「あ、姐御!あたしを弟子にしてください!」
突然茶室へとやって来た見知らぬ少女、彼女は私を見て開口一番そう告げました。
あ、姐御?誰かと間違えているのでしょうか。
「えっと、姐御というのはどなたの事でしょう」
「姐御は姐御の事です!」
「え....も、もしかして私ですか?」
「はい!あたしが姐御って呼ぶ人は一人しかいませんよ!」
「ま、待ってください、状況が全く飲み込めないのですが.....そもそも何故私を姐御と?」
「そりゃあ姐御はあたしの憧れですから!敬意を込めての姐御呼びです!」
(全然理由になっていない様な....そもそもこの子は一体誰なんでしょう)
思い返してみても私には彼女と会った記憶が無いにも関わらず、彼女はまるでこちらを知ってる様な口ぶりなので余計に混乱してきます。
私が忘れているだけ?とりあえず話を聞いてみましょうか....。
「ひとまず話を聞かせてください、こちらにどうぞ」
「はい!失礼します!」
私は何とも不思議なこの状況を疑問に思いつつも、元気よく返事をする少女を茶室へと招き入れました。
そうして中へと案内した後、彼女は緊張した様子で私の目の前に正座していました。
「あの先輩、彼女は一体....?」
突然やって来た少女に私の隣に座る宇治さんや狭山さんも困惑している様です。
「サエの知り合いじゃないの?」
「正直私もよくわかっていないんです、彼女は私の事を知ってるみたいなんですが....えっと、とりあえずお名前は?」
「はい!あたしは川根ミオっていいます!今年ここの学校に入った一年です!」
まさかの宇治さんや狭山さんと同学年、ですが先程の二人の様子から見てお知り合いではないようです。
「実はあたし、ここに来て早々郊外の方で生活してたんで...」
私がその事を尋ねてみると、川根さんはすぐにそう答えてくれました。
成る程、狭山さんと同じ様な感じですね、それなら二人や私が知らないのも納得です。
「成程...それで貴方は何故ここを訪ねに?」
ある程度彼女の事を知った後、私は一番気になっていた事を尋ねます。
すると川根さんはゆっくりとですがその理由を話し始めました。
「...あたしは前からビッグな存在になりたかったんです」
「ビッグな存在?」
「はい、昔読んだ本に出てくる主人公が凄く格好良くて...あたしもそんな奴みたいに強くて、デッケェ人間になりたいって思ってたんです!」
「ただ....情けない話、この学校には背伸びしても勝てない様な奴らばっかりいるって気づいて、あたしの夢は叶えられないと思って郊外に逃げました」
.....まあ何名か名指しするのが容易な方々はいらっしゃいますが...確かにこの学園でそういう夢を叶えるのは厳しいかもしれません。
「それでまずは力をつけようって事になって暫く郊外で過ごしてたんですけど、結局夢を叶えるには全然足りなくてどうしようかって悩んでた時に姐御に出会ったんです!」
「あの...申し訳ないのですが、私は貴方と会った覚えがないんです。それはいつ頃の事なのですか?」
「つい最近ですよ!姐御があのヘルメット集団を圧倒してた場面です!」
ヘルメット集団....まさかあの日の事ですか!?
「ま、待ってください!もしかして貴方はあの時の私を見てたんですか!?」
「ええ!後ろに隠れながらでしたが、バッチリ見てました!あの時の姐御は本当に格好良かったんですから!脅されても一切引かず、更に敵のリーダーを一瞬で沈めたあの無駄のない動き!どこを切り取っても凄いとしかいいようのない時間でしたよ!それに....」
「す、ストップ!ストップですよ川根さん!それ以上は結構ですから!」
「え、そうですか?まだ全然語れますけど」
「ミオ、その話詳しく」
「狭山さん!?お願いですから止めてください!」
これ以上話されると私の身が持ちません!
彼女は少し残念そうな顔をしてから、改めて私に向き直ると口を開きました。
「とにかくあたしはあの時感動したんです、あたしが目指していた理想が目の前にいる....だから姐御、お願いします!あたしを弟子にしてください!」
そう言って深々と土下座をする川根さん。
(そ、そうは言っても私が彼女に出来る事は全然ありませんし...そもそもあの時私がしたのはただのお説教ですし....)
「...先輩、ここまで本気で来てくれたんですし引き受けても良いのでは....?」
「えっ」
「サエの姐御、ここは器の広さを見せるべき」
「さ、狭山さんまで...というかどさくさに紛れて姐御呼びするのは止めてください!」
すっかり二人はノリノリで受け入れるつもりの様ですが、どうしたものか....。
「えっと川根さん?申し訳ないのですが、私は貴方が言う様な存在では....」
そう断ろうとした瞬間、川根さんはガバッと顔を上げ
「すみません!あたしとした事が、よく考えればいきなり来られて突然弟子にしてくれって言われても姐御も困りますよね」
「え、ま、まあそれはそうですが...」
「姐御に配慮出来なくて申し訳なかったです!とりあえずあたしの気持ちだけは絶対に伝えたかったんで、今日は一旦帰りますね!また明日頼みに来ますんで、それでは!」
「え、は、はいまた明日....って、そうではありません!あ、ちょっと....!」
流れに任せてついそう返してしまいましたが、急いで訂正しようにも川根さんは既に部室棟から出て行ってしまった後。
「......本当にどうしましょうか」
「な、何か凄い方でしたね」
「...お腹空いた」
まるで台風が去ったかの様に茶室には静けさが訪れ、そんな中で私は一人小さく溜息を溢すのでした。