誤字報告ありがとうございます。
「道路の方は雪が溶けていてよかったですね」
「ええ、もし山盛りの場合途中で引き返さないといけない所でした」
「それにしても久々でわくわくします!」
「最近は外出もあまり出来ていませんでしてからね、確かに懐かしい感じです」
「美味しいもの売ってるかな、餅とか」
「餅はまだ気が早い様に思えるのですが....まあ何か売ってたら買ってあげますよ」
雪がパラパラと降り注ぐ寒空の下、私は車内で盛り上がる3人と会話をしながら運転をしていました。
私達は何故車で移動しているのか、それは数時間ほど前に遡ります。
「では、私はそろそろお暇させていただきますわ」
「もう行くのですか?」
初日の出を全員で見た後、しっかりと服装を整えたシズクさんは私達にそう言うとその場から立ち去ろうとしました。
「ええ、あんまり長居し過ぎてもここの....こちらでは風紀委員会でしたっけ?そういった方々を困らせてしまいますので」
(...確かに麻痺していましたが、トリニティの生徒が無断でゲヘナへ夜中侵入し明け方まで居座るという、改めて考えてみると中々にとんでもないことをしてしまっていますね....)
「私としても、新年早々サエさん方を困らせる趣味は持ち合わせておりません。名残惜しさはありますが、今回はこの辺りで....いずれまた遊びに来させていただきますわ!」
「ええ、是非」
「また今度!」
「楽しかったですよ!」
「またね」
そうして誰にも見つからない様にゲヘナを出て行った彼女の背を見送った私達。
「さて....皆さんは何かこれから予定は?」
「私は特に....先輩が良ければまた茶室に行こうかなって」
「あたしも同じです!」
「右に同じ」
「そうですか...では提案があるのですが、この後百鬼夜行に行きませんか?」
「百鬼夜行ですか?」
不思議そうに首を傾げているアサリさん達に私は言葉を続けます。
「新年のイベントといえばやはり初詣は欠かせません。丁度天気も悪くないですし、皆さんが良ければ一緒にどうかと思いまして...本当ならシズクさんもお誘いしたかったのですが、帰られてしまったので」
「いいですね、賛成です」
「姐御がしたいことなら喜んでお供しますよ!」
「おみくじも引いていい?」
3人ともがこちらの提案に了承してくれたことに感謝しつつ、荷物を置いたりと色々と支度を済ませる為一度寮へと戻っていきます。
それから再び集まり、備品の車を借りる手続きを済ませた後にようやく百鬼夜行へ向けて車を走らせたのでした。
「あ、見えてきましたよ」
助手席から発せられたアサリさんの声に奥の方を見てみると、そこには少しばかり列を作っている人だかりが見えました。
彼らは皆和を基調とした服装に身を包んでおり、きっと各々が新年の挨拶などの言葉を交わしているのでしょう。
新たな年の始まり、その今日という日を全員が祝おうと気持ちを一つにしている....それがありありと感じ取れます。
「ふぅ...着きましたね」
やがて駐車スペースへと辿り着いた私達はそこに車を停めるとそのまま人混みの中へと向かって歩き始めました。
「やっぱり色々屋台とかもあるみたいですね」
「美味しそう...」
「まずは初詣が先ですよ?終わったら買ってあげますから...ミオさん、キョウカさんが逸れない様にお願いします」
「はい!任せてください!」
そのまま流れる様に列へと並び待つこと15分ほど、ようやく私達の順番となり正式な作法通りにお賽銭を入れ、拝と拍手を行い無病息災と願い事を静かに心の中で唱えていきます。
僅かに早く終わった私は横目でそっと彼女達を見つめていたのですが、3人とも真剣に祈っているのが伝わってきました。
最後にもう一度拝を行ってからその場を離れる私達、
「しっかりと願い事はできましたか?」
「はい、バッチリです」
「あたしは姐...アサリ先輩がもっともっとビッグな存在になる様お願いしときました!」
「今年も沢山美味しいものが食べれます様にって、あと宝くじ沢山当たりますようにってお願いした」
「.....ちなみに人に話すと叶わなくなるという話があるのですが」
「「えっ」」
私の発言に目を丸くさせ固まるミオさんとキョウカさん。
そんな2人の様子が何だか可笑しく、私は小さく笑いながら安心させる様に声をかけます。
「ふふ、大丈夫ですよ。ただの迷信ですし、逆に言った方が良いという話もありますから。大事なのは本人が叶うと信じることですしね」
「よ、良かった....危うく姐....アサリ先輩に面目が立たないことに..」
「まあこれで目的だった初詣は終わりましたし、これからどうしましょうか?とりあえずおみくじでも引きにいきましょうか」
「あとさっき見た屋台で色々食べたい」
「そうですね、では.....ん?」
そう提案し早速向かおうとした所で
「先輩、どうかしましたか?」
アサリさんが後ろからそう尋ねてきますが、私はそれに答えられずにある一点を見つめていました。
視線の先には人混みで賑わっていたのですが、私が注目したのはその中。
(待ってください、何故か妙に見覚えのある方々がいらっしゃる気がするのですが....いえ、見間違いですよね、流石に彼女達な訳が...)
私は内心に困惑と焦りが広がりますが、何とか人違いと思い込み落ち着かせようとします。
彼女達がここにいる訳ありません、それに万が一彼女達が私が考えている当人であったとしても、夏休みの時に海でたまたま出会っただけですし...あちらも私達を覚えているなんてことは....
「なあ、あの人って...」
「ん?あれ、マジだ」
(何かこちらを見て話している様な気がしますが絶対に勘違いです、まさかそんな筈.....)
私は目を逸らしつつ、アサリさん達を連れて立ち去ろうとしたその時
「おーい!朝宮さんだろー?」
「お久しぶりっすねー!」
手を振り、完全に私の事を認識しながらこちらへ駆け寄ってくる彼女達。
私はそんな方々を見て、諦めた様に溜息を溢したのでした。
「いやー、まさかまた会えるなて思ってませんでしたよ」
「...ええ、貴方達もご無事で何よりです」
それから私は屋台近くに設置された椅子に腰掛けながら、あの夏に出会ったスケバンのリーダーとヘルメット団のリーダーの2人と話をしていました。
「しかも屋台のお金まで出して貰えるなんて....恩に切るよ朝宮さん」
「...あの、少し聞いてもよろしいですか?」
先程まで彼女達は20名以上の集まりだったのですが、今ここにいるのは私とそのリーダーである2人のみ。
残りのメンバーとアサリさん達にお金を預け、屋台巡りをさせているというタイミングを見計らい、私は横に座る2人にそう尋ねました。
「あの時確か貴方達は抗争をしていたと聞いていましたが....それにしては今は随分と仲が良い様に見えるのですが」
「ああ、アタシ達はあれから一個の巨大な組織になったんだ。まああん時は風紀委員会に捕まったりでメンバーがだいぶ減ってたっていうのも理由の1つだったけどな」
「今はうちとこいつの元からの仲間に加えて後から入ってきた奴らもいるから前よりも増えてる...それもこれも朝宮さんのおかげだよ」
「わ、私ですか!?何もしていないと思うのですが...」
「海の時は朝宮さん、あからさまに怪しかったアタシらに色々優しくしてくれただろ。それでコイツの仲間と一緒に飯食ってたら、何かこれまで争ってたことが変に馬鹿らしくなったんだ」
「お互いやりやって無駄に消耗するくらいなら、いっそのこと固まって強くなった方が得だろ?そこからはとんとん拍子だったよ。今では立派に大規模組織の仲間入りだ、現にアジトに帰れば今日ここに連れてきた奴らの倍以上待ってるしな」
(それは果たして喜んで良いことなのでしょうか...)
口にはせずとも、私は冷や汗を浮かべながら2人の話を聞いていました。
....確かにアサリさん達と共に屋台へ買い物に行った彼女達は仲良くしている様でしたが...まさかあの思い出の裏でそんな事があったとは知りませんでした。
「安心しな、アタシらは感謝してるんだ。こうして今アイツらのリーダーとしていられる様になったのは朝宮さんのおかげだ、だからあれから抗争はしてない」
「そ、そうなのですか?」
「ああ....まあたまにちょっかいかけてくる奴らとの小競り合いはあるが、それ以外はバイトとかもして普通に過ごしてる、贅沢なんてのとは縁は無いが今の生活には満足してるよ」
そこまで聞いて、私はほっと胸を撫で下ろしました。
過去はどうであれ、彼女達の言葉を信じるのであれば今迷惑をかけていないというのは素晴らしいことです。
(あまり気にしすぎるのも良くありませんね)
私は苦笑しながら再度質問しようとして...
「それに、アタシらも変に暴れて朝宮さんに迷惑かけたくないしな。何せアタシらというか他の奴らの中でもあの話は知れ渡ってるし」
「....ん?」
「いやー、びっくりしたよ。最初はほんの噂程度に耳に入れてただけなんだが、まさかあれが朝宮さんのことだったとは」
「100人近い暴徒を指一本で制圧しただの、いくつもの組織を圧だけで壊滅に追い込んだだの、少しでも害をなそうとするとどこからか秘密裏に現れて消されるだとか...すげぇ奴だったんだな」
「ちょ!?ま、待ってください!?かなり、というかあり得ないレベルで脚色されてますよね!?それになんだが私が前に聞いたものより更に悪化してるんですが!?」
「そうなのか?でも結構不良グループの中では有名だぞ」
「実際ウチらの中にも朝宮さんに憧れてるやついるしな。しまったな、そいつ今日連れてくれば良かった。他にも──」
「.......」
....それから2人は色々と話をしていた様なのですが、私の意識は既に彼方へと飛んでおり、ようやく意識が戻ったのはアサリさん達が戻ってきた時となったのでした。