「キキキ.....」
──万魔殿本部。
「あぁ...いいぞ、実に良い.....」
そこのとある一室にて、不気味な笑い声が静かに響いていた。
「あれほど素晴らしい光景は存在するのか?いやしない...ククッ....キシシ...!」
その声の主はある一点を見つめながら、誰に聞かせるまでもなく独り言を呟き笑みを浮かべている。
彼女の名は羽沼マコト、ゲヘナ学園の万魔殿議長...つまりここゲヘナ学園のトップという存在である。
そんな彼女が現在手放しで褒め称えているもの、それは...
「マコト先輩〜!見て見て〜!」
「おお!よく出来てるじゃないか、流石はイブキだ!チアキ!急いで額縁を買ってくるんだ!」
「わっかりましたー!」
目の前の机でお絵描きをしていたイブキだった。
「マコト先輩、さっきから笑い声が漏れてますよ」
「何を言うイロハ!イブキが頑張っている姿を見て無反応でいられる訳がないだろう!」
「はぁ...もう1時間もずっとそんな調子ですよね?...まあ気持ちはわかりますが」
そう言うイロハも溜息をつきつつマコトの言葉を完全には否定しない、何故なら彼女もまたイブキという天使の動きを同様に目で追っていたのだから。
そんな2人の視線を気にすることなく当のイブキは新しい絵を描き始めている。
どこか平和な昼下がりの万魔殿、だがその時不意に廊下の方から何者かの足音が聞こえてきた。
カラカラと普段はあまり聞かない音にマコトは目を細める、その顔にはどこか警戒心が浮かんでいるように見える。
「この音は...」
「サエ先輩だー!」
イロハもその音の主に気がつき、イブキにいたっては徐に立ち上がると扉の方へと向かって駆け寄っていく。
「すみません、お茶飲み同好会のサエです。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
ノックと共に聞こえてきたその声はやはり彼女達が想像していた人物の様で、マコトは先程よりも更に目を細めつつ入室の許可を出す。
やがてガチャリと扉が開かれると同時にとうとうその姿が眼前に晒された。
「こんにちは、今日は....」
「サエ先輩久しぶり!」
「おっと...!イブキさんでしたか、お久しぶりですね」
サエと名乗った少女はいきなり飛び込んできたイブキに驚きつつも優しく彼女の頭を撫でていく。
「...っ!」
「....はぁ、マコト先輩抑えてください。思い切り顔に出てますから」
そんな2人の様子にマコトは歯軋りをしながら睨みつけている、彼女はイブキが懐いている目の前の少女の事が苦手だったのだ....対抗心を燃やしているという方が正しいかもしれない。
マコトにとってイブキは大切な存在であり全てだ、だからこそ以前から彼女に関わる様になったサエの事を、イブキを手籠にしようとしている泥棒猫だと考えているのだ。
....勿論サエからすればそんな気は更々無いのでマコトからの一方的な思い込みではあるが、訂正しようとしても頑なに納得しないの彼女も諦めてしまっている。
「すみませんね、今日は特に朝からイブキと一緒だったものですから」
「いえ、棗さんが謝ることではありませんよ。私も連絡も無しにいきなり来てしまいましたから」
「サエ先輩見て!さっき描いたイブキの絵!」
「イブキさんが描いたのですか?とてもお上手ですね....これはペロロですね?何だか最近縁があるみたいです...」
それからイブキに手を引かれローテブル前に座ったサエは、イブキと一緒に絵を描き始める。
「ぐっ...!アイツが来なければ今日のあのポジションはマコト様だけのものだった筈だ!まさかアイツはこの万魔殿のトップの座を狙って...!?」
「絶対先輩の考えすぎです」
「おのれ朝宮サエ!今日はイブキに免じて許してやるがいつか必ず!!!」
「はぁ...」
すっかり自分の理論に絡め取られたマコトを見て諦めたイロハは頭を抱えながら再度溜息をつく。
(...何だか凄い圧を背中に感じるのですが)
そんな中、サエもマコトから発せられるプレッシャーを背中にひしひしと感じつつ、ゆっくりと時間が過ぎていったのだった。
それなら数時間後。
「ではそろそろ帰りますね、今日はありがとうございました」
部屋の中には帰る用意を済ませたサエの姿があった。
「そうだ、イブキさん」
「?」
「これをどうぞ、実は今日はこちらを渡しに来たのですが、すっかり夢中になってしまいましてね」
そう言って袖口に手を入れ何かを手に取ったサエはそれをイブキに手渡す、それは綺麗な花の絵が描かれたポチ袋だった。
「私からのお年玉です」
「いいの!?サエ先輩ありがとう!」
それを受け取ったイブキは笑顔で抱きつき、サエも喜んでくれたことに小さく笑いながら来た時の様に頭を撫でる。
「ぐぁぁぁ!?そ、その手があったのか!!!完全に失念していた...イロハ!今すぐ大量のポチ袋を買ってこい!」
「何で数で対抗しようとしてるんですか...」
結局それからサエが去った後、マコトにより帰ってきたチアキと用事で出ていたサツキを含めた4人で"イブキへの大お年玉大会?"なるものが開かれる事になったのだった。
...一方戻ったサエは。
「......」
「....」
「えっと、キョウカさん?聞いても良いですか?」
「何?」
「その、何故その様な服を着ているのですか?」
何故か幼い子供が着るような服を身に纏い、目をキラキラさせながら手を伸ばしているキョウカを前に固まっていた。
「サエ、お年玉渡しに行くって聞いたから。私ならまだいけるかなって」
「...キョウカさん、流石にズルはいけませんよ」
確かにこの中で1番背が低いのもあり正直似合っていると思ってしまったがそれはそれ、サエがキッパリ告げると彼女はがっくりと肩を落とした。
「まあお年玉ではありませんが、つい先日頂いたお菓子がありますから。そちらをあげましょう」
「やった」
そうしてお互いの時間が今日もゆったりと過ぎ去っていったのだった。