百鬼夜行での買い物も終え、美味しい和菓子も食べ大満足でゲヘナに帰還した私達は少々気持ちが浮ついたまま部室棟への道を歩いていました。
「先輩、今日は本当にありがとうございました!」
隣を歩く宇治さんは片手に茶道具、片手に着物を持ちながら満面の笑みで感謝を伝えてきます。
「私のほうこそ今日は付き合っていただいてありがとうございました。百鬼夜行はいかがでしたか?」
「はい、見た事ないものも沢山あって凄く楽しかったです...!最後に食べたあんみつも美味しかったですし、何より...先輩からプレゼントも貰いましたから」
宇治さんは前髪に留めてあるヘアピンに軽く触れてながらそう言いました。
まさかここまで喜んでくれるとは思っていませんでしたが、楽しそうに笑う宇治さんを見ているとなんだかこちらまで笑顔になれますね。
(そうです、これですよ。同じ趣味を持つ仲間と一緒に活動し、語り合い、外出して思い出を作る...これぞまさにかつての私が密かに求めていたものじゃないですか!....今度また一緒に別の場所へ出かけてみるのも良いかもしれませんね)
「これからどうするんですか?」
「今日は色々歩き回ってお互い疲れたでしょうから、荷物だけ置いて解散にしましょうか。何か宇治さんから希望があればそれをするのも構いませんよ」
「あ、じゃ、じゃあ帰る前に先輩のお茶を飲んでいってもいいですか...?」
「ふふっ、ではとっておきの一杯を淹れましょうか。丁度茶漉しを新調した所ですし折角なら抹茶でも....」
それから暫く宇治さんと話し到着した部室棟、そのまま中へと入り廊下を歩いている時でした。
「あれ....先輩、何か人?が倒れてますよ...?」
「...私の見間違いかと思っていましたが、宇治さんにも見えていましたか」
私達の視線の先...丁度茶室が位置する長い廊下の奥に、謎の人物が倒れていました。
念のため警戒しながら近づいていくと、徐々にその輪郭がハッキリと見えてきます。
倒れているのは紅葉色の髪をサイドテールに纏めている少女...制服を身につけているようですが、サイズが合っていないのかブカブカで腕等は殆ど隠れてしまっています。
わざわざこの部室棟に、それも廊下の奥に位置する私の茶室前に居たということは、何かしらの用事があった筈。
「あの、大丈夫ですか?」
私はひとまずその少女の傍にしゃがみ声をかけてみますが、案の定反応はありません。
(さて、一体どうしたものか....)
私はいきなり降って湧いたこの事態に頭を悩ませますが、現状私個人で出来る事など殆どありません。
「そうですね...とりあえず宇治さん、この方をここで看ていてもらっても構いませんか?私はとりあえず救急医学部の方に連絡を....」
そう宇治さんにお願いし、私が一度この場を離れようと立ち上がった瞬間。
「ひっ.....!」
不意にガシッと何かに掴まれる感触が足首を襲い、私はつい情けない声をあげてしまいました。
「せ、先輩!その、その子が...!」
私は宇治さんの声を聞き下を向くと、先程までピクリとも動かなかった少女が両手を伸ばし、私の両足首にしがみついていました。
「.....た」
「え?」
「...お....いた」
どうやら少女は掠れた声で私に何かを訴えているようです。
私は彼女の声を何とか聞き取ろうと耳を傾けると....
「.....おなか..すいた...」
「「.......」」
少女はそう言い残すと、ガクッと力尽きたかの様に地面に突っ伏し再び動かなくなってしまいました。
「....えっと、どうしましょう」
「...ここに寝かせたままにするのも悪いですし、ひとまず茶室の方に運びましょうか。救急医学部に連絡するのは彼女の様子を見てからという事で....」
私と宇治さんはお互いに目を合わせて頷くと、未だに倒れている彼女を抱えそのまま目の前の茶室へと連れて行きました。