ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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楽しみは全力で

私が買い物から戻ると、三人はコテージ前でそれぞれバーベキュー台や椅子の設置準備を終わらせている所でした。

 

「あ、サエお帰り」

 

「戻りましたよ。夜の為のセッティングをしてくれていたのですね、わざわざすみません」

 

「せめてこれくらいはしなくちゃいけないと思ったんで、気にしないでください!」

 

「わぁ、凄い沢山買ったんですね」

 

「色々見ていたらついつい手が伸びてしまいまして...それに、実は先程ハルナさんと会ったんですよ」

 

私は両手にぶら下げていた買い物袋をコテージの前に置いて一息つくと、つい先程あった事を三人に話しました。

 

「ハルナさん....美食研究会の方ですよね?えっと、先輩がたまに連れてかれてる...」

 

「ええ、でも今回は彼女達に何か用事があるみたいだったのでそのまま別れてしまったのですが...実は帰り際に沢山トウモロコシを貰いましてね、これで夜のバーベキューは問題なさそうです」

 

「これまた凄い量ですね」

 

「美味しそう」

 

正直買ってきたお肉や野菜と合わせると私達四人では食べきれない程の量になってしまいましたが...まあ残りは明日の分にすれば問題ないでしょう。

 

 

 

 

 

 

それから暫く経った後、いち早く着替え終えた私は一人砂浜に立ち三人を待っていました。

 

「うぅむ...やはり慣れないものですね....」

 

私の現在の格好は上下セットの水着、上にはラッシュガードを羽織っているというシンプルなものです。

一応先程まで着ていた私服と一緒に購入した為一度目にしてはいるのですが、いざ着てみるとなると普段着物ばかりだった私としては自分の事ながらまだ多少の違和感を拭いきれていませんでした。

 

ですがもう着てしまったものは仕方ありません、少々恥ずかしさを感じつつもそのまま三人の到着を待っていると

 

「すみません!遅くなりました....!」

 

「姐...朝宮先輩!待たせてすみません!」

 

コテージの方からそんな二人の声と砂浜を走る足音が聞こえてきました。

 

「し、尻尾の調整にちょっとだけ手間取ってしまって...」

 

そう言って背中の方に手を回しながら自身の尻尾を触っている宇治さん、彼女が着ているのは黄緑色の丈が長いワンピースタイプの水着でした。

彼女の持つ空色の髪と色合いが組み合わさりどこか爽やかな印象が伝わってきます。

 

「あたしも久々に着たんで少し緊張して出てくるのに時間かかっちゃって....」

 

一方宇治さんの隣に立つ川根さんは上下黒色の水着。

上がタンクトップの様な形状で、下がビキニタイプとなっているらしく、どちらも彼女のスラリとした体型をより仕上げています。

 

「おお...やはりいつもと違う格好というのはどこか不思議な感じがしますね...お二人とも凄く似合ってますよ」

 

「あ、ありがとうございます、先輩も凄く綺麗です!」 

 

「私服もそうでしたけど、姐...朝宮先輩が着物じゃ無いの新鮮ですね...」

 

「ミオちゃんの言う通りだね、私も今まで先輩の着物姿しか見た事なかったから....」

 

私を見ながらそう呟く宇治さんと川根さん、どうやら私といえば着物という印象が固まっている様です。

 

....確かに思い返せば寮にいる時以外に他の服装でいたのは入学式の時に着た普通の制服しか無いかもしれません。

ついつい着慣れてしまって当たり前の様に感じていましたが、私も少しファッションの勉強をした方がいいのでしょうか...

 

「あれ?そういば狭山さんは一緒じゃ無かったのですか?」

 

「あ、キョウカちゃんはまだ少し時間がかかるから先に行っててくれって言ってました」

 

ふむ、お二人より時間がかかっているとなるとかなり複雑な構造の水着を着ているのでしょうか?

...もしかすると案外恥ずかしがって出てこられない可能性もあります、もしもそうなら少し珍しい様子の彼女が見られるかもしれません。

 

「おまたせ」

 

「あ、狭山さん、もう着終わったので....」

 

そう密かに考えを巡らせていると、不意に狭山さんの声が聞こえてきました。

私はそのまま彼女の姿を視界におさめようと顔を動かし

 

「......」

 

「「「......」」」

 

それから狭山さんを見た私達は思わず皆黙って彼女の事を見つめてしまいました。

 

それもその筈、狭山さんは想像していたものとは全く違うどこか本格的なウェットスーツに身を包んでいたからです。

それでいて彼女の右手には可愛らしい浮き輪がぶら下げられており、そのアンバランスさが更に困惑に拍車をかけてきます。

 

「....えっと、狭山さん...一応お聞きしてもいいですか?....何故ウェットスーツを?」

 

「前テレビで素潜りの映像を見てやってみたいと思ったから」

 

「そ、そうですか」

 

まあ理由はどうであれ彼女自身が良いのなら何も言うことはないでしょう。

もしかすると素晴らしい素潜りを見られるかもしれませんし...

 

「キョウカちゃん、じゃあその浮き輪は?」

 

「うん、自分が泳ぐの苦手だったの忘れてた」

 

「...ひとまず全員揃いましたし、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ!思い切り泳ぐと気持ちいいですね...!」

 

「見てください!凄ぇ大きいワカメ見つけましたよ!」

 

「ふふ、皆さん楽しそうですね...あれ、狭山さんはどこに....」

 

「...今なら泳げる気がする」

 

「す、ストップですよ狭山さん!?その挑戦はしてはいけません!」

 

 

 

 

「アサリさん!あたしと競争しませんか?」

 

「うん、いいよ!」

 

「危ないですからあまり遠くには行かないようにしてくださいねー」

 

「おお、ミオ凄い速さ」

 

「いっ!?足が攣っ....!」

 

「か、川根さん!?ああ!今助けますから落ち着いてください!」

 

 

 

 

「キョウカさんいい感じです!」

 

「キョウカちゃん頑張って!」

 

「ではちゃんと手を握って支えているので、そのままバタ足で進んでみてください」

 

「ぬ〜....!」

 

「そうそう、その調子ですよ...あ、狭山さんちょっと足を動かすスピードが....み、水飛沫が強すぎます!狭山さん!?」

 

 

 

 

「ふふ、見てください、湯呑みが出来ましたよ」

 

「凄い、本物みたい」

 

「砂で作ったとは思えませんね...私は作っても作ってもボロボロ崩れちゃって」

 

「あたしも姐...朝宮先輩の立派な巨大砂像を作ろうと思ってるんですが中々上手くいかないんですよね」

 

「...作るのは構いませんが、ちゃんと帰りまでに撤去するのですよ」

 

 

 

 

「全体的にもう少し左に動いた方がカメラに収まるかも...先輩は少しだけ右に戻せますか?」

 

「こ、こうでしょうか?」

 

「...よし、おっけーです!後は余裕を持ってタイマーをセットして....あ、五秒にしちゃいました!?」

 

「アサリ、早く早く」

 

「い、今すぐ行きます!...あっ!」

 

 

 

 

時間が経ち、キラキラと光る海の水面にはオレンジ色の夕日が反射しどこか幻想的な光景が広がっています。

 

「良い匂い」

 

「どんどん焼いていきましょう!」

 

「あ、こっちでトウモロコシも焼いておくね」

 

日も暮れ始め周りが徐々に暗くなっていく中、すっかりお腹が空いてしまった私達は昼間にセットしていた道具でバーベキューを始めていました。

 

鉄板の上には昼間に購入したお肉や新鮮な野菜、更にハルナさん達から貰った大きなトウモロコシが置かれ、それらが美味しそうな香りを放っています。

 

「先輩、もう少しで食べられそうですよ」

 

「いいですね、私の方も後は淹れるだけなのでそちらに持っていきますね」

 

彼女達の隣のスペースで持参した茶道具を用いて全員のお茶を淹れていた私がそう答えた時でした。

 

「誰?」

 

不意に何かに気がついた様子の狭山さんが既に暗くなったビーチの奥へ声をかけました。

彼女の声につられ耳を澄ませてみると砂の上を何者かが歩く音が聞こえてきます、その音の大きさからどうやら一人ではなく複数人いるようです。

 

「ここはあたしが...」

 

「...いえ、川根さん少し待ってください」

 

不審者の可能性を考え川根さんが銃を手に前へ出ようとしますが、暗がりの中足音の正体を目で捕らえた私は彼女を制止しました。

 

「うぅ...クソ.....」

 

「何で私達がこんな目に...」

 

「頭痛い....あっ」

 

そんな弱々しい声を上げながら現れたのは、どこか制服や装備品がボロボロになっている複数名の少女達。

その着こなしや持っているヘルメットから判断するにどこかの不良集団のメンバーのようで、彼女達も私達の存在に気がつきポカンとした表情を浮かべて固まっています。

 

その後一瞬銃に手にかける素振りを見せましたが、どうやら私達を攻撃する体力も残っていなかったのかそのままぐったりと項垂れてしまいました。

 

「先輩、どうしましょう...」

 

「...仕方ありません...あの、大丈夫ですか?」

 

何があったのかは不明ですがこのまま放っておくことは出来ません、ひとまず彼女達に容態を尋ねてみますがどうにも私達を警戒している様子、中々口を開いてくれません。

 

ならばまずは気分を落ち着かせる為にと、私は先程淹れておいたお茶を目の前にへたり込む彼女達に差し出しました。

 

「ひとまずこちらを飲んで落ち着いてください。ああ、まだ熱いので飲む時は気をつけてくださいね」

 

「「「「「.......」」」」」

 

私から突然湯呑みを差し出された彼女達は明らかに怪しむ様な視線を向けてきましたが、喉の渇きには耐えられなかったのか、恐る恐るお茶を口にし始めます。

 

「うまっ...!」

 

「....美味しい」

 

「ふふ、そうでしょう?結構な自信作ですし、おかわりもまだありますよ」

 

「......ふん、どうせ油断させて後で何かするつもりなんだろ」

 

ううむ、まだ警戒されてしまっているようです...別に何かするつもりは無いのですが....

 

「そうですか、残念です...実は丁度今バーベキューをしている所でしてね。しかし私達だけでは食べきれ無い程の食材があって、人手が欲しいと思っていたのですが....」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

私がポロッと呟いたその言葉に思わず反応を見せる少女達、あれだけボロボロという事はそうなる程に身体を動かしたという事...おそらくお腹も減っているに違いありません。

 

「そ、そんな単純なもんに騙されると思うな!」

 

「そうだそうだ!」

 

「アタシ達は別に....」

 

彼女達は興味が無いかのように声を上げますが、そんなタイミングで少女達の方からぐうっと小さくお腹が鳴る音が聞こえてきました。

その間にもどんどん食材が焼き上がり香ばしい香りが辺りを漂い始め、より彼女達の空腹を誘っていきます。

 

「「「「「.....」」」」」

 

「.....えっと、なのでよければ一緒に食べませんか?」

 

「「「「「.....食べる」」」」」

 

 

こうして、少し予定とは違う大人数で夜のバーベキューが行われたのでした。

 

 

 

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