授業が終わると大勢の生徒達が一堂に会するゲヘナの食堂内。
そこの厨房に立つ私は今日も大忙しに身体を動かしていた。
引っ切り無しに続く注文に、食材を切り・揚げ・盛り付ける私の動きも徐々に加速していく。
「お願いしまーす」
「あ、こっちもー」
「は、はーい!」
少し落ち着いたかと思えば新たに生徒がやって来て、その度に追加の注文の声が届く。
一体どれ程同じ作業を繰り返しただろうか、それからようやく私が落ち着けるようになったのはお昼休みが終わる15分程前の事だった。
「ふぅ......」
私は食堂に座る他の子達の様子を窺いながら小さく溜め息をついていた。
相変わらずこの学園の食堂事情はどうにか改善できないものなのだろうか。
自ら望んでこの給食部に在籍しているとはいえ疲れるものは疲れる、これくらいの愚痴は吐いても誰も文句は言わないだろう。
「そろそろ私もお昼食べないと...あっ」
自分も昼食を取ろうと立ち上がった瞬間、食堂の入り口付近に1人の生徒の姿を見かけた。
深緑色の髪を簪で纏め、薄緑の着物に下駄を履いている彼女。
その子は私のよく知る友人で、彼女も私に気がついた様子でトコトコと足早にこちらへ近づいて来た。
「サエ、今日は食堂なんだ?」
「はい、久しぶりにこちらでお昼をとろうかなと...時間ギリギリになってしまったのですが大丈夫でしょうか?」
「うん、全然良いよ。今用意しちゃうからちょっと待ってて」
「いつもありがとうございます、フウカさん」
彼女はそう言いながら丁寧にお辞儀をする。
着物を着ているというのもあるのだろうか、その綺麗な仕草には相変わらず感嘆してしまう。
すぐさま彼女の分のご飯を用意しトレイを手渡すと、彼女は再度お礼を言って近くの席へと座り食べ始めた。
今度こそ私も昼食を取ろうと自分の分を取り分けてから彼女の向かい側の席に座る。
「最近はどう?」
「私の方は特に変わった事はありませんね、いつも1人茶室でお茶を飲んでお腹を膨らせる毎日です」
「ふふっ、そっか」
私は久しぶりに顔を合わせた友人との雑談につい嬉しくなる。
彼女も私と同じ気持ちだったのか、その顔には笑みを浮かべている。
「...フウカさん、最近ちゃんと休めていますか?」
だがしばらくして食べ終わったサエは箸を置くと、私の顔を見ながら心配そうな声で訊ねてきた。
「うーん確かに忙しくて中々休みはとれないけど、これが私の仕事だから」
私は変に心配をかけまいと出来るだけ笑顔を浮かべてそう答える。
そんな私を怪訝そうな顔で見つめていた彼女は不意に手を伸ばすと、その両手を私の頬に添えてきた。
「わっ!サエ?」
いきなりの事に驚いた私は一瞬戸惑ってしまったが、サエはじぃっと私の目を覗き込むとため息を吐いた。
「誤魔化そうとしても無駄ですよ、目元に隈ができてます」
「え、うそ...!」
慌てて自分の顔に手を当ててみるが、鏡でもない限り1人では確かめようが無い。
だが彼女の真剣な表情を見るに嘘をついているとは思えない、自分でも気づかない程注意力が落ちてしまっていたのだろうか。
「フウカさん、もう少し自分の事を大切にしてあげてください。もしフウカさんが倒れでもしたら私も皆さんも悲しんでしまいますから」
「....うん、ありがとう」
彼女の言う通り、最近は自分の事を後回しにしがちな部分があった。
...今度どこかで自分の為の時間を作るのも良いかもしれない。
「ご馳走様でした、美味しかったです」
サエはそう言い残して食堂を後にしようとする。
「あ、サエ!今度またお茶を飲みに行っても良い?」
彼女は私の提案に少し驚いた顔を見せていたが、やがてニッコリと微笑むと快く了承し、食堂から去って行った。
「....よしっ、もう少し頑張ろ!」
私は残りの作業を終わらせるために、気合を入れて席から立ち上がった。