ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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誤字報告ありがとうございます。
体調も良くなったのでまた投稿していきたいと思います。

それとお気に入りが500件を突破していました。
話数ももう少しで50話となり、自分でもここまで本作品を続けられるとは思っていなかったので驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。

いつも読んでくださる方々、本当にありがとうございます。


コスプレ

「姐御!今日はよろしくお願いします!」

 

「は、はい...よろしくお願いします....」

 

夏休みに入って数日経ったある日の事、あたしは内心の興奮を何とか抑えつけながら姐御達の待つ茶室に荷物を持ってやって来ていた。

 

「ミオちゃん、凄い荷物だね」

 

「大量」

 

アサリさんとキョウカさんは、あたしが持っているいくつもの紙袋を見て驚いている。

それもその筈、袋は一つや二つどころではなく十個以上あるのだから驚かない方が無理かもしれない。

 

「川根さん、もしかしてその紙袋の全てが例の....」

 

「はい!服やら小道具やら必要なものは全部揃ってます!」

 

「そ、そうですか...それにしてもよくそれ程までに用意しましたね、郊外に居た頃に揃えたのですか?」

 

「いえ、あたしがこの学園に来る前から集めてたものが殆どなので、まあ昔の自分のお陰って感じですかね」

 

「成る程...」

 

「でもこんなに色々集めてたのなら、ミオちゃん自身は着たりしなかったの?」

 

「うん、似合いそう」

 

姐御があたしの話を聞いて納得する様に頷く中、袋の中身を見ていたお二人から不意にそんな事を聞かれた。

 

「あーいや、昔に一回だけ着てみた事はあったんですけど....何というかその、似合わなすぎてアレだったというか...その時鏡に写るそんな自分を見て何とも言えない気持ちを味わいまして」

 

当時この服や小道具を見かけて購入したあたしはついに自分が憧れのキャラと同じ格好が出来るという期待に満ち溢れていた。

だがいざ実際に着て鏡を覗いてみた瞬間、そこで現実とフィクションの違いを思い知ったのだ。

 

...いや、別にそこまで深刻な出来事ではなかったが、そういう経緯もありそれ以来あたしはこの服達を泣く泣く大切に封印していた。

更に昔と違って背も伸びた今ではすっかりサイズも合わなくなってしまい、長い事宝の持ち腐れ状態だったのだが...

 

「でも姐御なら大丈夫です!あたしの見立てでは完璧に似合うと思うので!むしろ姐御しか着こなせないくらいです!」

 

「その根拠がどこからくるものなのかはわかりませんが....まああの時約束しましたからね。でも川根さんが大切にしていたものを私が着ても大丈夫なのですか?」

 

「勿論です、別にあたしは気にしませんしむしろこの服も姐御が着てくれるなら喜ぶと思います!」

 

「わかりました、そういう事であれば....」

 

 

 

 

 

「まずはウィッグネットからですね、これを首まで通してください」

 

「ウィッグを被るのにこういう専門の道具があったんですね、てっきりただ上から被るだけだと思っていました」

 

「姐御みたいに髪が長かったりしたらはみ出ちゃったりしますから、このネットに全部髪を詰めてから被るんです」

 

それから早速姐御は着替えに...行く前に、あたしは姐御にウィッグの被り方について説明をしていた。

制服は普通に着替えるだけで問題ないが、ウィッグとなると色々と準備が必要になってくる。

 

とは言えあたしもあくまで自分で試した時に軽く調べた程度の知識しかない、それにあたし自身誰かにこうして何かを教える事自体あまりない経験が無かった為、変に偉そうな態度になっていないか少し心配だった。

 

(落ち着けあたし、落ち着けあたし...!)

 

だが正直そんな心配よりも、普段とは逆に自分が姐御に教えているというこの状況自体にあたしは内心緊張しており、それを隠す事の方が必死だったかもしれない。

 

「次はどうすればいいのですか?」

 

「...あ、す、すみません!じゃあ次は首に通したそれを頭の方に持ち上げるんですが...その前に髪を何本かに分けて三つ編みにしないとですね」

 

「わかりました、では少々お待ちください」

 

そう返事をした姐御は手を後ろに動かし髪から簪を抜き取っていく、それにより纏めていた髪が解け姐御の背中に長く綺麗な髪が垂れ下がった。

 

「「「......」」」

 

「....あの皆さん、どうかされましたか?」

 

姐御は黙って自分を見つめている私達三人の視線に困惑したかの様に首を傾げながらそう尋ねる。

 

「あ、いえ、姐御が髪を下ろしてるのを初めて見たので驚いちゃって」

 

「私も初めてなので、何か凄く不思議な感じです」

 

「別人かと思った」

 

「ああ、確かに皆さんの前ではいつも同じ髪型でしたからね。私だって寮に帰れば髪くらいほどきますよ」

 

姐御はそんな私達の言葉に苦笑いを浮かべながら器用に髪を三つ編みに束ねていく。

 

「あ、じゃあ少し失礼して...」

 

あたしは姐御に了解をとって出来上がった三つ編みをヘアピンとヘアゴムで動かないよう固定していく。

その後先程通していたネットを首から引き上げ、髪全体が隠れるように覆っていった。

 

「よし、これで準備は終わりです!後はウィッグを被って、この制服に着替えていただければOKなんで!」

 

「...なんだかこういう事をした経験が無かったので新鮮な気分ですね、では早速着替えて....」 

 

「あ、その前にちょっと姐御にお願いが...」

 

あたしはそう言って袋を持ち小部屋に向かおうとした姐御に声をかけた。

 

「お願いですか?」

 

「はい、その...姐御が着替えた後の姿を撮らせて欲しいんです」

 

「え、写真を撮るのですか!?流石にそれは恥ずかしいといいますか....」

 

「お願いです姐御!あたしがかつて憧れた主人公の格好を姐御がすると改めて思うと、どうしてもその記録が欲しい気持ちが沸いてきてしまって...絶対に他の人達に見せたりしないんで!約束しますから!」

 

「わ、わかりました!絶対にそれを守ってくれるのなら良いですから、そんなに頭を下げないでください」

 

「じゃあ私も撮る」

 

「な、なら私も記念に....」

 

「お、お二人まで...はあ、わかりました。私も覚悟を決めましょう、ただし本当に他の方々に見せないでください、いいですね?」

 

姐御はそう言って溜息を溢しながらも了承してくれ、それからいくつかの紙袋を手に取り普段着物に着替える為の小部屋へ入って行った。

 

 

 

 

 

「おお...」

 

「わあ...!」

 

室内にアサリとキョウカの驚きの声が響く。

 

「こ、これが私ですか...?」

 

そんな二人に視線を向けられながら、サエはミオが持ってきた鏡に映る自身の姿を覗き込んでいた。

 

そこに映っていたのは不良生徒らしく着崩した制服に長めのスカート、顔には黒いマスクをして深く帽子を被っている一人の少女。

声を出さなければ誰が見ても彼女が普段茶室でお茶を淹れている少女だとは思わないだろう、それ程今の彼女は着替える前の姿とはかけ離れていた。

 

「まさかこんなに変わるとは思ってませんでした....川根さんどうでしょうか.....あれ、川根さん?」

 

サエは少し恥ずかしそうにしながらも今回この事を提案してきたミオに声をかけるが、彼女からの反応が一切無い。

不思議に思い彼女の方を見てみると、何故かミオはサエを見ながらぼうっと固まっていた。

 

「川根さん?どうかされたんですか?」

 

「ミオちゃん、大丈夫?」

 

「ミオ、どうしたの」

 

二人も彼女の様子に心配し同じ様に声をかける、すると先程まで動きを見せなかった彼女の目から突然涙が滝の様に流れ出し、同時に見た事もない程の笑顔を浮かべ両手を上げて飛び跳ね始めた。

 

「凄い、凄い凄い凄い凄い!本物だ!本物がいる!」

 

「あの、川根さん?」

 

「まさかここまで完璧だなんて!本当に凄い!夢にまで見たあのキャラが今目の前に立ってる!喋ってる!あぁっ!私今凄く幸せ!キャーッ♪」

 

「駄目です、全然こちらの声が聞こえていませんね」

 

「喜びすぎて口調も普段と変わっちゃってますね...」

 

「こんなに泣きながら喜んでるの初めて見た」

 

そんなミオの豹変ぶりに若干困惑の表情を浮かべる三人、だかそれから少ししてようやく正気を取り戻したのか彼女は大慌てでカメラを構え始めた。

 

「っ!こうしてる場合じゃありません!姐御、早速撮らせてください!」

 

「落ち着いてください川根さん!?別に時間ならまだありますから!」

 

「いえ!少しでも早くこの素晴らしい光景を記録に残したいんです!まずこの本の表紙に描かれた主人公のポーズを一通りお願いします!その後は主人公が話していたセリフもお願いしたいです!特に76ページのこのコマに描かれてあるセリフが本当に格好良くて....」

 

「川根さん、待っ.....」

 

 

 

 

 

「はあ.....あたし、今日の事は一生忘れません。本当にありがとうございました、姐御!」

 

あれから何時間か経った頃、ようやく落ち着きを取り戻したあたしは姐御に深く頭を下げ感謝をした。

目の前にずっと憧れだった存在が現れ思わず興奮してしまったあたしは、それから暫くの間夢中で写真を様々なアングルや距離で撮影し続けていた。

 

「サエ、お疲れ」

 

「すみません姐御、ついはしゃいじゃって....」

 

「いえ、今日は川根さんのご褒美を叶える日でしたし、あれだけ喜んでいただければ私としても頑張った甲斐がありましたから気にしないでください...それに、私も初めての事で楽しかったですから」

 

「ミオ、後でさっき撮った写真頂戴」

 

「わ、私も欲しいです!」

 

「あの、皆さん約束は忘れてないですよね?絶対に他の方達には見せないでくださいね?」

 

そうしてあたしにとってとても幸福な時間が終わりを迎えようとした時、突然茶室の扉からトントンと叩く音が聞こえた。

 

「来客でしょうか?」

 

「サエ、いるー?」

 

「おやフウカさんでしたか、今行きますので」

 

廊下から聞こえてきたのはあたしの知らない声、だがお知り合いなのか姐御はすぐに立ち上がって扉を開けようとする。

 

「あ、先輩!そのまま出たら...!」

 

「姐御!待ってくださ...」

 

「ああサエ、貴方前に食堂でハンカチ忘れたでしょ。今度渡そうと思ってずっと持ってたんだけど中々行く時間なくて....それで今日丁度時間が....」 

 

「そうでしたか、わざわざありがとうございます」

 

「.......」

 

「お礼になるかわかりませんが、最近良い茶葉を取り寄せたんです。良ければ飲んでいきませんか?」

 

「......」

 

「フウカさん?」

 

「.....った」

 

「え、何ですか?」

 

姐御にフウカさんと呼ばれた来客は姐御を見て呆然と立ち尽くし、ブツブツと何かを呟いている。

それはそうだろう、何故なら今の姐御の格好は....

 

「姐...朝宮先輩!服、服...!」

 

「え、服?」

 

あたしの呼びかけに姐御は自分の格好を見下ろすと、そこにはどう見てもスケバン風の制服が。

 

「.....あ、ち、違うのですフウカさん!これには少し事情がありまして...」

 

「......さ、サエが不良になっちゃったぁぁぁぁ!?」

 

「ああフウカさん!待ってください!」

 

そのまま姐御を見て廊下を駆けて行くフウカさんを必死に止めようと追いかけて行った姐御。

残されたあたし達はその後ろ姿をただ見つめる事しか出来なかった。

 

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