「部長!ツクヨ殿!こっちですよこっち!」
「い、イズナちゃん、待って....!」
「相変わらずイズナは元気だねー...」
昼下がりの百鬼夜行、周りの通行人を避けながら走る3人の少女がいた。
...正確には元気に走る少女を2人の少女が必死に追いかけるというものだったが。
百鬼夜行連合学院の忍術研究部に所属している彼女達、そんな3人は自分達が運営している"少女忍法帖ミチルっち"というチャンネルに投稿する次の動画のアイデア探しという名目で街へ出ていた。
「部長!あそこの広場で皆さんに忍術を披露するのはどあですか?」
「あ、あの人達の前で...へ、変装用の木を持ってこないと....」
「うーん、それもいいけどやっぱりもう少しインパクトがある奴にしたいかも...むむむ...」
忍者の魅力をキヴォトス中に伝えたい、その想いを胸に今日も活動していた彼女達だったが。
「あれ?あの方達は....」
「ん?どーしたのイズナ?」
突然イズナが立ち止まり、そのまま道の奥に視線を向け固まる。
彼女の行動を不思議に思ったミチルはつられて見てみると、そこには着物を着た4人の少女達がいた。
「い、イズナちゃんの知り合い...?」
「んー、あんまり百鬼夜行では見ない子達だけど...あ、イズナ!」
ツクヨとミチルも彼女達を遠くから見ていたが、その間にイズナは4人の元へ駆け寄っていく。
「お久しぶりですね!」
「え....あ、もしかして久田さんですか?」
「はい!覚えていてくださって嬉しいです!」
「あの時は本当にありがとうございました...おや、後ろの方々は?」
イズナに声をかけられ笑みを浮かべながら話していた少女...サエは彼女の背後から駆け寄ってきた2人を見て不思議そうに首を傾げている。
「部長とツクヨ殿です!」
「は、初めまして、大野ツクヨ...です」
「えっとー、私は千鳥ミチル。よく知らないけどイズナとは知り合い?」
「大野さんと千鳥さんですね。ええ、以前こちらに買い物に来た際ひったくりに遭ってしまいまして。その時その犯人の方を久田さんが捕まえてくれたんです」
「えへへ!忍者として当然のことです!」
ミチルは納得した様に頷いていると、目の前のサエは頭を下げると自己紹介をし始めた。
「申し遅れました、私は朝宮サエといいます。今日は初詣をしにここへ来ました」
「わ、私は宇治アサリです...!」
「狭山キョウカ」
「あたしは川根ミオです!」
「ではサエ殿、アサリ殿、キョウカ殿、ミオ殿ですね!」
彼女達の話を聞き、それから色々と互いの話をし終えたタイミングでミチルがふとサエに尋ねた
「てことは、初詣はもう終わったの?」
「ええ、先程無事に。これからこの辺りを軽く見て回ろうと思いまして、買い物には何度か来ていましたがあまり詳しくは回ったことがなかったものですから」
「それなら部長!あの木を見せるのってどうですか?」
「木?...あーあの神木ね」
「た、確かに今でも綺麗に見れますから、いいかも...」
「桜の木?」
「はい!ここから少し離れた所にとっても大きな桜の木があるんです!」
「すっごく大きいから高いところに登らないと全部を見渡せないんだけど、百鬼夜行に来たなら一度はちゃんと見ないと損かもねー。ここで会ったのも何かの縁だし、折角だからそこまで案内してあげる」
「成る程、ですが千鳥さん達は何か予定があったのでは...?」
「んー、まあ今日じゃなくても出来ることだから大丈夫。それにー...」
「忍者として、人を助けるのは当然です!」
「は、はい...!任せてください....!」
「「「それが....忍者研究部!」」」
そう言って3人は笑顔で決めポーズを決めた。
サエ達はポカンとそれを見つめていたが、やがて顔を見合わせると小さく笑って呟いた。
「ふふ、では忍者さん達のお力を借りるとしましょうか」
「お任せを!ビシッと完璧な案内をしてみせましょう!」
「...百夜堂はもう行かれましたか?す、すごく美味しいのでオススメですよ」
「実は何度か足を運ばせてもらっています。食べ物もそうですが、あそこで出されるお茶も素晴らしいです」
「うん、美味しかった...また食べにいきたい」
「百鬼夜行の祭りには参加したー?時期によっては色んな催しやってるからオススメだよ」
「お祭りにはまだ行ったことなかったです。先輩、今度機会がある時に来ませんか?」
「そうですね、噂では大々的な祭りだと聞いているので楽しみです」
「それでですね、今度新しい忍術を練習中なんです!空蝉の術は完璧なんですけど、次が中々難しくて...」
「へー、あたしも何度か忍者ものの漫画を見たことあるけど本当に忍術ってあるんだな。姐....サエ先輩ももしかしたら出来るかもしれませんよ!」
「み、見様見真似で出来る様なものでは無いと思うのですが...」
百鬼夜行の街を7人の少女が会話に花を咲かせながら歩いていく。
目的の神木までの道のりは長かったが、その分お互いのことやそれぞれの学園についてなどの話を出来た為一切暇をすることが無かった。
「あっ、あれです!見えてきましたよ!」
「おお...まさかあれ程大きいとは...」
「あんな大きな木見たことありません....」
やがてイズナの声に顔を上げたサエ達は、遠くに見えてきた神木の迫力に思わず感嘆してしまう。
いくつもの建物が並んでやっとと言える程の幹の太さに、空の一部を覆うほどに満開に開かれた桜の花。
まさに神秘的な存在感を放つそれを見上げながら、引き続きイズナ達についていく4人。
「もう少しですよ!ここの石段を登っていけば正面から御神木を見られる場所に着きますから!」
「そ、そうですか...でも段の数が多すぎる気が...」
「....足が震えて動けない」
「だ、大丈夫ですか?よ、よければ私が背中におぶりましょうか?」
「まー慣れてないと結構キツイよねー、焦らないでいいからゆっくり行こう」
そうして最後の難関とも言える石の階段を息を切らしながら登っていくこと10分、震えてきた足をなんとか動かし続け、ついにその瞬間がやって来た。
「皆さん!見てください!」
そんな声と共に視界に入ってきた光景、それはとにかく美しいという言葉が似合うものだった。
さっきまでは根本ばかりが見えていた木が今ではその全貌を堂々と見せている。
咲いている桜の花びらが僅かに枝から離れ、冷たい風に乗って少女達の元に届く。
「どう?良い場所でしょ」
「はい、凄く綺麗です....千鳥さん、久田さん、大野さん。連れてきてくださってありがとうございます」
「そ、そんな...わ、私はただ案内をしただけ、ですので...」
「いえいえ!イズナも喜んでくれて嬉しいです!」
ミチルは誇らしげに、ツクヨは恥ずかしがりながら、イズナは満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあそろそろ戻りましょうか!」
「....ちょっと待ってください。もしかして帰る時もあの階段を...?」
「うん、そーだけど」
「...先輩、私もう足がちょっと....」
「あと1時間くらい休んで良い?」
「よ、良ければ帰りもお運びしますよ」
「あたしもまだいけるんで、アサリさんもキョウカさんも遠慮なく言ってください!」
その後、帰りの階段で足が限界に達した数人が動ける様になるまで死んだ魚の様な目でベンチに座ることになるのだが、彼女達はまだ知らない。