遅れながら、明けましておめでとうございます。
今年もゆっくりですが投稿を続けていくつもりですので、よろしくお願いします。
「「「「いただきます」」」」
今年最後の日、大晦日。
外が暗く静まる中、食堂はいつも以上に多くの生徒で賑わっていました。
談笑する者、夢中になって食べる者...それぞれが自由に過ごす中、私は三人と共に手を合わせ蕎麦を啜ります。
「ふむ、やはりこれを食べないと年は越せませんね」
「コシが丁度良くて凄く食べやすいです」
「ズルっ...ズルル....」
「美味いですねこれ!」
「ありがと、そこまで言ってくれるなら作った甲斐があるわ」
各々目の前の蕎麦に反応を示していると、ある程度作業に一段楽ついたらしいフウカさんが私達の席にやって来ました。
「正直楽だからもっと今日みたいな日が続いて欲しいんだけどね、毎回味が薄いとか量少ないとか文句もあまり言われないし....」
「...いつもご苦労様です」
フウカさんは溜息を溢しながら愚痴を話しました。
...人員としては牛牧さんもいるのですが、彼女の持つ不思議な力もあり、給食部は基本的にフウカさんがメインとなって働いています。
尚且つ数千人分の食事を作るとなると愚痴の一つも溢したくなるでしょう。
(今度また疲労に効く茶葉を仕入れておきましょうか)
「...ご馳走様でした」
私は内心そんな事を考えながら手を合わせ、食べ終わったお皿を調理場の方へと運んでいきます。
「ご、ご馳走様でした!」
「美味しかった」
「また今度食べにきますね!」
「はーい、サエ達も今年はありがとうね。来年もまたよろしく」
「ええ、こちらこそ。ありがとうございました」
そうして、年越し蕎麦を食べた私達は食堂を出ると予め用意していた荷物を抱えて茶室へと向かいました。
「楽しみですね」
「みんなで夜も過ごすのは夏休み以来?」
そう、今日はこのまま解散...ではなく日付が変わるまで茶室で過ごすことにしていたのです。
折角なら全員で年越しを祝いたい、そう考えた私は彼女達に提案すると皆さんは快く賛成してくれました。
勿論既に寮長さんには許可を確認済みです、歩きながら三人を見るとどこか浮き足立っているのがわかります。
まあ私も人の事は言えないのですが....やはりいつもと違う空気というのはどんなものでもワクワクするものです。
「サエ、これどこに敷けばいい?」
「敷く?....ってキョウカさん、布団を丸ごと持ってきたのですか?」
「うん、毛布も沢山あるから使っていいよ」
「完全に眠る気満々ではないですか...確かにやけに大きい荷物だとは思っていましたが」
やがて茶室に着いた私達はそれぞれ持ってきた荷物を整理していきます。
アサリさんは部屋から持ってきた湯呑みなどの小道具、ミオさんはどこか可愛らしくゆったりとした部屋着を、キョウカさんはどこに詰め込んでいたのかいくつもの毛布や布団を出し始めていました。
(これはもう完全にここで寝る気ですね、一応年越しの後は寮に戻ろうと思っていたのですが....というかミオさんは何故服をそんなに持ってきているのでしょうか)
それから荷物を出し終えた私達はそのまま日付が変わるまで茶室で時間をつぶしていきます。
「どうぞ、こういう時に使おうと取っておいた茶葉を使ってみました」
「いただきます....あ、何かいつもと香りが違いますね」
「少し濃い匂い」
「味も舌に残る感じします、美味しいですよ!」
全員でお茶の感想を言い合ったり。
「あの、やはり着なければいけないのでしょうか...」
「大丈夫です!サイズもぴったりですし、姐御なら間違いなく似合いますから!」
「そ、そこまで言うのなら....あの、そういえば何故私の服のサイズを知っているのですか?この前のコスプレの時も思いましたが....」
ミオさんが用意した部屋着を着ることになったりと色々とありましたが、いつもよりもゆったりとした空気が茶室を流れていました。
そしてお茶のおかわりを淹れようと私が立ち上がった所で、突然トントンと茶室の扉をノックする音が聞こえてきました。
もう夜も遅く普通であれば皆寮で過ごしている時間帯、他に誰かやって来るとは思っていなかった私は襖を開け恐る恐る扉を開けてみると....
「こんばんはサエさん、来たしたわ!」
「えっ」
そこに全身を真っ黒な服装で身を包んだ人物が立っていました。
初めは廊下も暗いことがあり不審者かと驚きましたが、その聞き覚えのある声に改めて見てみるとその正体はシズクさんでした。
「し、シズクさん!?何故こんな時間に...」
「何故?理由は当然、サエさん達と年越しを経験してみたかったからに決まっていますわ!」
「な、成る程...いえ、だとしてもこの時間にトリニティから来るのは凄いというか...」
毎度考えている様な気もしますが、彼女の行動力は本当に凄まじいですね。
....実を言うと一度シズクさんもお誘いしようと思ったのですが、流石にトリニティからわざわざ遅い時間に来て貰うのも悪いと考え連絡をしなかったのです。
まあその彼女はこうして部屋の前まで来ているのですが...ひとまずこのまま廊下にいると風邪をひいてしまうので茶室へと招き入れると、シズクさんは嬉しそうにマスクや上着を脱ぎ畳へ足を踏み入れました。
「シズクさんこんばんは、この前はありがとうございました」
「お肉美味しかった」
「すげぇ楽しかったです!」
「私はただ会場と食事を用意しただけですわ、楽しいと感じられたのは貴方達がそう思い過ごしてくれたから....感謝してますわ」
部屋に入ったシズクさんは既にアサリさん達と楽しそうに話していました。
初めて出会った頃から今ではこうして皆さん仲良く過ごせているのですから、やはり人の出会いというのは不思議なものです。
そっと時間を確認してみると年が変わるまで残り数時間、私は彼女達を見守りながら、襖を閉めると彼女に歓迎のお茶を入れ始めるのでした。
「.....zzz」
「し、シズクさん?そろそろ十二時ですよ?」
「姐御、キョウカさんも何か怪しい感じが...」
「....餅、沢山」
「キョウカちゃん、起きてー」
それから暫くして、私は布団で眠る二人に声をかけていました。
シズクさんが来てから少しした頃、どうやら疲れていたようで彼女はキョウカさんが用意していた布団に寝転んでいたのですが、十二時前に起こして欲しいと言い残し彼女はそのまま寝息をたてました。
更にその後キョウカさんも毛布の温もりに負け同様に夢の世界へとダイブ、現在に至るという訳です。
「時間はどのくらいですか?」
「えっと、あと十分くらいです」
「シズクさん、キョウカさん、もうすぐ時間になりますよ」
私はお二人の肩を揺らしながら、何とか起きる様促します。
「.....っ!じ、時間は!?」
「あと五分ですね、間に合って良かったです。....キョウカさんも、後少しですよ」
「...うん....」
五分程揺らしているとシズクさんは飛び起きる様に身体を起こし、キョウカさんはまだ寝ぼけ毛布に包まりながらも目を開こうとしていました。
「あ、もう中継やってるみたいですね」
ミオさんが携帯の動画サイトを開くと、そこから年越しの合図をする生放送の音声が流れてきます。
『今年も残り数分となりました!皆さま、どうお過ごしでしょうか?』
『今回も十二時を迎えた瞬間こちらに用意した閃光手榴弾がここにいる住民の皆さま達により上空に投げられる予定です!準備はよろしいですか〜?』
「もうすぐ、ですね」
色々な記憶を思い返しながら、私達五人は画面から聞こえる声に耳を傾けます。
『さあ!いよいよカウントダウンの開始です!いきますよ〜』
『10!9!8!.....』
ゆっくりと、カウントダウンが告げられていきます。
『5!4!.....』
声はカウントが減るごとに徐々に大きくなり
『2!1!....』
そして、
『0!ハッピーニューイヤー!!!』
その言葉と共に、多くの歓声と閃光弾の高音が鳴り響きました。
気づけばカメラが倒されたのか、集まっていた人達の足元が映るのみのなっています。
「...今年も凄い年越し中継でしたね」
私は相変わらずとんでもない映像に苦笑いを浮かべていると
「先輩」
隣に座っていたアサリさんがこちらを見て小さく微笑んでいました、よく見るとアサリさん以外の三人も同様に私の方を向いていました。
「今年もよろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
「姐御!今年も頑張りますんでよろしくお願いしますね!」
「ライバルとして、今年もよろしくお願いいたしますわ」
次々と告げられる新年の挨拶、それを受けて私は
「....はい、どうぞよろしくお願いします。今年も、良い年にしていきましょう」
彼女達に笑いかけながらそう返しました。
去年は本当に色々な事がありました。
楽しかったことも、大変だったことも....ですがきっと、今年も彼女達と楽しい時間を過ごせるのは変わらないのでしょう。
そう確信しながら、私は新年一杯目のお茶を淹れるため静かに立ち上がったのでした。