ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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倒れた少女

「はむっ...むぐっ....もぐっ...」

 

「「......」」

 

既に日も落ちかけている時間帯。

私と宇治さんは、正面の座布団に座り一心不乱にどら焼きや羊羹を口に頬張っていく少女をただ見つめていました。

 

相当お腹が空いていたのか、大量のお茶菓子がまるで掃除機のように次々と彼女の口の中へと吸い込まれていきますが、そのスピードは一向に落ちる気配がありません。

 

「えっと...そろそろ聞いてもいいでしょうか?」

 

「んむ....んぐ....」

 

(だ、駄目です、私の声が全く聞こえてません...)

 

私は助けを求めるように隣に座る宇治さんへ視線を送りますが、彼女もどうすれば良いかわからないのか苦笑いをするばかりです。

 

それからしばらくするとようやく食べ終わったようで、彼女はふぅと一息つくと同時に頭を下げてきました。

 

「美味しかった、ありがと」

 

無表情のまま、抑揚の少ない淡々とした口調でそうお礼をする彼女。

先程まで一言も喋らなかった彼女からの反応に一瞬戸惑ってしまいましたが、空腹の方はどうにかなったようですのでそこは一安心です。

 

「狭山キョウカ、1年。さっきはおかげで助かった」

 

「ん?狭山さんは1年生なんですか?ならこちらの宇治さんの事は...」

 

「うん、知ってる。入学式で倒れてた子でしょ?」

 

「わ、私そんな覚え方されてたんですか!?」

 

宇治さんと同じ1年生...という事は既にお互い面識があってもおかしくない筈ですが、先程の宇治さんはまるで初対面の様な反応をしていました。

その事を不思議に思い彼女に聞いてみると

 

「私、入学式初日は緊張で他の子の顔を覚える所じゃ無くて....それに私の勘違いじゃなければあれから狭山さんを見かけた事が無いんです...」

 

「廊下ですれ違った事も無かったんですか?」

 

私の問いにコクリと頷く宇治さん。

ですがその理由は呆気なく狭山さんの口から判明しました。

 

「私殆ど授業サボってるから」

 

何の躊躇いもなく言い切った狭山さん。

...そうでした、普段真面目な宇治さんばかりと接して忘れてしまっていましたが狭山さんのような方こそゲヘナ学園では普通なんでしたね。

 

「成る程...では狭山さんは何故あそこまで空腹に?」

 

私は気持ちを切り替え本題に入ります。

 

「それは....ご飯を買うお金が無くて、ここ数日何も食べてなかったから」

 

「え、数日間もですか!?」

 

それだけ何も食べてなかったとなると先程の様に倒れていたのも納得です。

 

「そうでしたか...であれば財布を何処かに落としてしまったとか?まさか、誰かに盗られてしまったり...?」

 

私がそう尋ねてみると、どれも違うと言うように狭山さんは首を横に振りその理由を口にしました。

 

「宝くじ」

 

「え?」

 

「最近宝くじのスクラッチで全部使っちゃった」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。えっと、つまり狭山さんは宝くじの購入費に全額つぎ込んでしまったから金欠だったと...?」

 

「そう」

 

私と宇治さんがまさかの理由に言葉を失っている中、狭山さんは何故か自信満々に胸を張りながら話を続けます。

 

「宝くじにはね、楽しい事が沢山詰まってるんだよ。買った時の高揚感、当たりが出るまでの期待、スクラッチを一枚一枚削っていくあのドキドキ感...あの瞬間味わえる幸福を知ったら他の娯楽じゃ満足できない....それが宝くじ。あの日たまたま外を歩いていた時にその店を見つけてから私の生活は一変したの、私は....」

 

「せ、先輩。彼女の言ってる事が全然頭に入らないんですが....」

 

「大丈夫です宇治さん、私も同じですから...えっと狭山さん、宝くじへの熱意は十分伝わりましたから出来ればその辺りで...」

 

「...そう?まだ沢山話せるけど」

 

まだまだ話し足りないといった雰囲気を醸し出している狭山さんを何とか制止しつつ、私は再度問いかけます。

 

「コホンっ...で、ではこの茶室前で倒れていたのは何故ですか?」

 

「前にポスターを見つけたから、お茶を飲む場所ならお茶菓子を貰えるかもって」

 

「な、成程」

 

つまりここまでの話を纏めると、最近になって宝くじの魅力に取り憑かれた狭山さんは、本来食費に当てる分のお金も全て宝くじを購入するために使ってしまい途方に暮れていたと。

そこでたまたま私の掲示していたポスターの事を思い出し、お茶菓子目当てで訪ねた所限界がきてしまい倒れていた所を私達が見つけた....こうしてみると中々凄い経緯ですね...。

 

私が1人納得していた所、不意に狭山さんは立ち上がると襖の方へと歩いていきます。

 

「も、もう大丈夫なのですか?」

 

「うん、お腹いっぱいになったから。ありがとう、沢山食べさせてくれて」

  

「いえ、助けになれたのなら良かったですが....」

 

「また今度食べに来てもいい?」

 

狭山さんは襖を開ける直前に振り返りながらそう尋ねてきました。

 

食事でお困りなら給食部か、少し危険ですが美食研究会に相談した方が...そう口にしようとした私は何とか思いとどまります。

 

(いえ、待つのですサエ!ただでさえ他の子達の給食作りで忙しいフウカさんの手をこれ以上煩わせる訳にはいきません。それに...もしハルナさん達と気が合ってしまいそのまま入部する事になったら....)

 

「わ、わかりました。私の所でよければいつでも歓迎しますので...」

 

最悪の未来を予想した私は、そうなるくらいならと茶室に来る事をつい了承してしまいました。

 

「わかった、じゃあまたね」

 

彼女は私の返答に嬉しそうな表情を浮かべると、そのまま満足そうに部屋を出て行きました。

 

「....とりあえず彼女の為にお茶菓子を補充しておきましょうか。宇治さん、明日買い物に付き合ってもらえますか?」

 

「は、はい!是非!」

 

私のお願いに笑顔で返事をしてくれる宇治さん。

あぁ...どうか彼女はこのまま素直に育って欲しいものです。

 

私はそんな宇治さんの姿に少しばかり癒されながら、先程彼女に約束していた抹茶を点てる為の準備を始めたのでした。

 

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