ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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温泉

 カスミさん達とのまさかの出会いを果たした私達ですが、ひとまずは温泉を楽しもうと気持ちを切り替え女将さんの案内の元、本日泊まる部屋へと向かいました。

 

「こちらが本日皆様のお部屋になります、どうぞごゆっくりとお寛ぎくださいませ」

 

女将さんが静かに襖を開けてくれた先──そこに広がっていたのは私達5人で過ごすには十分すぎるほどに広々とした和室でした。

 

茶室を彷彿とさせる美しい青畳にシンプルながら温かみを感じる壁、そして何より目を奪われたのは大きなガラス窓の向こうに広がるパノラマの雪景色です。

 

「すごく綺麗です...!」

 

「何だか普段から慣れてるのもあってめちゃくちゃ落ち着きますね!」

 

「素晴らしい佇まいですわね、トリニティではあまり見かけないからこそ惹かれるものがありますわ」

 

「布団もふかふか」

 

アサリさん達も目の前の部屋に感動しているのか目を輝かせており、キョウカさんに至っては早くも布団へと身体を預けていました。

 

「ふふっ、お気に召していただけて何よりでございます」

 

私達の反応に女将さんは嬉しそうに目を細めながら言葉を続けました。

 

「お夕食の準備にはまだ少々お時間をいただきますので、よろしければその前に旅の寒さと疲れを温泉で流されては如何でしょう?ちょうど今は他のお客様も少ないのでゆっくりとお浸かりいただけるかと思いますよ」

 

温泉、その言葉に今回ここまで来た目的を改めて思い出します。

美味しい食事は勿論ですが、夕食前に温泉で心も身体も休められるというのは何物にも代えがたい至福の時と言えるでしょう。

 

「では向かいましょうか」

 

「はい!」

 

女将さんが一礼して部屋を去った後、私達は早速クローゼットに用意されていた宿の浴衣をそれぞれ手に取り湯籠にタオルなどを詰め込むと、廊下の奥にある大浴場を目指しました。

 

脱衣所の引き戸を開け、温かい湿気と檜の香りを感じながら身につけていた着物を脱衣籠へ丁寧にたたみ入れていきます。

後は湯籠からシャンプー類を取り出していざ浴室の中へ....そうして一歩足を踏み入れた瞬間、立ち込める湯けむりの向こうに普段は見慣れない広々とした湯船が現れました。

 

「思ってた何倍も広いですね....」

 

「誰もいない、ラッキー」

 

「本当に貸切みたいですわね」

 

女将さんの言葉通り私達以外に他のお客の姿は無く、どこか心地の良い静けさが広がっていました。

今はこの空間全てを私達だけで独占できるという贅沢さが開放感と高揚感を与えてくれます。

 

「まずはしっかり身体を清めましょう」

 

ここまで来れば待つ理由などどこにもありませんが、入る前には準備が必要です。

私達は並んで洗い場へと向かうと丁寧に髪や身体を洗い流していきました、普段の喧騒やこの時期の寒さで強張っていた筋肉が少しずつほぐれていくのが分かります。

 

「サエ、シャンプー貸して。間違って無いの持ってきちゃった」

 

「キョウカさんの髪に合うかはわかりませんが...どうぞ」

 

「うわっ!泡が目に..!」

 

「あはは、ミオちゃん慌てすぎだよ。あ、シズクちゃんの使ってるそれ凄く良い香りですね」

 

「ふふ、トリニティでも良く使われている種類のものですわ」

 

やがて全員が身体を清め終えるといよいよお待ちかねの温泉タイムですが、まだ最後の準備が残っています。

逸る気持ちを抑えつつ私は桶に湯を汲み足先から順にゆっくりかけ湯を行うと、それからようやくそっと足を踏み入れ波を立てないように温泉の中へと慎重に身体を沈めていきました。

 

「....ふぅっ」

 

その瞬間、思わず声にならない吐息が口から漏れ出しました。

 

足先からふくらはぎ、太もも、腰、そして肩まで....じんわりとした柔らかな熱が全身に染み渡っていく感触、それはまさに至福の体験と言っても過言ではありません。

 

「はぁぁ...溶けちゃいそうです....」

 

「こんな気持ちいい風呂久しぶりですね!」

 

「極楽とはまさにこのことだとわかりますわね...」

 

同じ様に浸かっている4人も見てわかるほど蕩けきった表情を浮かべています。

 

寮のお風呂は熱すぎることが多くあまり温かさを味わうというのが無かったので、それに比べるとこの温泉はいつまでも浸かっていたくなるような完璧な温度です。

 

「こうしてただお湯に身を任せるというのはどうして気持ち良いのでしょうか....」

 

「先輩すっかりふやけちゃってますね、何だか珍しいです」

 

そんなアサリさんの言葉をさえ耳に届かないほど、私は考えることすら忘れただただ心地良い浮遊感と温もりに身を任せたのでした。

 

 

 

————————————

 

 

「ふぅ....これでもかと堪能出来ましたね」

 

それからたっぷりと時間をかけて温泉を満喫し、身も心も温まった状態で大浴場を後にした私達。

脱衣所で髪を乾かし清潔な浴衣に袖を通して部屋へと戻ると、中にあった座卓の上には既に料理が所狭しと並べられていました。

 

「良い匂い....」

 

「うわぁ、何か一気にお腹空いちゃいました」

 

「姐御!早く座りましょう!」

 

見た目もさることながら、漂ってくる上品な香りにお腹が刺激された私達はすぐさま座卓の前へと腰を下ろします。

 

新鮮な山菜や見事なサシの入ったお肉、魚の塩焼きに色鮮やかな小鉢の数々....これを前に我慢出来る人は最早存在しません。

 

「では皆さん、手を」

 

私がそう言うと全員が胸の前に手を合わせ....

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

そんな合図と共に豪華な夕食の時間が幕を上げました。

 

「んん〜っ!このお肉すっごく柔らかいです!」

 

「こっちの魚もめちゃくちゃ美味いですよ!」

 

アサリさんとミオさんは陶板焼きのお肉や魚を口に含むとそれはもう幸せそうな顔をしながらその美味しさに身悶えました。

 

「...っ!.....っ!」

 

キョウカさんに至ってはもう話すことも忘れるほど夢中になって目の前の料理を次々と口へ運んでいます。

 

「このお鍋のお出汁、しっかりと素材の味を引き出していてとても美味しいですわ」

 

シズクさんも料理の味に舌鼓を打っており、大変満足している様子....そんな彼女達を見ながら箸を進めるたびに、私も疲れが完全に消え去っていくのを感じます。

やはり皆で美味しいものを囲み笑い合うのは何ものにも代えがたい温かさに満ちているという事でしょう。

 

美味しいお料理と心まで温まる極上の温泉、そして何より大好きな方達との時間。

湯呑みから立ち上る湯気を見つめながら、私はこの時間が少しでも長く続くことを願いつつ.....時折外から聞こえる轟音を尻目に湯呑みを傾けたのでした。

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