ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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先輩との出会い

私は宇治アサリ、最近このゲヘナ学園に入学したばかりの1年生です。

 

高校という新たな舞台で色んな体験をし、色んな人と交流し、充実した高校生活を送ろう!....なんて都合の良い妄想を今日までしてきましたが、その理想とは裏腹に私は散々なスタートを切ってしまいました。

 

『.......』

 

『あ、ちょ、ちょっと大丈夫!?誰かー!?』

 

入学式ではあまりの緊張により途中で気を失ってしまい、気がつけば保健室に寝かされていました。

そこに居た先輩は『死体が目を覚ましました』なんて事を呟いていた様な気がしますが...まさか私の事じゃないですよね....?私、生きてますよね...?

 

その後教室に戻り自己紹介をした際も頭が真っ白になり言うべきセリフを忘れてしまったり、噛みまくってロクに伝えられなかったりとそこでも私は得意の駄目っぷりを発揮。

 

「...ここ、どこなんでしょうか?」

 

おまけに入学してからしばらく経ったのにも関わらず寮までの道のりをド忘れしてしまった私は、現在絶賛迷子となっていました。

 

「だ、誰かいませんかぁ...?」

 

必死に辺りに助けを求めますが、ここの道は人が滅多に通らないのか他の子の気配が全く無く、状況はドンドン悪くなる一方です。

 

「はぁ....何で私はこんなに上手くいかないんだろう...」

 

やがて道の端に少し古めのベンチが設置されているのを見つけた私はそこに腰を下ろすと、自分の駄目さ加減やその他諸々の感情を吐きだすかの様に溜め息をつきました。

 

このままでは何の解決にもならない事はわかってます。

だからと言って寮までの帰り道もわからないので迂闊に動く事は出来ません。

最悪な事に携帯もどこかに忘れてしまった様で、誰かに連絡を取る事も不可能...。

 

「うぅ....」

 

あまりの自分の情けなさにとうとう堪えきれなくなった私は目に涙を浮かべてしまいました。

 

「あの、どうかされたんですか?」

 

「...え?」

 

その時です、私の背後から聞き覚えのない声が聞こえてきました。

私以外に人がいたことに驚き振り向くと、そこには着物姿に下駄を履いた少女が立っており、その人は私の事を心配そうに見つめています。

 

「何かお困りですか?」

 

「あ、えっと...」

 

突然の事に上手く言葉を出せないでいる私を見兼ねてか、その人は隣に腰掛けると優しく私の手を握ってくれました。

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ、今は私がついてますから」

 

彼女にそう言われて不思議と心が落ち着いた私はそれから少しずつ今までの事を話し始めました。

正直今思い返せば自分でも何を言っているのかわからない程めちゃくちゃな説明だったと思いますが、その人は文句も言わずにただ優しく微笑みながら私の話を聞いてくれました。

 

「成る程、それで貴方はここに座っていたと」

 

「はい....は、くしゅんっ!」

 

長い事ここに座って身体が冷えていたのかついくしゃみが出てしまい、その恥ずかしさやら何やらで再び私の目には涙が浮かんできます。

 

すると、その人は指を伸ばし私の目元を優しく拭うと笑顔を浮かべて言いました。

 

「良かったら、私の茶室に来ませんか?このままじゃ風邪を引いてしまうでしょうし、美味しいお茶をご馳走しますよ」

 

 

 

 

私は今、温かい畳の上に座りぼうっとしていました。

 

目の前には先輩が静かにお茶を淹れている姿があります。

ひとつ上の先輩だという事はここに来る道中に教えてくれました、普段からここでお茶を嗜んでいるという事も。

 

「どうぞ」

 

「...あ、い、いただきます!」

 

気づけばいつの間にか先輩が私の方に湯呑みを差し出していました。

私は慌ててそれを受け取りお茶を飲むと、口の中には僅かな苦味が広がりましたが不思議と嫌な感じはしません。

 

「美味しい...!」

 

「ふふっ、それは良かったです」

 

私は素直にそう一言だけ口にしてから、こういうのはもっとちゃんとした感想を言うべきなのかという考えが頭をよぎり先輩の様子を窺ってみると、先輩は満足した様に優しく微笑んでいました。

 

私はそんな先輩の笑顔を見てどうにも気恥ずかしくなってしまい、それから暫くは畳に視線を下ろしたままお茶をチビチビと飲む時間が続きました。

 

 

 

 

「先輩、送ってくださってありがとうございました!」

 

「いえ、私の寮も近くなのでお気になさらず」

 

あれから先輩に1年生寮まで送ってもらった私はひたすら感謝の言葉を繰り返していました。

 

「あ、お名前...私、宇治アサリって言います。先輩のお名前、まだ聞いてなかったので....」

 

「そういえば言っていませんでしたね...私は朝宮サエです。それでは私はこれで、身体を温めてしっかり休んでくださいね」

 

そう言って先輩はこの場から去っていきます。

 

「あ、あの!」

 

私は何故か名残惜しい気持ちになり、帰ろうとした先輩をつい引き止めてしまいました。

先輩は振り返り首を傾げて私の言葉を待っています。

 

「あ、朝宮先輩!お茶ありがとうございました!本当に美味しかったです...!」

 

それを聞いた先輩は一瞬キョトンとしていましたが、やがてクスクスと笑い

 

「はい、ありがとうございます。では最後に私から先輩として一言...」

 

「入学おめでとうございます、宇治さん。ここの学園は色々大変かと思いますが、是非高校生活を楽しんでくださいね」

 

先輩は今日何度も見た優しい笑顔を浮かべながら私にそう言うと今度こそ寮へと帰っていき、私はそんな先輩の後ろ姿が見えなくなるまで見つめていました。

 

 

 

 

 

「あ、これ....」

 

翌日、授業を受け終わり廊下を歩いていた私はある一枚のポスターを見かけました。

”お茶飲み同好会”、そう文字が書かれたそのポスターはかなり隅の方に貼ってあったため、入学してから今日まで気づけなかったみたいです。

 

「....朝宮サエ...」

 

さらに右端に小さく書かれたその名前、それを見た瞬間昨日の先輩の笑顔が脳裏をよぎります。

 

『入学おめでとうございます、宇治さん。ここの学園は色々大変かと思いますが、是非高校生活を楽しんでくださいね』

 

「.....」

 

気づけば私はその部屋の前に立っていました。

 

自分がこの学園で何をしたいのか、どんな3年間を送りたいのかはまだよくわかりません。

 

ですが...もしこれから何かを始めるとして、その時傍にいたいと思える人を選ぶ事ができるのならば、それはあの時出会えた先輩が良い...不思議と心のどこかでそう思う自分がいたんです。

 

「あ、あの!私もこの同好会のメンバーに入れてください...!」

 

襖に手をかけ開けた瞬間、私の口からは自然とそんな言葉が飛び出していました。

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