重要なご連絡です。
私事で大変恐縮ですが、現在大切な時期を迎えておりここ最近小説の執筆時間を確保することが難しくなっています。
その為もしかすると今後の投稿が一時的にストップしてしまう可能性があります。
ご了承いただけると幸いです。
「.....」
ある日の昼過ぎ、部室棟奥の茶室にて私は1人静かに正座していました。
腕を組み無言で下をじっと見つめている姿は側から見れば不機嫌なのか、それとも何か思い詰めているのかと勘違いされるかもしれません。
ではそんな私は今何をしているのか?それは目の前にあるものが理由でした。
お茶用のローテーブルの上に置かれている1枚の半紙、その横に置かれている筆と墨汁の入った器....。
それらを使ってこの時期に行うものと言えば1つ、書き初めです。
本来であればもう少し早く取り掛かろうと思っていたのですが...初詣や買い出しなど思いの外別の予定が詰まっており、ずるずると引き延ばされ今日になってしまったのです。
「そう考えると、去年よりも充実した日が多いといえるのでしょうか」
私はそんなことを考えながら頬を緩めます。
まあどこかに提出したり誰かに見せたりする訳ではありません、それに書く文字も決まっているので焦る必要はないのですが。
それでもやると決めていたことが終わらないのはスッキリしません、気を取り直して姿勢を正し筆を手に取った私は半紙にそれを近づけ....
「先輩、こんにちは」
「姐御!お疲れ様です!」
「寒い...」
ようとしたタイミングで、茶室の襖が開かれ3人の声が聞こえてきました。
そこにいたのは当然アサリさん達、私も一度テーブルを片付け彼女達を出迎えつつ他愛もない雑談を交わしていきます。
そんな中、各々着替えたりお菓子を手に取ったりと自由に動いていた彼女達でしたが
「サエ、それ何?」
饅頭を口に含んでいたキョウカさんが、端に寄せたテーブルの上の道具を見て徐に口を開きました。
その声に反応したアサリさんとミオさんも同様に尋ねてきたので私は特に隠すことなく答えます。
「ああ、実は書き初めをしようと思っていまして」
「書き初めですか?」
「ええ、1年の目標だったり抱負を文字で表して気を引き締める....なんて意味がありますが、まあ私の場合はただやりたいからという理由ですけどね」
「成る程...あっ、それ私もやってもですか?そういうのあんまり経験したことが無いのでやってみたくて」
「姐御がやるならあたしも是非!」
「私も、やったことないし」
「そうですね...半紙は大量にありますし、構いませんよ。それに良い記念になるでしょうから」
そんな彼女達の提案に驚きつつも、嬉しくなった私は二つ返事で答えながら3人分の半紙を用意しました。
「では私から書かせてもらいますね」
その後早速墨を染み込ませた筆を手にゆっくりと半紙の上をなぞっていきます。
一点一画を疎かにすることなく頭で思い描いているその文字を集中して書くこと1分、先程まで真っ白だった半紙の上には大きな『お茶』という文字が浮かんでいました。
「ふぅ...良い感じです」
「あはは、やっぱり予想通りでした」
「サエらしい」
「めちゃくちゃ良い字です!これあたしの所で飾っても良いですか!」
「い、いえ、恥ずかしいので出来ればお断りしたいのですが....コホンッ、とりあえず次は誰がやりますか?」
「じゃああたしで!姐御に続いて立派な字を書いてみせますよ」
そう言ってやる気満々な様子のミオさんに筆を手渡すと、彼女はふぅーと大きく息を吐いて目を瞑りました。
どうやらかなり集中しているようです、若干筆を持つ手に力が入りすぎている気もしますが、暫くしてミオさんはカッと目を見開くと目の前の半紙に筆をぶつけていきます。
「出来た!」
そこにあったのは、文字の端が所々はねながらもかなり力強さが表現された『姐御』という文字でした。
「うん、ミオちゃんらしさが出てて凄く良いよ」
「思いが溢れてる」
「へへっ、ただ勢い余って姐御みたいな字にできなかったのが悔しいですが..,」
「こういう時は誰かの真似をするのではなく自分を表現するのが大切ですから、ミオさんらしさが出ていて私は好きですよ」
「ならあたし姐御に褒められたこの文字家宝にします!」
「そこまでですか!?」
かなりの宣言に若干苦笑いを浮かべつつ、次に書く人へと筆を手渡します。
3人目はアサリさん、どうやらかなり緊張しているようで手がプルプルと震えているのが見てわかるほどでした。
「大丈夫ですよアサリさん。気を楽に、です」
「は、はい!」
それから慎重に筆を動かすこと数分、筆が離れた後の半紙には少しだけ線が揺れながらもはっきりとした文字で『親愛』と書かれていました。
「うぅ...あんまり綺麗に書けませんでした...」
「いやいや、凄い綺麗な文字ですよ!」
「良い感じ」
「お二人の言うとおりです、そう落ち込む必要はありませんよ」
「えへへ....そ、そうですか?」
「じゃあ次私」
照れるアサリさんから筆をもらったキョウカさんでしたが、墨汁をつけるとすぐに半紙へ書き始めました。
誰よりも迷いなくサラサラと筆を動かしていき、あっという間に文字が出来上がっていきます。
「よし、終わり」
そうして完成したのは....
『金』
もう清々しいほど大きく、そして堂々と書かれた一文字でした。
「自信作」
「....ふふ」
誇らしげに半紙を持ち上げ掲げる彼女の様子に、思わず笑みが溢れてしまいます。
「す、凄いねキョウカちゃん...」
「ある意味流石ですね...」
「1番パッと思いついた文字だったから」
「ふふっ、ええ、実にキョウカさんらしくて良い文字です」
「わ、私もう一回書いても良いですか?」
「じゃああたしも!次はさっきよりももっと良い感じに書ける気がします!」
「皆さんすっかりやる気ですね...たまにはこういう時間も良いでしょう」
こうしてそれから1時間ほど、各々の思いが込められた半紙が積み重なっていくのを、私は静かに見守っていったのでした。