新年明けましておめでとうございます。
これからもゆっくりとですが投稿していくので、よろしくお願いします。
あたしは川根ミオ、一応ゲヘナ学園所属の一年だ。
一応ってのは登校してたのが初めだけで今では殆どしてないからなんだが....そこはどうでもいい。
あたしにはひとつ夢があった、それは....ビッグな存在になる事!
というのもある時本屋で『ストリートオブヤンキー』って本を見つけて、その表紙につられたあたしはその本を買って読んでみた。
そしてページをめくった瞬間、あたしは全身が震える程の衝撃を受けた。
その本に出てくる不良主人公は義理人情に熱く、何事にも恐れず突き進む度胸があり、どんな奴にも負けない強さを持つ、まさに理想の格好良さを兼ね揃えた存在だったのだ。
その素晴らしさたるや、当時の私の心を掴み取るのにそう時間はかからなかった。
(格好良い...私もこんな風になりたい...!)
あくまでフィクションの世界のキャラクターだって事はわかってる。
ただ当時のあたしはそんな事を忘れるくらいその主人公にのめり込んでいった。
....まあ正直それは今でも変わってないけど...。
とにかく、あたしはそんな主人公みたいに何かビッグな存在を目指そうと意気揚々入学した訳なんだが.....
あたしの周りは予想以上の奴らで溢れかえっていた。
授業の欠席なんて当たり前、些細な事で喧嘩は日常茶飯事、更に学園の中には指名手配されている者まで数多く居た。
あたしはそこで思った、この学園の中じゃ何をやっても絶対に敵わないと。
だからまずあたしは学園外でビッグな存在を目指す事にした....いや、正確に言えばあたしは逃げ出したんだ。
あれだけ大口を叩いて入学したにも関わらず、予想を遥かに超えた奴らばかりを前にしたあたしはその夢が途方も無い事だという事実を受け入れられなかった。
他人からすればしょうもない事だとしても、今まで抱いていた夢が一瞬で崩れるのが怖かった。
それからあたしの学園外での生活が始まった。
勿論頼れる奴なんている訳ないから全部自分一人で必要なもんを集め、敵対してくる奴等を返り討ちにできるよう力も鍛えていった。
お陰で今ではそこそこ困らない生活は出来る様になったがそれでもあたしが目指す夢には程遠い....そう思って過ごしていたある日の事だった。
その日、通りを歩いていたあたしの耳に遠くから銃声が鳴り響く音が届いたんだ。
急いで音のした方へ駆け寄っていくと、そこにはヘルメットを被り銃や手榴弾で武装した集団が練り歩いている姿があった。
「げっ...あいつらかよ」
あの集団は最近ここへやって来たばかりの不良達だが、装備の質や各々の強さもありかなり厄介な存在となっていた。
正直今のあたしじゃ何人かはやれるだろうが結局は多勢に無勢、人数の差で押し切られるだろう。
情けない限りだがここは身を隠しておいた方が賢明だ、そう考えていると突然彼女達が何かを見つけた様に走り出し、その後に話し声が聞こえてきた。
どうやらあの集団以外に別の誰かがいたらしい、少し気になったあたしは連中に気づかれない様裏へと回り込みその現場を覗いてみた。
するとそこには先程のヘルメット団を前に堂々と立ち塞がる一人の少女の姿、この辺りでは珍しく着物を身につけたその少女はよく見ると背後に一般市民を庇っているらしい。
「ええ、ともかくここで貴方達が好きに暴れていい理由は何もありません。それに私達が貴方達に従う理由も同様にありません、今すぐこんな事はやめてください」
彼女はあれだけの数、しかも全員が武装している中一歩も引かずに淡々と注意を促している。
だがそれが奴らの癇に障ったのか、一番前に立っていた奴が彼女の周り目がけて銃を乱射し始めた。
後ろに隠れていた他の住民の悲鳴が聞こえる中、少女は臆するどころかむしろさっきよりも語気を強めて連中に詰め寄っていく。
「これ以上やればただではすみませんよ!住民の方達に謝ってください!それに人のものを壊した事や会場をめちゃくちゃにした事も!」
どんなに不利な状況でも戦えない者達を見捨てず、強者を真っ直ぐ見据えるその姿に、あたしは不思議とあの本の主人公の事を思い出していた。
「あいつらがすぐに動かないから教えてやっただけだ、何であたしらが謝る必要があるんだよ。壊れたのもただの入れ物だろ?それに何だ、お茶会だって?そんなどうでもいい事よりさっさと....」
「.....今なんと言いました?」
突然目の前の少女が発する雰囲気が変わり、彼女がもの凄い早さで隠し持っていたハンドガンを取り出すと同時に、目の前に立っていた不良がバタンと地面に倒れ込んだ。
(......!)
どうやら今の一瞬で正確に相手の眉間を撃ち抜き気絶させたらしい。
あまりの出来事にあたしはもう隠れている事も忘れ、ただただその姿に魅入っていた。
「皆さん、正座してください」
「「「「はい....」」」」
それから続けてもう一人を気絶させた彼女は残りの不良達を地面に座らせると、数時間に渡る説教を繰り広げた。
やがて不良達や着物の少女自身もその場からいなくなった頃、ハッと我に返ったあたしはさっきあの場にいた住民を見つけて声をかける。
「あ、あんた!さ、さっきの着物の人は!?」
「ん?君は...?」
「あ、えっと....その着物の子に助けられたんですけど、お礼を言う前に何処か行っちゃって、それでどうしてもお礼を伝えたくて...」
「ああそうだったのか、あの子ならゲヘナ学園から時々やって来る生徒さんだよ....ってもういいのかい?」
あたしはその言葉を聞いた瞬間に駆け出していた。
まさかあたしと同じ学校に居たなんて....会ってみたい、今度は隠れないでちゃんと面と向かって会って話をしたい。
「.....でもこれじゃ駄目だよな」
ふとその場に立ち止まったあたしは自身の格好を静かに見下ろして考える。
あの本に出てきた主人公っぽいという理由で威圧感の出る今の服装を選んで着ているのだが、さっきの少女はそんなものを微塵も感じさせない様な綺麗な着物姿だった。
やはり本物のオーラというのは内面から溢れ出るもので服装は関係ないのだろう、そんなものに囚われている今のあたしじゃまともに話す段階にも至っていない。
対等に相手をして貰うには、まずは最低限この格好を直さなければ.....
それから数日後、あたしは久々にゲヘナ学園の敷地に足を踏み入れていた。
そこら辺に居た何人かに着物を着た少女の事を尋ねると、どうやら普段は部室棟の奥の一室にいるとの情報を得られた。
静まり返った廊下を一歩一歩踏みしめながら進んでいく。
今日ここに来るまでに変に固めていた髪を元に戻し、服も入学して初めの頃しか着ていなかった綺麗な制服へと着替え直した。
...目つきの悪さだけは生まれつきの為どうしようもなかったが、それ以外に直せるところは全て直せた筈だ。
ゆっくりと深呼吸を繰り返しながらあたしは目の前の扉をノックする。
「はーい、今出ますので」
扉の向こうからは以前あの通りで聞いたものと同じ声が聞こえてくる。
「はい...えっと....どちら様でしょうか?」
そうして扉が開かれそこから姿を現したのは、間違いなく数日前にあの場所で見た着物姿の少女だった。
彼女は不思議そうな表情を浮かべてこちらを見つめる中、あたしは意を決して口を開いた。
「あ、姐御!あたしを弟子にしてください!」
そんなあたしの言葉を聞いた少女は、目をパチパチとさせながら困惑するかの様に首を傾げていた。