ブルアカふぇす見ました。
最高でした、ありがとうブルーアーカイブ。
ザーザーと大粒の雨が空から降り、ゲヘナ学園の敷地内にいくつもの水たまりを作り出していく。
そんな降りしきる雨の中、私...宇治アサリは傘を差しながら早足で部室棟を目指し歩いていました。
個人的に雨はあまり好きではありません。
この時期になると普段はあまりないくせ毛が出始めちゃいますし、濡れた尻尾を乾かすのも少々面倒です。
私自身元々そこまでファッションやら見た目に気を使う程積極的だったり何処かへ外出したり等する方ではないですが...先輩はどんな時でもピチッと綺麗に髪や服装を纏めているので、そんな中私が手入れを行わないまま傍にいれば先輩が恥をかいてしまいますし、何よりだらしない姿を先輩や他の二人に見られたくありません。
(よし、大丈夫....)
そんな事を考えながら部室棟に着いた私は部屋の前に立ち、手鏡で髪や顔をチェックすると扉を開け襖に手をかけます。
「先輩、こんにちは」
「ああ宇治さん、こんにちは」
改めて気合いを入れて中の茶室へ足を踏み入れると、そこには予想通り朝宮先輩が一人正座をしながらお茶を飲んでいる姿がありました。
どうやらまだキョウカちゃんとミオちゃんは来ていないみたいです。
「今日は久々の大雨ですからね、校舎からそこまで距離はないとは言えここまで来るのは大変だったでしょう」
先輩は私を一目見るとニコッと笑いながら温かく出迎えてくれました。
先輩へ挨拶をした私は茶室の奥にある小部屋に向かうと急いで準備にとりかかりました。
制服を脱ぎ桜色の着物に帯を身につけ白足袋を履く、最後にあの時貰ったヘアピンを前髪に留めれば準備完了です。
着替えを終えた私は棚から茶缶を取り出すと、そこから茶葉を適量取り分けそれを急須へ入れていきます。
そうして真ん中の茶釜に水を入れて沸騰するまで待っていた所、先輩が私に声をかけてきました。
「そういえば、宇治さんは雨はお好きですか?」
「え、雨ですか...?」
いきなりの質問に少し戸惑ってしまいましたが、私はここへ来る前に考えていた事を素直に伝えます。
「ああ確かにそうかもしれませんね、私も髪を整える際に苦労する時もあるので気持ちはわかります」
「あはは...先輩は結構髪長いですもんね、でも毎日綺麗に崩れない様纏めていられるのは凄いです」
私は綺麗な夜会巻きに纏められた先輩の髪を見ながらそう口にします。
「もう随分長い事続けているというのもありますが...それはそうと雨の事でしたね、私は雨の日が好きなんです」
「部屋の中で、うっすら聞こえてくる雨の音に耳を傾けていると心を落ち着かせることができるんです。それに、そういう瞬間に淹れたてのお茶を飲むといつもとはまた違った味わいを楽しめるからというのも理由の一つですかね」
「成る程....」
「まあ雨によってお茶の収穫時に味が落ちてしまう事があるので、その点に関して言えば苦手ではあるのですが」
先輩はそう言って苦笑いを溢しました。
丁度そこで茶釜の水が沸騰した為、中のお湯を湯冷ましして急須に入れた私は完成したお茶を丁寧に湯呑みへと移していきます。
それからお茶の入った湯呑みを持って先輩の隣へ座ると、先程先輩が話していた内容を頭の中で思い返します。
(...雨の音に耳を傾けながら、心を落ち着かせる....)
目を瞑りながらゆっくりとお茶を喉の奥へと流し込んでいきます、確かに先輩が言うように普段よりもどこか強くお茶の味を感じられる様な...
「凄い、本当に違う味に感じますね」
「...ふふ、宇治さんは素直で可愛らしいですね」
「えっ!?」
ま、まさかさっきの話はデタラメ!?もしかして先輩に揶揄われたんでしょうか...?
「ああすみません、別に嘘をついた訳では無くて....ただ、素直に真似する姿が何だか微笑ましく思えてしまって」
小さく笑いながらそう言った先輩に対し、私は照れ隠しから顔を背けつつ再び目を瞑ってお茶を飲んでいきました。
そうして静かでどこか居心地の良い時間が過ぎていく中
「おや、誰か来ましたね。狭山さんか川根さんでしょうか」
不意に雨の音以外に廊下を走る足音が耳に入り、立ち上がった先輩の後に続き私も飲み終わった湯呑みを置いて扉の元へ向かうと
「さ、狭山さん!?」
「きょ、キョウカちゃんどうしたの!?」
扉を開けた廊下の先に、制服から水を滴らせたずぶ濡れ状態のキョウカちゃんが立っていました。
「ただいま」
「ただいまって....一体こんなになるまでどこに行ってたんですか...」
「今日はバイトだったから」
「キョウカちゃん、傘は差さなかったの?天気予報でも今日は雨が凄いって...」
「天気予報見るの忘れてた」
その返答に私は思わず苦笑いを浮かべ、先輩は溜息をついていました。
「はぁ...とりあえずそのままでは身体に悪いですし...宇治さん、すみませんが奥の部屋からタオルを持ってきて貰えますか?」
「は、はい!」
私は急いで先程入った小部屋へ向かいそこにあったタオルを何枚か手に取ると、先輩にそれを手渡します。
「ほら狭山さん、じっとしててください」
「うぷっ」
そうして先輩がタオルでキョウカちゃんの髪や制服をゴシゴシと拭き始めた時です。
「姐御!お疲れ様です!」
「「.......」」
突然廊下の奥から聞こえてきた声に顔を向けると、視界の先にはこちらに迫ってくる人影...ミオちゃんが駆け寄ってくる姿がありました。
....ただし、今のキョウカちゃんと同じくらいびしょびしょに濡れたままで...。
「えっと川根さん、一応理由をお聞きしても?」
「はい!郊外の方を見回りしてたんですが、傘を忘れてたみたいで!」
そういえば最近ミオちゃんは先輩に憧れて郊外のパトロールの様な事をしているそうです。
...先輩が言うにはそんな事一度もした覚えがないそうですが....
元気に笑いながらそう答えるミオちゃんに、先輩はとうとう頭を押さえてしまいました。
「...宇治さん、タオルをもう何枚か持ってきてください、後拭く手伝いもお願いします」
ずぶ濡れの二人を見て何とも言えない表情を浮かべている先輩でしたが、私にはその顔はどこか不思議と楽しそうにも見えました。
私はそんな先輩を見て自然と笑みを溢しながら、タオルを取りに茶室へと向かうのでした。
....なんだか少し雨の日が好きになれたかもしれません。