ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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朝宮サエの日常4 ★

廊下に倒れていた少女は今、私達の目の前でどら焼きや羊羹などのお茶菓子を口いっぱいに頬張っています。

まるでリスみたいですねとくだらない事を考えていると、ようやくお腹が落ち着いたらしい彼女は私達にお礼を言った後に自身の事について話し始めました。

 

彼女の名前は狭山キョウカ。

宇治さんと同じ一年生だそうですが、お互い殆ど面識はない様子。

それもその筈、どうやら狭山さんは授業には殆ど出席していないそうです....まあこのゲヘナ学園ではまともに出席する人の方が珍しいですからね、不思議ではありません。

 

そして何故倒れるほど空腹だったのか、それは....食費を全て宝くじの購入費に使い込んでしまったからとの事。

 

それを聞いた瞬間私と宇治さんは一瞬言葉を失ってしまいましたが、狭山さんは気にする事なく淡々とした口調で宝くじについて熱弁してきます。

....まずいですね、あまりこの子に関わってはいけないような気がしてきましたよ。

 

それから狭山さんは帰り際に、また今度お茶菓子を食べに来ても良いかと尋ねてきました。

 

食事の事なら給食部や美食研究会の方が良いのではと口に出そうになった私はギリギリの所でそれを抑え込みます。

給食部に行けば確実にフウカさんの心労が増えるでしょうし、美食研究会に万が一入部する事になったら....そんな最悪の想像をした私はいつのまにか首を縦に振っており、私の返答を見た狭山さんは幸せそうにお腹をさすりながら茶室を出て行きました。

 

とりあえず彼女の為にお茶菓子を補充しておかなければいけませんね...

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

あれから数日経ちましたが、狭山さんはまだ茶室を訪ねていません。

別の場所で食べ物を強請っているのかそれともまた空腹で倒れているのか、少し彼女の事が心配ではありますが、便りのないのは良い便りとも言いますし大丈夫だと信じましょう。

今日は宇治さんが午後までBDによる授業がある為暇ですので久しぶりに散歩でも行きましょうか。

 

...そう呑気に考え外を歩いていた私は、目の前で繰り広げられる銃撃戦を死んだ魚の様な目で見つめていました。

まさかただ歩いていただけで生徒同士の喧嘩に巻き込まれるとは...って、あれは対戦車グレネードでは!?なんて物を喧嘩に使ってるんですか!?

 

こちらに投げ込まれたそれを避けようとしますが、既に地面にぶつかる直前。

ああ...折角の着物を買い替えなくては....目を瞑りそう覚悟しましたが、爆発音は聞こえてくるもののいつまで経っても予想していた衝撃は襲ってきません。

 

不思議に思い目を開けると、いつの間にか私の目の前に少し小柄な少女がこちらを守るように大きな翼を広げ立っていました。

 

このゲヘナ学園の治安維持を担当する風紀委員会、その中でも圧倒的な力を誇りどんな不良も恐れ慄く存在。

私も遠目からしか見た事がありませんでしたが間違いありません...彼女が風紀委員長の空崎ヒナさんです。

 

彼女はその場から物凄い勢いで駆け出すと、あれだけ数がいた筈の不良生徒を一瞬にして鎮圧してしまいました。

 

これがゲヘナ最強と言われる実力....私はあまりの凄さに固まってしまっていましたが、やがてゾロゾロと他の風紀委員メンバーがやって来るのを見た彼女は入れ替わる様にその場から去ってしまいました。

 

...帰り際に見た彼女の顔に相当疲れが溜まっていた事に気づいた私はそれからしばらく考え込んだ後、足早に茶室へと向かいました。

お節介だと思われるかもしれませんが、助けられた感謝の気持ちはしっかり伝えなければいけませんからね。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

私の正面に、あの風紀委員長である空崎ヒナさんが座っています。

 

な、何故こんな事に!?

私はあまりのプレッシャーから何を話せばいいのか分かりませんでしたが、暫くして彼女から切り出された話は予想したものよりもずっと拍子抜けしてしまうものでした。

 

喧嘩に巻き込まれてしまった日から数日後、あの時見た空崎さんの疲れ切った顔がどうにも気になった私はお礼も兼ねて手作りの乾燥ゴボウを瓶詰めし、丁度見回りしていた他の風紀委員の方にゴボウ茶の淹れ方のメモと一緒にそれを預けていました。

 

空崎さんはここ連日まともに休みが取れない状態が続いていたそうですが、どうやらそのゴボウ茶を飲んでから久しぶりに気持ちよく眠れる様になったとの事。

 

そのお礼を言うためにわざわざこの茶室へと来たのだと空崎さんの話を聞き終わった私は彼女を誤解していた事を恥じました。

ゲヘナの風紀委員長としていくら強く恐れられている存在であっても、空崎さんも私達と同じ生徒です。

それを忘れてこちらが勝手に怖がってしまっていた事を私は正直に話し彼女に謝罪します。

 

頭を下げる私を見て空崎さんは驚いた様な顔をしていましたが、それから快く私の謝罪を受け入れるとここでの用事はもう済んだからと茶室から出て行きます。

 

彼女が帰る直前今度また良いお茶をご馳走すると伝えると、それを聞いた空崎さんは小さく微笑みそのまま去っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

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