空からパラパラと降り続ける雪がフロントガラス越しに見える昼下がり、その日私達はゲヘナ学園の自治区から少し離れた山間に位置する温泉宿を目指して車を走らせていました。
外の寒さとは対照的に暖房の効いた車内には助手席に座るアサリさん、後部座席に並んで座るキョウカさん、ミオさん....そして先日のお誘いに快く応じてくださったシズクさんの姿があります。
「わぁ...見てください先輩、凄く綺麗な景色ですよ」
「本当ですね、積もっている雪がそこまで多くないからでしょうか?....学園内はどこもかしこも雪だらけでそれどころではないですからね」
「ゲヘナの方は大変そうですわね、もしよろしかったら今度除雪車でも持ってきましょうか?」
「....い、いえ流石にそこまでは...まあ確かに1台くらいは欲しい所ですが、そこは羽沼さん達次第ですからね」
そう考えつつも、きっと雪が溶けるまで除雪車が使えることは無いだろうと私は羽沼さんの顔を思いながら苦笑いを浮かべます。
「あとどれくらいで着きそう?」
「道も混んでないですしこのまま進めればもう少しで着くと思いますよ...もしかしてお腹が空きましたか?」
「少し」
「ではミオさん、私の鞄の中に....」
「zzz...」
「ああ、お休み中でしたか。ミオさんの足元にある私の鞄に何か入れておいた筈なので開けていいですよ」
後部座席から聞こえるキョウカさんの声にそう答えながらバックミラーを見ると、そこには気持ちよさそうに眠るミオさんが映っていました。
今日は楽しみで寝られなかったと言っていましたから、きっとその反動が来たのでしょう。
「早く温泉に浸かりたいですわね〜、可能なら温泉の中で紅茶を飲んでみたいものですけれど」
「ご飯も楽しみですね、温泉宿の評判も良いみたいですし....沢山食べて少し太っちゃうかもしれません」
「おかわりって出来るのかな」
「むにゃ.....」
皆それぞれが今日の小旅行を楽しみにしている、そんな空気を感じながら自然と口元を緩めた私は無意識に逸る気持ちをアクセルペダルに込めたのでした。
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それから少しして、車から降りた私達を出迎えたのは遠くに見える白い湯けむりと、重厚な佇まいの温泉宿でした。
「んー...っ!空気が美味しいですね!」
山に近い場所というのもあるのでしょう、すっかり目を覚ましたミオさんの言う通り吸い込む空気はどこか澄んでおり、冷たいながらも気持ちをスッキリさせてくれる気がします。
「さあ、行きましょうか」
トランクから荷物を降ろした私達は滑らない様注意しながらゆっくりと温泉宿を目指して歩き始めます。
やがて入り口が間近に見えてきた辺りで宿の中から上品な着物を身につけたこの宿の女将さんらしき方が現れ、彼女は私達を丁寧に出迎えてくれました。
「いらっしゃいませ、本日は遠いところようこそお越しくださいました」
「お世話になります、本日予約をしておりましたサエと申します」
「サエさんですね?では早速お部屋にご案内しますのでこちらに....」
ニッコリと笑う女将さんにすっかり安堵した私達はそのまま案内に従って宿へ入ろうとした...その瞬間。
ドォォォォォン!!!!
とてつもなく大きな爆発音が遠くの方から鳴り響いたのです。
「きゃあ!?ど、どうしたんですか急に!?」
「姐御!今のは?」
「わかりません...ひとまず女将さんは中へ、ここは私達が」
「は、はい!」
訳のわからない状況ですが、巻き込んだらまずいと考えた私は女将さんを避難させると周りを見渡します。
まさかどこかで戦闘が?そう警戒しながら頭を巡らせていたところ
「ハーッハッハッハ!」
爆発音が鳴り止み静まり返った雪山に、それはもう聞き覚えしかない高笑いが聞こえてきました。
(...まさか、ですよね)
背筋に冷たい汗が流れるような...強烈な嫌な予感が一瞬にして私の全身を駆け巡ります。
もはや疑う余地もない気もしますが、恐る恐る声のした方へと視線を向けるとそこには案の定見知った人物の姿がありました。
「まさかこんな所で会うなんてな!奇遇じゃあないか?」
そう言って笑顔でこちらを見つめる少女——その正体は勿論カスミさんです。
「....お久しぶりです、まさかカスミさんが来ていたとは...一応お聞きしますがここにきた理由は....」
「部長!こっちは終わったよー!」
そう尋ねようとしたと同時にカスミさんの背後からこれまた見知った人物が顔を覗かせました。
「おおメグ、それで目当てのものはどうなった?」
「うん!ハズレ!」
「ハッハッハッ!そうか、では次のポイントに向かうとするか!」
そこにいたのはカスミさんと同じ温泉開発部に所属するメグさん、更には何十名という規模の作業着を着ている方達まで....温泉開発部の皆さんが立っていました。
「はぁ....やっぱり温泉でしたか」
「当然だ、私達が行く先は常に温泉のみだからな!まあ今回は失敗だったがまだ目を付けていたポイントはあるから問題はない。それはそうとお茶のお嬢ちゃん達は旅行か何かかな?」
「ええ、まあそうですね」
「ハッハッハ!それは良い、であればこれ以上邪魔するのも野暮というものだな!私達はそろそろ行くとしよう、では是非旅行を楽しんでくれ!」
カスミさんは最後にそう言い残すと、メグさん達に指示を出しゾロゾロと移動を始めます。
そうしてまるで嵐のような騒がしさを残しながらあっという間に去っていく彼女達の後ろ姿を、私達は呆然と見送ったのでした。
「....行きましたね」
「は、はい....」
「とても愉快な方でしたわね♪」
(...疲れを癒やすための温泉旅行のはずだったのですが....)
来たばかりなのに既に疲れが溜まった様な感覚に私は思わず溜息を溢してしまいます。
彼女達は次の所に行くと言ってましたが...帰る頃に周りの山が無くなっていないことを祈りましょう。
早くも僅かな不安を覚えながらも、私はアサリさん達を連れてようやく宿の中へと足を踏み入れたのでした。