誤字報告ありがとうございます。
場所はゲヘナ学園部室棟本館。
絶賛夏休みシーズン真っ只中の学園内にて、その廊下を溜息をつきながら歩く1人の少女の姿があった。
少女の名前は棗イロハ、過去に何度かサボる為にこの部室棟を訪れている彼女だったが、今回は少しばかり事情が違う。
それはつい先日のこと...イブキのために花火大会を企画し、それを見に来た他の学生の為にお茶を提供して欲しいという依頼をお茶飲み同好会へと頼んだのがきっかけだった。
了承してもらった旨を先輩であるマコトへと報告したまでは良かったのだがそれから数日後、花火大会の準備をイロハ、サツキ、チアキの三人が計画していた所に不意にやって来たマコトが話しかけてきた。
「キキキッ!お前達よく聞け、素晴らしい案を思いついたぞ」
「絶対面倒事ですよね」
「あははっ!またイロハちゃん不安そうな顔してる!」
どこか自信満々に部屋へ入ってきたマコトに溜息をつくイロハ、そんな彼女を見て楽しそうに笑うチアキ。
「それで、何を考えたのマコトちゃん?」
「キキッ....今度やる花火大会だが、マコト様の偉大さを知らしめるために何をやる予定かは知っているな?」
サツキに促されたマコトは目を閉じながら尋ねる。
「はぁ...マコト先輩の顔の形の特注花火を注文するってやつですよね?」
「あとは他の子が座れるベンチも沢山注文しましたね!」
「そうだ、だが今回は折角イブキが喜ぶ姿が見れる一大イベント...それにも関わらずもし数人しか来ない結果になったらどうする!それはあってはならない事だろう!」
「別に問題ないのでは?」
「そこでだ!マコト様主導の元、今回の花火大会は学園全員参加とする事にした!」
「おお!なんだか良いシャッターチャンスが出来そうです!」
「ふふ、マコトちゃんらしくて良いんじゃないかしら。それにそれだけ生徒がくればNKウルトラ計画も沢山試せそう」
「.....本気ですか?全員となると今よりももっと会場を増やさないといけませんけど...」
ゲヘナ学園に所属する生徒数は数千人規模、それほどの人数となると用意も大変....だがやる気になってしまった彼女を止めるのは一苦労であり、それを知っているからこそイロハは既に諦めの気持ちになってしまっていた。
「キキキッ!では今から早速追加の準備に取り掛かるぞ。よしイロハ!、お前はあのお茶の奴に追加で配る分を用意しろと伝えてこい」
「え、まさか彼女達に数千人分のお茶を作れと...?」
「当然だ、それとうちの給食部にも当日出す食事を頼んでも良いかもしれないな...チアキ!お前は給食部に行ってそれを伝えてくるんだ!」
「はいっ!わかりました〜!」
「サツキは今から私と共に業者の交渉に来てもらうぞ」
「ええ、わかったわ」
そう言って部屋を飛び出してしまった彼女達、一人残されたイロハは静かに溜息を溢すしかなかった。
そんなやり取りがあったのがつい先程、私は数日前に来たばかりの部屋の前に立ちノックをすると、それから少ししてパタパタという足音と共に扉が開かれました。
「おや...棗さんでしたか、こんにちは」
出て来たのはお茶飲み同好会のリーダーである朝宮さん、彼女は再び訪ねてきた私に少々驚いた様子を見せつつも、すぐさま頬を緩め彼女を中へと招き入れてくれました。
そうして私が中に入るとそこにはあの時と同じ様に他のメンバー達が、どうやら丁度それぞれお茶を淹れている所だったようです。
朝宮さん以外がお茶を淹れている所を見た事なかった私はそれらを興味深く観察していましたが、彼女が目の前に座ると同時に今回ここへ来た理由を思い出します。
...が、一体どう切り出したら良いものかと頭を悩ませてしまい、暫く無言の時間が続いてしまいました。
「はぁ....実はですね...」
朝宮さんはそんな私を急かす事なくただ静かに正座で待っており、それを見た私はようやく重い口を開き告げます。
実は先日相談しに来た件の続きで今日はやって来たこと。
花火大会の規模が想定よりも大きくなった事。
それに伴い、サエ達に用意してもらう予定だったお茶がとんでもない量になってしまった事。
それらを一つ一つゆっくりと伝えやがて話し終えると、流石の彼女も驚きを隠せないようで目を開き困惑しているようでした。
「数千人分のお茶淹れですか...」
「な、なんか凄そうですね...」
「大変そう」
「姐...朝宮先輩、どうするんです?」
私と朝宮さんの話を聞いていた三人は心配そうな顔で彼女を見つめています。
目を瞑り少し考えていた朝宮さんですが、やがて目を開けてふぅと息を吐くと私を見据えて苦笑しました。
「わかりました、私で良ければ頑張らせていただきます」
「...良いんですか?こちらの無理難題を押し付けてしまったのに」
「ええ、確かに想定していた以上の作業になりそうで大変ですが...もう決まってしまった事の様ですし、ここで断れば巡り巡って他の方達にも迷惑がかかってしまいますからね」
「それに....折角それだけ大勢の人にお茶を飲んでいただけるんです、私としてはありがたい機会ですから」
そう言って朝宮さんは頬を緩めて私に笑顔を向けました。
「先輩、私も頑張ります!」
「ええ!折角なら他の奴らにも凄ぇって言わせましょう!」
「楽しそうだから私もやる」
朝宮さんの言葉に彼女達も賛同する様子を見た私は、感謝と苦笑の入り混じった顔でなんとなく笑ってしまいました。
「皆さん、ありがとうございます...」
「...棗さんも大変なのはわかっていますからね、花火大会がおわったら万魔殿の皆さん宛に疲労回復に効果のあるお茶を差し入れにいかせてください」
「それは嬉しいですね、イブキも最近少し寂しがってましたし...今度はまたイブキを連れてサボりに来たいと思います」
花火大会までもう少し、それから万魔殿の少女と同好会の少女達は少しの間話をして、当日までお互い頑張ろうと誓ったのだった。