かなり不定期になりますが、時間が少し取れたので今後もゆっくり投稿を再開させていきます。
「.......」
まだ1月というのもあり、冷たい風が肌を吹き付ける様に流れていきます。
聞こえてくるのは道路に残った雪の上を通るタイヤのガタガタという音、そして....
「あぁ、楽しみですわ。早く堪能してみたいものです」
「うふふ、私もすっかりお腹が空いちゃいました〜」
「何つけてたべようかな〜、やっぱりナマズクリームもいいかも!」
「ちょっと!変なのは持って来ないでって言ったでしょ!」
「え〜美味しいのに...」
..."私達"を拉致したハルナさん達の声です。
事の経緯は至極単純、朝方茶室へと向かおうとしていた際に一瞬にして縄で拘束されトラックの荷台に乗せられたのです。
そのトラックの持ち主であるフウカさんも当然私の隣に縛られて座っていました。
「はぁ...何でハルナ達は年が変わっても変わらないのよ」
もはや完全にこの状況に慣れてしまっているフウカさんは深々と溜息を溢しています。
「あの、ハルナさん。今回はどういった理由で連れてこられたのかお尋ねしても...?」
私は彼女を横目に運転席のハルナさんへ声をかけました。
「それなら....フウカさんとサエさんの近くにある道具一式を見ていただければ察しがつくと思いますわ」
そんなハルナさんの言葉に改めて周りを見渡してみると、そこに置いてあるのは石臼や杵、そしてホカホカと蒸されているであろう餅米が入った大きな器。
それらから考えられるのはどう考えても1つ...私が1人無言で頷いていると、ハルナさんは言葉を続けます。
「お正月といえばお餅、それもしっかりと自分達の手でついたお餅...そこにどれほどの味が隠されているのか!気になるのは当然のこと」
「はぁ...でも餅をつくだけであればハルナさん達だけで良い気がするのですが...」
「そうね、私なんて給食の仕込み中に連れてこられたんだけど」
「お2人とも甘いですわ、単純な餅つきという行為...そのシンプルさにこそ究極の美食が隠されているもの。それゆえに一切の妥協は許されません、より良いお餅を作る為には料理に精通した方を...お餅をよりよく味わう為にはそれに合うお茶を作れる方が必要というわけなのです」
「...いやでも私普段からお餅ばっかり扱ってる訳じゃないんだけど」
「そこは問題ありません、料理に真摯に向き合うフウカさんであれば必ずや素晴らしいお餅にしてくれると信じています♪勿論サエさんにも腕を振るって貰う為の準備は万端ですのでご安心を」
「...もうなる様になれって感じね」
「そうですね...」
一度こうなってしまった彼女は止められません。
色々と言いつつも既に諦めの姿勢でいた私とフウカさんは顔を見合わせ溜息をつきます。
また今年も彼女達からの無茶振りを叶える日が沢山やってくるのだろうと思いながら、それから暫くの間私達はトラックの揺れに身体を預けたのでした。
「ふぅ、やっとついたわ!」
「お腹ぺこぺこ〜、早く食べようよ〜」
やがて到着したのは真っ白な雪が辺りに積もる小さな広場。
「ねえ、本当にここじゃなきゃ駄目だったの?屋内とか、それこそ学園の敷地内で良かったと思うんだけど」
「寒空の下でやるからこそお餅の熱が身体に染み渡る、そうでしょう?」
「わかる様なわからない様な、といった感じですね...まあ早いところ準備を進めてしまいましょうか」
トラックから降りた私達はハルナさん達と共に持ってきた道具を運び終えると早速前準備に取り掛かりました。
まずは蒸された餅米を臼の中へと入れ、杵で均一になる様押し潰していきます。
「うん、大体このくらいかな」
やがて全体的に潰せたことをフウカさんが確認し、いよいよ本格的な餅つきの開始です。
「じゃあ始めるけど...まさか私1人でやれって言うんじゃないでしょうね」
「それについてはご心配なく、全員で一致団結して作り上げてこそ究極のお餅が完成するのですから」
「まあここまで来ちゃったし、やるけどね」
そう言って溜息混じりに杵を手に取るフウカさんは、臼の前に立つと杵を肩ほどまで上げ餅米目掛けて振り落としました。
杵の重さを利用した動き、フウカさんのその動きに合わせて反対側にしゃがんでいたハルナさんがついた後の餅米をひっくり返すようにこねていきます。
ぺったん、ぺったん、とリズムよくつかれていく餅米。
それが何度か繰り返された所でフウカさんは杵を下ろすとそれをアカリさんへと手渡し交代します。
「じゃあ次いきますね〜」
受け取ったアカリさんは少し屈むと餅米をつく動きを再開させます。
杵で餅米をつき、手で餅米をひっくり返す...そんな同じ動作を順々に行っていくこと15分程。
「うふふ♪中々良い具合になってきましたわ」
臼の中には最初に触った時に感じられた餅米の感触は無く、ふかふかで滑らかな質感の餅が出来上がっていました。
「まだ熱いから食べれるまで少し待たなきゃね」
「ではその間に私はお茶の方を用意しますね。ハルナさん、道具の方は...」
「こちらに用意してますわ」
そう口にしたハルナさんは急須や湯呑み、色んな種類の茶缶などが入った箱を見せてくれました。
相変わらずの用意の良さに感心しますが、お餅が冷めすぎてもあれなので早く取り掛かるとしましょう。
(色々候補はありますが、やはり煎茶....いえ、ここは棒茶でいきましょうか)
淹れるお茶を決めた後は野外用のガスバーナーを用いてお湯を沸かしていきます。
その後湯呑みや急須を湯覚ましと同時に温め、人数分の茶の茎を急須へ移し30秒程待機。
それから人数分の湯呑みへ均等になる様少量ずつ注いでいけば完成です。
「お待たせしました、こちらは終わりましたよ」
「こっちも丁度良さそう。ハルナ達、お皿出してくれる?」
フウカさんによって取り分けられた餅がハルナさん達が持つお皿の上に乗っけられていきます。
「醤油や餡子、その他にもまだまだ沢山ありますからお好きなのをどうぞ」
「じゃあ私は醤油で」
「私はきな粉をいただきますね〜」
「皆もかける?美味しいと思うよ〜」
「私は餡子...ってちょっと!勝手にかけようとしないでってば!」
「皆さん、各々好きなものはつけ終えましたわね?では実食と参りましょうか」
「「「「いただきます」」」」
その言葉を皮切りに、私達は一斉にお餅を口元へと運びました。
「これは...」
「ん〜美味しい!」
飛び込んで来たのは餅特有の柔らかさ、先程全員でしっかりついたおかげかとても良くこねられており、程よい噛みごたえとほんのり漂う甘さが伝わってきます。
「やっぱり思っていた通り、とても良い出来栄えで大満足ですわ。それにこちらのお茶も少し変わった味わいがあります」
「本来は茶葉を使用するところを、こちらの棒茶は新茶の茎を利用して作られているんです。他のお茶とはまた違った香ばしさや甘さがあるので、色んな味のお餅に合うかと」
「へー、そう言うのもあるのね」
「うふふ、これだけ美味しいといくらでも食べられそうですね〜。あ、おかわりお願いします」
「あんまり食べすぎて帰る時に支障が出ない様にしてよね...」
「私もおかわり!今度はハバネロ明太子ソースで食べてみよーっと」
時刻がお昼に差し掛かりそうになる中、私達はそれからもう少しだけこのお餅パーティを楽しんだのでした。
....帰った後、給食が無いとして一部生徒による暴動が起こっておりそれを鎮圧するのに働くことになるとは知らずに。