SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第3話 疾風

「お前ら、何で仲良くなっているんだ」

『少し祝福(ギフト)の調整をする為に接触したのだけど、我々も彼女の事を気に行ってね。いわゆる同担って奴だよ』

「この子、話の分かる子」

 

 そう言ってなでなでと星の意志の頭を撫でながらチャーハンを食べるハヤテ。

 オレも自分の分を食べながら二人……二人? とにかく二人が仲良く話しているのを見て何とも言えない気持ちになる。

 

「センシの匂いを嗅ぐとお腹の奥がキュッとなる」

『我々は嗅覚というのがよく分からないからね。参考になるよ』

「それは人生の約100%を損している。早急に機能改善を推奨する」

『検討しておくよ』

「今の私だともう耐えられない。この5年間もずっと疼いて仕方なかった。何度自分を慰めても飢えが収まらなかった」

『そうなんだ。そういえば昨日よりも体調が良さそうだったね』

「ん。昨日の夜は凄く捗った」

 

「なぁ! 飯食っている時はさぁ! 黙っていろとは言わないけどさ! 話す内容には配慮してくれないか!?」

 

 あまりにもあんまりな内容に思わずキレる。

 というか聞きたくないぞ! オレをネタにした猥談なんて! 

 オレのクレームに二人はそれ以上その話題を広げなかった。

 

『後で聞かせて貰おう』

「ん。分かった」

 

 後で話すんだ……。

 

「そういえばこの子の名前は何?」

「名前?」

 

 食事を終えて二人の猥談をBGMに食器を洗い終わった後、突如ハヤテがそんな事を聞いてきた。

 星の意志を見る。見た目はクワガタのモンスター。しかしそのまま星の意志と伝えるのも何か変だ。そもそもコイツに名前なんてあるのか?

 

「どうなんだ実際?」

『君たち人間の価値観で言うと無いね。昨日君が言っていた星の意志、邪神で良いんじゃないか』

「ん。分かった。これからよろしくホシノイシ、ジャシン」

「待て待て待て」

 

 そういう決め方されるのは嫌すぎる。

 しかしこのままだと星の意志や邪神と呼ばれる。

 ……うーん。

 

「メカクワガタとかはどうだ」

『我々は構わないが、君にセンスを感じないね』

「ん。センシ、ネーミングセンス皆無」

 

 なんだこいつら。ふざけんな。

 何でも良いって言いながら文句言いやがって。オレがネーミングセンス無いのは良く知っているよ! 幼馴染に散々言われている。

 しかし、そうなるとちゃんとした名前を付けないとな。

 

「参考にしたいんだけど、その躯体(モンスター)は何ていうの?」

『確かアルケミースタッグという機械型モンスターだったね。様々な鋼鉄と融合して寄生、擬態をして、特殊な樹液を主食にする生態系を築いているらしい』

「特殊な樹液」

『こちらの世界ではアルコール飲料がそれに当たるらしい』

 

 ダンジョンに広がる異世界は、時にオレ達の人智を超えた常識が広がっていると聞いたが、予想以上に意味の分からないモンスターなようだ。

 ガソリンの代わりにアルコールで動いているのか? 常時飲酒運転って事?

 

『ちなみに常に群れで動いているらしい。1匹見たら1000匹居ると思ったらいいよ』

「Gかよ。普通に怖いわ」

 

 結局何も参考にならなかったな。

 星の意志。クワガタ。メカ。G。アルケミースタッグ。

 

「……アルスターってのはどう?」

『良いんじゃないか。元より我々は気にしてないがね』

「ん。分かった」

 

 結局安直な決め方をしてしまったな。

 まぁさっきのよりはマシだろう。

 オレの名づけにGOサインが出されてホッと一息つく。

 

「そういえば何しに来たんだ?」

「ん。匂い嗅ぎに来た」

 

 そう言ってハヤテはオレに近づいてきて、って待て!?

 

「何普通に抱き着こうとして来てんだ!?」

「……?」

「何でそこで『私、何か変な事した?』みたいな顔するんだよ」

 

 オレがおかしいみたいな反応やめろ。場が混沌としているから流されそうになる。

 それにそろそろ黒歴史を探しにダンジョンに潜りに行きたいからハヤテには帰って欲しいんだが……。

 

『空我センシ。彼女にも協力を仰いだらどうだい?』

「協力?」

 

 しかしそこに待ったを掛けたのは以外にもアルスターだった。

 

『彼女の特異体質は君の英雄譚を探す上でこれ以上無いほどに役に立つ』

「ん。英雄譚」

 

 いや、黒歴史な? ……いや、ハヤテの前で堂々と黒歴史と言うのも嫌だが。

 しかし彼女の嗅覚はそんなに凄いのだろうか。5年前のオレの匂いを覚えて、さらに此処を突き止めたくらいだが。

 

「普通に凄いな。よく考えると」

『うむ。最適な提案だと自負している』

「ああ。お前がコッソリ黒歴史を隠し持っているのはこの際不問にしてやる」

「黒歴史?」

 

 何処から取り出したのか、オレが廃棄した筈の黒歴史を取り出して何処か得意げな表情を浮かべるアルスター。腹立つな。

 置いてけぼりのハヤテはずっと首を傾げており、オレは彼女に事の経緯を説明する事にした。正直秘密を知る人間は増やしたくないのだが、背に腹はかえられない。

 

「あまりセンシ以外の匂いを覚えたくないな」

「そこを何とか……」

「……分かった。センシの頼みなら。でも、一つだけ条件がある」

 

 何だろう。凄く嫌な予感がする。

 ポッと相変わらず表情の変化は乏しいが、赤く染まった頬から何となく恥ずかしい事を言おうとしているのが分かる。そしてこれまでの彼女の言動からオレに何を求めるのかは理解していた。

 

「1ヶ月に1回、直接肌から匂いを嗅がせて欲しい」

「何そのサブスク」

「それと一つ見つける度に1回」

「コイツ足元見て来やがった……」

 

 しかしオレに選択肢は無いに等しい。彼女の協力を得られないと昨日みたいに全国のダンジョンを虱潰しに探す必要がある。

 そうなると流石にダンジョンギルドにバレてしまうだろう。それでは本末転倒だ。黒歴史の存在を知られて保管されたら回収が難しくなる。

 

「……分かった。それで手を打つ」

「契約成立。それでは早速」

 

 そう言って彼女は真正面から抱き着いて来た。ちょ、胸が!?

 むにゅりと彼女の女性のシンボルが変形する感触がダイレクトに伝わるのか、ハヤテが首筋に顔を埋めて深呼吸する。

 

 あばばばばばばば!? くすぐったいのと柔らかいのと温かいのが同時に来てる!?!? さらに女の子特有の良い匂いが頭の中を満たして──。

 

「ん。終わり」

『おや。もう良いのかい?』

「ん。これ以上は抑えが効かないから……お互いに」

 

 アルスターとハヤテが何か話しているが、全く聞こえなかった。頭の中でパチパチと火花が散っている。

 もう何がなんだか分からない。顔が熱くて火が出そうだ。

 

 それからしばらく気持ちと体を落ち着けるのに時間を要した。

 

 

 

 

「一つは此処」

 

 そう言ってハヤテに連れて来られたのは福岡にあるダンジョン。

 感じる危険度から確かに強力なボスモンスターが居る雰囲気を感じていた。

 

「それじゃあ行って来るから、此処で待ってて」

「ん。私も行く」

「えっと……」

 

 個人的には一人の方が色々と都合が良いのだが。

 しかしここまで案内して貰った以上無碍には出来ない。かと言って同行を許すのもな……。

 第一、特定されない様にしないといけないし……。

 

『彼女の指輪はギルドに登録されていないから特定される心配は無いよ』

「でも入る所目視されない?」

 

 オレの場合はその前に出入りするから問題無いんだけど。

 

「ん。それなら大丈夫――イデアリンク」

 

 緑色の宝石が嵌め込まれた指輪に恐らく魔力を込めたハヤテがそう言うと、彼女の容姿、服装が一瞬で変わった。

 白と緑の背中と脇の露出度が高い巫女服。馬の尻尾に鳥の翼。そして緑色に染まる髪と瞳。手には緑色を主体とした弓を握り、変化が終わった彼女は一瞬だけドヤ顔をした。

 

「どう? 可愛いでしょ」

「それが大丈夫な理由なのか?」

 

 ダンジョン探索者はみんな変身するが、特に彼女の姿から特別な何かは見出せない。ただ、すげー恰好だなとしか……。

 

「ん。違う。これから」

 

 そう言って彼女の周囲に風が舞い起きる。彼女の魔法みたいだが。

 しかし変化は顕著に現れ、次の瞬間ハヤテの姿が見えなくなった。

 凄い! 一体何が起きているんだ?

 

『風の魔法で何重にも空気の層を作り光の屈折を操っているようだね』

「そうなんだ……そんな事できるんだ」

「ん。これで仕事の時毎回コッソリダンジョンに潜っている。入る所、見つかった事ない」

 

 姿を消しているがそこにいるのは確かなようで、ハヤテの声がアルスターの説明に補足を入れる。というより、前から思っているけどそれ犯罪行為だからな?

 

「むしろセンシはどうやって入っているの?」

「オレは普通に走って入っているけど」

「普通に……走って……?」

『正確には知覚できないスピードで、だがね』

「……センシ、頭おかしい」

 

 ハヤテの言葉にうんうんと頷くアルスター。クワガタの体で器用な事してんな。というより二人の評価に遺憾の意を示したいんだが。

 

「でも魔力の反応でバレない?」

「ん。バレる」

「ダメじゃねーか」

「それで出る時何度か捕まったけど、助けて貰った」

 

 どういう事……?

 

『今回は我々が魔力の反応を偽装してあげよう』

「……何でそんなに協力的なんだ?」

『推しの力になりたいのは当然だろう?』

 

 信用できない奴にそんな事を言われてもな。

 しかし力を貸してくれているのは確かなようで、ハヤテが変身してもこっちに近づいてくる気配は全くない。

 だったら此処はお言葉に甘えるか。

 

「私の力、二人にも使える。近づいて」

「分かった」

「了解した」

 

 そう言ってアルスターは肩に乗り、ハヤテはオレを真正面から……。

 

「待って。抱き締める必要ある?」

「凄く必要」

 

 ま、まぁ本人がそう言うのならそうなんだろうな……。

 ギュッと抱き締められ彼女の体温を全身で感じる。……凄くドキドキするな。心臓の音聞かれていないか心配なんだが。

 

「それじゃあ魔法を使う。――すぅううううううううう」

 

 思いっきり深呼吸をし力を練り上げる様子を見せるハヤテ。

 すると全身に風が肌を撫で付ける感覚が走り、そのまま彼女は翼を羽ばたかせてダンジョンの中へと突貫する。

 中に入った後もギルドの方に動きは無い様で、二人のおかげでバレていないみたいだ。

 地面に降り立ち、魔法が解かれてから離れる。

 

「ありがとう」

「こっちも」

「ん?」

「何でもない。匂いはこっちから」

 

 ハヤテの先導の元ダンジョンの奥に向かって歩いていく。

 道中いつもの様にモンスターがこちらを伺いながらも、しかし襲ってくる事は無かった。今回のダンジョンはレベル差を理解しているみたいだ。

 という事は此処は少なくともA級ダンジョンって事か。感じる気配から大凡分かっていたが、ハヤテが居るのなら久しぶりに()()を使わないといけないのかもしれない。

 

『その事なんだけど、今回は彼女に任せないかい?』

「何でだ? 案内してくれるだけでも有り難いだろ」

『君の都合というよりも、我々の都合の話だよ』

 

 何を考えているんだ?

 

『野良でずっと潜っていたから我々も把握していなくてね。今回の調整がしっかりと機能しているのか確認したいのさ』

 

 そう言えばさっきハヤテの祝福(ギフト)に何かしていたらしいけど……。

 

「ん。私もちょっと慣れておきたい」

「ハヤテがそう言うなら……」

 

 しかし申し訳ない気持ちはあるな。オレの黒歴史回収に巻き込んでいるだけなのに。

 いや、それよりも。

 A級ダンジョンを肩慣らしの場として使えるって事は、彼女は人類最強って事か。5年前に最下層に潜ったらしいけど……。

 

「ハヤテって何歳?」

「16歳。誕生日は2月2日。プレゼントはセンシの服一式が良い」

「年齢聞いて流れる様に誕生日プレゼント強請られた……」

 

 しかし11歳でダンジョン最下層に潜ったのか。それは凄いな。

 ……いや、オレも12歳の時に長野県の遺跡からダンジョンに転がり落ちてそのまま最下層に辿り着いていたな。

 星の意志曰く異例かつ特殊な事例だったらしいけど。

 というよりオレと同い年だったんだ。

 

「センシ。あと2年まで待って欲しい」

「何が?」

「結婚」

「ちょっと待って話がぶっ飛んでいて意味が分からない」

 

 何故いきなりそんな話になっているんだ。

 

「昨日好きにして良いって言ったけど、センシは世間の目を気にしているから……」

「ちょっと待ってどういう事? ……いや待て言いたい事は理解できた。全部はできていないけど分かったから言わなくて良い」

「私的には5人くらいまでが良い。ちゃんと稼いでね」

「どうしよう。妄想が止まらない」

「子どもは何人欲しい?」

「それよりもてめぇの口を塞ぐ何かが欲しいかな?」

「……昔、漫画で読んだ事ある。ぽっ」

『うるせぇ口だな。塞いでやる。ちゅって奴かい? 我々も昨日空我センシの部屋で拝見したよ』

 

 あああああああああ。こいつらと話していると頭がどうにかなりそうだ!

 理性とモラルを会得してから出直して欲しい。

 あとアルスターが読んだのは多分幼馴染が置いていった奴だ。オレの部屋、物置じゃないんだけどな。

 

「着いた。此処」

「その様だな」

 

 しばらく進むと明らかに雰囲気の違う空けた空間に辿り着き、気配が高まる。ダンジョンからボスモンスターが作り出されているな。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴ。

 

 現れたのは下半身が巣になっている巨大な女王蜂と人間サイズの無数の蜂。

 

『アレはキラークインビーだね。猛毒を持つ働き蜂を無限に生み出し、操り、毒で溶かした獲物を啜るタイプのモンスターだ』

「エグい捕食方法だな」

『そしてその日の終わりに出来の悪かった働き蜂100匹も喰われるよ』

「生態系自体がエグすぎる」

 

 聞くだけでやばそうだけど、ハヤテは酷く落ち着いていた。まるでこんな事は慣れていると言わんばかりに。

 

「それじゃあ、行って来る」

「おう」

 

 風を纏い、ハヤテは空を駆けた。

 

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