ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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親切な贈り物

寒空の下....久しぶりに外へと出ていた私は1人部室棟へ向かって歩いていました。

 

数日前に運悪く引いてしまった風邪でしたが、アサリさんがお見舞いに来てくれてから特に症状が悪化する事もなく、更に数日の休養を経て無事元の体調に戻すことが出来ました。

 

「ふぅ...やはり外の空気は気持ちがいいですね」

 

小さく深呼吸をしてみれば、冬の冷たく澄んだ空気で肺が満たされていくのがわかります。

私はそんな独り言を溢しながらやがて目の前に見えてきた部室棟...そこにある自分達の茶室に思いを馳せていました。

 

離れたのはたった数日....だというのになんだかとても長い間あの場所を空けてしまっていたような、そんな不思議な焦燥感と寂しさがあったのです。

それから辿り着いた部室棟廊下の奥の部屋、その扉の前に立ってみると中から微かに3人の話し声が聞こえてきました。

 

(皆さんもう集まっていたようですね)

 

私は聞こえてきた彼女達の声に自然と口元が緩みつつ、ゆっくりと扉に手をかけ中へと足を踏み入れます。

 

「こんにちは、皆さんお久しぶりですね」

 

「せ、先輩...!」

 

「あ、サエだ」

 

「姐御、もう大丈夫なんですか!?」

 

私の声に反応し振り返った3人、彼女達はこちらを見るなり弾かれたように立ち上がるとパタパタと足音を立てて駆け寄ってきました。

 

「ええ、すっかり熱も下がったのでもう大丈夫です。ご心配をおかけしてしまいすみませんでした」

 

「い、いえ謝らないでください! 先輩が元気になってくれて良かったです...!」

 

そう言いながら笑顔を浮かべるアサリさんに、キョウカさんとミオさんもそれに深く頷きながら私の顔色を安心したように見つめてきます。

私は彼女達の歓迎を受けながら改めて畳へ足を置こうとしましたが、ふと茶室内の様子を見渡して気づいた事を口にしました。

 

「...?なんだか私が休む前よりも部屋が綺麗になっているような....」

 

畳は掃き清められているのか埃一つなく、テーブルや棚の上の隅々まで丁寧に拭き上げられているのがわかりました。

おまけに部屋の空気自体もどこかすっきりとした香りが漂っているようです。

 

「えっと、実は先輩がいない間私達で少し掃除をしてたんです。先輩にとっても私達にとっても大切な場所ですから、先輩が戻るまでしっかり綺麗にしておこうって3人で決めて....」

 

私が周りを見渡していると、アサリさんが少し恥ずかしそうにしながら答えてくれました。

 

「テーブルは私が拭いたよ」

 

「完璧にしないと姐御を迎えるのに相応しくないですから!バッチリ綺麗にさせてもらいました!」

 

続いて胸を張り自信満々に答えるキョウカさんとミオさん、私はそんな彼女達の優しさにじんわりと胸の奥が温かくなっていくのを感じます。

何より3人もこの場所を大切に思ってくれている、その事実がとても嬉しかったのです。

 

「...ありがとうございます、皆さんのそのお気持ちでもっと元気になれた気がしますよ」

 

そんなどこか幸せな空気の中、再び部屋の中を見渡していた私の視線はある一点でピタリと止まりました。

 

「....ところで先程から目に入っていたのですが、あちらの隅にあるのは何ですか?」

 

私が指差した先——丁度部屋の隅のスペースにはいくつもの段ボール箱がいくつも積まれていました。

しかも小さな箱から大人が両手を広げても抱えきれないような巨大な箱までそのサイズはバラバラで、それらがざっと数えただけでも十箱以上あるようです。

 

(何か新しい備品でも頼んでいたのでしょうか?)

 

そんな風に考えていると、3人はどこか気まずそうな...どこか複雑な表情を浮かべました。

 

「あー、あれはですね....実は私達が頼んだものじゃないんです」

 

「?では一体誰が...」

 

「えっと....シズクさんからです」

 

アサリさんの口から出た名前に、私は思わず目を瞬かせました。

 

「シズクさん? 彼女があんなに大量の荷物を?」

 

「はい、実は先輩が風邪を引いてお休みしているってことをシズクさんにも連絡していて...それで送った時は特に反応が無かったんですけど、昨日ここに来てみたら部屋の前に沢山あの荷物が積まれていて....」

 

その言葉を聞きながら段ボールを確認してみると、そこには確かにシズクさんの名前が綺麗に書かれていました。

 

「とりあえず勝手に見るのもあれかと思って、一応先輩が戻ってくるまで置いておこうかと...」

 

「なるほど、そういう事でしたか」

 

ひとまず中を見てみない事にはシズクさんの意図はわかりません、私はアサリさん達に見守られる形で一つ一つ段ボールを開封していくことにしました。

 

まず手に取ったのは比較的小さなサイズのもの、貼られていたガムテープをペリペリと剥がしていくと、大量の市販薬のパッケージが目に入ってきました。

トリニティで売られている風邪薬から栄養剤まで、あらゆる症状に対応できる様に全て買い占めてきたのではと思うほどのラインナップです。

  

「お、お薬だけでこんなに...」

 

「凄い数」

 

そのあまりの量に私は思わず苦笑してしまいます。

それから他の箱も開けてみると、今度は冷却シートの束や高級そうなスポーツドリンクのペットボトルが数十本、更には最新式の高性能加湿器、更には肌触りの良さそうな高級シルクのパジャマまで出てきました。

 

「これは風邪の看病グッズ....というよりもはや災害時の備蓄物資レベルですね...」

 

あまりの過保護ぶり...いえ、きっと彼女なりに私を心配してくれた結果の行動なのでしょう。

少しばかり量が多すぎるとは思いますが、その気持ちだけはありがたく受け取りましょう。

 

そうして何個も開けていくこと暫く、ようやく最後の箱に手をかけると....その中には美しく装丁された缶や袋が所狭しと並んでいました。

 

「これは....」

 

中に入っていたもの....それは全て紅茶やハーブティーの茶葉でした。

シズクさんが普段から淹れているものなのか、ダージリンやカモミール、体を温めるジンジャーブレンドなど様々な種類が見受けられます。

 

『喉を潤し体を温めて、ゆっくり休んでくださいませ、早く良くなることを祈っていますわ』

 

そして箱の底にはシズクさんの字で書かれたメッセージカードがそっと添えられていました。

 

「....本当に感謝しなくてはいけませんね」

 

学園が違うにも関わらず、これほどまでの量を用意してくれた労力と気持ちを考えると自然と頬が緩んでしまいます。

それから受け取った荷物の中身を整理し終え、いつも通りの穏やかな時間が流れ始めた頃

 

「先輩」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「その...戻ってきた日にお願いするのはあれかもしれないんですけど、良かったら先輩のお茶をお願い出来ますか?」

 

そう小さくアサリさんが呟きました。

 

「先輩がいない間私達だけで何度かお茶を淹れたりしてたんですけど...やっぱり先輩が淹れるお茶とは少し違うなって思う所もあって....久しぶりに飲んでみたいなぁと...」

 

「私も、お茶菓子にぴったり合うお茶飲みたい」

 

「私からもお願いします姐御!」

 

3人それぞれが私にお願いしてきますが....私がお茶を淹れるのを断る訳がありません。

 

「ふふ、いいですよ。むしろこちらから飲んで欲しいとお願いしたいくらいでしたから」

 

ゆっくり深呼吸しながら立ち上がり、棚へと向かいます。

 

「少し準備でお待たせしてしまいますが、よろしいですか?」

 

「はい!いつまでも!」

 

「じゃあお茶菓子持ってくる」

 

「ならあたしお湯とか沸かしておきますね!」

 

そんな彼女達の言葉を背にしながら、私は今日はどうしようかと茶葉を選んでいくのでした。

 

 

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