少しシリアスっぽくなってしまいましたが、本作品のストーリーは今後も必ず日常系なので安心して気楽にお読みください。
私は狭山キョウカ。
私は昔から他の子が思う”楽しい”って気持ちがわからなかった。
買い物でも遊びでも、みんなと同じ事を真似してみても全く共感する事が出来ない。
だから他の子が皆嬉しそうに笑ったり話したりしているのを見ていつも不思議に思っていた。
何でそんなに楽しそうに出来るのか、どうしてそこまで笑えるのか...私には全然わからない。
勿論授業なんて楽しくないから殆どサボる、でも他にする事もないので目的も無くただ外をぶらぶらと歩く毎日。
「......」
そんなある日、いつも通りゲヘナ郊外を歩いていた時ある店が目に入った。
「....宝くじ?」
確かそう呼ばれる紙を買って当たれば賞金が貰えるという娯楽の筈。
そういえばここを歩いていた時、度々あの店の前で一喜一憂している人達を見かけた記憶がある。
(...そんなに良い物なの?)
どうせ今日もやる事なんてない。
なら物は試し、私は僅かな興味本位から店の前に歩いて行った。
店主の説明を聞き、私が買ったのはその場で結果がわかるスクラッチと呼ばれるタイプの宝くじ。
ただ削るだけで何が楽しいのかと初めは思っていたけど、まさかの一枚目で当たりが出た。
意外と簡単で拍子抜けしてしまったけれど、こういう物なのかと疑問に思ってもう一枚を追加で買ってみた。
外れた、けど見た所かなり惜しい外れ方らしい。
ついでだしもう一枚買ってみよう。
外れた。
....今度は擦りもしなかった。
何故かそれが悔しいと感じた私はもう一枚を店主に頼んだ。
外れた。
外れた。
外れた。
外れ.....
....そして気づいた時には私の財布の中身が空になっていた。
(あれ、いつの間に...)
私は中身が寂しい事になった財布を見つめながら帰路に着く。
まさかここまで夢中になっていたとは思っていなかった....それと同時に先程まで自分が心から楽しんでいた事にも今になって気がついた。
(宝くじ....凄い)
こんなに楽しいと思えたのは初めてだ。
あの当たりそうで当たらない緊張感、徐々に削れていくワクワク感、どれをとっても素晴らしいものだった。
あの気持ちをもっと味わいたい、私は初めて沸き起こる感情に心を震わせていた。
「あ、ご飯どうしよう」
「うぅ.....」
鳴り続けるお腹を押さえ、足元をふらつかせながら目的の場所を目指し歩き続ける。
だけどやっぱり数日何も食べてない身体は限界の様で、目の前まで迫った扉の前でガックリと膝をついてしまった。
「私の人生...ここまで....」
「おや、お久しぶりですね狭山さん」
もう動く事もままならず床に全身をペタリとくっつけていた時、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「はぁ...また何も食べられてないんですか?」
「......」
「わかりましたから、そんな目で見ないでください」
そう言ってサエは私を担ぐと温かい部屋の中に入れてくれた。
「サエ、頂戴」
部屋に入れてもらった後、私はサエに食べさせてもらいながら久しぶりの食べ物の味を噛み締める。
「美味しい」
「それは良かったです....ほら、口の端についてますよ」
「んー」
「先輩こんにちは!」
私がこの部屋へ訪ねてからしばらくすると、もう1人が部屋に入ってきた。
あの子は確か....
「倒れた子だ」
「そ、その呼び方はやめてください!」
「冗談。アサリ、久しぶり」
「あ、は、はいお久しぶりです....えっと、先輩達は何を?」
「宇治さんこんにちは。先程狭山さんが部屋の前で倒れてまして、丁度彼女にお茶菓子をあげていた所です」
「な、成る程...」
アサリはサエの話を聞いて苦笑いを浮かべていたけど、それから少しして着物に着替えた彼女は目の前でお茶を淹れ始めた。
その姿を見ながら久しぶりにお腹いっぱいになった私は、畳の温かさが心地良くてついついその場に寝転がってしまう。
「一応お聞きしますが、今回倒れてた理由は...?」
「宝くじ買ってたから」
「ここまで予想通りだと逆に凄いですね...」
サエは私の答えを聞いてため息をつくと、続けて質問をしてきた。
「そもそも普段それを買うお金はどうしているのですか?」
「昼間バイトしてる」
「え、ならそこから食費分を残せば良いのでは?」
「サエ、それじゃ甘い。そんな考えじゃ宝くじの女神は微笑まないよ」
「そ、そうなんですか」
サエはどうも納得し切れていない様な表情をしていたけれど、きっとサエも宝くじを買ってみればわかる筈。
あれはそれ程心してかからないといけないもの、自分を苦しめる分必ず見返りがくる。
....最近はそれでも全然当たらない気がするけどそれはきっと運が悪いだけだから...。
「まあ狭山さんが良いというなら私から言えることはありませんが...」
そう言ってサエはアサリの横に座ると、そのまま2人は静かにお茶を淹れ始めた。
(...楽しそう)
畳に寝転がりながら彼女達を見つめていた私はふとそう思った。
別に2人がわかりやすく笑ってる訳じゃない、でも目の前の2人からは確かにそういう雰囲気が漂っていた。
(ただお茶を淹れてるだけなのに、何であんなに楽しそうなんだろう)
わからない。
私にもようやく楽しいと思えるものが一つ出来たけど、やっぱりまだ他の子が楽しいと思える理由が理解できない。
「サエは楽しいの?」
気づけば私はそう口にしていた。
何の文脈も無く、それだけ聞かれても意味のわからない質問だったと思う。
サエはそんな私からの質問に一瞬戸惑ってたけど
「...ええ、楽しいですよ。とっても」
次の瞬間、心からの笑顔を浮かべてそう答えた。
その隣に座るアサリも、サエと同じように笑ってる。
「....そっか」
私はそんな2人を見て起き上がるとその日はそのまま帰る事にした。
....それから数日経った今、私はまたあの部屋までの廊下を歩いていた。
ひとつ違うのは、私の手に一枚の入会証明書が握られている事。
あれから何度か考えてみたけど、やっぱりまだ私には他の子の”楽しい”気持ちがわからない。
でも、だからと言って興味がない訳でも知りたくない訳でもない、出来ることなら私も他の子と同じ”楽しい”気持ちを共有してみたい。
ならまずは普段から楽しそうにしてる子の近くに居ればいい、そうすればもしかしたら理解できるきっかけが生まれるかもしれないから。
.....それに、お茶菓子も美味しかったし。
(あの2人の傍にいればもしかしたら....)
私は辿り着いた部屋の扉に手を伸ばした。
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ゲヘナ学園1年狭山キョウカ加入。
(お茶飲み同好会メンバー:現在3人)