SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第6話 馴染

「犬崎くん。昨日の夜の配信見てたよ! 強そうなモンスター倒してたね!」

「お? 見てくれてたの? さんくす~」

 

 昼休みになり各々が食事を摂る中、女子生徒達がとある集団に話しかけていた。それはこのクラスの遅れて登校した三人組である。

 快く答えるのは犬崎ケント。染められた金髪に耳にピアス。気崩した制服と典型的な不真面目な男子生徒を絵に描いたような男子だ。

 

「最近チャンネル登録者数増えているよね? 応援しているよ?」

「マジ? めっちゃ嬉しいわ~」

 

 ケントはA級ダンジョン探索者である。そして探索中の様子をYtubeで配信している活動者でもある。女子生徒の反応から人気があるのか、チヤホヤされて満更でもなさそうだ。

 

「藤山さんも強かったね!」

「……あ、ボクも映っていたんだ? 恥ずかしいな~」

「ううん! 凄く強くてカッコよかったよ!」

「ありがとう~」

 

 ポヤポヤとお礼を言うのは藤山シオン。黒髪のミディアムショートに柔らかい表情と聞く者を落ち着かせる声が特徴なゆるふわギャルな女子だ。

 パーカーを着て萌え袖になっている手にはハンバーガーとホットドッグがあり、パクパクと食べながら笑顔を浮かべる。

 

「良かったらこれ食べて!」

「あ、チョコクッキー。くれるの?」

「うん。いつもダンジョン探索頑張ってくれているし!」

「じゃあ、遠慮なく貰うね~」

 

 そう言って彼女はチョコクッキーをパクパクと頬張り、まるでリスの様になる。

 その光景を見たクラスの生徒たちは「かわいい」と癒された表情を浮かべる。

 

「うん。美味しかった。今度お礼するね~」

「良いよ! 守ってくれているんだし!」

「そう? それじゃあこれからも頑張っちゃおうかな~」

 

 焼肉弁当を食べながら嬉しそうに食事をするシオンに、彼女にクッキーを渡した女子生徒はきゅんっと胸を高鳴らせた。

 

「それにしても凄く食べるな……」

「毎度の光景とはいえ、凄いよな……」

 

 遠巻きに見ている他の男子生徒たちは、感嘆の声を出す。

 シオンの机の上には大量の弁当箱やコンビニ袋が置かれており、次々とその中身を消費されている。ダンジョン探索者である事を抜きにしても食事摂取量が尋常ではないといつも驚かされる。

 

「あの体のどこに入るんだろう」

「何処ってそりゃあお前……」

 

 そして向けられるのは弁当を食べる為にユサユサと揺れる胸部装甲。制服のワイシャツを押し上げ、パーカーの前面を開いているから自己主張の激しい大いなる実り。

 彼女の栄養が何処に行っているのかなど、一目瞭然だった。

 

「……サイズどれくらいなんだろうな」

「……さぁ」

 

「――知りたい?」

 

「「――っ!」」

 

 コソコソと話していた二人は、突如耳元で囁かれた声にビクリと体を跳ねらせる。

 振り返るといつの間にか傍に来ていたシオンが、二人の男子生徒に対して悪戯猫の様な笑みを浮かべて。

 

「教えてあげようか?」

 

 ゴクリ、と唾を飲み込む。

 

「――なんてね? 秘密だよ」

 

 しかしその反応を見て満足したのか、彼女はフフフと楽しそうに笑いながら自分の席に戻り昼食を続ける。

 男子生徒二人はドキドキした心臓を抑えるもなかなか止まらない。ついでに教室中の女子生徒の向ける冷たい視線にちょっと泣きそうだった。

 

(((ああいうちょっとエッチな所に惹かれるんだよな)))

 

 そしてその光景を見ていたほとんどの男子生徒の思いは、怖い程にシンクロしていた。

 

「あ、あの。明星さんも凄かったよ?」

「……」

 

 シオンの後ろに座っている明星ホムラの戦う姿も犬崎の配信で映っていたのか、彼女も話しかけられていた。しかし他の二人とは違い、何処となく腫れ物を扱う様に言葉を選ぶ女子生徒。

 茶髪のウルフカットの首元には赤いマフラー。鋭い目つきはまさに鬼の様に他者を威圧する力強さがあった。女子生徒に話しかけられても足を組んで不機嫌そうにスマホを操作しており反応を示さない。

 

「えっと、その」

「――何?」

「あ、ごめん……」

 

 顔を上げて睨みつけられた女子生徒はそそくさと離れていく。シオンとは違い、彼女に話しかける者が居ない中、おかしそうに犬崎が彼女に絡んだ。

 

「おいおいホムラ。お前もうちょっと愛嬌見せろって」

「……」

「ほら。スマイルスマイル」

 

 犬崎の行為に勇気あるな、とクラスメイト達は思った。彼は彼女と同じ時期に広島ダンジョンギルドに配属されており、いわゆる同期である。

 階級は犬崎がA級、ホムラがB級だが。

 しかしその階級差を感じさせない様にフランクに話しかける光景を、日々彼らは見せつけられている。

 

「明星って怖いよな」

「まぁ、人と接するのが苦手だな」

「ザ・ギャルって感じ」

 

 シャツのボタンを開けている為ホムラの白い胸元は常に解放されている。さらにスカートも短く多感な時期の男子生徒には目に毒だ。

 

「……」

 

 ガタリ、とスマホをポケットに収めて突然立ち上がったホムラ。彼女は先ほどからこちらを見ている男子生徒の元へと向かうと、バンッと強く机を叩いた。

 大きな音に皆が驚き、件の男子生徒たちは気まずそうに彼女を見上げた。

 

「さっきからイライラするんだけど?」

「う、うん」

 

 そして思いっきり不満の感情を乗せて男子生徒を睨みつけて、文句を言うその姿には畏怖を与える。

 

(((これでオタクに優しかったら最高なんだけどな……)))

 

 そしてその光景を見ていたほとんどの男子生徒の思いは、怖い程にシンクロしていた。

 

 言いたい事を直接言えたホムラは自分の席に戻る。

 

「おいおいホムラ。機嫌を直せって」

「……」

 

 その道中犬崎が話しかけるが、ホムラは何も反応を示さなかった。

 しかし言いたい事を言ったからか、何処となく先ほどよりは表情がスッキリしている。

 自分たちの席から離れたホムラを見届け、男子生徒はハァッ……と息を吐く。

 そんな二人を見て、リントは言った。

 

「空我くん。ユウマくん。もうちょっと性欲抑えたら?」

「おま、やめろ!」

「怒られるから……」

 

 シオンの面白そうな視線とホムラの鋭い視線、そして苛立ちが混じった犬崎の視線が向けられた気がしたが気付かないフリをした二人。

 

「というより空我くん助けなくて良いの? 明星さん絡まれているよ?」

 

 リントの指さす先を見てため息を吐くセンシ。

 最初はホムラとシオンが食事をしていたのだが、何故かその近くに犬崎とその取り巻きが居座り話しかける。しかし二人は無視し、しばらくして他クラスの生徒たちがやって来て今に至る。

 このクラス以外の生徒たちの目にはシオン、ホムラ、犬崎がいつメンに見えているのかもしれない。ホムラが知ったら全て燃やされそうだが。

 

「本人が手出し無用って言ってる」

 

 そう言ってクワガタスマホを見せるセンシ。そこにはメッセージにて……。

 

【助けようか?】

【良い。でも声聞きたい。不満言いたい】

【なんで我慢するのそこで?】

 

「相変わらず不器用だなぁ、お前の嫁は」

「嫁じゃないって言ってんだろ。幼馴染だってば」

 

 茶化してくるユウマに辟易としながら昼食を取っていると、スマホに新しいメッセージが入る。差出人はホムラだった。

 

【今日家に行く】

【了解。親居ないし丁度いい】

【おばさんから聞いている】

 

 チラリと視線をホムラに向けると、一見表情は変わっていない様に見えたが……センシの目は彼女の口角が上がっているのをしっかりと確認していた。

 まだ大丈夫そうだな、と思いつつも限界が来たら助けようと意識を犬崎に向けていると更に新しいメッセージが送られる。

 

【最近成長してKになったんだ~】

「ぶっ!?」

「うわ、きたね!?」

「行儀悪いよ空我くん」

 

 友人に苦言を漏らされるが、それどころではない。

 バッと勢いよくシオンの方を向けば、大好物のメロンソーダを飲みながらニヤニヤと笑みを浮かべていた。その手にスマホを持って。

 また、からかわれた……とセンシはため息を吐き、しかしシオンの大いなる実りが脳内から離れずドキドキしていた。

 

 

 

 

「アンタ、そのスマホケースどうしたの? イカしてんじゃん」

「マジかよお前」

 

 放課後、センシの家にお邪魔するホムラ。

 家に入ると同時に開口一番アルスターの擬態を褒め、センシを大いに戦慄させた。

 ホムラはセンシの母親に入り、しばらくするとタンクトップとホットパンツというラフな格好になってリビングにやって来た。

 相変わらず凄い恰好だと思いつつも、なるべく身体に視線を向けない様にしてテーブルに着いた。

 

「今日は何作るんだ?」

「肉じゃが」

 

 センシの両親が居ない日は基本的にホムラが夕飯を作りに来る。

 母親が是非にと彼女に頼み、センシも了承した事によって習慣のようになっている。かれこれ1年は続けているだろうか。

 エプロンを着けてキッチンに立ち、料理をするその姿を見ながら尋ねた。

 

「ここ最近忙しそうだったな」

「広島のA級がほとんど遠征に行っているから、その分探索と防衛に回されてるから。……加えて、水無月のアホが抜けている穴も大きいし」

 

 イラっとしたのか、ダンッと力強くじゃがいもを切る音を響かせるホムラ。

 随分とストレスを溜めているな、と彼女の精神状態を把握し、原因はそれだけではないのだろうと当たりを付けた。

 

「でもドラゴンチャンネルを見る感じ、元気そうにやっているみたいだぞ」

「……何? アイツの配信見てんの?」

「見てるっていうか、見てる奴の横でチラッと見たというか」

 

 ちなみにそのチャンネルを見ていたのはアルスターである。ダンジョン探索の光景を配信するその姿に関心を持ち、センシもしたらどうだ? と勧めてきたほどだ。丁重にお断りした。

 

「そういえばアンタ、アタシが居ない時に誰か連れ込んだの?」

「……いや、その」

 

 リラックスして席に着いていたセンシは背筋を伸ばした。

 

「……部分的にそう?」

「ふーん。ちなみに女?」

「……部分的にそうです」

 

 椅子の上に正座をし、アルスターの声は男性声優の物だから女二人ではないなと彼は思いこむ事にした。

 

「何そのアキネイターみたいな回答。――まっ、アンタが誰連れ込んでも何も言わないけどね」

「……そうですか」

「関係ないけど、アタシまぁまぁ疲れたんだよね。犬崎が絡んでくるし」

「……」

「――楽しかった? 随分と仲良くなったみたいじゃん。おばさんのベッドに寝かせる程だし?」

 

 何で浮気がバレた旦那みたいな気持ちになっているんだろう。そう思いつつもセンシは何も言い返さなかった。殺されたくないので。

 

「あの、ホムラさん……?」

「――なんてね」

 

 ダンッと分厚い豚肉を叩き切り、ニコニコとセンシへと振り向くホムラ。

 顔は笑っている。

 しかしその心は……。

 

「何か理由があるんでしょ? アタシ、センシの事よく分かってるから。ちゃんと理解してるよ、うんうん」

「そ、の……」

「ご飯も食べさせてあげたみたいだし」

 

 冷蔵庫に残されていた材料から言い当てられ、彼の背筋を冷たい物が走る。

 別に隠すつもりは無かった。しかしハヤテと出会って経緯が特殊であり、さらに今の彼女との関係も大っぴらに話せる物ではなかった。

 だからと言ってホムラ相手に言い繕うのも、嘘を言うのも心苦しい。いっその事黒歴史関係含めて全て話したいが――アルスターの話を聞いた後ではそれも得策ではない。正直ハヤテにも忘れて欲しいとすら思っている。

 

「……ふーん」

 

 悩みに悩んでいると、仮面の様に貼り付けていた笑顔を捨てて感情を表に出すホムラ。

 意外な物を見た、とセンシの反応に若干面白くなさそうにしながらも理解を示す。

 

「言うつもりだけど、言えない理由がある。そして連れ込んだ女を巻き込んだのも本意ではない、と」

「え? なんで分かるの?」

「そんな申し訳なさそうな視線向けてきたら分かるに決まっているじゃん」

 

 ホムラはもう怒っていなかった。

 この幼馴染はこういう人間なのだ。ずっと何か悩んで、優しいからどんどん悩み事が増えていき、しかし絶対に捨てない。

 

 それを誰よりもホムラが分かっている。

 

 クルリと背中を向けて料理を再開すると、ため息交じりにセンシに言う。

 

「もし言える様になったら言って。聞いてあげるから」

「ああ、うん……」

「ずっと待ってるから」

「……ありがとう」

 

 彼女の優しさに甘えてしまったな、と己の浅はかさを恥じるセンシ。

 元々過去の自分に対しては、己の中で折り合いが着けば彼女に話す予定だった。今は黒歴史を全て回収してからでないといけないが……。

 

「でも女の事はなるべく早くに話して」

「あ、はい」

 

 それはそれとして、センシは肩身の狭い思いをするのであった。

 

「……バーカ」

 

 もしセンシの嫌いな所を上げるとしたら乙女心を理解していない所、とホムラは答えるだろう。 

 同時に愛しい、とも。




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