SSRの黒歴史を回収する為に、ダンジョンを探索する   作:カンさん

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第8話 偏見

「ふぁ……」

「ねむ……」

 

 結局昨日の夜は、ホムラとずっとアニメを見ていた。シオンから送られたメッセージで不機嫌になってしまった為に「今日は寝かせないから」と拘束され、現在二人揃って寝不足である。

 今日も普通に授業があるのに何しているんだか……探索者であるホムラは緊急の呼び出しがあるかもしれないのに。

 

「おはよ~二人とも~。なんだか眠たそうだね?」

 

 登校中、合流したシオンがオレ達を不思議そうに見ながら、ホカホカの肉まんを頬張る。

 春とはいえまだ肌寒い。ホムラも赤いマフラーを巻いているが、服装はかなり露出が高い。胸とか脚とか。お洒落という奴だろうか?

 

「……アンタは朝から元気ね。そんなに食べて」

「アムアム。この肉まん美味しいよ~。二人もどう?」

「アタシはパス」

「一つ貰おうかな」

 

 シオンから差し出された肉まんを一口齧る。肉汁が口の中に広がって少し熱いが美味しい。

 朝はホムラに合わせて軽めにしているから問題なく腹の中に入る。正直高校生の身としてはもっと食べても良いんだがな……。

 

「美味い」

「本当? 嬉しい~。ボクの丸くて、大きくて、柔らかくて、あったかいのが~?」

「んぐっ」

 

 突然耳元でイヤらしく囁かれて、肉まんが喉に詰まった。

 苦しくて胸を叩きながらシオンを睨み付ける。

 

「ごめんごめん~。でも何を想像したのかな?」

 

 そう言って手に持っていたお茶を差し出してくれたので、受け取り口の中に流し込む。

 おかげで窒息する事は無かったが、色々と苦しかった。

 あつあつの肉まんが喉に詰まったのに、うすら寒く感じるのはこちらを見るホムラの視線が冷たいからか。

 

「お前の言い方がおかしいだけだろうが」

「え~。ボクはただ肉まんの事を言っただけだよ~」

 

 肉まんをここまでイヤらしく言えるのはこいつくらいじゃないのか?

 

「勝手に変な想像したのは空我くんじゃーん」

「こいつ……」

 

 残りの肉まんを食べきり、ついでに渡して来たお茶を飲み切ってやった。

 

「関係ないけど、肉まんってこうやってみるとおっぱいみたいだよね」

「ぶっ!」

 

 そう言って二つの肉まんを胸の前に差し出すシオン。

 彼女の発言にオレは吹き出し、ホムラも眉間に皺を寄せて顔を赤くさせた。それと聞き耳立てていた同じ学校の奴らも動きが若干おかしい。

 

「やめろよ! 形とか色がそれっぽいからリアクションに困るんだが」

「え? 空我くんおっぱい見た事あるの?」

 

 こいつ。

 

「おいホムラ。先に行こう」

「そうだね」

「あ~。逃げるんだ~。空我くんおっぱい見たのに逃げるんだ~」

「語弊のある言い方やめてくれない?」

 

 ……ちなみに、肉親以外で初めて見た相手はホムラである。

 一時期我が家に居候していた時に、風呂で、その、ベタな事故が起きて……。

 ……そういえば、あの頃からもう大きかっいだだだだだだだ!?

 

「センシ?」

「ごめんなさい!」

 

 背中をつねられて凄く痛い!

 

「ふ~ん……空我くんが誰のおっぱい見たのかは、また何時か聞くとして」

 

 ぴょんっとオレの横に並んだシオンは、オレの手から中身が空となったペットボトルを取り上げる。オレが捨てようと思っていたのに。

 

「間接キス、しちゃったね」

「――」

「センシ?」

 

 ホムラの指の力と捻る角度がさらに強くなる。このままだと背中の肉が削ぎ落される!

 この事態を起こしたシオンを睨み付けるも、彼女は面白そうにこちらを見てチュッとペットボトルの蓋に一つキスを落とした。こ、こいつ……。

 

 結局ホムラの機嫌が直ったのは、シオンから何かのデータをスマホで受け取ってからだった。学校に着いてからの話である。

 つまりその間ずっと背中を抓られていた訳で、その事を友人二人に愚痴を溢すと。

 

「惚気おつ」

「羨ましい」

 

 と、労りの言葉は無かった。というか白上はレベルが高すぎるだろ。

 

「まぁ、おかげで寝不足は解消されたけど」

 

 反対にホムラは眠たい様で机に伏せている。そんな彼女の頭を前の席に座っているシオンが弄って遊んでいた。普段なら猫のようにパシリと叩き落とされるのに。

 しばらく遊んでいたシオンだったが、飽きたのかこちらに来てオレに対して不満を溢す。

 

「もう。空我くんが昨日ホムラちゃんを寝かせなかったから……」

 

 ――ざわっ。

 

「お前! 言い方! ……違うぞ! 変な意味じゃないぞ!」

 

 シオンの一言で教室がざわつき、視線がオレとホムラに集中した。

 好奇心。嫉妬。敵疑心と様々である。ホムラは人気だからな……ダンジョン探索者だし。

 とりあえずホムラに弁明して貰いたいが……アイツ狸寝入りしてやがる。視線も無視してまで。

 

「空我ぁ……てめぇ……」

「ご、誤解だ!」

「五回だと!?」

「何ベタな勘違いしてんだ白上。ふざけるな」

 

 血涙を流して嫉妬の炎に身を焦がす白上(アホ)の頭に手刀を入れる。

 黛の奴は巻き込まれたくないと思ったのか、早々にオレの席から離れている。くそ、これがリア充の判断速度か。天狗が褒める程に早いんじゃね?

 

「俺ぁ、お前があの巨乳を! デカい尻を! むちむちの太ももを! 好きにしたと思うと! 頭がおかしくなるんだ!」

 

 魂の咆哮を上げた白上は跳んできた筆箱が顔面に直撃し、そのまま撃沈した。

 オレは落ちた幼馴染の筆箱を拾いつつため息を吐いた。顔は悪くないのにエロに対して常に本気だから女子に敬遠されている。でも根は良いから密かに人気らしい。

 

「白上、分かるぜお前の気持ち……!」

「明星さんのわがままボディを好きにしたと思うと余計になぁ!」

「でも空我くんがそんな事すると思う?」

「しないだろう」

「せやな」

「まぁ普通に家で二人っきりらしいから、一発殴らせて貰おうぜ」

 

 そしてこのクラスの男子共は白上に影響されているバカが多い。

 面白半分、殺気半分にこちらにジリジリと寄って来るクラスメイト達。

 こいつら、普段は凄く優しいんだけどな……。

 もはや言葉では届かないか。悲しいな。

 よし、ヤるか。

 バキボキと拳を鳴らしながら臨戦態勢に立つと同時に、ガラリと教室の扉が開く。

 

「うっす。おはよー」

 

 途端、それまでオレに飛び掛かろうとしていたクラスメイト達は()()()()()()、オレに対するおふざけ行為を辞める。

 教室に入った犬崎はその事に気が付かず、そのままホムラの席に近づいて彼女に話しかけた。

 

「よぉホムラ。寝不足か?」

「うるさい」

 

 あ、まずいとオレとクラスメイト達が焦る。

 ホムラが犬崎の言葉に返事をしてしまった。

 それにより犬崎の機嫌が良くなり、反対にホムラの纏う不機嫌オーラが増していく。

 

「ダメだろ、そんなんじゃ。普段の体調管理をしてこそのダンジョン探索者だ」

「別にアンタに言われなくても分かってる」

「おいおい。そんな言い草はないだろう? 俺はお前のためを思って言っているんだ」

「……ちっ」

 

 クラスメイト達の視線がオレに突き刺さる。早く止めろ、と。

 正直気が進まない。誰が好き好んであの男に絡みにいかなくてはならないのか。

 オレは二人に近づき、ホムラの筆箱を彼女の机に置く。

 すると、犬崎はホムラに向けていた笑みから一転して、こちらを冷めた目で見ながら苛立ちを表に出す。

 

「なんだよ空我。今俺とホムラが話しているだろ? 空気読めよ」

「オレには一方的に話しかけている様にしか見えないが」

「それはお前の僻みだろ?」

 

 犬崎は心底見下した表情を浮かべて吐き捨てる。

 

「俺とホムラは、運命の赤い糸で繋がっているんだ――将来、彼女は俺の子を産んでもらう」

 

 その言葉にクラスメイト達は不快感を表に出して犬崎を見て、ホムラから怒気が溢れる。

 

 ダンジョンギルドは、大量の探索者のデータを保有している。

 5年前の災害で多くの探索者が死傷した事により、元々問題だった人手不足は深刻化している。さらに探索者の質の低下も問題視されていた。

 故にギルドは様々な特別待遇や探索者専用の法案を国と共に作り出した。

 

 その中の一つに探索者同士の婚約制度がある。

 大量のデータを元に次世代の優秀な探索者を作り出す為に、相性の良い男女をあてがおうとする動きがあった。

 

 流石に反発が大きく義務化はされず、推奨されるに留まったが……一部の探索者はこれを支持している。

 犬崎は典型的なこの法案の肯定派だった。

 

「きっしょいんだけど」

「照れるなよホムラ。お前はちゃんと第一夫人にしてやるから」

 

 加えてハーレムを築く気満々である。まぁ、探索者は一夫多妻が認められているけど。

 

「――」

「落ち着け」

 

 ブチ切れて体を起こしたホムラを止める。こいつ普通に殴ろうとしていた。

 しかし犬崎はそれに気づかずにオレを睨み付けてガンを飛ばして来る。

 

「いちいち出しゃばるなよ空我。お前はホムラに相応しくないんだよ」

「もう聞き飽きたよソレ」

「分からないから何でも言ってやるよ――祝福(ギフト)が無いお前が、選ばれていないお前が、俺達の世界に顔を突っ込むな」

 

 またそれか、とオレとクラスメイト達は呆れ果てる。

 祝福(ギフト)は誰しもが得る事ができる訳ではなく、今現在の日本人口のうち祝福(ギフト)を得ているのは3%しか居ない。

 故に犬崎は自分達の事を選ばれた人間だと言い、それ以外の人間を見下している。

 

「俺に逆らうって事は国に逆らうのと同じだぜ?」

「大きく出たな」

「当然だ――何せ俺は、選ばれた人間の中でもさらに選ばれた存在、A級ダンジョン探索者だ」

「……はぁ。そんなに偉いのか?」

「当たり前だろ。常に危険なダンジョンに潜り、強いモンスターを倒し、国に貢献する――まさに英雄だよ俺達A級は!」

 

 まるで演説をする様に高らかに叫ぶ犬崎。そろそろホムラを抑えるのが辛くなって来たな。

 

「そこを誇って何が悪い? おかしい? 俺は、お前が……お前たちが呑気に暮らしている間にも、国民の為に働いてんだよ。俺達が居なければ、お前らはとっくの昔に絶滅してんだぜ?」

 

 選民思想に固まったその言葉は、オレ以外のクラスメイトにも向けられた。

 いつの間にか起きていたユウマはつまらなさそうな顔をして、自分の席に戻っている。こういう時のアイツは大人しい。

 

「自分の身も守れない癖に、己の感情で動くテメェは愛玩動物以下だな空我」

「あまりそういう言動はしない方が良いぞ。いつか痛い目にあう」

「は! 是非とも喰らってみたいね! 俺は俺自身が間違っているとは全く思っていないから!」

 

 そう言って高らかに笑い続ける犬崎。

 この学校でA級なのは二人のみである。つまり同級生の中で彼は最もランクが高い。故に付け上がり、態度も口もデカくなる。

 そうなると彼に対する対応は二分化する。おこぼれに預かろうと彼を持ち上げるか、そっと離れて関わろうとしないか、だ。

 

 ただ、唯一彼に対して怒る事ができる者が居る。

 

「そうか、じゃあ早速痛い目に遭うか」

「へ? ――へぶ!?」

 

 ゴンッと突如犬崎の脳天に拳が突き刺さり、彼の意識は一瞬で落ちた。

 その下手人は崩れ落ちる犬崎を掴み、そのまま肩に担ぐとオレに対して頭を下げた。

 

「すまないな空我くん。この馬鹿が……」

「いえ、ありがとうございます先輩。この場を収めてくれて」

 

 犬崎の意識を狩り取ったのは角刈りに眼鏡を開けた2m強の筋肉モリモリマッチョマン。名を猿渡。この学校のもう一人のA級探索者で、犬崎とは元チームメンバーだった人だ。

 犬崎の目に余る言動を毎回愛の拳で制裁しては諫めている。あまり効果が無さそうだが。

 

「明星さんも申し訳ない」

「……そう思うなら、ソイツをさっさと矯正してくんない?」

「面目ない……」

「あ、すみません。先輩を責めるつもりでは……」

「いや、君の苦言も当然の物だよ。はぁ、雉岡さんの様には行かないな……」

 

 何処か気落ちした様子で猿渡先輩は教室を後にした。犬崎も流石に元隊長相手には大きく出れないから、目が覚めたらこってり絞られるだろう。意味はないと思うが。

 

「災難だったな」

「本当に最悪。風化した無いような法案引っ提げて言い寄って来やがって……」

「まぁ、仕方ないだろ。お前かわいいし」

「……」

 

 無言で脇腹を殴られる。さらにクラスメイトから無言の視線が突き刺さった。

 こいつら、犬崎が居なくなった途端コレだ。まぁ、アイツが居る前で今みたいなリアクションをしたら、面白くないと犬崎が暴れるからな……。

 一度そういう事があり、それ以来クラスメイトは犬崎が居る前ではオレ達の事を茶化さないようにしている。明らかに腫れ物扱いだな。他のクラスはその辺知らずに、A級である犬崎を好意的に見ているが。

 

「アイツが欲しいのはアタシじゃなくて祝福(ギフト)だよ」

 

 面白くなさそうに吐き捨てるホムラ。彼女の祝福(ギフト)はシオン曰くかなり当たりの部類に入るらしく、ギルドに所属した時はかなり騒がられたとか。

 そんな彼女を自分の物にしたいという欲求や、その後の己の立ち位置を妄想して優越感に浸っている犬崎は結構ヤバいが……そうさせる原因はギルドや国にあるからなぁ。

 

「――まっ、アタシはアンタが探索者にならなくてホッとしているけど」

 

 ……さて。犬崎によって場が混沌として時間が流れてしまった。

 とりあえず授業の準備をしないと。

 しかしその前に……。

 

「シオン、お前覚えていろよ?」

「え~。何の事~?」

 

 いつかこの暴食女を泣かしてやりたい。心の底からそう思った。

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