SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第5話 日常

 居着こうとするハヤテを無理矢理帰したセンシは、遅刻ギリギリで学校に着いた。

 ホームルームを終えて次の授業までの時間、疲労から机に伏せた状態で大きくため息を吐く。

 

「もう家に帰りたいんだけど……」

「何言ってんだコイツ」

「大丈夫? 空我くん?」

 

 クラスでも仲の良い友人二人が、センシの席に近づいて話しかけて来た。

 黒のイガグリ頭が白上ユウマ。茶髪に童顔なのが黛リント。

 どちらも高校からの友人だが、何かと波長があってよく遊んでいる仲だ。

 

「それにしても珍しいよね空我くんが遅刻ギリギリなのって」

「もしかして……昨夜はお楽しみだったか?」

 

 ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてからかってくるユウマ。雑談をする時だいたい猥談を持ちかけて来るこの友人をセントは発情期の猿だと内心思っていた。

 普段ならスルーするところだが、当たらずとも遠からずとも言える。昨日はセンシの貞操の危機だった。

 

「ちっ」

「舌打ち!?」

 

 だからこの様な反応は当然と言えよう。

 リントは「ははは……」とノンデリのユウマとキレ気味のセンシを落ち着かせる。

 ちなみに彼には付き合っている彼女がいる。この中で精神的優位が高い存在だ。

 

「でも随分と疲れているよね。嫁と喧嘩した?」

「いやアイツとは別になんともないよ。あと幼馴染な?」

 

 幼馴染はダンジョン探索で忙しく、結局メッセージアプリでのやり取りしか躱していない。

 イレギュラーや遠征部隊の穴埋めで忙しいのだろう、と答えると二人は納得した。

 

「それでさ、そろそろ聞いても良い?」

「……何が?」

「……いや、そのスマホケース」

「……」

 

 ユウマの指さした先にはセンシのスマホがあった。しかし先日の普通の物とは違い、何故かメカニックなクワガタの形をしたケースに収められている。

 はっきり言って刺々しく使いにくそう、という印象が強い。

 センシは使いたくない、と心底思っていた。

 

「ダンジョンの素材で作った奴かな? ほら、ダンジョン探索者が配信に使うアイテムみたいな……。その、うん。個性的で良いよね」

「お前、本当にセンス無いよな」

「ユウマくん!!」

 

 言葉を濁していた努力を無に帰す行為に、ユウマに対して怒った声を上げるリント。

 しかしセンシは怒らなかった。何故なら自分もこれはセンスがないと思っているからだ。

 そもそも彼自身が好き好んでこの様なカバーケースを使っている訳ではない。

 

【酷いな。完璧な擬態だというのに】

「話しかけんなよ……」

「辛辣!?」

「あ、違う。お前じゃない」

 

 どうやら本当に疲れているみたいだな、と友人二人はセンシに労りの言葉を送って自分の席に着く。それを見送り、センシは脳内に響く声……アルスターに強く抗議した。

 

【いきなり話しかけて来るな】

【つれないね。せっかく違和感なく君の傍に居られるようにしたのに】

【オレは帰れって言ったんだが?』

 

 

 

 

 

 

 今朝、学校に行く際当然の様にアルスターはセンシに着いて行こうとした。当然拒否するもアルスターは聞く耳を持たずに何故か彼の傍から離れようとしない。

 

「そもそも。お前みたいなモンスターを連れていたら通報されるだろうが」

『ふむ。それは確かに。しかしカバンに隠れれば良いのでは?』

「それで見つかったら良くて厳重注意、悪くて逮捕だ」

 

 密輸されているモンスターを違法に手に入れていると思われれば、未成年とはいえ厳しく罰せられるだろう。

 ダンジョン探索者の資格を持っていないセンシなら猶更だ。

 

『ならばこういうのはどうだい?』

「は?」

 

 そう言って突如上下に分離するアルスター。そのまま机の上に置かれているスマホに取り付き、まるでスマホケースの様なデザインへと変形した。

 

「お前そんな事ができるのか?」

『というよりもアルケミースタッグの力だね』

「でもこれ……」

 

 かなりゴツくて使い辛い。ズボンのポケットに入らないし、無理矢理入れたら破れそうだ。

 

『そうだな。この形態をアルスターフォンと名付けようか』

「ダサくない?」

『君には言われたくないな』

「よし喧嘩売ったな? いいぞ買ってやる」

 

 しかし結局スマホからアルスターを引き離す事ができず、置いていこうとすると飛んで着いて来た為仕方なく手に持って登校した。

 その際道行く人にヒソヒソと遠めに見られ、彼は大いに恥を掻いた。

 やはりコイツ邪神だろ、とセンシの中でアルスターへの好感度が下がっていく。

 

 

 

 

「2010年に起きた【第一次ダンジョン災害】。札幌 、仙台 、東京 、名古屋、大阪、広島、福岡で起きた広範囲の地盤沈下とその後の日本恐慌について。

 ここまではこの前の授業でやったな?

 今日は2020年の『第二次ダンジョン災害】から始めるぞー」

 

 4限目の歴史をぼんやりと聞き流しながら考えるのは、既に回収された黒歴史について。

 

【さて、どうしたものか……】

【我々が感知した所、A級探索者が交代で保管庫の警備に当たっているらしいね。それも24時間】

【何でそんなに厳重に守っているんだよ……】

 

 異界の神がそれっぽく設置したにしては、随分と対応が仰々しい。

 彼が想定した通りに重要な宝物だと認識してしまっているようだが、センシ視点それはおかしいと思っている。

 見慣れない文字が書かれた武器などは過去に何度か回収されている。その時はそういうものだと認識されているのに、何故今回に限って?

 

【それはギルド上層部が、アレに白の英雄に関する記述が書かれていると知っているからだね】

 

 その言葉に思わずセンシは声を出した。

 

「――え?」

「……空我。そんなに驚く事か? 割と有名な話だが」

「……あ、いや、その」

「確かに【天ツ上(あまつがみ)ヒカリ】さんはお前たちと同い年だが、最古にして最年少S級探索者である事は事実なんだ。こうなった経緯は割と複雑で……」

 

 授業中に声を出してしまい注目されて恥ずかしくなるセンシ。

 しかし声を上げたのも無理はない。彼の認識では、ギルドは何も知らないと思っていたからだ。

 慌ててアルスターが繋げているテレパシーを使って、どういう事かと問い詰める。

 

【それは我々が最高到達者全員に語ったからね。尤も、熱心に聞いてくれたのは二人だけだったが】

【なにしてんだよ……!】

【あと君の事を滅茶苦茶嫌っている者も居たね。かなり激怒していたよ】

【心当たりがあり過ぎる……】

 

 あの時の少女しかり、ネットの一部の者しかり、白の英雄を嫌悪する者は一定数居る。何故そこまでの力があるのに我々を助けてくれなかったのかと。もっと早く出てこいと叩きまくられていた。

 特にいま歴史の授業で上げられている天ツ上ヒカリは、以前とあるテレビ番組にて白の英雄の存在を認めないとはっきりと発言し、見つけ次第拘束すると言っている。

 

【そもそも! なんで言いふらしているんだよ……! オレが黒歴史バラされたくないの知っているだろ……!】

【そうだね。でも皆に伝えた時は知らなかったからね】

【はぁ? お前何言って――】

 

 そこまで言って、センシは気付いた。

 

【……お前、ハヤテに黒歴史……いや、英雄譚の話をしたのって何時?】

【何時と聞かれれば……そうだね。だいたい今から1年前かな】

 

 センシは絶句した。

 

【君の英雄譚を知った我々は、この思いを形にしようと試行錯誤していてね。その結果、君との接触が遅れたり風緑ハヤテの祝福の不備が起きた訳だが】

「――マジかよ」

 

 絶望に染まった呟きが思わず、口に出てしまう。

 それを聞いた教師はしかし、それを咎める事無く彼を優しい目で見た。

 

「空我。お前意外と感受性豊かなんだな……。先生も初めて知った時は涙したよ。ヒカリさんは父親だけではなく、兄や姉と慕っていた人、親友と呼べる人間全てを失っているんだ。

 天上天下唯我独尊とか、魔王とか色々と言われているが本当は優しい娘に違いないんだ……」

「うわ、また始まった先生の推し語り」

「こうなると長いんだよな」

「オタクっていつもそう。オレ達生徒の事をなんだと思っているんですか」

「授業すすまねーよ。グッジョブ空我」

 

 教室が妙な空気になる中、センシはアルスターを問い詰めた。

 

【お前、何で、そんな事して!?】

【だから言っているだろう。君が己の行いを我々は賞賛していたと。流石に我々もあの内容全てを日本語に翻訳し、個々人に渡すのは無理だからね。故に尤も繋がりの深い7人に伝えて、彼ら彼女らから広めて貰おうとしたんだ】

【神託で推しの布教するのお前くらいだろ】

 

 そういえば、とセンシは思い出す。異界の神が何度かちょっかいを掛けて来く度に、ダンジョンを破壊していた。その度に妙に強い気配がその跡地に駆け付ける動きがあったが――。

 

【もしかして】

 

 パタリと目撃情報が途絶えていた白の英雄を全力で捕まえようとしていた、という事だろう。

 それはつまり彼が自覚する前に手遅れ一歩手前までに事態は進んでいた事になる。

 少なくともS級ダンジョン探索者……それに加えてギルド上層部は把握していると見て間違いない。

 

【我々の言葉で伝えたからね。あまり理解されていなかったよ。残念だ】

【……ほっ。何が残念だ。安堵したわ】

【うむ。我々としては正しく伝えたかったが。そのせいで彼ら彼女らが君の英雄譚の回収の優先度を高くしているし】

【本当に何してくれてんの】

 

 それ絶対に勘違いしているじゃないか、とセンシは内心頭を抱える。

 星の意志の言葉を受けて、ダンジョンギルドがどのような解釈をしているのかは知らないが……これで彼の黒歴史回収は全力で妨害される事になる。

 

「不幸だ……」

「ああ。そうだな。不幸だったんだ。しかしそれでも挫けずに異界の神打倒を諦めない姿に先生は心打たれたんだ!」

 

 とりあえずアルスターはいつか異界の神共々全力で殴ることを決定したセンシ。

 何やら教室が騒がしいがそれどころではないのだろう。彼はノートを書くふりをして前方を見ないようにした。

 

「先生。トイレ行っていいですか?」

「この話が終わったら良いぞ」

「最低あと三時間じゃねぇか」

「授業終わっているよ」

「それどころか昼休みも終わってる」

「誰か教頭先生呼んで来い。校長はダメだぞ。推し問答で殴り合いの喧嘩始まるから」

「終わってるよこの学校」

 

 授業が終わりそうな時間になるも先生の熱弁が止まらず、本当に教頭先生を呼んで来ようかと生徒が立ち上がろうとしたその時、ガラリと教室の扉が開いた。

 暴走する歴史の先生の様子を見に教頭が来たのか? しかしその考えは外れ、入って来たのは3人の生徒だった。

 

「あーだるい。マジで眠いわ。ダンジョン探索者も楽じゃねぇ。なぁ、ホムラ?」

「……」

「みんなおはよ~。先生、授業中にごめんなさいね?」

 

 入って来たのはチャラそうな男子生徒とギャルっぽい女子生徒だった。

 推しの語りを中断された先生は気にした様子も見せずに、むしろ笑顔で彼らを迎え入れる。

 

「いや、構わないぞ! お勤めご苦労様だ。犬崎(けんざき)明星(あかぼし)藤山(ふじやま)!」

「本当に疲れましたよ。A級も楽じゃねーわ」

 

 そう言ってスカスカの鞄を机の横に引っ掛け、荒々しく自分の席に座る犬崎と呼ばれた男子生徒。それに続くように二人の女子生徒も続くが。

 

「……」

「……ちっ」

 

 明星と呼ばれた女子生徒は、一度センシの席で止まり彼を睨み付けた後舌打ちをする。

 しかし彼が反応を示さないと分かると、不機嫌そうに席に戻った。その様子を見ていた他のクラスメイトはハラハラと心配そうに見ていた。

 

「よし、それじゃあ続きを話そうか」

 

 ――まだ続けるつもりなのか。てか、授業しろよいい加減……。

 

 流石に呆れ始めた生徒たちだったが、そんな彼ら彼女らを救う様に終鈴が鳴る。

 ようやくこの時間が終わる、と皆が安堵し、終鈴が鳴って先生も「もうそんな時間か」と漏らした。

 

「みんなごめん! 最後に絶対に語りたい事があるから1分ちょうだい!」

「いやふざけんな」

「それやって良いのテスト前の範囲教えてくれる時だけなんだわ」

「そもそも授業という限られた時間に収められないのは無能の証なのでは?」

「この人授業してないよ。ただの推しの話しているだけだよ」

「ダメじゃねーか」

 

 結局この後教頭先生が駆けつけて歴史の先生はズルズルと連れ去られた。

 その姿を見て生徒たちは呆れ返る。

 普段は気の良い先生だが、推しの事になると仕事そっちのけで布教活動をするのは、子ども達の反面教師となっていた。

 

「まるでお前みたいだな」

【失敬だな】

 

 アルスターの言葉を聞き流し、センシはスマホにて幼馴染にメッセージを返す。

 その後姿を明星という少女が鋭い目で見続けた。

 




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