宇治さんが正式に同好会の一員となってから暫くが経ちました。
初めは慣れない作業に苦戦していた彼女ですが、今ではかなりお茶淹れが上手くなったと思います。
我ながら良い後輩が出来たなぁと思いながら宇治さんの方を見ると、自然と私の視界に入って来たのは彼女の目を隠す前髪。
実は以前から彼女がお茶を淹れる際やお辞儀をする際等、時折前髪を掻き分ける姿を何度か見かけていたのですが、やはり視界が塞がっていると良いパフォーマンスを発揮できないでしょう。
私は作業がひと段落ついたらしい宇治さんの元へ近づき徐に彼女の前髪を捲りその長さを確かめますが、その時視界に入った彼女の目を思わず覗き込んでしまいました。
ふむ...前から思ってましたが綺麗な目ですね。
彼女は少し自信なさげな所があり、それもあって人の視線を気にして髪で顔を隠している所もあるのでしょう。
もっと自信を持っても良いと思うのですが....おっと、あまり続けていては彼女に失礼ですね。
私は彼女の髪から手を離した後、『作業に支障が出るかもしれない、髪を切るのは酷だろうから茶室にいる時はヘアピン等を使ってはどうか』と提案すると、それを聞いた彼女は顔を赤くさせながらやたらと大きな声で返事をしていました
しまった!私とした事が....つい断りも入れずに髪に触れてしまいましたが、いくらアドバイスの為とは言え他人に髪を触られるのを好む人は少ないでしょう。
顔を赤くしている事から、どうやら彼女を怒らせてしまったようです....今度何かお詫びをしなければ...
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茶葉の残りが少なくなってしまいました。
普段は少し余裕を持って百鬼夜行のお店から取り寄せておくのですが、最近は色々と他の事に気を取られてましたからね....
そんな風に頭を悩ませていると宇治さんが声をかけて来ました。
そうだ、彼女専用の急須等がまだ無かったじゃありませんか。
茶葉を補充するついでにそれらも揃えてしまいましょう。
それから困惑する彼女の手を引き、ゲヘナの備品である車を借りてやって来たのは百鬼夜行。
私は道具の購入等でたまに訪れますが宇治さんは初めてだったようで、物珍しそうに周りの風景を見ています。
それから私達は足りない茶葉に彼女用の道具類、その他古くなった道具の買い替え等を済ませると、最後に色とりどりの着物が立ち並ぶお店へとやってきました。
勿論宇治さんの着物を購入する為ですが、彼女は全力で首を振って遠慮している様子。
心配いりません、他の部程ではありませんが毎月の活動費や学内イベントの手伝い等でそこそこのお金は支給されています。
しかし私1人ではその使い道もあまりなかったので今まで無駄に貯めてしまっていたのです。
変に貯めるだけなら有効活用しなければ、私は半ば強制的に彼女をお店へと押し込みました。
最初は顔を青くさせていた宇治さんでしたが、可愛らしい着物を試着していく内に乗り気になり、最終的には桜色の着物を両手に抱えてお店を出る事となりました。
用事も全て終わり時刻は既にお昼過ぎ。
少し小腹が空いてきた私達は何か食べようと辺りをぶらつき始めます。
そんな中、ふと私は店の”ある商品”が目に入り.....
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しばらく通りを歩いていると、『百夜堂』と書かれた看板が見えてきました。
普段私は必要な物を購入してすぐ帰っていたので、この様なお店があったとは気づきませんでした。
どうやら中は喫茶店の様です、小腹を満たすには丁度いいでしょう。
私と宇治さんは店内へと足を踏み入れると中は大勢のお客で賑わっており、入って早々可愛らしい店の制服に身を包んだ少女が歓迎してくれました。
ご主人様という言葉には少々戸惑ってしまいましたが、私達は彼女に促されるまま席へ座り、そのままメニューに目を通すとそこにはお茶と和菓子のセットがずらりと並んでいます。
ふむ....初めて来たので何が良いのか全くわかりません...そんな私の心を見透かしたのか、先程の店員がおススメを伝えてくれました。
折角ならと彼女がおススメした苺あんみつセットを2人分注文し待つ事数分、元気な声と共に先程の店員がテーブルへと戻ってきました。
...が、そこに置かれたのはどう見てもあんみつではありません、すると店員はすぐさま謝ると急いで商品を取り替えていきます。
成る程、このような少しおっちょこちょいな部分が人気の一部なのでしょう。
確かに彼女の可愛らしい動作からは何処となく”プロ”の技が伝わってきます。
その後食べたあんみつの味もとても満足のいくものでしたが、なんと言ってもこのお茶!
あんみつの甘さを打ち消さないさっぱりとした香りや甘み....渋さが少ない事からおそらく茎茶でしょう、これをチョイスしたこのお店は素晴らしいですね。
私は夢中になりお茶とあんみつを食べ終わると、帰り際に先程の店員へ感想と共に握手を求めてしまいました。
流石はプロの店員です、一瞬困惑した顔を見せましたがすぐに笑顔を浮かべると握手に応じ気持ち良く私達を見送ってくれました。
良いお店を見つけました、今度こちらへ来た際はまた寄るとしましょう。
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大満足な気分でゲヘナへ帰ってきたその日、戻ろうとした茶室の扉の前に謎の少女が倒れていました。