ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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同じ気持ちを

「百鬼夜行に出かけましょう」

 

「....え?」

 

狭山さんが茶室へと訪れた瞬間、私は彼女にそう告げました。

 

「サエ、いきなりどうしたの?」

 

「狭山さんがここへ来て暫く経ったでしょう?そろそろ狭山さん専用の茶道具を買っておこうかなと思いまして」

 

「別に私は今使ってるサエのおさがりでいいけど」

 

「ほら、入会祝いというのもありますし、以前宇治さんにも同じ様にプレゼントした事があったので先程宇治さんとも話し合いをしまして...」

 

「そうそう、だからキョウカちゃんもどうかなって」

 

「....二人とも何か変、何か企んでる?」

 

「うぇっ!?そ、そんな事ないよ!ですよね先輩!」

 

「え、ええ別に何も企んでませんよ」

 

否、狭山さんの言う通りでした。

確かに彼女用の茶道具を揃えておきたいという気持ちに嘘はありません、ですがそれとは別にもう一つ理由があるのです。

 

「......」

 

くっ!完全に疑いの眼差しを向けられてしまっています...まさか私達の完璧な演技をこうも簡単に見破るとは....。

 

「実は...折角なら着物を三人揃って着てみたくてですね」

 

「着物?」

 

私は普段から着物を着て生活していますし、宇治さんは以前購入した着物をこの部屋へ来た時は身につけています。

ですが狭山さんはこの茶室での活動時(殆どお茶菓子を食べる時間の方が多いですが)は未だにゲヘナの制服を着ていました。

 

勿論どんな服であろうと強制するつもりは無いのですが...折角であれば揃って着物を着てみたいという気持ちもありました。

 

「...という訳なんです」

 

「そっか、でも私窮屈な服苦手だから...」

 

「それでしたら薄物にすれば問題ないと思いますよ」

 

「薄物?」

 

「簡単に言えば本来つける裏地をつけないで仕立てた着物の事です。その分通気性も良くなりますし、これから暑くなる季節でも快適に過ごす事が出来るんですよ」

 

「うーん...」

 

狭山さんは私の説明を聞いて悩み始めます。

少し大きめのサイズでも帯で止めれば問題は無いでしょう、私は彼女の返答を静かに待っていると不意に宇治さんがポツリと呟きました。

 

「そういえばこの前百鬼夜行に行った時、美味しい喫茶店がありましたよね。もし行くならまたあそこに.....」

 

「早く行こう」

 

宇治さんの言葉を耳にした瞬間、先程まで目の前にいた筈の狭山さんが一瞬にして部屋の入り口まで移動しており、若干目をキラキラさせてこちらを手招いていました。

 

「やった!みんなでお出かけですね!」

 

あまりの変わり身の早さに食べ物の魅力は凄いとそんな感想が浮かんできますが、狭山さんを説得出来た事には変わりません。

 

私はほっと小さく息をつきながら、二人を連れて部室棟を出て行きました。

 

 

 

 

「ほら見てキョウカちゃん、あそこが商店街だよ!」

 

「おお、凄い」

 

それから備品の車を借り二人を乗せて移動する事数時間、無事百鬼夜行へと着いた私達はあの時も訪れた商店街へと再びやって来ました。

 

どうやら宇治さんはかつて私がした時と同じ様な案内を今度は狭山さんにしているようです。

彼女達は同じ一年生同士ではありますが、二人の身長差もあり先輩と後輩の様な....まるであの時の私と宇治さんを見ている様でそんな二人の姿に私は懐かしさと微笑ましさを覚えつつ彼女達の後ろをついていきます。

 

 

「これがいい」

 

「...さ、流石にこれは禍々しすぎるのでは...?というか何故こんな不気味な形の湯呑みが....」

 

「も、もう少し抑えた感じのものが良いと思うよ」

 

「そう?格好いいと思うけど...じゃあこれ」

 

 

 

「狭山さんの場合、急須はこちらの後手型のものが使いやすいでしょう」

 

「淹れるものに種類があるの?」

 

「利き手の違いであったり、淹れるお茶の種類によっても色々変わるのですよ。ついでに私と宇治さんの茶匙も新調しておきましょうか」

 

 

 

「あれ、狭山さんどこに...」

 

「先輩、キョウカちゃんが団子屋の前にフラフラと歩いて...」

 

「ま、待ってください狭山さん!後でちゃんとお昼をとりますから!」

 

 

 

道中色々ありながらも何とか彼女の茶道具一式を買い揃え終えた私達は、いよいよ本命のお店へと向かいました。

 

「いらっしゃーい...おや、確か前も来たお客さんかい?」

 

「こんにちは。ええ、今日はこの子の着物を買いに」

 

「そうかい、好きな見てってねー」

 

いつぞやの店番の方に挨拶を交わした後、私達は店内へと足を踏み入れます。

 

「さあ狭山さん、お好きなものを選んでください」

 

「....着物の事全然わからないけど...じゃああの時サエが言ってたやつが良い」

 

「薄物ですね、では何種類か選びましょうか...そうだ、折角なので宇治さんも薄物を購入してはどうですか?」

 

「わ、私も良いんですか?」

 

「これから夏になれば暑くなりますし、悲しい事にあの部屋にはエアコンはありませんからね...少しでも涼しい格好をした方がいいでしょうから」

 

そう言いながら、私は二人の前に三種類の着物を持っていきます。

 

「薄物といってもそれぞれ種類があります。主にこの三つですが、後はお二人が気に入ったものの中で色などを選んでいただければ大丈夫ですよ」

 

「何が違うの?」

 

「絽、紗、麻に分けられるのですが、前の二つは主に織り方の違い、麻はそもそも使われる素材の違いですかね。正確には柄の入れやすさ等もありますが、どれも通気性が良いのでこれからの時期にピッタリです」

 

「サエのおすすめは?」

 

「うーん、私は麻ですかね。この中でしたら一番洗濯もしやすいですし」

 

「じゃあそれにする」

 

「私も同じものにします!」

 

それから宇治さんは茶室でも着ている同じ桜色の薄物を、狭山さんは何着か試着した後最終的に青色の薄物を購入する事となりました。

 

「.....」

 

それから店を出てふと狭山さんを見ると、彼女は自身が着ている着物を見つめながらくるくるとその場で回り始めました。

 

「ふふ、どうですか狭山さん初めての着物は。とてもよく似合ってますよ」

 

「凄く綺麗だよ!」

 

私と宇治さんがそう声をかけると彼女は一瞬動きを止め、それからゆっくりとこちらを向き

 

「.....うん!」

 

その瞬間彼女は出会ってから初めて見る、純粋でとても楽しそうな表情を浮かべていました。

 

「......」

 

私はそんな彼女の姿に思わず固まってしまいました、どうやら宇治さんも驚いた様で私と同じ様にポカンと口を開けています。

 

「.....あれっ」

 

当の本人である狭山さんは、それから不思議そうにペタペタと自身の頬を触って何かを確かめ始めました。

 

「....サエ、アサリ、私今笑ってた?」

 

「え、は、はい...」

 

「そっか....」

 

狭山さんは一瞬手を止めてそう尋ねた後、不思議そうな顔をして手の動きを再開させています。

 

「...ふふっ、あははっ!」

 

そんな彼女を見ていた私は何故だか無性に笑いたくなってしまいました。

 

「先輩?」

 

「?」

 

可笑しい様な、それでいて彼女が笑顔を見せた事が不思議と嬉しい様な...そんな自分でもよくわからない気持ちになった私はそれから暫く二人の前で暫く笑い続けていました。

 

 

 

....その後三人で百夜堂へ向かった際、そこの品々のあまりの美味しさに狭山さんが帰りたくないと駄々をこねるという事態もありましたが、何とか彼女を二人がかりで店の柱から引き剥がし私達は無事ゲヘナへと帰還したのでした。

 

 

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