ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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本作品には一応時間の流れはありますが、あくまで大体の目安として設定しているものなのであまり深く考えずに読んでいただいて大丈夫です。
また、今後考えている話の中でもしかするとゲーム本編との時系列がズレてしまう事があるかもしれませんが、そこも気にせずそういうものだと捉えていただければありがたいです。

それと、遅くなりましたがお気に入り400件突破していました。
しおり、評価、感想、そしていつも読んでくれている方々、本当にありがとうございます。


誕生日

「......」

 

「.....っ!」

 

ある日の茶室にて、私は差し出された湯呑みを無言で手に取りその中身をじっくりと見つめていました。

 

私の目の前には緊張した様子でこちらを覗き込んでいる川根さんの姿...ある程度淹れ方を覚えた彼女から忖度なしに出来栄えを評価して欲しいと頼まれた私は、早速彼女の淹れたお茶をしっかりと細部まで味わっていきます。

 

「.....まだお茶全体の味にムラがありますね、それとこの茶葉の適正温度はもう少し高めの方が美味しくなります、なので湯冷ましの回数を減らした方がいいでしょう、後は茶葉がしっかり開くのを待たないとそれこそお茶本来の味が出ませんから、湯呑みに注ぐまでの時間を延ばしましょう」

 

「うっ...すみません姐御...」

 

私の指摘にしょんぼりと肩を落とす川根さん。

 

『姐御!あたしのお茶を評価してください!遠慮なく言ってくれていいんで!』...と仰っていたので彼女の言う通り感想を伝えたのですが、流石に言い過ぎてしまったかもしれません。

 

「大丈夫ですよ川根さん、まだここに来たばかりではないですか。私だって始めの頃は上手く淹れられなかったのですから、これからコツを掴んでいけば良いのです」

 

「...はい!これからも姐御のご指導よろしくお願いします!」

 

「ふふ、やる気があるのは良い事ですがあまり気を張りすぎても良くないですから、少し休憩にしましょう」

 

そう言うと川根さんは先程まで正座していた影響でプルプルと震える足を崩し壁に寄りかかりました。

 

「ミオちゃん大丈夫?」

 

「あ、はい!ちょっと足が痺れただけなんで...でもやっぱ凄いですね、アサリさんはあたしが始める前から座ってるのに全然疲れてないですもん」

 

「あはは...私も最初はミオちゃんと同じ感じだったけどね」

 

和やかな会話をする二人を見守りつつ視線をその横へ動かすと、狭山さんが畳にうつ伏せで寝転がり羊羹を食べながら雑誌を読んでいる姿が視界に映りました。

 

「サエ、誕生日いつ?」

 

相変わらず自由な彼女の後ろ姿を溜息混じりに見ていると、不意に狭山さんがそんな事を尋ねてきました。

 

「私の誕生日ですか?11月23日ですが....何故それを?」

 

「雑誌に占いコーナーあったから....おお、何かいい事が起こるでしょうだって」

 

「何とも曖昧な占いですね....」

 

あまり参考にならなそうな結果に苦笑いを浮かべていると、ふと誕生日というワードに私の意識が向きました。

 

(そういえば、彼女達の誕生日を知りませんね...まあ私が今までそういう事を聞いてこなかったのもありますが)

 

「...もしよろしければ皆さんの誕生日を教えていただけませんか?私としても折角なら皆さんにお祝い等をしたいですし」

 

「あ、はい!いいですよ、私は10月6日です」

 

私がそう言うと、早速宇治さんが自身の誕生日を教えてくれました。

私の1ヶ月以上前ですか...まだ期間もありますしそれなら色々と準備はできますね。

 

「お二人はどうですか?」

 

「6月2日」

 

「あたしは4月21日です!」

 

ふむ、お二人とも私達より早いですね....ん?4月に6月?

 

「あれ、今は確か....」

 

その言葉に少し引っかかった私は帯にしまっていた携帯を取り出し日付を確認してみると、既に今は6月末....

 

「かなり前じゃないですか!?」

 

「そうだね」

 

「そうだね、ではありませんよ...出来ればお二人の誕生日をお祝いしたかったのですが...」

 

「いやそんな!あたしは姐御がそう思ってくれてるだけで嬉しいですよ!」

 

「うん、私も同じ。わざわざサエに手間をとらせるのも悪いから」

 

私はどこか申し訳ない気持ちでいましたが、お二人はあまり気にしていない様子。

結局その日はそれ以外に特に何事もないままいつも通りの時間を過ごし、そのまま解散となりました。

 

 

 

「........」

 

ですがその日の夜、私は寮の自室で椅子に座りながら一人考え事をしていました。

 

一年に一回の誕生日、理由はそれぞれ違えど私の同好会に来てくれた優しい後輩達の大切な日....これはあくまで私の我儘というのはわかっていますが、やはり彼女達への感謝の気持ちも込めてお祝いはしたいのです。

 

「.....」

 

私は椅子から立ち上がりベッドに寝転がると、宇治さんとのモモトークを開き文字を打ち込んでいきます。

 

『宇治さん、今大丈夫ですか?』

 

そう一言だけ打ち込むと、それから少しもしないうちに彼女から返信が届きました。

 

『はい!大丈夫ですよ、キョウカちゃんとミオちゃんのお誕生日の事ですよね?』

 

さ、流石宇治さん...まだ何も伝えていないのにも関わらず私の考えをあっさりと見抜いた様です。

 

『その通りです、私の勝手な思いですがどうしても二人のお祝いをしたくて』

 

『私も賛成です!じゃあ今度のお休みの日に茶室で開くのはどうですか?』

 

次の休みですか...あまり長くはありませんが、それまでに色々と出来る準備をしておきましょうか。

それから暫く宇治さんとモモトークで打ち合わせをし、話が纏ったのは日を跨いだ頃でした。

 

 

 

「え、ケーキ作りを教えて欲しい?」

 

また別の日、私は休み時間にフウカさんの元に訪れ頭を下げると、開口一番そう口にしました。

いきなりそんな事を言われたフウカさんは目を見開き困惑していましたが、私から事の次第を聞くと納得した様子でうんうんと頷いていました。

 

「急に何事かとびっくりしちゃったけど...成る程ね、事情はわかった。そういう事なら協力してあげる」

 

「ありがとうございますフウカさん、一応自分でも試しに挑戦してみたのですが....今までそういうちゃんとしたものを作った事が無かったので上手くいかず...」

 

「まあ確かに初めてならそうなるわよね....でも、私も基本的に作るのは給食とか普通の食事が多いからお店とかで売ってるみたいな立派なものは教えられないけど、それでもいい?」

 

「はい、本当にありがとうございます」

 

 

 

 

 

「きょ、キョウカさん、なんか緊張しますね...」 

 

「うん、サエから呼び出すなんて珍しい」

 

昨日モモトークでサエから連絡があった二人、彼女達は目的地である茶室前でお互い不思議そうに顔を見合わせていた。

 

要件は何も書かれず、ただ部屋に来てくれとだけ書かれたモモトークの文面に疑問を覚えつつも二人は襖を開け...

 

パーンッ!

パンパーンッ!

 

その瞬間、突如何かの破裂音が鳴り響いた。

 

「二人ともおめでとう!」

 

「おめでとうございます、狭山さん、川根さん」

 

そこに居たのはクラッカーを手に持ちながらパチパチと拍手をしているサエとアサリの二人だった。

 

「あ、姐御...!これは...」

 

「すみませんわざわざ足を運んでいただいて....あれから考えたのですが、やはりどうしてもお二人にとって大切な日をお祝いしたかったんです」

 

「実は少し前から先輩と計画してて....キョウカちゃんとミオちゃんは同好会仲間で...その、大事な友達だから」

 

「ええ、私にとっても二人は大切な後輩ですので...その感謝を伝えたかったんです。この同好会に来てくれて、本当にありがとうございます」

 

少々恥ずかしそうに彼女達へ素直な気持ちを伝えるサエとアサリ、そんな二人を前にキョウカとミオはポカンとした表情を浮かべていた。

 

「.....うぅ」

 

「か、川根さん!?や、やっぱりご迷惑でしたか...?」

 

すると突然嗚咽を漏らし始めたミオに焦ったサエはオロオロと手を動かすが、顔を上げた彼女はまるで滝の様な涙を流していた。

 

「うぅ、ず、ずびばぜん姐御...実はあたじ、今までこういう風に他の人に祝っでもらえだの初めででづい...」

 

そこまで話しとうとう堪えきれなくなり大声を上げて泣き出してしまったミオ、そんな彼女の隣に立っていたキョウカに視線を向けると彼女はまだ混乱しているのか固まっている様だった。

 

「キョウカちゃん、大丈夫?」

 

「....ああうん、ちょっとビックリしただけ...」

 

彼女はいつも通りの無表情でそう答えたが、それからすぐに小さく頬を崩し

 

「...うん、ビックリした....ありがとう、サエ、アサリ」

 

キョウカはほんのりと嬉しそうに笑いながらそう呟いた。

 

「....ふふ、では早速始めましょうか。急いで準備を進めたのでプレゼントを用意出来なかったのは申し訳ないのですが...その代わりに宇治さんと一緒に特別なケーキを用意したんです」

 

「さあ二人とも、入ってください!」

 

サエとアサリに迎えられた二人は頷くとようやく茶室に足を踏み入れる。 

 

 

その後はミオがケーキを前に再び泣き、キョウカは無我夢中で食べ進め、サエとアサリはそんな二人を温かい目をしながら満足そうな表情を浮かべている。

 

そんないつもと少しだけ変わった雰囲気の茶室には、それから暫くの間賑やかな少女達の話し声が響き渡っていた。

 

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