただの愚かな少女だった己(黒歴史)を。

 

「待っていろ」

 

 彼女は、まるで恋に落ちた乙女の様に熱のこもった声でその者の名を呼ぶ。

 その想いを知られない様に、他の誰にも聞かれない様に心の中で。

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