「はあ......」
畳に敷かれた座布団の上で、私は一人溜息をついていました。
「先輩、どうかされたんですか?」
「ああすみません、少々疲れが溜まってまして....最近は色々とありましたから」
そう、本当に色々あったのです。
少し前は羽沼さんの勘違いにより万魔殿へと呼び出されたり、更に数日前はいきなりハルナさん達に拉致され何処か森のような場所へ連れ出されたり.....
今年に入って異様にそのようなケースが増えた気がします。
「....何か悪いものにでも憑かれているんでしょうか...」
「あはは....でも流石に今後暫くは大丈夫だと思いますよ」
「...それもそうですね」
宇治さんの言う通りかもしれません。
運というのは常に上下するものです、あれだけ不運続きであればそろそろ運が回ってきてもおかしくありません。
....まあ宇治さんと狭山さんが加入してくれたというのが一番の幸運だった可能性もありますが。
私は右隣に座る宇治さんと逆側に体を丸めて寝転がり寝息を立てている狭山さんに視線を向けながらそう考えます。
「....いけませんね、こう言う時こそ心を落ち着かせなければ....宇治さん、折角ですのでお茶を淹れて貰えませんか?」
「は、はい喜んで!種類はどうしますか?」
「では焙じ茶でお願いします」
「わかりました!」
私の頼みに宇治さんは笑顔を浮かべると茶缶が保管されてる棚へと歩いていきます。
私はそんな彼女の後ろ姿を見ながら今日はこれからどうしようかと思考していた時
ドォォォォォォォォン!!!
「キャッ!?」
「っ!?」
突然茶室の外から激しい爆発音が鳴り響きました。
それは何度か繰り返し発せられた後ようやく落ち着きを見せます。
「宇治さん大丈夫ですか?どこか怪我は...」
「は、はい大丈夫です、ちょっとびっくりしちゃって....」
茶葉を取ろうと棚に手を伸ばしていた途中だった様で、先程の爆発に驚いた宇治さんは尻餅をついており彼女の周りにはいくつか茶葉が散乱していました。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「いえ、宇治さんは何も悪くありませんよ。狭山さんは......!」
先程まで眠っていた狭山さんが気になり急いで彼女へと視線を向けますが
「くぅ.....」
「ね、寝てる....!?」
「さ、流石キョウカちゃん...」
あれ程の爆発音にも関わらず彼女は一切目を開ける事なく眠り続けていました。
口元からは涎が溢れ、気持ちよさそうな寝息を立て続けています。
「相変わらず彼女は凄いですね....とりあえず外の様子を見てみましょうか」
「あ、私も行きます」
生徒同士の喧嘩でも流石に聞かない程の爆発音、何かしら異常事態が起こっているのは間違いありません。
私と宇治さんは早足で部室棟から出てみると、数メートル先の地面にポッカリと大きな穴が空いていました。
「な、何ですかこれ!?」
宇治さんはその光景に驚き声を震わせていましたが、私はそれを見て少し嫌な予感を覚えていました。
(.....まさか、いえ、そんな筈は....)
以前これと似た様な事をよく見かけました...最近は全くありませんでしたが、”彼女達”は今ゲヘナにはおらずどこか別の地区で活動している筈だからです。
どうか予想が当たらないで欲しい、そんな私の願いは虚しく崩れ去りました。
「ハーハッハッハッハッ!見事な爆破だったなぁ!」
(あぁ...あの高らかな笑い声は、間違いありません)
「ん〜?おや、そこに居るのはお茶のお嬢ちゃんじゃあないか、気がつかなかった!これは失敬」
爆発によるものか、辺りに立ち込める土埃の中に見えるのは複数のタンクトップに白いヘルメットを着用した少女達の姿。
そこから現れたのは臙脂色のシャツ、黒の短パン、白衣を着込んだ一人の少女。
「むっ?そんなに見つめてどうしたんだ?」
温泉開発部の部長、鬼怒川カスミさんがこちらを不思議そうに見つめていました。
温泉開発部。
ゲヘナ学園に所属し、その名の通り温泉を求めて日々活動している部活です。
...が、その活動内容はかなりぶっ飛んでおり、ゲヘナ学園内であろうと他校が管理している土地であろうと温泉開発という名目があれば大規模な破壊活動を行うのです。
目的の為なら手段は問わず、爆破、解体、撤去等々それにより生まれる被害は二の次で行動し、例え他の組織と争いに発展するとしても彼女達にとっては温泉が第一。
そんな事を繰り返している為か美食研究会と並んでテロリスト扱いされており、指名手配までされています。
....そんな彼女達ですが、去年個人的に交流する機会が何度かありました。
といっても私が用事でゲヘナ郊外へと出かけていた時に今回の様な場面に偶然遭遇し、そこから話す様になった程度ではありますが。
「ふむふむ、何故私達がここに居るのか疑問に思っているのだな?」
「え、いや...」
「ハッハッハッ!誤魔化さなくても良い、当然の疑問じゃあないか」
カスミさんは私の目を覗き込みそう言うと、彼女達がここにいる訳を話し始めました。
「丁度次なる温泉ポイントを探していたんだが、そんな時この辺りに温泉の目星がついたんだ、それで半分程の実行部隊をメグに預けて戻ってきた...という訳だ!簡単な事だろう?」
相変わらずカスミさんが高笑いを続けている中、私は横目で穴の方を見てみると肝心の温泉は一滴も見当たりませんでした。
「それで結局温泉は一体どこに?」
「うむっ、どうやら見当が外れたみたいでな、掘る直前で何となくそう思ってはいたんだが...」
「え、では先程爆破した意味は?」
「ふっ、たとえ温泉が出なくとも、我々が信じる先に温泉は必ず存在するんだ!それに考えてみてくれ!こんなに地面が綺麗に広がっている場所を爆破できるんだ、例え温泉がなかろうとそれだけで実行する価値はあるというものじゃあないか!」
「「.........」」
彼女の説明が全く理解できなかった私達はただその場でポカンと固まっていました。
宇治さんは特に、入学して初めてカスミさん達に出会ったのもありその衝撃は凄まじかったのでしょう...とにかく現状を整理するのに必死なのか、彼女の目が虚になってしまっています。
「とにかくそういう訳だ、だから....おっと、もう嗅ぎつけたとは中々動きが良いじゃあないか」
そんな時、カスミさんがある一点を見つめながらそう呟きました。
彼女の視線の先には数十人規模の部隊がこちらに全速力で向かっている姿がありました。
「こらっ!鬼怒川カスミ!!!絶対に逃がさないからな!」
あれは風紀委員会の銀鏡イオリさん...どうやら先程の爆発の主犯格が既にわかっていたようで、彼女の名前を叫びながらどんどんこの場に近づいていきます。
「ふむ、予想より早いがまあいいだろう...それじゃあお茶のお嬢ちゃん、ここでお別れだ。メグや他の部員を待たせているからここで捕まるわけにはいかんのでな!よし、全員撤収だ!」
そのカスミさんの一声に一斉にこの場から立ち去っていく温泉開発部の少女達、結果この場には私と宇治さんがポツンと残される形となってしまいました。
「.....やはり嵐の様な方達でしたね...宇治さん、宇治さん?」
「......はっ!私今...あの人達は?」
「彼女達は既に逃げましたよ。さあ、私達も早く茶室に戻るとしましょう」
「そ、そうですね...あの先輩、もしかしてこの学園にはあの人達みたいな方がまだ....」
「...まあ彼女達以上となると流石に居ないと思いますが....私から言えるのはあまり深く考えすぎない方が良いという事です」
「は、はあ....」
改めてゲヘナ学園の治安を考えさせられる一日となりましたが、これ以上面倒事に巻き込まれない為に私達はここへ来た時と同様に早足で部室棟へと戻っていきました。