SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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最終話 黒史

「アタシも今日から此処に住むから」

「ちょっと待っていきなり過ぎて飲み込めない」

 

 ハヤテの歓迎会の次の日、大荷物を抱えたホムラがセンシの家に突撃して来た。

 昨夜は色々とあって寝不足でゲッソリしているセンシ。日曜日という約束された休日(社畜除く)を使って、夕方まで不足した睡眠時間を補充しようとしていた矢先にこれである。

 ちなみにハヤテは幸せそうに、センシのベッドで眠っている。大好きな濃い匂いに包まれて。

 

ハヤテ(あいつ)が居ると分かった以上、放置できる訳無いじゃない。おばさんとおじさんに任されてる身としては」

 

 尚、そのおばさん(センシの母)こそ諸悪の根源である。

 

 結局選択権も拒否権も無いセンシは流されるままに、ホムラの同居を受け入れる事となった。

 

「さて……」

 

 センシの部屋の掃除と換気を終えて、ハヤテをリビングに引き摺り出したホムラは昼食の用意に取り掛かる。

 叩き起こされたハヤテは眠たそうにしながら頭を抑えていた。今はセンシのシャツを着て、キッチンに立つホムラを睨み付けていた。

 

「暴力女」

「モラル0」

 

 売り言葉に買い言葉。以前から思っていたが、この二人の相性は悪いのかもしれない、とセンシは思った。

 

【しかし、不思議だね】

【何がだ?】

【風緑ハヤテの明星ホムラへの対応だよ】

 

 ホムラがハヤテに対してキツく当たる理由はよく分かる。彼女の性格や生い立ちを考慮すれば、センシに近付く女は須らく警戒対象だ。

 だが、ハヤテがホムラに敵対心を抱くのは……彼女の性格からすれば意外だ。

 ハヤテは自分本位で周りに対する配慮はほぼゼロ。逆に言えば、他者が何をしようが何を想おうが気にしない訳で、センシの幼馴染とはいえここまでホムラにキツく当たるのは道理に合わない、と。

 

【人間ってのはそう単純じゃ無いって事だよ】

【ふむ。人間というのは、相変わらず不便な生き物だ】

 

 だからこそ、星の意志は人間を選んだのだが。

 

「わたしの方が胸が大きい。でも太もももお尻も貴女よりはスリム」

「はぁ? アンタ分かって無いわね。太もももお尻も大きければ大きい程良いのよ!」

「空間の圧迫で周囲に迷惑を掛けてる。貴女の椅子が可哀想」

「──センシは、アタシの太ももとお尻が好き」

「──そうなの? センシ」

「勝手に盛り上がった挙句キラーパスするの辞めろ。オレを巻き込むんじゃねぇ」

 

 センシがホムラの太ももやお尻が好きなのかは、彼の揺れ動きまくっている瞳が雄弁に語っていた。

 

「でもそうなると貴女は中途半端。あのうるさいのよりは細い」

 

 ハヤテの言ううるさいのとはシスイの事である。

 未だに彼女の名前を覚えていないらしい。しかしそれも無理も無い。何故なら……。

 

「我が名は水無月シスイ! またの名を広島ダンジョンギルドの蒼の狂気! そしてダンジョンギルド随一の水の戦士にして、白の英雄の心の弟子! 流れ狂う龍の申し子とはわたしの事だ!」

「?????」

 

 シスイの自己紹介は無駄に情報量が多く、無駄に言い回しが難解で、無駄に格好付けている。さらに毎回変わる。

 サブカルチャーに疎いハヤテにとっては理解しにくい世界で、結局ハヤテの中では水無月シスイ(うるさいの)となった。

 

「おっぱいもシオンよりも小さい」

「それはアンタもでしょうが……!」

 

 Kカップは早々超えられない。彼女たちも世間一般で言えば豊満な方である。

 

「朝からなんちゅう話題で言い合っているんだよ。やめてくれ、恥じらいを持て」

「言われてる。デカ尻女」

「言われてるわよ。変態女」

「二人に言ってるよ! いい加減にしなさい!」

 

 センシの仲裁でそれ以上言い合う事は無かった。

 ホムラの昼食の準備が終わり、食卓に着く三人。あれだけ言い合ってもホムラはハヤテの分を用意するし、ハヤテも出された料理に対して何かしらの文句を言う事は無かった。

 

 そしていつもの様にセンシの批評によって、ホムラは沈められた。100点と言われながら。

 

「100点……」

 

 センシにとってこの料理は100点なのか、とジッと見つめるハヤテ。

 焦げていたり、味が濃かったり、焼き加減に差があったりと、とても褒められた物ではない。

 

「うっ……何よ、何か文句あるの?」

「ない。あなたの料理には問題点は皆無」

 

 そう言ってハヤテは食べ進め、彼女の意外な言葉に目を丸くするホムラ。

 先ほどの言い合いや普段の言動から酷評されると思っていたからだ。

 

「腹の中に入るのなら味は些細な事」

「アンタ喧嘩売ってるの???」

 

 それ以前の問題だった。

 

「何故怒る? 訳が分からない」

「作った物をどうでも良いって言われて怒らない訳ないでしょ!」

「どうでも良いだなんて言っていない。誤解している」

 

 ハヤテはモグモグと次々と口に運びながら語る。

 

「私は料理が出来ない」

「それは……まぁ、珍しくないんじゃない? アタシも出来るというか、今練習しているし」

「ん。それは凄い事」

「……そう」

 

 褒められて少し嬉しそうな顔をするが、見られない様に逸らすホムラ。チョロい女である。

 そして気分が良いホムラは、少しだけならハヤテの言動に目を瞑ろうかなと思った。甘い女である。

 あわせてチョロ甘である。

 

「でもそれだと、アンタ今までどうしてたのよ」

「食える物で食いつないで来た。匂いを嗅げば分かるから」

「……ん?」

 

 インスタント食品などしか食べていないと思っていたホムラは、ハヤテの言い回しに違和感を覚える。

 

「ダンジョンで獲れる食材。生で食べても害がない物。お金は装備や薬、ダンジョン探索関係の為に使っていたから食費が無いから仕方がなかった」

 

 祝福(ギフト)で変身した状態で食事をすれば、生身よりもエネルギー吸収効率が高くなる。また、毒や細菌に対する抵抗力も高く、早々食中毒にはならない。

 しかし、ハヤテは味は二の次に食事をしていた為、人間社会における普通の料理に対して知識が乏しかった。

 

「そういえばアンタ……」

 

 ホムラは、ハヤテのダンジョン探索者としての事情を知る数少ない人物の一人である。

 ハヤテが違法にダンジョンを潜っている事を知っているし、裏社会でどの様な扱いをされているのかも。

 

「ダンジョンに潜る前はどうしてたの?」

「その辺の草を食べていた」

「……親は?」

「私を捨てた」

「――」

 

 故にハヤテは、愛情のある料理を知らない。

 だから、無意識に感じ取っているのだろう。ホムラの料理の温かさを。

 

「……その」

「ん。おかわり」

 

 ホムラは何て言えば良いか分からず、謝ろうとし。

 しかし同情されるのを嫌ったハヤテはそれを遮るように空になった皿を差し出す。

 そんな彼女の想いを察したホムラは、吐き出しかけた残酷な言葉を飲み込み。

 

「残さないでよ」

「当然」

 

 温かい料理を差し出し、何処か嬉しそうに受け取るハヤテを優しい目で見ていた。

 そんな二人を見ながら、センシは意外と相性は悪くないのかもしれない、と思った。

 

 

 

 

『――と、警察は述べており、今回の事件で被害者は100人に及びます。世間では警察の対応の乏しさに非難が強まるばかりで……』

 

 食事を終えた3人はソファに座ってテレビを見ていた。当然の様にセンシを真ん中にし、それぞれ左右から彼の太ももをいやらしく撫でながら。

 しかしセンシは抵抗しなかった。何故なら両サイドから大きく柔らかい感触によって拘束されている為に。

 

「最近嫌な事件が多いわね」

「ん。表に出てないだけで、裏社会ではこういう事良くある」

「お前らセクハラ辞めろよ。訴えるぞ」

「……だったら無理矢理抜け出せば?」

「ん。センシ嬉しそうな匂い出してる」

「べ、べべべべべつにそんな事ねぇし!?」

 

 童貞らしい反応に2人は笑った。先日のS級ダンジョン探索者が放った最上級魔法よりもセンシへの拘束力が高い。彼らがこの光景を見たらキレ散らかすだろう。

 

「センシ、私にメロメロ」

「は?寝言は寝てから言え」

 

 そして2人は時折お互いに睨み合い、牽制し、ギリギリとセンシの腕を力強く握り締める。

 最強のセンシでも結構痛かった。彼で無かったら既に腕は捥げていたのかもしれない。

 

『ここで臨時ニュースです!』

「ほら2人とも。争ってないで世の中の事を知ろうぜ」

 

 話題を逸らす為に、何となく付けていたテレビへと2人の意識を向けようとするセンシ。

 しかしこの後テレビから報道された内容に最も釘付けになるのはセンシだった。

 

『5年前に突如現れた謎の男【白の英雄】ですが、つい先日広島や東京にてその存在が確認された模様』

「チャンネル変える?」

 

 どアップで映し出された自分の姿に思わずチャンネルを掴もうとするセンシ。

 しかしダメだった。GカップとHカップの柔らかいモノで挟み込まれて動けない。さらにホムラたちは興味あるのかテレビに釘付けである。

 

『本日、ダンジョンギルドより正式に発表されましたが──彼を異界の使徒同様人類の天敵認定し、懸賞金が掛けられました。その額は10億となっております!』

「──」

 

 センシは絶句した。S級ダンジョン探索者に出待ちされていた時に写真を撮られたのだろう。テレビにはデカデカと鎧を纏った白の英雄が映し出されていた。

 

「あー。今日報道される予定だったんだ」

「……! ホムラ、知っていたのか?」

「B級以上のダンジョン探索者はギルドから通達受けていたの。センシはC級だから知らないのは仕方ないけど……」

 

 そして彼女は、センシ同様知らなかったのか驚いているハヤテを見た。何でお前は知らなかったんだ、と。

 

「なぜ」

「ああいうギルドの方針ってS級たちが決めているって聞いたんだけど」

「……?」

「いや、不思議そうにこっちを見るな」

「ハヤテ、メールか何か来ていないのか?」

「……あ」

 

 そう言われてハヤテは自分のスマホを取り出す。そこにはしっかりとヒカリからメッセージが送られており、今回の件以外にも様々な取り決めについて書かれていた。

 どうやら通知をオフにした事により気が付け無かったらしい。

 てへぺろ、と舌を出すハヤテにイラっとしたセンシ。美少女でも時には許されない。

 

『そして、彼が人類の天敵と認定された原因が――こちらです』

 

 ヒュッとセンシの息が詰まった。

 

『こちらは現在ギルドが保管している【真理究明の書】ですが、解析した所ダンジョンや異界の神に関する記述が確認された模様。

 ギルド側はこの書を最優先で回収する事を決定致しました。

 しかし白の英雄が妨害を行い、さらに既に所持しているこの書の譲渡を拒否。

 これにより迷宮探索法第1条並びに人類存続憲法第7条に違反していると政府、ギルド側は認定し、今回の経緯に至ったとの事』

 

 真理究明の書? 法律違反? 何故? ホワイ?

 センシは全く意味が分からなかった。

 

「……白の英雄は、アタシたちの敵って事。元々ギルド側も倒せると思っていないのか、目撃情報だけでも知らせたら結構なお金くれるらしいよ」

 

 ホムラの言葉に思わず脱力してしまいそうだった。

 まさかここまでギルドが強硬手段に出るとは思っていなかった。あの時、センシが助力できないと答えるや否や最上級魔法を幾つもぶっ放してきた事から何となく理解していたつもりだったが認識が甘かったようだ。

 

『さらにギルドはこの真理究明の書を贈呈、情報を提供した者には()()()()()多額の報奨金を支払うとの事。最低金額は1億で、要相談、と』

 

 さらにセンシの黒歴史に値段が付けられた。ダンジョンで獲れるアイテムで1億の価値が付けられる物は早々ない。つまり最上級。つまりSSR。つまりSSRの黒歴史。ふざけんな、とセンシは思った。

 

「ん。これ不味いかも」

 

 ニュースを見ていたハヤテが物凄く気まずそうに言った。

 

「ギルドがこうして正式に価値を見出している物は、裏社会の人たちも血眼になって探す。そして闇市場で高値で売買する。ギルドから金を絞り出す為に」

「シオンが言っていたけど、ギルドに居るB級たちも涎垂らしてこの本探しているってさ。実際、今回の遠征チームには遠征手当以外の報酬があったらしくて、それが広まっているらしい」

 

 強ければ強い程、階級が高ければ高い程難易度のダンジョンに潜る事が可能になり、センシの黒歴史と関わる事ができる。

 絶対に獲る必要はなく、もしかしたらあるかも? とギルドに報告するだけで金が手に入るのだ。皆がA級を目指すのも仕方がない。

 

「白上が言ってたのはこれか……!」

 

 女と金が好きな白上のテンションが高かった原因を理解したセンシはゲンナリする。

 メールを見ると一攫千金! とスタンプを送って来た。散在して絶望しているアニメキャラの泣き顔スタンプを10回位送って通知を切るセンシ。

 

 しかし厄介な事になってしまった。

 これまでは異界の神や使徒を相手にし、S級たちを躱すだけだと考えていたセンシ。

 だがこれからは全てのダンジョン探索者や犯罪者との争奪戦が始まる。おそらく異界の神もこの事を知っているだろう。確実に低レベルのダンジョンに黒歴史を配置するかもしれない。

 頭を抱えて深刻な表情を浮かべるセンシ。そんな彼を二人は静かに見ていた。

 

「……A級に上がらないとな」

「センシも欲しいの? あの本」

「あ、いや、その」

 

 思わず呟いてしまった言葉にホムラが反応し焦ってしまう。

 彼女は何も知らない筈だ。だからセンシがA級に上がらなくてはいけない理由を知っている筈はない。ホムラ視点からすると、彼もまた一攫千金を狙う人間に見えてしまう。

 

 しかしホムラは特に言及する事無く、彼に言った。

 

「ねぇセンシ、アンタさ……アタシたちとチーム組まない?」

 

 その言葉にセンシは驚きに目を見開いた。

 

 




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