ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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召し上がれ

本来食堂が休みである今日、いつもであれば足りない食材の仕入れや可能な下拵え等を済ませる時間に使われる日ではあるが今日は少し違った。

 

「ジュリー?」

 

テーブルを拭いていた私は厨房を綺麗にしている最中であろう後輩の名前を呼ぶ。

 

「フウカ先輩、どうかしましたか?」

 

「今日これから来客があるから手伝って貰える?実は今度ここで出すメニューの試食をお願いしてて」

 

「そうなんですか?あ、もしかして前に話していたご友人の方ですか?」

 

「うん、あっちも二人後輩を連れてくるらしいから、もしかしたらその子はジュリも知ってるかも」

 

「わぁ、楽しみですね!」

 

楽しそうに笑うジュリの顔を見ていると私もつられて頬が緩んでしまう。

それと同時に私は今から来る友人の事を思い浮かべていた。

 

夏場でも冬場でも着物を着こなし、お茶をこよなく愛している少女。

始めに出会った頃から印象は...いや、あの子の場合今でもあまり変わらないけれど、それでも最近は何だか以前よりも少し明るくなった気がする。

 

きっとあの子も良い後輩に恵まれたのだろう。

改めてあの部屋でポツンと一人座っていた時の彼女の姿と今の様子を思い比べてみると、何だか私まで嬉しくなってくる。

 

そんな事を考えていると食堂の入り口の方から複数の足音が聞こえ、そこからやって来たのは丁度先程まで頭に浮かんでいた件の少女。

 

深緑色の髪に薄緑色の着物と下駄を身につけているサエ、更にその後ろには二人の姿が見える。

 

一人は空色の髪に目元を白い花が彩られたヘアピンで止めており、サエと同じ様な桜色の着物と下駄を身につけ尻尾が生えている少女。

もう一人は紅葉色の髪をサイドテールで纏めており、サイズが若干大きめの制服を身につけている少女だった。

彼女達が事前にサエが連絡してくれた後輩の二人だろう。

 

「こんにちはフウカさん、今日はお呼びいただきありがとうございます」

 

「ううん、こっちこそわざわざありがとね。忙しくなかった?」

 

「問題ありませんよ、フウカさんの料理を楽しめるのですから断る理由もありません....そういえばそちらの方は?」

 

「紹介するわ、この子は給食部の後輩のジュリ」

 

「給食部の牛牧ジュリです、よろしくお願いします」

 

「そうでしたか、貴方が.....私は朝宮サエです、フウカさんとは一年の頃から親しくしていただいてます」

 

そう言ってサエは振り返ると、彼女の後ろに立っていた二人を紹介し始めた。

 

「こちらは宇治アサリさんです、彼女は初めて私の同好会に入ってくれたとても優しい子です」

 

「う、宇治アサリです!今日は誘っていただきありがとうございます!」

 

少し緊張気味に答え勢いよく頭を下げた彼女は、そそくさとサエの後ろに下がっていった。

きっと恥ずかしがり屋なのだろう、ジュリに聞いてみると何度か顔を合わせて話した事があったらしい。

 

「狭山キョウカ、今日は美味しいもの食べさせてくれるって聞いて来た」

 

次に口を開いたのは三人の中で一番小柄な少女。

少々無表情でイマイチその感情は把握し辛いが、ぐーっと鳴っているお腹の音と口の端から垂れている涎から相当期待されているのはわかる。

 

「キョウカちゃん!く、口から溢れてるから!」

 

「もう...だから朝はちゃんと食べてくださいと言ったでしょう」

 

「無理、お金無かった」

 

目の前で繰り広げられるその光景に苦笑いしつつ、でも何処か楽しそうに笑う彼女達を私は微笑ましく思った。

 

「それじゃあ今から作るから少し待ってて。ジュリ、食材の準備をお願い」

 

「はい、わかりました!」

 

私はテーブルについた三人を背にジュリと共に厨房へと向かった。

 

まずはみりんや酒、すりおろした生姜をボウルで混ぜ、それから清潔な包丁を手に取りジュリが運んできてくれたキャベツを千切りにする。

その後玉ねぎを薄切りに、トマトを食べやすいサイズにそれぞれ切り分ける。

 

その後ジュリが油を引いてくれたフライパンに玉ねぎ、片栗粉をまぶした豚肉を入れ、両方色がつくまで丁寧に焼いていく。

ある程度焼き目がついたら先程混ぜておいたものを軽くからめて味を浸透させていき、その上にトマトをまぶしてほんのりと柔らかく温めて終えたらお皿置かれたキャベツの上にそれらを盛り付ければ完成だ。

 

「うん、いい感じかな」

 

私は三人分に分けられた目の前の料理を見て満足そうに息をつくと、ジュリと一緒に彼女達が待つテーブルへとその完成した料理を並べていく。

  

「はいお待たせ」

 

「わぁ!」

 

「おお....」

 

サエの後輩の二人は私の作った料理を見て目を輝かせており、そんな二人の様子にどこか誇らし気なサエの一声で全員が料理を口に運んだ。

 

「う〜ん!美味しいです!」

 

「んぐ...もぐ....」

 

アサリはその美味しさに頬を押さえ、キョウカは無我夢中で生姜焼きを口いっぱいに頬張っていく。

 

「....やはりフウカさんの料理は素晴らしいですね、貴方の作った料理を食べているとハルナさん達があれ程執着する理由がわかる気がします」

 

「サエまでハルナ達みたいになったら本当に困るからお願いだからそのままでいてね」

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

そう言って小さく笑いながら丁寧に食べ進めていくサエを見ながらフウカは話題に出たあの四人組の事を考えていた。

....この前はサンマを美味しく食すという謎の理由で彼女達に拉致されたが、どうやら今は郊外に生息しているらしい伝説のタケノコを手に入れるとか何とかで丁度ハルナ達は出かけているらしい。

 

そんなものが本当に存在するのかわからないが、もし見つかったらどうせここに来るんだろうなとフウカは半分諦めの気持ちになっていた。

 

やがて全員が料理を完食し、洗い物をしながら彼女達と暫く雑談を交わしていた時だった。

 

「そういえば、牛牧さんも給食部なんですよね?もしご迷惑でなければ是非貴方の料理も食べてみたいのですが...」

 

「「えっ」」

 

突然サエがとんでもない事を言い出した。

いや、サエはジュリの事情を知らないから別に彼女にとっておかしな事は言ってないのだけど....

 

「...?どうかしましたか?」

 

「あーえっと.....」

 

私がどう答えようかと迷っている中、サエはにこやかな笑顔を浮かべて話を続ける。

 

「今日こちらに集まれた折角の機会です、牛牧さんの手料理の評価...と偉そうな事までは言いませんが、よければ一度食べてみたいなぁと....」

 

うっ、純粋な笑顔が眩しい!

ジュリに視線を向けると彼女もどうしたら良いのか戸惑っている様子。

ここで強く断っても変な感じになってしまうし、申し訳ない事を言ったと彼女に思わせてしまうかもしれない...でも流石に”アレ”は....。

 

「....フウカ先輩」

 

「...何?」

 

私が頭の中で揺れる天秤を見守っていると、ジュリがどこか真剣な表情を浮かべ小声で話しかけてきた。

 

「私、やります」

 

「....本当に?」

 

「はい、折角私の料理を望んでくれているんです。ここで断りたくありません」

 

そうだ、これまで彼女だってちゃんとした料理を作れるように努力を重ねてきた筈。

もしかしたら今回は上手くいくかもしれない....。

 

「わかった、私も協力する。...じゃあ今から作ってくるから待ってて」

 

「は、はあ...」

 

フウカとジュリの発するただならぬオーラに少し困惑してしまったサエだったが、二人は互いに頷き合うと改めて厨房へと足を踏み入れ.........

 

 

 

 

 

 

「「「「「........」」」」」

 

出来上がった”物体”をこの場にいる全員が無言で見つめていた。

 

「....牛牧さん、これは?」

 

「....えっと、先輩の真似をして作った生姜焼き...です....」

 

サエが指差す先に置かれているのは、表面が紫色で所々から緑髪色の液体が噴き出している”何か”。

更にタコの脚の様な触手まで生えており、最早新種の生物と言った方が正しいかもしれない。

 

「せ、先輩、どうするんですか?」

 

「やめといた方がいい」

 

サエの隣に座る二人は彼女にそう提案するが

 

「.....いえ、元々私からお願いしたんです。これは私が責任を持って食べさせていただきます、それに折角牛牧さんが私の為に作ってくれたんですから」

 

サエはニコッとジュリに微笑みかけるといただきますと手を合わせてその”物体”を口に含んだ。

 

「....」

 

「...サエ?」

 

「.......」

 

「せ、先輩?」

 

「..........ふふ、見てください二人とも。あんなに素敵なお茶畑が広がってますよ、ああ...綺麗ですね....」

 

「ちょ、サエ!?しっかりして!?」

 

「はわわわわっごごごごめんなさい!!!」

 

「先輩!?先輩!!!」

 

サエが理想のお茶畑から帰ってきたのは、それから三十分程経ってからだった。

 

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